え、どうしよう。
皆は知らないだろうけど、ボク、もう高校生なのにそんな女の人と一緒に寝られるわけが……
「あ、あのね」
「「!!」」
うぅ……秋蘭お姉ちゃんも桂花お姉ちゃんも目が怖い。
「まぁ、まぁ、二人ともそんなに睨まないでください。怖がってますよ」
風お姉ちゃんがなんとか仲裁してくれようとしてくれたけど、
「風は黙ってなさい。これはとても重要なことなのよ」
「ああ」
逆に欲望に充満して聞こえていないっぽいし……
これってアレじゃない?どっちを選んでも死亡フラグという……いやいや、というか、ボク恥ずかしくてそんなことできないんだってばー!
……あ、そうだ。
「あ、あの、ボク、桂花お姉ちゃんと一緒に寝た方がいいかな」
「!(パァー)」
「!「ガーン)」
悲喜こもごもだ。
「一応聞くが、何故だ?」
「うっ……」
それは……こう、桂花お姉ちゃんとなら一緒の布団にでは寝ないからそれだけマシだという感じ……で?
「うん」
「……??」
「一刀が決めたことでしょう。あまり一刀を困らせないで頂戴」
「……仕方ない」
桂花お姉ちゃんの言葉に秋蘭お姉ちゃんもそれ以上言わないで引いたけど、やっぱりちょっと嫌われちゃったかな。
ごめん、今のボクにはこれがせいぜいだったの。
「では、そういうことで今日は皆帰ってもいいわよ」
ボクが今夜寝る場所が決まったら華琳お姉ちゃんが会議を終わらせた。
「あんた、何してるのよ」
「え?」
昔みたいにお布団を床に敷いているボクを見て、桂花お姉ちゃんは寝ぼけてる馬鹿を見ているような顔でボクを見つめていた。
「寝る準備してる」
「……あんたバッカじゃないの?」
「……久しぶりにお姉ちゃんに馬鹿って言われた」
「っ……馬鹿と言われて喜ぶなんて本当に馬鹿になったのかしら。いい、華琳さまはあなたの部屋がまた準備できるまであなたを一緒に寝かせなさいと命じられたのよ。なのに一年ぶりに帰ってきたあなたを、床の下で寝かせたと他の皆が知ってみなさい。華琳さまはもちろん、まず秋蘭が私を殺そうとするわよ」
「まさか…いくらなんでも秋蘭お姉ちゃんがそこまでするはずは…」
「あなたは自分が消えた間ここで何が起こったのか分からないからそう言えるんだよ……<<ブルブル>>」
……え?
本当に?
「な、何か、あったの?」
「あんたが消えて一ヶ月は、華琳さまも秋蘭も寝たくても寝られなくて夢うつつにしていたのよ。その上に、寝不足だからちょっとしたことでも怒りを我慢できずに怒るし、秋蘭とか春蘭に怒鳴って春蘭が衝撃食らって三日は秋蘭に言葉一つもかけなかったのよ」
「………<<パクパク>>」
ボク、秋蘭お姉ちゃんのところに行く方が良かった…?
「とにかく、だからあなたを床で寝かすわけにはいかないわ」
「じゃ、じゃあ?」
「……私としては凄く不本意だけど、すっごく気に入らないけれど、あなたと一緒の布団で寝るしかないわね」
じゃあ、そこまでしなくても良かったよ!!
