第五話「勇士、初陣と立つ」
------------------------
北国について。
この国に関しては判明することが難航し、箇条書きにさせていただく。
【気候】
・一年を通して気温が低い。
・標高が高い山が多く、山脈が天然の城壁と化している。
・溶けることのない雪が積もっており、雪崩に注意。
・馬では通れない所が数多くある。
【軍事】
・歩兵がとても強力。
・寒さに強い。
・厚着をしていても動きを害さない。
・雪に扮した伏兵を得意とする。
・最北部は異民族の危険にさらされている。
【日常】
・野菜が育ちにくいので主食は動物の肉。
・野菜などは大根など寒さに強い野菜が主。
・動物の毛皮を防寒着にしている。
・過去から異民族の危険に晒されていることもあって中心的に開発されている。
・人口が東西南北の中で最も多い。
・数多くの鉱山がある。
・・・以上。
これが北国のほとんどである。
それ以上のことに関しては今だ不明。
調査に行きたいのだが、許可が一向に降りないのである。
「はぁ・・・」
軍議室で、一人溜め息を吐いている青年がいた。
「・・・どうなされのですが孔信殿」
それを気に掛けた黒髪を後にたばねた青年----趙遜が声を掛けた。
「中規模の盗賊が近くに現れたんだ・・・」
「中規模?それはどのくらいですか?」
「八千・・・」
「八千も・・・」
孔信の元には義勇軍三千と正規軍二千がいるが訓練途中が多く動けるのは義勇軍千と正規軍のみであった。
「騎兵も精々二千のみになるよなぁ・・・」
最近、盗賊の出現が活発だったし・・・と愚痴を零しながら孔信は机に崩れる。
その場にいたヒューイやリアナ、ミイも苦笑するしかない。
その時、何かを思い出したかのように孔信の表情が明るくなった。
「どうなされました?」
「そういえば商人の話で”あいつら”が近くに来ているんだ!」
「”あいつら”って?」
「ヒューイ知らないのか?最近名高い傭兵団だよ」
「傭兵?」
「ああ、普通の傭兵は金を払うんだけどさ、”あいつら”は食料さえ分けてあげれば戦ってくれるんだ」
「へぇー」
「よし、連絡を取らないとな。誰かある!」
「お傍に」
「これを例の傭兵団に送ってくれ」
「はっ」
素早く書いた書状を兵士に手渡す。兵士は駆け出して行った。
「それじゃあ詳しいことは傭兵団が到着してからやる。時間があるから好きにしてくれ」
「分かった。傭兵の人達が来たら戻るよ」
「そうしてくれ」
ヒューイ達は軍議室を抜け、外に出る。
「・・・千規模の先頭は初めてですね」
「そうだな、今までは百単位の先頭だったし」
「初陣なのだー!」
「確かにそうかもね。初陣とも言えるし」
「時間は・・・何に使いましょうか」
「確かにねぇ・・・いきなり時間があってもなにに使おうか・・・」
とりあえず三人で市場に歩いているととある店が眼に入る。
「酒屋か・・・」
「・・・ご主人様はお酒が苦手では?」
「あーうん。あんまり飲まないしね。孔信にお土産で買って行こうか」
三人揃って酒屋が入る。アルコールの匂いが充満しているのは酒屋であるからに故。
「うん?」
「へいらっしゃい」というお店の主人の声を耳に先客を見かけた。
美しい女性であった。灰色の短い髪を整えており、荒野を駆ける狼のようなワイルドな風貌を醸し出していた。
「おや?私の顔に何かついていますかな?」
「あー、ごめん。先客がいたから誰かなって」
「ほう。・・・まあその気持ちは分からない気もしませんが」
振り返ったその顔に見覚えはなかった。少なくともこの街の住人ではないことが分かった。
「君は?」
「名乗るのはまず自分からなのが礼儀ではありませぬか?」
「あーごめん。俺はヒューイ」
姓を言わないのは理由があった。あんまり言いふらすと暗殺されるかもしれませんよ!?というリアナの注意からである。
「ヒューイというのか。私はシリューだ」
「この街では見ない顔だけど旅人かい?」
「確かにその辺ではありますな。あなたこそ、その口調はこの街の将なのか?」
「一応、これでも客将をやってるんだ」
「ふむ、孔信殿の・・・。しかし、将という割にはあまり強そうではありませぬな」
「ハハ・・・よく言われる」
話す二人にリアナとミイが近付いてくる。
「む?この方はどちら様ですか?」
「お初にお目にかかる。我が名はシリューと申す」
「シリュー殿か。私はリアナ。こっちは義妹のミイだ」
「よろしくお姉さん!」
「ああ、よろしく」
「・・・で」
リアナの視線がヒューイに移る。
「・・・何をお話されていたのですか?」
「ふ、普通に世間話ですけど」
「本当ではありますか?」
「本当だって!」
「いやいや、リアナ殿。私とヒューイ殿は世間話をしていただけでありますぞ」
「そうですか?・・・まあ第三者がそういうならそうなんでしょう」
「それにしても・・・」
シリューが三人を足元から頭まで観察するように見る。
「あなた方はここで客将をやっておられるのですか?」
「はい、私どもは孔信殿の元で客将を」
「ふむ。リアナ殿とミイ殿は相当な武将に思えますな。ヒューイ殿は孔信殿を遥かに越える器をお持ちに見える」
「そりゃあ兄ちゃんは・・・」
「ミイ」
初代皇帝の子孫なんだよ!と言いそうになるミイをリアナが抑える。
シリューは不敵な笑みを浮かべて、言う。
