本日はバレンタイン当日でございます。
城のいたる所で恋仲の男女が互いに渡し合っているのが目に飛び込んできます。ほかにも、
「べ、別に好きというわけじゃないんだからね!?」
「ああ、分かってるって」
「……ばか」
「ん? 何か言ったか?」
「な、何でもないわよ! それよりあんたから何かないの!?」
「まさか貰えるとは思いもしなかったから用意してない。あ、なら今日の夕飯でも一緒にどうだ? 奢るよ」
「ほ、ほんと!? あ……ま、まあ? あんたにしては上出来ね。なら高いところよ!?」
「うへえ。まあ期待しないで待ってろ」
と見ていて初々しいこと極まりない方々も居られます。そうすれば必然的にこういう方々も居られるわけでして。
「ああ、妬ましい」
「くそ! あいつだけは俺らの仲間だと思っていたのに!」
「裏切り者には死を」
「月の無い夜だけが危険だと思うなよ」
「……殺す」
どこか春らしい様な城内で一部おかしな人達がおりましたが、大体は皆、笑顔を浮かべておりました。
しかし、うかない顔をした方達がおりました。魏の将達です。
最初に気付いたのは季衣でした。
朝一でバレンタインを貰おうと一刀の部屋に突貫をしかけました。
「兄ちゃん! ば、馬連短? 頂戴! ってあれ? ……兄ちゃん?」
しかし、もぬけの殻です。それどころかベッドで寝た様子さえありません。
「もう、季衣! そんなに走ったって兄様は居なくなったりしないって。ってあれ、兄様いないの?」
季衣の後を追ってきた流琉が部屋を覗きこんで目を丸くします。
「うん。兄ちゃんどこ行ったんだろ?」
首を傾けて聞きますが流琉にだって分かりません。
「もうどこかにでかけたんじゃない?」
「ちぇ、なら後で貰おう」
「季衣? ちゃんと兄様に用意してるよね?」
「勿論してるよ~。馬鹿じゃないんだから」
朝議の時間です。魏の主なメンバーは全員が揃っています。しかし、席が二つ空いています。
一刀と……霞の席でした。
「あら? 一刀はともかく、霞まで遅刻だなんて珍しいわね」
華琳が困惑の声を上げます。基本的におちゃらけている霞ですが、締める所は締める真面目さも兼ね合わせているのです。
「ほんまや。姉さんが遅刻なんて珍しい。案外、あれやったりして」
ニシシ、といやらしそうな笑みを浮かべます。
「な、なんなの~」
沙和が楽しそうに煽ります。
「そら、隊長と姉さんがたまたま夜に出会ってやね。
『あれ? 霞? どうしたんだ?』
『いや、明日のバレンタインのこと考えとったら眠られへんようになってな』
『あ、なら少し早いけど贈り物を上げるよ』
『ほ、ほんまに!?』
『じゃあ、霞の部屋で』
『へ? 何でうちの部屋なんや?』
『だって、上げるのは俺の――』なーんてことが……」
とここまで言った所で隣から怒気を感じました。反対側に座る沙和の顔色が悪いです。
「た、隊長がそんなことするはずないだろうが! 隊長を侮辱するなら幾ら真桜でも怒るぞ!」
「じょ、冗談やって」
「そ、そうなの! いくら何でもバレンタイン前日にそんなことはしないの!」
懸命になだめようとする二人に追い打ちをかけるようにおずおずと報告が上がりました。声を上げたのは稟でした。
眼鏡を直しながら、皆に聞こえるように。
「で、ですが。昨日、一刀殿と霞殿が二人で会っているのが確認されておりまして……」
とここまで報告すると言葉を濁し、時折、華琳の方を見ます。
「? 続きは?」
「は、はい。そ、そのですね。どうやら霞殿が一刀殿に今日について色々と尋ねたみたいでして」
「はぁ、何が貰えるか分かったら楽しくなくなるから、そのことに触れないように言っていた筈なのに」
