真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-
第95話 ~ 暗闇に舞う先に在りしは、ただの闇なのか……其れとも昏き刃か ~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
稟(郭嘉)視点:
世の中、駆け引きと言う物が在ります。
事の大なり小なりを無視すれば、世の中此れ無しでは回われないと言っても良いでしょう。 商売などはもちろんですが、如何に相手が納得する状態で自分の利を如何に増やすかになります。
政も基本は一緒です。 民から金と人を吸い出し、如何に民を納得させるだけの政をするかでしょう。
ですが戦となれば話は別になってきます。 どのような綺麗事を言おうと、あれは略奪に他なりません。
命を奪い。
土地を奪い。
財産を奪い。
人の尊厳を奪う。
華琳様は違いますが、基本的に多くの侵略者は攻め込んだ先の人間を決して人扱いしない。
それはそうでしょう。 そうでなければあのような酷い事等、同じ人間に対して出来やしない。
遊戯を楽しむかのような無為な殺戮。 欲望のままに女子供を犯し凌辱する。 其れでも生き残った相手を奴隷として、家畜以下の存在として死ぬまでコキ使い。 最悪、死んだら死んだで奴隷の食料として扱われる。 まるで収穫を待つばかり稲穂を刈り入れるかのように、その事に何の罪を覚える事無く人の尊厳を刈り取って行く。 そうやって相手の全てを奪ってしまうのが戦です。
むろん、本当にその土地に住む全ての人間を根絶やしにする訳ではありません。 其処までの戦災を受けるのは、全体から見ればほんの一部と言っても良いでしょう。 かと言って、被害に合わない人間が居ない訳でも、少ない訳でもありません。 それに直接的な被害を免れた者達には重税と言う名の地獄が待っています。
じわじわと真綿でゆっくりと首を締め付けるかのように追い詰められていき、最後には餓死するか賊に堕ちるかの二択が待っているだけ……。
だからこそ、双方は全てを賭けて戦うのです。
もしくは多くのモノを失いながらも、恭順の意思を示すのです。
戦とは、その民族の全ての智と武と勇、そして全ての命を賭けて戦うべきものなのです。
そして戦で勇を振るい、民と兵を守るのが武官達の仕事だとしたら、我等文官はその戦を有利にすべくために支え、もしくは回避すべく動くのが文官の仕事。 いいえ、文官にとっての戦場と言えましょう。
たった一言が戦を引き起こし、戦況を左右する事があるのです。 それ故に駆け引きに一切の妥協も、遊び心もありません。 此方の状況や手札を隠しながら、相手の札を見抜き晒しださせる。 そのために策を練り、此方の望む方へと未来を引き寄せるのです。
だけどこの男のした事は違う。
手札を明かした状態で仕掛けてきたのだ。
我等曹魏に向かって。
「何故、我等の提案を受ける気になったのですか?」
そんな私の踏み込んだ言葉に。 彼、天の御遣いは、あっさりと自らが置かれた状況を晒し出したのです。
春の日差しが店の中まで差し込む店内の中で、男の指示によって店主も店員も居なくなった店内で、彼は自らの窮地を告げるのです。 ……小さく苦笑を浮かべながら。
「今、其方と事を構える余裕が無いからだよ。
王の交代で、傘下の士族や豪商達が大きく揺らいでいる。 そんな状態で他国に全力で戦を仕掛けるなんて、力を示すどころか自殺行為でしかない」
「そ、それを自ら認めると言うのですか、貴方はっ!」
孫呉が置かれている状況など想像がついていたとはいえ。 敵国の人間に自らの窮地を話すなどと信じられない事をする男に、私はつい声を荒げてしまう。
それは自らの国を襲ってくれとも、内部分裂するように工作を仕掛けろと言っているのと同義なのですよ。天の御遣いっ!
貴方は今、自分の仕える国を窮地に追いやっていると言う事実を分かっているのですか?