「どちらにせよ、また会えそうでありますからな。またお会いしましょう」
「あ、ああシリュー殿。じゃあな」
「ヒューイ殿、私は呼び捨てで構いませぬぞ?・・・いつものように」
「は?」
不敵な笑みから悪戯をした子供のような笑みに変わった。
まるで飛び跳ねるようにシリューは去って行くのだった。
「・・・どういうことですか?」
「いや、初めてあったんだけど・・・」
「では、いつものようにとは?」
「絶対嘘に決まってるじゃん!?」
「問答無用っ!」
「理不尽だぁーっ!」
「兄ちゃん頑張れー!」
ともかく、酒はちゃんと購入しました。
翌日。
軍議室ではなく、街を護る城壁の外で傭兵団と契約を交わすことになった。
「・・・どんな人なのかな」
「きっと筋肉がムキムキででっかいおじさんなのだ!」
ヒューイとミイは傭兵団という言葉から団長がどんな人かを想像していた。
「色黒で、坊主で眼帯をつけている・・・!」
「むしろ金髪で顎が割れている人!」
「・・・何をぶつぶつ話しているのですか」
想像を膨らませるミイとヒューイにリアナは苦笑して見ていた。
隣の孔信もそれを聞いていて、微笑している。
そこに一頭の馬が現れ、孔信の元に降りた。
「!?あれは昨日の・・・!」
「おや、ヒューイ殿ではありませぬか」
「「「シリュー!!」
昨日の彼女が現れたのだ。
手には彼女の獲物であろう槍を手にしている。
「あれ?もう知り合いなの?」
「うん、昨日買ったお酒の酒屋で」
やはり不敵な笑みをする彼女にヒューイは「絶対知ってて言ったな!」と頭の中で叫んでいた。
「とりあえず」
孔信が一つ咳して言った。
「今回の盗賊討伐の強力ありがたく思う」
「お礼はいらん。私たちは食料さえくれれば構わない。それが私たち傭兵団【怒虎】のポリシーだ」
「あれ?」
ヒューイには一つ気に掛かることがあった。
「この傭兵団の団長って・・・」
「うむ、私シリューだ」
「「えぇぇぇぇぇぇ~!?」」
ヒューイとミイの想像よりかなり違う現実に驚愕した。
「ヒューイ殿がどんな想像をしていたか大体分かるが、私だ」
「分かるのかよ!」
「ご主人様!空気読んでください」
「す、すまない」
段々影が薄く感じてきた孔信が涙目になってきている気がする。
「そちらの兵数は?」
「三千だ」
「とすると、全部で六千か・・・。盗賊達については分かってるはずだ」
「うむ、賊の数と現在地はこちらで調べてある」
「分かった。では指揮権はそちらに譲ろう」
「ありがたい。では早速、策を話す」
孔信は地図を広げて、武将達に告げた。
「いやぁ~。まさか初陣で右翼全部を任せられるとは・・・」
「そうですね・・・驚きです」
「ミイも頑張る!」
今回はヒューイ達三人が正規軍千五百を率いることになった。
左翼にはシリュー率いる傭兵団三千。中央の本陣には残りの千五百を孔信と趙遜が率いている。
そう、厚い左翼を中心的に攻めるのだった。
「策も、正攻法でいいんではないんですか?」
「そうだな。妥当なんだろう」
まずは本陣である千五百で敵をおびきだし、突出してきた賊を囲むという策なのだ。
「我が兵士よ!!」
「お、始まった」
城壁に登り、孔信が演説を始めた。
「敵は、皆の家族!友人を脅かす!賊だ!あいつらは確かに俺達よりも多い!しかし恐れるな!所詮は畜生に成り下がった獣だ!更に今回は傭兵団まで来てくれた!ならば恐れることない!仲間を護れ!そうすれば仲間が自分を護ってくれる!この【孔】の字の元俺に続けーっ!!」
『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』』』
兵士達、傭兵達、それぞれが咆哮の如く叫び、地を揺らした。
「すごい士気ですね・・・」
「やっぱり街を治める人は違うな」
「易しすぎるお兄ちゃんすごい!」
そして進軍を始める。
「そういえばご主人様いつの間に自分の馬を?」
「うん、前に助けたら着いてきてさ」
「ブルルッ」
「白馬ですか。とてもお似合いです」
「まあね、こいつの名前は【白燕】っていうよ」
「おー、かっこいいのだ」
そんな他愛もない話をしていると兵士が駆け込んできた。
「策戦開始であります!」
「了解。ご苦労様」
「はっ」
伝令にいたわりの声を駆けて、ヒューイは二本の刀を抜いた。
「この刀も初陣だな」
「がんばりましょう」
「ミイも頑張るのだー!」
リアナもミイも馬上で各々の獲物を構える。
『行くぞー!突撃ーっ!』
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
孔信率いる千五百の中央の騎兵が突撃を開始した。
突然の突撃に盗賊達は出鼻を挫かれる。
そしてある程度、混戦と化した時、孔信達は後退を始めた。
「そろそろですね」
「ああ・・・!」
追撃を駆けようと盗賊達が全軍突撃をしてきた。
そして、指示をする銅羅が鳴り響いた。
「今だっ!行くぞーっ!」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
白燕を駆けて飛び出してきた盗賊達に突撃をかける。
「せやぁ!」
刀を振るい、盗賊達を切り裂いて行く。
-------切れ味が良い刀には、恐怖さえ感じさせられる。
(なんて切れ味がいいんだ・・・!)