と、心の中では叫んでるけど……正直、桂花お姉ちゃんのところでは昔沢山寝てたけど、一緒の布団で寝たのは、多分一度しかなかった。あの時は、さっちゃんが急に居なくなって一人で寝るのはとても嫌で、普段なら華琳お姉ちゃんや秋蘭お姉ちゃんのところに行ったら良かったんだけど、あの時二人に何かされてた。良くは覚えてないけど『何かされて』それがトラウマになってしばらく行けなかった。
それであの時、桂花お姉ちゃんをどっかにいかないようにぎゅって抱きしめて眠ったことがある。
でも、それからはいつも通りに桂花お姉ちゃんと一緒に寝る時は床だった。
「ほら、何してるのよ、早く来なさい」
と、上を見たら桂花お姉ちゃんが寝る準備を済ませて自分は布団に入って、布団を上げてこっちを見ていた。
いや、こう、昔は知らなかったんだけど、なにこれすごくいやらしい。
「な、何よ」
ちょっと暗くて見えないだろうけど、今明るかったらボク絶対顔赤くなってるんじゃないかな。
「じゃあ、お邪魔します」
でも、ここで入らなくても何か場面がおかしくなっちゃうから我慢してもぞもぞ桂花お姉ちゃんの布団に潜り込んだ。
「………」
「………」
そして、どっちも沈黙。
出来るだけ桂花お姉ちゃんから遠くに横たわったボクの視線は常に天頂を指していた。横で桂花お姉ちゃんがどうしてるか分からない。
「あんた」
「!」
と思ったら、桂花お姉ちゃんから近づいてきた。
「あんた、今までどこで何をしていたのよ」
そして、殿内で皆が疑問で仕方がなかったことを桂花お姉ちゃんは聞いてきた。
そうだった。今は皆にとって凄く深刻な場面だった。ボクだけ呑気なこと言っている場合じゃない。
「……ちょっと信じてくれないかも知れない」
「構わないわ。大体、あんたが生きていることを信じて待っていること以上に信じられないことなんてあるはずもない」
「………」
ボクは、戦場で姿を消して一年も姿を見せなかった。
普通なら、その戦場のどこかも知れないところで死んだ、というのが妥当。
でも、初めてお姉ちゃんたちがボクを見たとき、皆が驚く姿は死んだ人を見るようなそういう驚き方ではなかったと思う。
皆、ボクが帰ってくると信じてくれていた。
「……人生をやり直して来た、と言ったらいいかな」
「人生をやり直す?」
「洛陽の城壁の前で気を失ってね、目を覚めたら布団の中に居たの。とてもふかふかしてて、いつまでもそこで眠っていたい、そんな布団の中に」
「……」
「それで、もっと寝ようと思って布団の中にもっと潜り込んだら、門が開く音がしたの。そして『一刀、早く起きないと遅れるでしょう?早く起きなさい』って誰かが言ったの」
「布団から目をこしこしってして目を開けて見たらね、……そこに誰か立っているのに、最初は誰か気づかなかったんだ」
でも、次の瞬間、それが当たり前のように
「其の次に、ふと気づいたの。ああ、この人ボクのお母さんだって」
「!あんたのお母さんは……」
「お母さんだけじゃなくてね。部屋から出てみたらお父さんが椅子で新聞を見ていて、一緒に朝御飯食べようと待っているお姉ちゃんも一人居て……まるで、どこにもある普通の家族みたいだったの」
「………」
「食卓に座ってご飯食べようとしたらお母さんが『一刀ちゃん、食べる前に言うことない?』と言うの。何言ってるんだろうかと思ったのに、気づいたらボク『いっただきまーす』とか言っちゃってた」
「……」
「……自分の口で何かを言った覚えなんてもううすらで全然思いもつかなかったのに…まるで最初からボクは言葉なんてできない子だったみたいに覚えていたのに、ボクの口から言葉が喋れて、家族が居て……それで……」
「…嬉しかったの?」
「……うん……うん、嬉しかった」
だけど、次の瞬間にそれがとても当たり前のように思ってきたということは言わないでおこう。
長い夢を見ていた気がした。
中学生になった時、ある『変なところ』に気づくまで、ボクは夢の中に居た。
「……良かったじゃない」
桂花お姉ちゃんはそういった。
「もう言葉が通じなくて不便なこともないし、親もちゃんとあるし、しかもお姉ちゃんまで居たんですって……?……良かったじゃないの…そんなに幸せだったの?」
「桂花お姉ちゃん?」
「そんなに幸せだったら……もうここには戻って来なければ良かったじゃない」
「お姉ちゃん…」
どうしてそんなこというの?
