No.202093

漆黒の守護者8

ソウルさん

黄巾賊VS連合軍です。

2011-02-17 16:52:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3122   閲覧ユーザー数:2693

 緊張の空気に包まれていた戦場の均衡が崩れた。功を焦った両袁家の突撃によって。その時点で悪い流れが自軍に吹くのが道理だが、相手が賊だということがそれを崩す。いきなりの連合軍の進軍に黄巾賊は浮足立ち、混乱が陣中を駆け巡る。武器を手に取ることさえ忘れて逃げ惑う者までいるくらいだ。ただそうでない者たちも存在する。異様なまでの士気を纏いながら立ち向かってくるのだ。

 

「あれが情報にあった信者か」

 

歌だけであそこまで士気を向上させる力は大したものであり、危惧するべき力である。

 

「となると、あの軍団の背後に三人がいると考えて間違いなさそうじゃの」

 

黄巾賊の士気に惑わされることなく冷静に標的の分析にあたる聖。

 

「だろうな。だが俺たちの狙いは……」

 

視線を戦場全体に巡らせる。もう一人の張角。歌の力ではなく、口上で人間を改心させた陰の支配者を探す。斥候の部隊に自分たちに関する情報を一切洩らさないほどまで警戒心の強い頭脳の持ち主だけにこの戦の行く末を見据えてあるはず。いくら士気が高まろうと、いくら兵力の差があろうとも黄巾賊が連合軍に勝てる可能性は0%。将軍の質、兵士の練度、すべてが連合軍が勝るのだ。黄巾賊が官軍だけに一点集中の攻撃を加えていれば可能性は低くはあるがあった。皮肉にも戦況の拡大が眠っていた王たちを目覚めさせ、経験という力を討伐の名目で与えてしまった。

 

「まずは前方から突撃してくる賊にひと当てしましょうぞ」

 

「あぁ。枢は左、壬は右から周り込み挟撃しろ。聖は後方から弓隊を率いて牽制かつ兵力の散漫を第一に。我が部隊は直線上に突撃する」

 

命令を下しきったと同時に馬の横腹を蹴り駆けらせる。それを合図に枢と壬の部隊も動き、弓兵を除いた残りの兵は俺に続いて馬を駆けさせた。愛刀が折れて愛用の武器がない俺は、支給されていた槍を手に敵内に突っ込んだ。

 

「徐晃隊、翡翠様に続きます。全軍突撃!」

 

「徐晃隊に遅れをとるなよ! いくぜ!」

 

大きく回り込んだ二軍が突出してきた左右に突撃し、挟撃を開始する。

 

「今じゃな。弓兵隊、矢を射て!」

 

前方からの突撃と左右からの襲撃に足を止めた黄巾賊を確認した聖は好機と見、攻撃に転じる。無数の矢が放物線を描いて天空から飛来する。

 

「に、逃げろー!」

 

部隊を率いていた黄巾賊の将軍が撤退を指示するが、

 

「逃がすと思うか?」

 

やすやすと逃がすほど明星は甘くない。飛来する矢に恐怖することなく全軍が混乱する黄巾賊に攻撃を開始した。混乱と恐怖の渦中にいる黄巾賊に反撃する術などなく、なされるがまま絶命されていく。

 

「くそ! 義勇軍風情が、貴様さへ殺せば」

 

敵軍の将軍が剣を振り薙いでくる。

 

「それは我らでも同じことさ」

 

上半身だけを斜めにずらし避け、同時に槍を振り上げる。刃先が顔を削り落とす。顔半分を失った将軍は馬上から崩れ落ちた。

 

「しょ、将軍がやられた! に、逃げろ」

 

将を討ちとられたことでさらなる混乱が訪れた。その渦中でも周りの状況を把握するのが将の役目。俺は警戒を張りながら視線を配る。他でも名のある諸侯たちが黄巾賊を押し始めていた。狙うは張角の首。その中でも曹操軍の行先は俺たちと重なる。迷いのない進撃の裏にはおそらく確立した情報があるに違いない。曹操が推測のみで軍を動かすことは極めて少ないはずだしな。

 

「主、あれを」

 

いつしか隣に並んでいた聖は森林へと続く道に逃げる黄巾賊を指さしていた。薄汚れたローブを纏って逃げいていく姿がはっきりと目に映る。戦況が連合軍に傾き混乱の渦中であの冷静な逃走経路を使用しているところを見ると、

 

「逃がすわけにはいかないよな。全軍、俺についてこい」

 

 鬱蒼とした森林の中を年老いた男が重い足取りで彷徨う。何度も背後を振り向き追ってから逃げるその姿は逆に目立つ。その老人を四方に囲む薄汚れた外衣を纏う四人の人間。

 

「張角様、もう少し先で信者が集まっております」

 

「は……は……。わ、私さえ生きていればまだ可能性は―――」

 

息切れを起こしながら足を止めようとしない張角だが、

 

「あると思うか?」

 

その歯止めを俺自ら演出してみせた。

 

「き、貴様は!?」

 

張角は驚愕で顔を紫色に染める。眼前に姿を見せる明星の頭首とその軍勢。そして地に伏せる信者たちの姿があった。

 

「お、お逃げくださ――」

 

四方を囲んでいた信者たちが矢に貫かれて命果てる。

 

「な、何故だ!」

 

自我を失いかける発狂した姿を露見させる張角。

 

「王朝の時代は終わった。腐りきった世界を再生させるにあの存在はただの汚点にすぎないのだ」

 

「そうだな。確かにあの存在はこの大陸に潜む汚点の象徴だ」

 

「それを知りながら貴様たちは―――」

 

「我らにとって貴方がたの存在もまた汚点でしかない」

 

張角の言葉を遮って言葉を続けた。

 

「我が存在が汚点だと? ふざけるな! 王朝を失墜させ黄天が大陸を支配することこそが天の望み」

 

「貴様が迷える者に道を説いたのは正しい。しかしお前は、天の意を体現させんがために、天の本質を見誤った」

 

「私が見誤った……だと。なら天とは一体……」

 

一心に信じてきた理想が信念が否定された張角が脆く崩れ落ちていく。

 

「天とは誰の意にも介せぬ以上、その天を体現することは不可能。だから人は天に夢を見る。天命は心の憑代となる」

 

敵ということを忘れて張角は聞き入る。

 

「だが貴様はそれを体現しようとした。自ら天になろうとした。禁忌の領域へと足を踏み入れた。それが敗北の理由だ」

 

「わ、わたしは……」

 

慈悲として俺の手で張角の首を取った。

 

 おそらく張角はこの戦に参加する誰よりも民とその未来を見てたのだろう。他人の名前を借りてまでしようとした執念は尊敬さえ持つ。

 

「張角殿……あなたの理想は俺が実現させましょう。ですから天でゆっくりと眠られよ」

 

天に赴いたであろう張角に言葉を送る。それは聖との契約でもあった。

 

 

 今回は台詞の多い場面となってしまいました。

 

 次回は董卓軍VS連合軍まで話しが飛びます。


 
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