No.190151

真・恋姫†無双~恋と共に~ #18

一郎太さん

#18

2010-12-17 19:03:47 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:19278   閲覧ユーザー数:12774

#18

 

 

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな、私は周瑜公謹。雪蓮の、まぁ、連れだ」

「(やっぱりか)俺は北郷一刀。姓が北郷で、名前は一刀です。字と真名はありません。で、こっちは………」

「………呂布、奉先。…よろしく」

「堅っ苦しいわねぇ、一刀。あたしに対するみたいに喋っていいのよ?」

「そうは言ってもなぁ」

「ふふ、かまわんよ。言葉遣い如きで人の器は測れんさ。それに、雪蓮が認めているんだ。なかなかに見所があるのだろうな。そうであろう、雪蓮?」

「まぁね」

 

 

 

そう言って雪蓮は笑う。やはり、あの周瑜か。なんというか、少しずつわかってきたぞ。この世界の傑物たちは、どうも三国志で伝えられている人物と性格的に似通ったところがあるのかもしれない。

………まぁ、月や天和たちの例があるから、この予想もアテにはならないし、あまり気にしてもしょうがないがな。

 

 

 

「それよりいいのか?政務があるんだろう?」

「そういえばそうだったな。雪蓮、さっさと戻るぞ!」

「しょうがないわねぇ………。なんか不発な感じがするけど、今回はこの辺にしてあげるわ」

「不発って………貴女が本気を出したら、後始末が大変なのよ」

「あら、冥琳だって好きなくせに」

「う、うるさい!初対面の人間の前でそんなことを言うな!」

 

 

 

そう言って周瑜はそっぽを向く。後始末が何かは知らないが、ここは触れない方が吉だろう。

 

 

 

「はいはい。じゃぁ戻るわよ、冥琳」

「それはそうしたいのだが、雪蓮………馬はどうした?」

「へ?いないわよ?」

「なっ!?貴女、ここまで歩いてきたの?」

「そんなわけないじゃない。ちょうど旅商人の荷車があったから、乗せてもらっただけよ」

「またそんな後先考えないことをして………。仕方がないな。私の後ろに乗りなさい」

「い・や」

「………は?」

「一刀の馬に乗せてもらう!ね、いいでしょ、一刀?こんなにいい馬見たことないもの」

「………黒兎がいい、って言ったらな」

「何、それ?」

 

 

 

 

 

雪蓮は疑問を呈しながらも、黒兎に近づく。そして、その横腹に触れようとした時。

 

 

 

 

 

 

「ぶるるっ!」

「きゃぁっ!?」

 

 

 

黒兎は前脚を高く上げ、拒絶を示した。

 

 

 

「な?」

「『な?』じゃないわよ!何、この馬!すごい凶暴じゃない!!」

「黒兎も赤兎も気性が荒くてね………。俺と恋と、あともう一人にしか懐かないんだよ」

「えー、乗りたい乗りたい乗りたーーい」

「ふぅ…しょうがないな」

 

 

 

子供のように駄々を捏ねる雪蓮に、俺は黒兎に近づき、話しかけた。

 

 

 

「黒兎。さっきの見てただろ?雪蓮は悪い人じゃないよ。勝負もただの仕合で、別に俺に敵意を持っていたわけじゃないんだ。………乗せてやってくれないか?」

「………………」

 

 

 

俺が語りかけると黒兎は納得したのか、ゆっくりと雪蓮に歩み寄る。

 

 

 

「ほら、いいってさ。こいつらは頭もいいから、変なこと言うと乗っていても振り落とされるぞ」

「わかったわ……じゃぁ、黒兎、だっけ?乗せてもらうわね?」

 

 

 

雪蓮はそう言って再び黒兎の体躯に触れて軽く撫でる。黒兎が大人しくしているのを確認すると、一息に飛び乗った。

 

 

 