しょうが無いわね、とため息を吐く華琳ですが、そこまで怒っているというわけではありません。
「その会話の中で霞殿が一刀殿に欲しいものを尋ねた時に『子どもが欲しい』と言ったそうでして――」
ピキリッ。空気が凍りました。特に一人の覇王様の雰囲気のせいです。
他にも「隊長……」と暗いオーラを出している方も居ますが大方、覇王様でしょう。
「そ、それで?」
本人は大したことないといった体裁を取りたいのでしょうが、笑顔を浮かべている口元が時折、ピクピクと痙攣を起こしているのを見れば
どう転ぼうと怒って起こっているのは丸わかりです。
「は、はい。一刀殿は冗談といって流したそうですが……。霞殿がどうだったかまでは」
「なななななら、大丈夫やろ」
隣で黒いオーラを出している凪を見て冷汗を流しながら懸命に弁護する真桜です。
「そうだな。確かにその話だと北郷は冗談だと言っているのだろう?」
「そ、そうね。それにそんなに気になるなら一刀を呼んでくればいいじゃない」
秋蘭の言葉でどうにか気を治めたのか華琳はホッとした顔をしながら言います。
どこか空気も暖かくなりました。皆気付かれないように安堵します。
「あ、兄ちゃん。居なかったですよ。ベッドで寝ても居なかったみたいですし」
空気が凍ります。先ほど以上です。
「へ、へえ。あ、あああああの全身白濁男ならしししししても――」
「桂花殿。その、頑張って普段道理に過ごそうとしなくてもいいですよ。顔色が悪いです」
稟の指摘通り、桂花の顔色は最悪に悪いです。覇王の本気の怒気を当てられたせいです。
「ななに言ってんのよ。稟も顔色悪いわよ?」
稟も顔色が青いです。今にも失神しそうです。
「さ、流石に文官の身でこの雰囲気は耐えきれません。……風? 大丈夫ですか?」
先ほどから黙っている風が気になった稟は問いかけてみます。
「ぐう……」
「起きなさい!」
「おお! あまりに酷い雰囲気のせいでつい寝た振りを~」
口調はいつも通りですがどこか顔色が悪いのは仕方がないでしょう。それどころかいつも通りに出来たことは褒めてあげるべきでしょう。
「こ、これは一刀には罰が必要みたいね」
その時、入り口からどたばたと騒がしい音が聞こえ、けたたましく開きました。
「いや~。悪い悪い。寝過してしもうた!」
霞でした。どこか機嫌が良さそうに見えます。
「し、霞? どうして寝過ごしたのかしら?」
出来るだけ静かに、何事もないように華琳が訊ねます。
「い、言えんよ。(まさか、今日の事が気になって眠れへんかったなんて)」
頬を染めて恥じらう姿に魏のメンバーは確信しました。
「そ、そう。なら言わなくてもいいわ。それで、一刀は?」
「うん? 一刀来とらへんの? おかしいな?(こういう面白そうな行事は率先して参加しそうやろに)」
「そ、そう。逃げたのね」
黒いです。どこまでも黒いです。それは、感染したのか他の魏のメンバーも黒くなり始めました。
やはり、自分の愛する男性が大切な日に、違う女性の元に居たとなれば面白いはずはありません。
「ど、どないしたん」
霞もどこかおかしいことに気付きます。
「そ、そそそれで霞。一刀と一晩過ごしてどうだったかしら?」
「ひ、一晩? なんの事や!?」
「とぼけても無駄よ。昨日の夜から今朝まで一緒に居たんでしょ?」
「な、なに言うてんの!? そ、そんなわけないやん。昨日の昼から会ってないんやから!」
と、霞は昨日のことをこと細かに伝えます。それを聞き、霞の言葉に嘘が無いと分かると華琳は叫びます。
「じゃ、じゃあ。何で一刀は居ないのよ!」
ついに華琳の苛立ちがあらわになってきました。
「天和達?」