軽く振るうだけで、盗賊達の頸を刈る。
一回振るうだけで一つの命を刈っていった。
「兄ちゃん!」
「ミイか・・・」
妹分に呼ばれた声をきっかけに我に戻る。
ミイは自分よりも軽く越える長さの実践用の矛を振るっていた。
刃が賊を貫き、切り裂いた。柄で賊を砕き、動かなくしていた。
その姿に自分が情けなく思える。
(しっかりやらないと・・・!)
リアナもミイも我慢してやっているんだ。ならば自分もしっかりやらないと。そう自分に言い聞かせて刀を振るった。
---------盗賊討伐は完全勝利で幕を閉じた。
やはり数が少ないのにそれを圧倒する力を持つ傭兵団の力が大きく思えた。
「今回の件はありがたく思う」
「まあよい。これで少しでも平和になるのであらば・・・」
「どうした?」
「いや、なんでもない。孔信殿。兵糧はありがたく受け取る。また何かあれば連絡をくれ」
「ああ、シリュー団長も達者で」
「うむ、そちらこそご武運を」
シリューは傭兵の一人であろう男性に指示を出す。動き出したところからどうやら進軍を開始するらしい。
彼女は共に行くわけでもなく、ヒューイに近付いた。
「ヒューイ殿、弟分をよろしく頼みますぞ」
「弟分?」
聞き覚えがない。
「フフ・・言ってなかったようですねぇ・・・。趙遜のことですぞ」
「シリュー」
「おや、趙遜。姉にそんなことを言ってよいのですかな?」
「昔のことであろう?」
「・・・っ」
趙遜は背を向けて去って行く。
「あいつと私は同じ師の元で学んだのですよ。ま、私の方が一段、上ではありますが」
「ということは弟弟子?」
「それもありますが、義姉弟の契りを交わしたのですよ。まあ年齢的には変わりませんが、私の方が早生まれでしたので」
「ふーん」
「では、またお会いすることもありましょう。ではさらば」
「あ、待ってくれ」
「?」
「シリュー。俺達の仲間にならないか?」
「ふむ、それはそれでいいかもしれませぬが、いきなりどうしましたか?」
「さっき孔信と、”平和ならば”って言ってたよね」
「たしかに」
「俺達も平和・・・泰平の世を作るために戦っているんだ」
「では客将というのは矛盾しますね。孔信殿がそこまでの力を持っているように思えない」
「独立の機会を待っているんだ」
「・・・ほう」
不敵な笑みを浮かべるシリュー。面白いことでも思いついたのだろうか。
「そうですねぇ・・・。ヒューイ殿に機会が来たときに私が助太刀することにしましょう」
「ああ、ありがとう」
シリューがヒューイに近付いてくる。・・・主に顔を。
「な、なに?」
「フフ・・・実に面白い」
「「なっ!?」」
頬にくる唇の柔らかさ。最後に驚いたのはヒューイとリアナだ。
「では、また会いましょう」
「シ、シリュー!貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」
「フハハハハハハ!!またお会いしよう!さらばだっ!」
高らかに笑い、馬に乗って去って行った。
ヒューイは頬の感触に触れ、呆然するしかなかった。
盗賊が増加傾向にある今の世。
食料不足に餓死者が増加し虎の意を狩る狐の如くの役人が横領し、賄賂が飛び交う。
溜まっていた怨念の渦は爆発しようとしていた。
それはすぐ、もうすぐく爆破しようとしていた。
あとがき
シリューさん。
イメージ的には東国の大人のお姉さん的。
傭兵はヨーロッパでも数多くいたのでその設定を含んでいたりしてます。
怒虎なんて・・・なんて厨二病なの!?と自分でつっこんでいたりますw
パソコンのモニターが壊れたので買い換えました。
やっとね・・・。
中々書けてなかったのはそれが原因であったりますw
さて・・・次は軍師・・・出せるかなぁ・・・。
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
第五話です~
戦争シーンの練習としても書いていますが・・・
うーん、自分で納得いく作品になるのか・・・