No.191046

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART22~

戯言使いさん

お久しぶりです。12月は師走というだけあって、とても忙しいですねー(´Д⊂グスン

今回は一刀たちが華雄と出会う場面です。
いつもコメ、支援、ありがとうございますね。

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2010-12-22 16:18:11 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5800   閲覧ユーザー数:4679

 

 

 

次の日、4人と華陀は敗兵村へと向かった。

 

隣街、と言うこともあり、距離的にはそれほど離れておらず、出発して一刻ほどでその敗兵村に辿り着いた。

 

敗兵村は砦を改築したこともあり、外見は立派な要塞だが、中に入ると、そこはただののどかな街。どこの国にも属さない、自分のことはすべて自分たちでやる、完全な一つの独立した国のようだった。

 

一刀たちは、取りあえず荷物を宿屋に置き、この街を作った本人、華なんとかに会いに行くことにした。

 

しかし、一刀は宿に着くや否や、また立ちくらみを起こし、取りあえず一刀を宿で休ませることにした。そして付き添いとして華陀も宿に残り、そして残りの3人、斗詩、猪々子、七乃は華なんとかを探した。

 

一刀が居ないで大丈夫か?と思われたが、今回で重要なのは、元武将たちである斗詩たちである。交渉するにも、まず戦に参加する武将が話を通すのが筋だ。

 

さて、何処に居るだろうか、と探していると、何やら大きな声が広場から聞こえてきた。どうやら、女性のようだ。

 

 

「よし!先日は五瑚との戦、御苦労であった!五瑚の奴らは敗走し、もう戻ってくることはないだろう!私たちの平和は守られたのだ!」

 

 

「「おぅ!!」」

 

 

その女性の言葉に集まっていた男たちが大きな声で返事をした。

 

 

「あの人・・・・華雄さんだね」

 

 

連合軍で戦った時の敵将の華雄だった。なるほど、確かにあの良将と呼ばれている華雄なら、兵士をまとめ上げて、街を作ることは可能だろう。

 

しかし、自分たちは連合軍総大将の元部下。果たして交渉をして、受け入れてくれるだろうか・・・・。

 

 

「そんなの、考えたって分からねーよ。おーい、華雄!」

 

 

色々と考える斗詩とは逆に、猪々子は気にせず声をかけた。

 

華雄はその呼び声に反応して、こちらを見る。

 

 

「何だ、おぬしらは」

 

 

「おぅ。あたいは文醜ってんだ。こっちは顔良、そんでこっちは張勲。よろしくな」

 

「ふむ。どこかで聞いたことがある名だと思えば、袁家の武将たちではないか。確か戦に敗れ、逃げ回っていると聞いたぞ」

 

 

「まぁな。でも、今はちょっと事情があってな。そんでよ華雄、実は聞いて欲しい頼みがあるんだよ」

 

 

「ほほぅ、何やら知らないが、面白そうではないか。よし、こっちに来て、皆にも聞かせてやってくれないか」

 

 

「おぅ!」

 

 

あれほど色々と考えていたのが馬鹿らしくなるほど、話はスムーズに進んだ。何かと臆病な斗詩と七乃とは違い、猪々子はお気楽だ。だが、このお気楽が今回は良かった。華雄もどちらかと言えば猪武者。猪々子と同じく、考えるよりも戦う方が特意だ。こう言う人は、取りあえず難しい話よりも、分かりやすくお願いした方がいい。

 

広場の段に上り、こちらを見上げる兵士たちを見た。確かに戦に負けた兵士たちらしい。かつての自分たちの部下も数人いた。

 

 

斗詩は一度、コホン、と咳払いをすると、自己紹介を初め、そして今までのことを話始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、みなさんのお力をお借りしたいんです。お願いします」

 

 

斗詩は最後にそう言って、頭を下げた。

 

それにならい、猪々子と七乃も頭を下げる。

 

しかし、兵士たちの反応はいまいちだった。それぞれ顔を見合わせ、相談している。やはり兵士。上位の人の決断がないと、自分では決められない。

 

 

「華雄さん。どうでしょうか?」

 

 

「うーん・・・・」

 

 

華雄は腕を組み、難しそうに唸った。

 

 

「お前たちの話は分かる。確かに、大陸の平和を第一に考えるなら、お前たちに協力するのが一番だろうな」

 

 

「だったら・・・!」

 

 

「だがな、私たちは正直、大陸の平和など関係ないのだ」

 

 

華雄は斗詩の眼を見て、意志のこもった目を向ける。

 

 

「今の私たちはただの村人だ。武将でも兵士でもない。ならば、普通の村人のように生活してもよいだろう?時代の波に流され、右往左往してもよかろう」

 