ぽつりと呟いたのは誰だったのでしょうか。しかし、それは些細な事でした。
「「「「「「「それだ!」」」」」」」
何がそれなのか、誰にもわかりませんが魏のメンバー全員の思いは一致したのです。
「「「っくしゅ」」」
許昌から離れた街。三人の女の子が同時にくしゃみをした。
「ん~、だれか噂してるのかな~」
「一刀じゃない! ちいに会えない寂しさの余りに」
「案外、私だったりしたりて」
そんなことを知らずに歩いているのは一刀です。どこかやつれて見えるのは先ほどまで探していたのが理由でしょう。
「皆、喜んでくれるかな?」
そう呟く一刀の手には組みひもが。
一刀が走って、走って辿りついたのはとある村でした。
そこでは蚕を養殖しており、それを思いだした一刀はミサンガを贈ることに決めたのでした。
一本一本を懸命に心をこめて。全てが編み終えた時、とっくに夜は明けておりました。
それから、休むこともなく、懸命に帰りつきました。
既に体は満身創痍です。それでも、皆の事を思い返せば元気が湧いてきました。
そうこうしている内に、皆が居るであろう玉座の間に辿りつきました。
ふぅ、開けようとした途端、一刀の生存本能が訴えかけてきます。
不味い。とこのままいけば死ぬ。この場は死地だと。
けれど、一刀はそんな臆病な気持ちを封殺して扉を開けます。
きっと皆が笑顔で待ってくれていると信じて……。
一刀の予想は当たりでした。皆は笑顔を浮かべていました。どこまでも綺麗な笑みです。
「一刀? 遅かったわね。どこで何していたのかしら?」
けれど、何故でしょう。一刀の膝はガクガクと震えています。生まれたての小鹿でももう少し落ち着いています。
その時、一刀はあの笑顔が昔、テレビでみた肉食動物が草食動物を狙う時と良く似ている事に気が付きました。
無駄な覚悟とは知りつつも一刀は懸命の笑みを浮かべて言います。
「えっと……おはよう?」
地雷でした。一斉に飛びかかってくる彼女らを見て一刀が最後に思ったのは
(ああ、あいつらに飯、奢ってやれなかった)
そんな思いでした。
「ああ、酷い目にあった」
「自業自得よ」
バレンタインの夜。城壁の上で一刀は腫れた頬を擦りながら顔をしかめます。
その隣には覇王様。手首にはミサンガ。
「まさか、用意をしてなくて、あわてて用意していたなんて私だって見抜けないわよ。この馬鹿」
「それについては何度も謝っただろ」
どうにか生き残れた一刀は全てを話し、謝り倒し、どうにか許してもらったのでした。
「まぁ、いいわ。なんだかんだ言って皆嬉しそうにしていたしね」
謝り倒した後に、待っていたのは武将達の期待に輝かせる瞳。
「それにしても天の国には本当に面白いわね。このミサンガっていうのが願いを叶えてくれるなんて」
ミサンガを不思議そうに眺める華琳を見て、一刀も苦笑しながら同意します。
「まあ、そうだよな」
「それで、あなたは皆にどんな願いを込めながら結んだのかしら?」
「ん~。言いたくないんだけど」
言いづらそうに呟く一刀です。しかし、覇王様は許してくれません。
「駄目よ。他の子達の前で白状させないだけありがたく思いなさい」
「分かったよ。って言っても基本的に同じだぞ。皆が長生きをして怪我をしないようにって」
「そう。良い願いね」
華琳の同意に一瞬、驚きの表情を浮かべる一刀ですが、すぐに頷きました。
「ああ。俺もそう思うよ」
「それで? 私には何を願ってくれたのかしら」
「……ああ、言わないと駄目か?」
頭を抱えながら少し涙目になりながら尋ねる一刀に良い笑顔をうかべて頷く華琳でした。
「ええ。あんなに一生懸命祈っていたら私じゃなくても気になるわよ?」
「……だよ」
「え?」