だけど、彼はそんな私をまるで吸い込むような瞳で、微笑みを湛えながら笑って見せます。
「別に相手が君達なら問題ない話だよ。
袁紹と言う脅威が差し迫っている今、此方に注意を割く余裕が無いのは其方も一緒の筈だからね。
袁紹との圧倒的な戦力差の中、背中を気にしなければいけないとなれば、兵の士気を維持するのさえ困難だ。 ましてや、今度の戦の要である籠城による持久戦は、兵の士気を維持するのが一番の課題となる。 それが実戦経験のない新兵ばかりとなれば猶更ね。 その上に先の敗退が兵達の間でかなりの動揺を生んでるんじゃないのかい?」
「「 っ! 」」
そして我等の隠していた札の一つを見抜き表に晒してみせます。 まだ華琳様と我等軍師しか知らない問題までもを、彼は言い当てる事によって……。
その事実に、私は背中に冷たい汗と共に戦慄が流れる。 この男は軍師達の人形等では無い。とはとんでもない過小評価でした。 彼は一角の軍師です。 しかも、周瑜や陸遜達と並ぶ一流の軍師と言えるでしょう。
ですが次の瞬間には、それすらも過小評価である事を思い知らされました。
「北を手中に収めた袁紹相手では、如何に精強と名高く力を持つ曹操軍でも、真面に戦えば圧倒的な数の前に蹴散らされるうえ、籠城した所で突き崩せるだけの兵力を袁紹は手に入れている」
ええ、その通りです。 もともと連合結成時において最も力を持っていた袁紹が、河北四州を治めたのです。 その兵力は我等の五倍以上。 質を問わない袁家の事ですから、下手すれば十倍にまで膨らむ可能性があります。
「ならば、その数を活かせない場所で戦うしか生き残る術は無いだろうね」
そう、五倍から十倍にも達する敵に真面に戦っても勝ち目など無いでしょう。
だからこそ華琳様は、それを支えるために少しでも実戦を経験させようとした。 そして我等の戦が唯の略奪のための戦争で無いと、兵達の心に知らしめる必要があるとお考えになられたのです。 そしてあわよくば、孫呉を吸収し、将兵を強化しようとしたのです。
……ですが結果として、我等の状況を悪化させる事となってしまった。
「となれば状況は限られてくる。 川、森、谷等の自然の防壁を活かして兵を分断させた上で、籠城しながら起死回生を狙える場所が望ましい。……となれば黄河とその支流が複雑に絡み合う場所を使わない手は無い」
ですが、問題は如何に其処を戦場にするかです。 幾ら袁紹でも自分達が不利になると分かっていて、其処に軍を進めるはずはありません。 例え不利であっても、敵の誘いに乗らなければいけない状況を作り出す。 それが最初の問題でした。
「黎陽、白馬、烏巣、原武、官渡、この辺りだろうね。
袁紹、何より袁家の老人達が欲しそうな交易の拠点でもあるから、圧倒的な戦力を背にした袁紹軍は間違いなく誘いに乗るだろうね。 他にも首都である許昌に近い上に、地形的に避けては通れない場所と言うのも大きな理由にあげられる。 戦線が此処まで後退しては、負ければもう駄目だろうけど、その状況だからこそ敵の心に油断を生む事が出来る」
つ!
彼の驚くべき言葉に、息を飲むのをとっさに抑止してみせる。 ……少なくてもしたつもりです。
何にしろ、茶杯を卓の上に置いておいて良かった、と心の中で安堵の息を吐きます。 もし手に持っていたのなら、動揺のあまりに床に落としていたでしょうね。 こんな離れた土地にいながら、桂花や私と風が必死に出した答えを図星して見せたのです。 驚くなと言う方が無理というものでしょう。
この男、いったい何処まで我等の事を……。
少なくても今の言い方は、我らの策のほとんどを見抜いていると言っても良いでしょう。
彼は言ったのです。『籠城しながら起死回生を狙える場所が望ましい』と。
大軍の率いての遠征の最大の問題は自領が手薄になる事。 ですが、これは河北四州を治めた事により、更に北の烏桓族等の脅威に耐えられるだけの兵力を置いておけるだけの兵力を手に入れた事で、問題にならなくなった。
そして、もう一つの最大の問題は糧食です。
大軍であればあるほどその量は膨大になり、その供給を絶やす事は命取りになります。 それ故にもっとも攻撃しにくくした上で、その補給路も保管場所も分かりにくくするものです。
必要なのは、それを探り出す時間と敵の注意を引く事でした。 ですが敵の誘導と陽動、敵の分断と防衛。それが全て出来るのが、黄河の支流の入り乱れるあの地であり。湿地帯の多いあの地で、大量の糧食を一時的に安全に集積できる場所は、彼の言った場所ある街と砦でしかありません。
……な、何故其処まで分かるのです?
兵達の心境は、想像つきやすいから分かります。
戦地もある程度頭が回り、地形や情勢を知っていれば導き出す事も出来ましょう。
ですが、それ以上は無理です。 数多或る策の中から、何故それを言い当てる事が出来るのです?