「ふふ…ありがと。………それにしても凄いわね。乗っただけでこの子の力が伝わってくるようだわ。ちょっとだけ走らせてもいい?」

「あぁ」

「じゃぁ、黒兎。少しだけ付き合ってちょうだい」

 

 

 

そう言って手綱を手にとると、雪蓮は黒兎に跨る脚に力を入れる。

黒兎は軽く両脚を上げると走り出し、一気に加速した。

 

 

 

「ほぅ………見た目通り、相当の良馬のようだな。どこで手に入れた?」

「いま俺たちは旅をしているんだけど、涼州に立ち寄ったときにそこでね。さっき言った、馬たちが懐いているあと一人、ってのはこいつらをくれた人のことなんだ。涼州でも、これほどの馬は珍しい、って言ってたよ」

「だろうな。時々馬商人が涼州から来るのを見るが……確かにここいらの馬よりも良馬なのだが、黒兎や赤兎、と言ったか?この二頭たちほどのはいないな」

「あぁ、最高の旅の共だよ………あげないよ?」

「雪蓮に言ってくれ」

「周瑜からも言って欲しいからだよ」

「…彼女に言うことを聞かせられるとでも?」

「だって、雪蓮の手綱を握っているのは周瑜でしょ?」

「ふふ、違いない。お前もなかなか人を見る目があるようだな」

 

 

 

俺たちはそう言って、笑いあうのであった。

 

 

 

 

 

そして、戻ってきた雪蓮が開口一番発した言葉は―――

 

 

 

 

 

「ねぇ、一刀!この子ちょうだい!!」

「「ダメだ」」

 

 

 

 

 

―――予想通りのものであった。

 

 

 

 

 

 

俺たちは今、馬に乗って近く、雪蓮が治めているという長沙の街へと向かっている。『雪蓮が』というからには、この世界に孫堅は既にいないのだろうな。………会ってみたかったが。

周瑜は自分の馬、雪蓮は黒兎に乗っている。街まででいいから、とお願いされてしまった。

そして、なぜか俺は赤兎に乗り、恋の後ろで手綱を握っている。俺が後ろにいるから安心しているのか、恋は俺にもたれかかって眠っていた。

 

 

 

「………zzz」

「っと……危ないなぁ」

 

 

 

どれだけ脱力し切っているのか、馬の上下運動によりバランスを崩す恋を支えてやる。

 

 

 

「あはは、どれだけ緩んでいるのよ」

「そう言うな。北郷を心底信頼しているからこそ、あの様にできるのだろう」

「あれ?やっぱり冥琳にもそう見える?」

「これでも一応女だからな」

「ふふっ、で、一刀。呂布の抱き心地はどう?」

「はぁ……からかわないでくれ」

 

 

 

雪蓮と冥琳が笑うさまに、俺は顔を伏せた。

 

 

 

 

 

 

「あー、楽しかった。また乗せてね」

「まぁ、機会があればね」

「さて、北郷。我々は城に戻るが、お前はどうする?」

 

 

 

長沙の街に着いて馬を降りると、周瑜は逃げ出そうとする雪蓮の襟元を捕まえながら問いかけてきた。

 

 

 

「そうだなぁ…とりあえず、街を見せてもらうよ」

「そうか。まぁ今日は雪蓮の御守りで忙しいから相手をさせられないので助かる。………そういえば、旅をしているのであったな。どれくらい滞在するのかは知らないが、街を出る前に一度くらいは城に顔を出してくれ」

「あぁ。大変そうだけど、頑張って。必ず挨拶に行くよ」

「ちょっと、一刀?あたしには挨拶ないの!?」

 

 

 

じたばたと暴れる雪蓮に、周瑜は溜息を吐く。本気を出せば周瑜が雪蓮に適うはずもない。雪蓮もわかっていて、そういう態度をとっているのだろう。

 

 

 

「はいはい。ちゃんと雪蓮にも会いに行くから。だから今日は仕事をしろよ?でないと周瑜が本気で怒りそうだ」

 

 

 