「だから、華琳が少しでも笑顔で過ごせるようにって祈ったんだよ!」
沈黙がおります。華琳は一刀の顔を見ないように背けて聞きます。時折、肩震えているのは笑いをこらえてるからでしょうか。
「あら、てっきり私は『華琳の願いが叶うように』とか願っていたと思ったんだけど」
「そんな願いしたら怒るだろ? 『そんなものに頼らなくても自分で叶えるわ!』とか言って」
「まぁ、否定しないわ」
「それで考えたんだけどそれが一番の様な気がして」
「そう、ま、及第点は上げましょうか」
「それは良かった」
「なら、ご褒美を上げるわ」
そう言った瞬間でした。一刀の唇に柔らかい感触がしました。
「か、華琳!?」
「それじゃ、おやすみ」
一刀の慌てぶりも何のその。そのまま華琳は去って行きました。
その後ろ姿を見送った一刀はため息を吐きます。それは安堵によるものでした
「ふぅ、なんだかんだで皆に喜んでもらえてよかったな」
今日は満月です。すごく綺麗です。
ふと、何を思ったのか一刀はがさごそとポケットを漁ります。
中から出てきたのは指輪でした。銀色に光り、月明かりを反射しています。
「これを渡すのは全てが終わった後だな……」
一刀が皆に用意したのはミサンガだけではありませんでした。指輪も用意をしていました。
「まだ、戦乱だもんな。これを贈るにはまだ早いよな」
そう言って懐に戻します。
「さて、明日も早いんだ。頑張るか」
そう言って一刀も城壁を去って行きました。
このお話は一刀が消える数カ月前のお話。そして華琳達が指輪を見付けるずっと前のお話。ずっとずっと前のお話。
はい、遅筆でおなじみくらのです。自称です。さていかがでしたでしょうか。ほんとはもう少し、魏のメンバーの心理描写や、贈り物を渡すところも書こうかと思ったのですが。いったん書いてみてどうにもグダグダになりそうだったのでやめました。……え? じゃあ、今回の作品はグダグダではない? ……ごめんなさい。
さて、なにはともあれ一段落つきました。ついてしまいました。さて、これから何を書きましょうか。
そう悩んでいた時です。先輩に言われました。
「一刀のチート書こうぜ」
「いえ、僕苦手なんですけど。とくに理由もないのに強いのは……」
「なら、これならどうだ!?」
一冊の本。題名をみる私。
「これなら! 書ける!」
次ページ予告です。
面白そうであれば書きたいと思ってます。それでは感想、コメントよろしくお願いします。
目指せコメント50! あがってる? 気にしない。
まだ見ぬ天の御使いを求めさまよい歩く劉備達。
そんな中、劉備達は目にした。まばゆい光が落ちるのを。
「ん、どこだ、ここ」
「え、えっと天の御使いさんですか?」
「いや、俺は北郷一刀。で、その天の御使いって?」
「タイムスリップか」
神のいたずらか、まさしく天の采配なのか。
「ご主人様! 危険です!」
「大丈夫だ。俺に任せろ」
どちらにせよ北郷一刀は立ち上がる。
「お前、何者だ」
「俺の名前は北郷一刀そして……」
仲間のため、自分を信じてくれた人たちのため、そして
「歴史が動こうとしているならそれを調停するのが俺の役目だから。なぜなら俺は」
「第14代。キング・オブ・ハート。流派東方不敗の後継者だ!」
真・恋姫無双 東方無双(仮)
無計画中!
駄目ですよね? こんなの?
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最終回です。魏の皆さんのあわてぶりを楽しんでいただければ。ケロリと楽しんでください。そしいて、もしよろしければコメントをいただけると狂喜乱舞いたします。目指せ!コメント40。それではごゆるりと。