 

「ですが、多くの人が大陸の平和を望んでいるんです!その為にも・・・・」

 

 

「・・・なぁ、顔良。おぬしは、ただの村人に大陸を救えと言いたいのか?」

 

 

「!?」

 

 

「大陸の平和など、村人一人でどうこう出来るものではないだろう。大陸の平和は、国の王の仕事だ。私たち村人は、村の平和を守るだけでよいではないか」

 

 

自分一人で出来ることを自覚している・・・・・・・。

 

それは、雪蓮にかつて一刀が言ったことだった。一人で全員を救うなどと言う分不相応なことを考えず、自分の出来ることを自覚するのが大事であると。そして華雄は自分が出来ることを分かっている。ゆえに、言い返せない。

 

 

しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。一刀が頑張ってここまで舞台を作ってくれたのだ。せめて、その手助けをしたい。

 

 

「・・・・私も、実は大陸の平和とか、村人たちのことは考えていません」

 

 

「うん?」

 

 

「私はただ、一刀さんの助けになりたいんです。結果的に大陸平和につながるかもしれませんが、今、私がこうして立っているのは、大好きな人の助けになるためです。民の平和とか、そんなの全く考えていません!」

 

 

「・・・・・」

 

 

「だから、大陸を救うとか、そんなことを考えないでいいです!どうか、私を・・・私たちを助けて下さい!お願いします!」

 

 

斗詩がもう一度頭を下げた。

 

その姿に、兵士たちは再び顔を見合わせる。

 

その言葉が、斗詩の正直な本音だった。変に言い飾るよりも、こうして自己中心的な本音をぶつけたほうが、きっと分かってくれる。斗詩は、一刀の傍に居て、それが大事なことであることを学んでいた。嘘の綺麗な言葉よりも、汚い本音の方が、人は信用してくれる。

 

 

「なるほどな・・・・・確かに、大陸の平和などと大それたことよりも、おぬしたちの助けになることはやぶさかではない」

 

 

華雄はにやりと笑みを浮かべる。

 

 

「だったら・・・・!」

 

 

「だがな・・・・私はともかく、兵士たちはどうだろうか・・・・・」

 

 

「えっ・・・」

 

 

「なぁ、ここに居る皆が、かつて戦に負け、体に傷を負い、そして命さながら逃げてきたことは知っておるだろう?」

 

 

「えぇ・・・・」

 

 

「・・・正直に言うと、怖いのだ。皆は」

 

 

華雄は唇をかみしめてそう言った。

 

華雄はそれを恥だと思っているらしいが、しかしかつて戦で負けを経験したことのある斗詩なら分かる。戦に負け、いつ殺されるか分からない恐怖にさいなまれ、そして惨めに這ってでも生き残ってきたのだ。あんな怖い思いなど、もう二度と経験したくない。

そして同じことを、ここに居る兵士たちも思っているのだろう。

 

 

「戦と言うものは、様々な終わりを告げるものだ。それは命であったり、友の存在であったり、そして平穏の終わりも告げるものだ・・・・私たちは終わってしまうことが怖いのだよ。自分の命が、この街が、戦のせいでなくなってしまうのが・・・・なぁ、それを臆病だと罵るか?」

 

 

「・・・・いいえ」

 

 

「だから私たちは守るのだ。これ以上、大切な物をなくさないために」

 

 

「・・・・・・・怖い」

 

 

華雄の言葉に、段の下に居た一人の兵士が呟いた。

 

 

 

「怖い。痛い。思い出したくないんだ・・・・もうあんな辛い思いはしたくないんだ」

 

 

その一人の兵士の言葉が、周りに伝染していく。一人が本音を吐露すると、周りも本音を呟き始めた。

 

 

「いやだ・・・・痛いのが嫌だ」「・・・・辛いよ」「怖いよ・・・・」「もぅ何も失いたくないんだ・・・・」

 

 

小さく震える兵士たち。

 

そんな兵士たちに、自分たちを助けてくれなんて、斗詩は言うことが出来なかった。

 

 

 

・・・・・ごめんなさい。一刀さん。私には、無理でした。

 

 

 

 

斗詩は悔しさに唇を噛んだ。折角ここまで一刀が積み上げてきたのに、自分はそれを支えることすら出来なかった。

 

 

 

 

 

しかし、落ち込む斗詩の耳に、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「何やら不安になったから、様子を見に来てみれば・・・・ったく」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵士たちの後ろに、一刀が立っていた。背中には鎧刀。背筋を伸ばし、堂々とこちらに向かって歩いてくる。その姿は、まるで王や神のように、凛々しい。