そんな二人を微笑ましく思いながら、俺はその場を辞した。

二人も街の中心へと歩いていく。どうやら、あちらに城があるのだろう。

 

………今度訪ねてみるかな。

 

 

 

 

 

「さて、恋。これからどうしようか?」

「ん……おやつ」

「ははっ。そうだな、そろそろおやつの時間だもんな」

 

 

 

適当な宿を見つけ、そこに今夜泊まる旨を伝え、厩に黒兎たちを預けた俺は恋に問いかけた。恋の頭を撫でてやると、恋は目を細めて俺の手を受け入れる。そのテンプレ通りの反応に満足しながら、俺は恋の手を握った。

 

 

 

「……?」

「どうした?」

「…………手」

「あぁ、これからおやつを食べに行くんだろう?嫌だったか?」

「嫌じゃ、ない。………嬉しい」

「あぁ、俺も嬉しいよ」

「………ん」

 

 

 

俺たちは手を取り合って、街の表通りへと向かう。

 

 

 

 

 

こんな日があってもいいだろう?

 

 

 

 

 

 

「(もきゅもきゅもきゅ)」

「(はぐはぐ…)」

「(ずず……)」

 

 

 

俺たちはいま、飲茶の店にいる。恋は点心を頬張り、俺は茶を啜る。セキトは足元で肉まんを食べていた。

久しぶりの街だが、さすが雪蓮…というより周瑜か?彼女たちが治めているだけあるな。住民は笑顔で往来を行き来し、屋台もそれなりに盛況である。

 

 

 

「穏やかだなぁ………」

「(もきゅ…)………ん。いいこと」

「そうだな」

 

 

 

最近気がついたのだが、南蛮を出た頃から、恋の食への執着が少し和らいだ気がする。いや、確かに食べる量は変わらず、ひたすら口に運び続けるのではあるが、それでも俺が零す言葉へ、言葉を返す余裕ができたみたいなのだ。

 

 

 

「成長、してるのかな………」

「………?成長?」

「恋も少しずつ大人になってる、ってことだよ。背も少し伸びた気もするしな」

「ん……最近、服がキツくなった気がする」

「ん~、別に太ったようには見えないけどなぁ」

 

 

 

俺はそう返してお茶を啜り―――

 

 

 

 

 

 

 

「………おっぱいがキツい」

「ぶはっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

―――噴き出した。

 

 

 

「………お茶噴いた」

「ごほっ、がはっ………いや、気にしないでくれ」

「きゅぅん…」

 

 

 

向かいにいる恋にかけないようにと顔を動かしたが、俺が噴いたお茶は見事にセキトにかかってしまった。

 

 

 

「あぁ、セキト、悪かったな。ほら、拭いてやるからこっちこい」

 

 

 

俺はセキトを呼び寄せると、手ぬぐいを懐から出して顔の辺りを拭ってやる。

 

 

 

「おっp―――」

「わかったから!はぁ、どこか服屋に行って仕立て直してもらうか………」

「ん……」

 

 

 

とまぁ、こんな益体もない話をしているうちに、時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

俺たちは店を出て、通りをぶらぶらと歩いていた。さきほども思ったことだが、やはり、治安がいい。子どもたちは走りまわり、大人たちも笑顔でそれを眺めている。

と、そんなとき、通りの少し先の店から騒音が聞こえてきた。

 

 

 

「はぁ、またトラブルか………」

「とらぶる…?」

「厄介事、って意味だよ。さて、警備隊は………来る気配はなし。まぁ、これだけ混んでいるからなぁ」

「孫策たち、頑張ってない」

「いや、あの二人ならちゃんとやってると思うよ?ただ、街が大きい分、手の行き届かないところがどうしても出てきてしまうんだ。月たちのところみたいにね」

「………難しいものだ」

「誰の真似?」

 

 

 

こんな会話を繰り広げているうちにも、店の中からは卓が壊れる音や、食器が割れる音が聞こえてくる。

 

