―ちんきゅうきりもみにかいひねりきっく―
……聞いただけではこの技の凄さは伝わらないだろう。
あえて説明するとしたら、とにかく痛い、異常に痛い、空前絶後に痛い、マジパネェぐらい痛い。
食らったら思わず、空に飛び上がり爆発してしまいそうな蹴りだった
なぜこんなのを食らってしまったのか?
理由は勿論、俺にある。
不可抗力とはいえ彼女には申し訳なさすぎる。
「ふん!帰ってきたのですかボンクラ。お前なんてどうでもいいのですが、それで恋殿が悲しまれるのはねねの本意ではないのです。
だからまあ、歓迎の言葉くらいはかけてやってもいいのですよ」
なんて、小柄な彼女が上から目線で話しかけてきたところに……
「……えっと悪いんだけど。君は誰なのかな?」
思った事をそのまま口に出してしまったのだ。
ここでもっとオブラートに包んだような返しは出来なかったのが失敗だった。
「!!…………い、言うに事欠いて……うぅ…………うわあああああああああああん!!」
いきなり泣き出した彼女に困惑し無防備に近寄ったところへ、
「うわああああああん、こ、このド畜生があああ!!!」
マスクドなライダーもびっくりな飛び蹴りを貰いましたとさ!
……おかげで陳宮こと、ねねの記憶が戻ったのは幸いだったが……。
まあそんな事もあったが無事(?)洛陽に到着した俺は、客将として薫卓軍に所属する事になった。
それから日は経ち、軍の演習場でのこと。
護身の為と、恋と実戦形式の組み合いをしていた。
「………………………………………ちゃんと、避ける」
「だったら手加減をしてくれ!……どわっ!」
暴風のような横薙ぎを刀でなんとか逸らす、無論威力を殺しきれるわけも無く、体勢が崩される。
「………………………次」
「だからもうすこし力をだな……!!」
続けて迫る烈風の突きを体を無理やり捻って避ける、避ける、避ける。
「う゛っ!この!!」
止まらず、恋の疾風の連撃に晒されていく。
攻撃の軌道を先読みしつつ、牽制の動きを絶えず折り交ぜ、なんとか直撃を防いでいるが、
例えるなら台風。巻き込まれれば一瞬で勝負は付いてしまう。
(………ここでジリ貧になるくらいなら)
押し込まれて動きが封じられる前に、機先を取る!
「―せいっ!」
「!?」
戟が戻る瞬間を狙い、手首のスナップを効かせた小手を放つ。
これは貰った!
自分でも驚くくらい抜群のタイミングで先を取ったはず。
だが、
「………………………………残念」
「ぐはっ!?」
天下の呂布には届かなかった。無念。
「……………………………大丈夫?」
心配そうな目で見上げる恋に、笑みを返して無事を伝える。
「やっぱり強いな、稽古をつけて貰ってからいくらか経つけど、まるで歯が立たないなあ」
初めから恋相手に勝つ事は考えてないが、それでもやはり悔しい。
現実世界で鍛えてきた技術は無駄だったんだろうかとさえ思ってしまう。
「……………………………………ご主人様は、強い」
慰められてしまった。
「…………………………………………嘘、とかじゃなくて」
独特の間のせいでお世辞かどうか判断に困る。
「でもさ、全然良いところ見せれてないし」
「……………少し本気出さないと、恋、負けるから」
「………でもお少し何でしょう?」
「……………………………じゃあ、割と、本気?」
首を傾げて俺に聞かれても……。
「ご主人様、変な動きとかするから…………戦いにくい」
「そこが俺の強さにつながるわけ?」
代々伝わる実家の剣術を、変な動き扱いされるのは心外だが。
コクリと頷き、話は終わったとばかりに俺の膝で昼寝をする準備をしている。
(……一応、無駄じゃ無かったってことか)
恋の頭を撫でつけ、自分の戦い方を思い浮かべる。
北郷一刀は基本、後の先を取る戦いを重視している。
勢い余って相手を傷付けないように。
故に、相手の行動、心の動きを読む事が最重要となる。
動きが変、というかあらかじめ牽制を仕掛け、相手の動きを制限するのがさっきの動きなんだけど……。
(やっぱり実戦経験が無いのがまずいのかな)
その為の特訓とはいえ相手が恋だけでは、どうしても動きに偏りが出てくる。
「どうしたもんかな………」
董卓……この人物とも再会していない。
どうやら政務が忙しいらしく、ねねさえも謁見できないらしい。
……正直まだ薫卓ちゃんの記憶は戻ってない。
会いさえすれば思い出すと二人は言っていたが。
自分の記憶、乱世を生き残る為の力、そのどちらもまだまだ足りていない。
無力感に苛まれ、ふと空を見上げる。
「……世界を救う、か」
道は果てなく、自身も見えず、けれど立ち止まる事は許されない。
「……少なくともこの顔は守って行きたいな」
緩みきった恋の寝顔に笑顔を向けて、そう誓う。
「なかなかいい雰囲気やないの、北郷」
「うわっ!ってなんだ張遼か」
いつのまにやら傍らに女性がいた。
そういえば隣の演習場で調練していたみたいだったな。
「まっさかあの恋がこないにも懐くとはなあ、どうやって誑し込んだん?」
「人聞き悪い事言うなよ、ちゃんと手順踏んで、だよ」
「まあ無理やりなんてやったら、シバキ倒されるのがオチやろうしな」
ニャハハと笑う張遼。
将としての顔見せ以来、頻繁にこちらに会いに来るようになりだいぶ経つが、
彼女曰く、
「なんか気になるんよ、あんたのこと」
とのこと。
恋達によると後に敵になる相手らしいが……。
「いややわー、そんな熱い視線で見られたらうちメッチャ恥ずかしいやんー」
クネクネと身を捩る。
「全然、そう見えないけどな」
バッサリ否定した。
……ノリのいい友達みたいな奴なんだけど……。
「それはそうと調練はいいのか?まだ終了時間じゃないだろ?」
「あーそうしたいのは山々なんやけど……」
……どうも歯切れが悪い。
「兵士全員のしてしもうて、相手がおらんのや」
「oh……」
調練に参加した兵士は百人以上いたはずだが……。
「で、暇になってどうしたもんかなぁと、ぶらついとったら二人の稽古を発見したんや」
とするとだいぶ前から見てたな。
「いやはや、最初はとても戦う人間には見えへんかったけど、なかなかどうしてツワモノやね」
「まじで!?」
「………まじってなんや?」
「いや、それは置いといて、俺が強いってホント?」
恋は身内の贔屓目があるからいまいち判らなかったんだけど、張遼のお墨付きなら自信が持てる。
「おう、そうや。そもそも恋相手に勝負になってる時点でたいしたもんや」
俺、軽く感動!!
「まあ、そういうことで……」
笑顔のまま彼女は槍を構えた。
……。
槍!?
「うちの相手してくれへん?」
……まあ、悪い予感はあったけど……。練習相手が増えたと考えよう。
「もちろん、お相手するよ」
いくら時間があっても無為に過ごす道理は無い。覚悟を決めて立ち上がろうとすると、
「………………………………まだ、お昼寝」
寝惚けた恋に腕を引っ張られ、肩がもげかけた。
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第四話をお送りします。
来る乱世や敵となる者達と戦う力をつける為、
一刀は呂布と――。
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