今、彼が言い当てた事は、まだ華琳様も知らない事。
細作の仕業? いいえ在り得ません。
袁紹の密偵を警戒していた私達は、聞かれる恐れのない場所で話し合ったのです。
なら、彼は自ら其処まで導き出したと言うのですか?
それこそ在り得ません!
もっと、……相手の事をもっと深くまで知らなければ導き出せません。 幸い私達は袁紹や袁家の老人達の考え方は、かつて袁家に仕えていた桂花が良く知っていた。 だからこそ導き出す事が出来た答えなのです。
なるほど、そのために袁術と張勲を生かしていたと言う訳ですか。 二人からもう一つの袁家の事を聞き出し我等と同じ答えを導き出したと言う訳ですか。 何時から、この事を読んでいたと言うのですか……。
「問題は君達に手駒となる将が少ない事だ。
幾ら夏侯姉妹が優秀と言っても、全軍を持って当たらなければ、とても袁紹を引き留める事なんて出来やしない。 最近加わった・」
「それがどうしたと言うのだ。
我等の窮地は我等のもの、貴公等には何の関係もあるまい」
「!」
この男の言葉に。 千里眼とも思える程見通した彼の言葉に、底知れない恐怖を覚えた時。 鋭い秋蘭さま声が、この男の作り出した闇を切り裂きました。
秋蘭さまの目に灯した怒りの灯と声が、私の目の前を暗闇を照らしてくれたのです。 その事に、私は冷静さを幾分か取り戻す事が出来ました。 まったく、相手に飲まれる事など、久しく無かった故に、勘が鈍ったのかも知れません。
私は頭を切り替えることにしました。 この男の器を見極めてみせるのが目的の一つとは言え、我等の目的はそれだけではありません。 底知れぬ所があるとは言え、風と同じく相手を惑わすのが得意のならば、正面から挑んで行っても徒労に終わる所か、煙に巻き込まれるだけです。 そういった相手に必要なのは相手の言葉に誤魔化されずに真っ直ぐ進むこと。 今は今後の孫呉の動きを図るための材料を引き出す事にします。
そう方針転換を決め、今の話を適当に斬り上げようと話を初めに戻すことにしました。
「提案を受け入れたのが、互いにその時では無いと言う事は分かりました。
ですが今の話し。我等が提案を受けた理由と言うには、些か的外れのように思えます」
「そうでもないさ。 俺達は江東と江南の地を纏めきるのに、時間が欲しいだけじゃない。
君達には袁紹に勝って貰いたいからさ」
「我等を倒すのは、自分達とでも甘い事を言うつもりですか?」
男の言葉に、今度こそ私は呆れ果てました。 この男はよりにもよって、私達に勝って欲しいと言ったのです。 そのうえ軍師として私怨で動くなどあってはならない事。 その様な事をすれば必ず判断を曇らす事となり。 自らを、そして守るべき者達を巻き込み破滅へと歩む事になるからです。
私は男の軍師として侮蔑すべき考えに、この男に怒りと幻滅を覚えましたが、それならばそれで構いません。幾ら底知れない所があるとはいえ、その様な者ならば幾らでも付け入る隙があるからです。
私は心の奥に湧く怒りを落ち着けるために、もう一度ズレても居ない眼鏡の位置を直しながら、この男が本当にそうなのかと、男の真意を探ります。
「貴方、正気ですか? よりにもよって貴方が私達の勝利を願うと言うのですか?
私達の軍が貴女達の王に何をしたか忘れた訳・」
ぞくっ!