 

 

「仕方がないな…」

「ん……いってらっしゃい」

「あいよ」

 

 

 

俺は、恋を待たせて店の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「本当のことじゃと言っておろうに」

「うるせぇ!人を虚仮にしやがって!てめぇ、女だからと甘いこと考えてるんじゃねぇぞ!?」

 

 

 

あーあー、やってるなぁ………

俺は喧嘩を続ける男女二人の間を素通りしてカウンターの店主のところへと向かう。

 

 

 

「店主。あんたのオススメの酒はあるか?」

「へっ?あの、ありますが………」

「おい、てめぇ!何無視してやがんだ!」

「え、俺?だって関係ないもん。それに、絶対こっちの人の方があんたよりずっと強いよ?」

「んなこと知ったことか!お前と言いこの年増女といい、人を馬鹿にしやが―――」

 

 

 

 

 

途端に店内の空気が冷え込む。男を見れば、その首元には短刀が突きつけられていた。

 

 

 

 

 

「だぁれが年増じゃと?」

「ひっ……」

「ほら、おっちゃん、さっき頼んだやつ、ちょうだい」

 

 

 

 

 

だから言ったのに………。

 

 

 

 

 

一目見たときから、女性がかなりの使い手であることが窺えていた。彼女はいまだ殺気を収めず、短刀を構えたまま男を睨んでいる。

 

 

 

「ほれ、訂正しろ」

「ぅ…ぁ………」

「ほら、『お姉さん』。その殺気を収めないとその人喋れないよ?」

「ん?おぉ、そうじゃな」

 

 

 

俺が話しかけると、周囲の空気が緩んだ。店にはほっとした空気が流れ、中には席や床にへたりこむ者もいた。

 

 

 

「ほら、そっちのあんたも。早めに謝らないと、後が怖いよ?」

「す、すみませんでした……おね、美人のお姉さん………………」

「なぁに、分かればよいのじゃ!酔ったからと言うて、もうこんな絡みはやめておけよ?というか酔うくらいなら呑むな!呑むなら酔うな!はっはっはっ!」

「ふぅ。で、店主。俺の酒は?」

「はっ、はい!今お持ちします!!」

 

 

 

俺の注文に、我に返った店主が店の奥へと引っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもお主、なかなか見所があるのぅ。どうじゃ、儂と一杯やらんか?」

「お誘いはありがたいけど、外に連れを待たせてるんでね。また機会があればご相伴に預かるよ」

「なんじゃ、連れん奴じゃのぅ」

「悪いね」

「ところでお主、このあたりじゃ見かけん顔じゃが、旅の者か?」

「まぁね。気ままな旅暮らしさ」

「ふむ………」

 

 

 

俺が軽く答えると、彼女は考え込む。うん、こういう時っていやな予感しかしないよな。

 

 

 

「へい、お待たせしました!」

「あぁ、ありが―――」

「おう、すまんな!代金は城につけといてくれ」

「いや、それ俺の―――」

「よし、小僧。行くぞ!」

 

 

 

そう言うや否や、彼女は酒を受け取り、俺の首根っこを掴んで店を出る。

 

 

 

「む?」

「………」

 

 

 

店の前で俺を待っていた恋を見ると、ニヤリと笑い、

 

 

 

「まさかこんな大物が二匹も釣れるとはのぅ!いやはや、今日はいい日じゃ!!ほれ、お主も行くぞ?」

「?………ん」

「ちょ、恋さん!?」

 

 

 

俺は女性に引きづられ、恋とセキトは俺たちの後を、特に疑問を口にすることもなくついてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

「策殿!公謹!土産を持って帰ってやったぞ!」

「はぁ、祭殿…また昼間から呑んだりして………」

「お土産!なになに?」

「ほれ、入ってこんか」

「………お邪魔します」

「………………します」

 

 

 

やっぱりな。彼女から、霞と同じ匂いがしたんだよ………………。

 

 

 

 


 
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