「私たちは……あんたが居なくなって毎日が生きてる気がしなかったのに、あんたは毎日が天国のような生活していたですって……?」
「あ…」
そうだった……ボクが居ない間、お姉ちゃんたちは皆心配していたのに、ボクは………
ボクは、ボクのことしか考えてなかった。
「……ごめんなさい」
「いいえ!あんたが謝ることではないわ。あんたは……あんたがどんな風に生きて来たかは良く分かってるんだから。良かったじゃないの、普通の家族が出来て」
「………」
何か言いたかった。
言いたいのに、何も言えなかった。
言える口があるのに何も言えなかった。
これじゃあ、幼かった時と同じだ。伝えたいことばが伝えきれないこともの時みたいになってしまう。
「何よ……私が馬鹿みたいじゃない……ずっと心配して損したわ。らしくもなく人の心配なんてするもんじゃなかったわ」
桂花お姉ちゃんが背を向けて泣いていた。
桂花お姉ちゃんがボクの心配で泣くなんて、想像もつかなかった。
いつも接し方が厳しくて、ボクのことが嫌いだと思った桂花お姉ちゃんが……
「…ありがとう<<ぎゅー>>」
「へっ!?」
そう思ったら、つい身体が先に動いた。
「ちょっ、あんた何やって」
「ボクが喋れるようになったのは、きっと皆のおかげだよ」
「は?」
「言ったでしょう?いい『夢』だったって」
そう、アレは、ボクが観たかった世界。ボクが行きたかった記憶。
でも、ボクが生きた過去はそれではなかった。
ボクが生きた過去はもっと厳しくて、辛くて、悲しくて……なかったことにしてしまいたいぐらい暗かった。
だけど、
「そんなボクのことをを皆理解してくれて、心配してくれたから、ボクがあんな素晴らしい夢を見れたって、ボクはそう思うよ」
「……何言ってるのよ」
「あのね、桂花お姉ちゃんはボクのこと、どれだけ心配した?」
「え?」
「桂花お姉ちゃんは、ボクのことあまり好きなかったから、そんなに心配なんてしてなかったかも知れないけどね。でも、凄くありがとう。ボクのこと、ずっと待っていてくれて」
「……一刀……」
「正直に言うとね。ボクあまり幸せで、お姉ちゃんたちと一緒に居たこと忘れてたの。でも、時間が過ぎたらまた思い出して、それからは皆のことが会いたくて……寂しかった」
「あ……」
寂しかった……多分、お姉ちゃんが居なかったら本当に、本当の意味で毎晩寂しい思いしてたかも知れない。
お姉ちゃん、さっちゃんの存在がボクを長い時間支えてくれていた。
「本当に……私のこと会いたかったの?」
「うん、……桂花お姉ちゃんはボクのことあまりみたくなかったかもしれないけど」
「そんなことは……ないわよ」
「え?」
「言ったでしょ?私もあんたのこと心配していたって」
桂花お姉ちゃんがまたこっちに顔を向けて言った。
抱きしめていたから、顔が凄く近い。
「ごめんなさい、おかげでこうしてあなたと一緒に話せるようになったのに、素直に祝ってあげられなくて」
「桂花お姉ちゃん……」
「だけど、長かったのよ、一年は。私なんて、風や稟が来てくれてなかったらあなたがここに来る前にもう死んでたわよ」
「え、そこまで?」
「当たり前でしょう?まったく、あなたは自分のこの国での立場が分かってるの?」
「……天の御使い」
「それ以前の問題よ。大体そんなのってもうどうでもいいわ」
どうでもいいって……じゃあボクの存在価値なんてあるの?
「あんたが側に居ないと、ここが人が住んでるところじゃないように感じてしまうのよ」
「どういうこと?」
「……逆に言うと、あなたと一緒に居ると、ああ、私は人間なんだって思うってこと」
「あ……」
昔、華琳お姉ちゃんや秋蘭お姉ちゃんが最初に言った言葉を思い出した。
《あなたが私を笑顔のままに見ていてくれれば、私は今のこうしてあなたが見ている私で残っていられるわ。秋蘭や春蘭たちもね》
《そんなことになったら、北郷、お前は華琳さまや私たちのことを怖く感じてしまうかも知れない。華琳さまがお前にここに来れないようにいっておいたのも、その理由だろう》
皆、ボクがありのままの純粋なボクにいて欲しいと言った。戦争で人を殺すことみないな悲惨な事件に、ボクの心をこれ以上荒れないようにしようとした。
それは、逆にお姉ちゃんたち自身の心を守ることでもあったから。
そっか、ボクがここに居る理由って、そういうものだったね。
「……ねぇ、桂花お姉ちゃん」
「何よ」
「もっと近く行ってもいい?」
「嫌よ、ってか、今近すぎるわよ。ちょっとあっち行きなさい!」
「へぶっ!」
片腹蹴られた。痛い。
「うぅぅ……桂花お姉ちゃんにぶたれた」
「あ、ごめん、痛かった?」
「うぅぅ………」
なーんて、油断したうちに。
「お姉ちゃん<<ぎゅー>>」
「え、ちょっ、謀ったわね!放しなさいよ!」
「桂花お姉ちゃん、大好き」
「あんたなんて大っきらいよ!放しなさいって言ってるでしょう!?」
やっぱり、桂花お姉ちゃんとはこんな風にするのが自然で良い。
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桂花ってこんなキャラだったっけ……まぁいいや