 

兵士たちは自然と一刀の通る道を開けていく。

 

 

 

 

「なぁ、あんたら。辛い辛いって言葉を吐き捨ててさ・・・・・何か変ったか?」

 

 

 

 

 

一刀が優しさのこもった視線で兵士たちを見渡した。

 

 

 

 

「辛いことを思い出してよ・・・・・何か変ったか?」

 

 

 

 

 

一刀は段に登ると、兵士たちに振り返る。

 

見た眼は相変わらず怖い。だが、何故か一刀の言葉には優しさと重さがこもっていた。

 

 

 

「後悔するな、反省しろ。今までの後悔の数を数えるくらいなら、空の星の数でも数えてろ。その方がよっぽどマシな過ごし方だぜ」

 

 

 

「・・・・でも・・・・」

 

 

 

 

「お前ら!もっとしっかり立て!」

 

 

 

 

一刀がそう怒鳴ると、兵士たちは思わず姿勢を正した。それはかつて、自分たちが武将たちの元でそう教育されていたからだ。体が思わず動いていた。

 

その姿に一刀はにやり、と笑みを浮かべる。

 

 

 

「いいか!お前らがここに残り、この街を守るって言うなら何も言わねーよ!でもな、これだけは言っておく!

 

 

 

 

 

 

 

人間、一番怖いのは、終わることじゃない。始まらないことなんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

お前らがここに留まることで、お前らにある無数の幸せが始まることもなく消えるんだ!一つ守るために、百の未来を犠牲にしてるんだよお前らは!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「辛い?怖い?当然じゃねーか!幸福や未来なんてな、黙ってりゃやってくるもんじゃねーんだ!それぐらい重い物なんだよ未来ってのはよ!過去ばっかりみてんじゃねーよ!前を見ろ!後しか見ない眼なら、俺が潰してやる!

 

 

 

 

 

そして、見えなくなったお前らの手を、俺が先頭に立って引いてやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

恐怖を抱え、一歩前に出ろ!それが、生きるってことだ!」

 

 

「・・・・!!」

 

 

「お前ら!折角、惨めに這ってでも守り通したお前らの命を何もせずに終わらせるのか!?んなもったいねぇことするんじゃねーよ!俺たちは今、お前たちの前に二本の道を示している。一つは、このままここを守るだけの限られた平和を楽しむか。もう一つは俺らと一緒にまだ見ぬ未来を進むか・・・・・お前らはどっちを選ぶんだ!これは自分で決めろ!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「でもな。一つだけ言っておいてやるよ。もし、未来を進むってんなら、

 

 

 

 

 

 

この俺・・・天の使い、北郷一刀が、お前らを導いてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、本当に一瞬だった。

 

 

一刀が現れて、そして一言二言、叱咤しただけだ。たったそれだけで、あれほど過去に怯えていた兵士たちが、一瞬にして眼に魂が宿った。

 

本物の神様のような一刀。だが、斗詩は一刀はけして神などの摩訶不思議な存在ではなく、自分たちと同じ人間であることを分かっている。

 

人間だからこそ、人間の心に訴えかけることが出来るのだ。

たくさんのことを経験し、たくさん涙を流し、それが人を作り上げていくのだ。その過去の一つ一つの積み重ねが、重要なのだ。けして過去とはとらわれるものではなく、その上に立つものなのだ。

 

 

「おい。華雄って言ったか?こいつらが世話になったな」

 

 

「お、おぅ・・・・おぬしがこやつらの主か?」

 

 

「主?そんなもんじゃねーよ。

 

 

 

 

こいつらは、ただの俺が惚れた女たちだ

 

 

 

 

ただそれだけだよ」

 

 

その一言で、斗詩たちの顔は一瞬にして真っ赤になってしまう。

 

格好良すぎる。それは斗詩だけではなく、この場に居た兵士たち全員が思った。そしてその格好良さは、老若男女を引き付ける。それは華琳や雪蓮や桃香のような王にとっては必要不可欠な要素、カリスマと言うものだった。

 

一部の兵士しか集まっていなかった広場には、いつの間にか溢れんばかりの兵士たちに囲まれていた。一刀の演説に誘われて集まってきたのだ。

 

 

「それじゃあ、お前ら。これで最後だ。

 

 

 

俺に、ついてこい

 

 

 

 

 

分かったか!」

 

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

兵士たちが一斉に姿勢をただし、そして返事をする。その様はまるで何処かの国の正規軍のように規律が取れていた。七乃たちも思わず姿勢を正して返事をした。

 

 

 

 

こうして対五瑚戦力が一刀の元に集まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

次回に続く

 

 

 


 
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