彼の言葉を呆れてみせる言葉の途中に、私と秋蘭さまを寒気が襲い身体が硬直する。
殺気でも、敵意でもなく。 純粋なる意志。 いいえ圧倒的な存在感と言っても良いでしょう。
強いて言えば覇気に近いですが、明らかに違うと言えます。 これはもっと純粋なもの。 私達の根幹から畏れさせる物の気がする。……いったいこれは…?。
とにかく、震えそうになる手を意思の力で無理やり抑え込みます。 こんな所で恐れなど見せる訳には行かない。 これはすでに戦です。 恐れや動揺を見せれば相手に飲まれるだけ……、だけど嚥下した唾が…、茶で潤したばかりだと言うのに乾ききった喉が…、手の中の濡れた感触が、自分が思った以上に相手に飲まれている事を知らせてくれた。
そこへ、先程までの暢気とさえ言える雰囲気など微塵も残さず、抑え様とも抑えきれない程の押し殺した声が私の意思を更に揺らそうと襲い掛かる。
「くだらぬ言葉でそれ以上、己が主を穢すな。
俺の知る曹孟徳と言う人物は、誇り高く民を思う王。 それ故に、この世界のやり方で決着をつける事にしただけだ。 もし曹孟徳が下衆な王と言うのなら君達は……いや、この世界の民は、天の国の知識の本当の怖さを知る事になる。 その事を努々忘れるなよ」
抑揚のない淡々とした声が、むしろ揺るぎ無い事実かの様に、私の中に染み込んでくる。
暗く吸い込まれそうな黒い瞳が、私のそのものを飲み込もうとする。
まるで足掻けば足掻く程、深みに嵌まる底なし沼の様に……。
「…で、結局は捕獲されていた細作を無傷で返して貰った上に、この医学書を貰ったと言うの?
稟……貴女らしくないわね」
玉座に座る華琳様の冷たい視線を黙って受け止めながら、私は唯頷くしかできなかった。
過程はどうあれ、それが事実なのだから仕方の無い事。 華琳様に嘘や誤魔化しなどする気はないし、このような事でした所で意味が無い事。 ただ事実を告げる事が大切と私は判断しただけです。
天の御遣い、北郷一刀。 彼は華琳様が見抜かれた通り……いいえ、それ以上の人物だったと。
そしてその私の判断通り、華琳様は私に向けていた冷たい瞳を楽しげな瞳に変化させ。
「ふふふっ、稟すらも一蹴するなんて、何処まで私を楽しませてくれるのかしら。
稟、貴女はあの男をどう見たの? 率直な意見を聞かせて貰えるかしら?」
まるで遠い地に居る恋人の様子を聞くかのように、瞳を熱く揺らしながら私の言葉を楽しげに待っている。
だけど、私の答えは華琳様の意見とは違うもの。 私が口にしようとする言葉は、華琳様が以前話されたあの男の姿から遠く離れたものです。
迂闊に言って良い言葉では無い。
軽率な判断をして良いものでも無い。
私は何度も自問自答した。
そして辿り着いた答えは同じ。
ならばその答えを言わなければいけない。
あの男の伝言と共に……。
「あの男から華琳様への伝言を預かっております」
「そう、彼はなんて?」
彼からの伝言がある事に、華琳様は益々目を輝かす。 私の言葉を……いいえ、彼の言葉を心待ちにされる。 隣に立ち、伝言の内容を知っている秋蘭さまから拳を固く握る音が……、歯を固く噛み締める音が私の所まで聞こえてくる。 この伝言を聞いた時、孫呉の玉座の間での会談での言葉など、可愛いものでしかないと思い知った。
本来ならば無視するべき言葉なのかもしれない。 でも私の軍師としての魂が、例え華琳様に不快な思いをさせてでも、この言葉を届けなければいけないと囁いたのです。
「はい、彼は華琳様にこう伝えてくれと言いました。
『 清濁を最後まで飲み込む覚悟が無い君に、王たる資格はあるのか?
逝った将兵の魂のために、泥水を啜れなくて何の王か 』 …と」
「なっ!」
あの時軍を退いた事に対してのあの男の言葉に驚く華琳様に、私は更に言葉を続けます。
「北郷一刀、あの男は『 王 』です。
劉備の様に甘い理想を持ちながらも、その心に冷たい刃を持つ者です。
華琳様、私はあの男こそ華琳様の覇道における最大の障害と感じました」
口頭で伝えるべき事は伝え、後は報告書で纏めて提出する事を告げて、玉座の間を急いで退出する私を秋蘭さまが早足に追って来られました。 そんな秋蘭さまに目で促しながら、私達はそのまま無言で誰もいない庭にまで出ると。
「言いたい事は分かります。 ですが、あの場で伝えては意義を失くします」
「では、稟はあの男の策を信じると言うのか?」
「考える価値はありますし、有効な手であるのは認めざる得ません。
ですが、あのような策を今華琳様に話した所で反対されるでしょう」
私の言葉に、秋蘭さまは黙って頷かれます。 正道を好む華琳様にとって、あの男が我等に授けた策は外道とも言えるでしょう。
……ですが、それは見方の一つでしかありません。
「むろん、この策を実行するならば、華琳様にきちんと伝えるつもりです」
ようは今日で無ければよいのです。 あの男の伝言が、華琳様の御心の中で落ち着かれた時であれば良いだけの事。
それにしてもあの男、信じられない発想をするものです。 我等の考え方とは全く逆と言えるでしょう。 普通誰が考えつくと言うのです。
「対袁紹戦。 敵兵を殺す事より、戦闘不能に追い込む事を優先させると」
そう、殺すより戦闘不能に追い込んだ方が時間を稼げる等と普通は思いません。
ですが、実際負傷兵が出ればその治療に人も物資も必要となりますし、行軍も遅れてしまうでしょう。 その上、その痛々しい姿は健康な兵士にまで影響を及ぼし、碌に調練を受けていない袁紹軍の士気を著しく下げる事になるでしょう。
かと言って、ただでさえ士気の低い袁紹軍において、邪魔だからと言って傷兵を処分すれば、大量の脱走兵を生む事態へと陥ってしまう。 まさに悪循環に陥れる事が出来る。
だが殺してしまっては、その様に追い詰める事は出来ないし、圧倒的な兵数を持つ袁紹軍に置いては、それが結束力を生む原因になる可能性が高い。
生き地獄を作る事で、袁紹軍の弱点を的確に突くなどと……あの男は、なんて恐ろしい事を考えるのです。
そして、我等はあの天の知識で書かれた医学書の知識のおかげで、病人や傷兵の手当てを迅速に行う事ができ一人でも戦死者を減らす事が出来れば、その事が逆に士気を上げ、より強力な結束力を生む一助となる。
彼は旅人向けに簡単に纏めたものと言っていましたが、内容はとんでもない物でした。 想像もつかない程遥かに進んだ知識で書かれていたそれは、彼が本物の天の御遣いである事を示しており。 更に同時に彼の言葉を裏付ける物だったのです。
人を救う知識と技術が進んでいると言う事は、その逆もまた真なり。 天の知識があの本と同等、いやもしかしたらそれ以上に人を殺す事に精通していたとしたら、………我等に勝ち目はない。
ですが彼の言動から、その知識を使う気は無いようです。 むしろその事態を避けたがっている様子。 そしてこの世界のやり方で決着をつけると宣戦布告をしてきました。 ならば我等に勝ち目はあります。
天の御遣い。 幾ら貴方が天の知識を持とうと、この世界の住人として戦うと言うのならば、我等は受けて立ちましょう。 貴方を…いいえ、孫呉を降し。 華琳様に大陸の覇者として、この大陸に平穏を築いてもらうのです。
そのためには、まずは袁紹を降さなければいけません。 そして力を蓄え、あの思い上がった男にこの大陸の人間の意地を見せてやりましょう。
あそこまで侮辱されては、例え天そのものが相手だとしても黙っていられません。 華琳様、我等は嘗められているのです。 医学書や返された細作だけの事ではありません。
あの男は最後にこう言ったのです。
「俺が君達の勝利を願う理由など簡単な事だよ。
誰だって戦いやすい相手を選ぶのは当然の事だろ」
つづく
あとがき みたいなもの
こんにちは、うたまるです。
第95話 ~ 暗闇に舞う先に在りしは、ただの闇なのか……其れとも昏き刃か ~ を此処にお送りしました。
一月以上更新が開いて申し訳ありません。 おかげさまで資格試験も終わり、12月頭の諸々の忙しい時期も乗り越え、やっと執筆を再開する事が出来ました。 一月以上も空けて忘れ去られているかもしれませんが、これからもよろしくお願いいたします。
さて、本編ですが、今までの一刀の印象を吹き飛ばす様な展開となりました。 一応一刀の変化には理由があるのですが、これは今後作中で語りたいと思います。もっとも賢明な読者は想像がついておられると思いますけど、答え合わせは今後の作品でするようお願いいたします。
稟も朱里の様に恐怖に飲まれそうになったものの。彼女は軍師として、しっかりと仕事を果たしたと思っています。………しかし、秋蘭良い所なかったなぁ……好きなキャラなのに。
では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。
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国の中核に係わる者として、言ってはならぬ事を言う天の御遣いに呆れ果てる郭嘉。
だけどそれは、天の御遣いの底知れぬ闇への呼び水でしかなかった。
郭嘉は天の御遣いの瞳に呑まれてしまうのか………。
拙い文ですが、面白いと思ってくれた方、一言でもコメントをいただけたら僥倖です。
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