プロローグ・ダメダメな出会い編
『彼の物語はここで終わったわけだが君はどうかな? 物語に挑む前に君が望んだ力を教えて欲しい……』
「カワイイ娘!」
『……は?』
そんなもんいちいち考えるまでもない、7×7日間を一緒に過ごすんだ、力? そんなものは二の次だ、カワイイ娘じゃなきゃやってられん。筋肉質な皮肉屋の大男なんざ死んでもごめんだ。
『……いや、まあ了解した、君の健闘を祈る』
そうしてまばゆい光とともにサーヴァントが光臨する。よっしゃあ! 男装? の麗人のセイバーか? それともプリチーなケモ耳のキャスターか? こちとらどっちでもオールOK牧場じゃい、ばっちこーい!
「やれやれ、出番がないことを祈っていたのだがね……」
……男?
「ふむ、君が私のマスターなのか?」
「監督者ーーーッ! てめえーーーっ!」
俺は血の涙を流しながら心の底から吼えた。
『フワハハハハ、私がそう簡単に他者の要望に応えるとでも思ったのかね? この長い長い聖杯戦争、せいぜいむっさいマッチョな男と二人きりで頑張りたまえ』
「絶対に許さん、貴様だけは必ずむっ*す!」
この瞬間から聖杯戦争の行く末以上にこの声の持ち主を討つことが俺の目的となった。
「……いやそんなことより君が私のマスターでいいのかね?」
「マスター? ああ、もうそんなのどうでもいいよ、つーか帰ってもいいや」
女の子でないのならサーヴァントになんざ用はない、というより男はいらん。
「なんだろうな、私も聖杯戦争の経験は多いほうだがここまでハズレを引いた感のある聖杯戦争は初めてだよ……」
こうして俺とアーチャーの聖杯戦争はお互いにとって最低の形で幕を開けたのであった。
一回戦・偉大なる航海者
一閃、文字通り嵐のような艦隊の砲撃の中その隙間を縫うかのようなアーチャーの赤原猟犬(フルンディング)の一撃がライダーの心臓を打ち抜き聖杯戦争一回戦の勝負はついた。
「……まさかかのフランシス・ドレイクが女性だったとはな。しかし私は女性の身でありながら誇り高く戦場を駆け抜けた英霊を知っている。その誇り高き魂のあり方に敬意を表する、さらばだ、偉大なる航海者よ」
崩れ落ちるライダーを一瞥してアーチャーはきびすを返した。少々キザなところもあるかと思ったが俺がライダーに抱いた感想もアーチャーとほとんど変わらなかった。いや、しかし本当に驚いた、まさか……
「いやあ、まさかあのゴールド・ロジャーが女だったなんて」
その瞬間アーチャーはおろか消滅しかかっているライダーと慎二までもが足を垂直に真上に上げてひっくり返っていた。ちなみにライダーのパンツはネコさんだった……意外すぎる!
「いきなり何を言い出すのだマスター!」
「え? いや、だって世界で始めて世界一周を成し遂げた人でしょ? じゃあ『偉大なる航路』を制したゴールド・ロジャーしかいないじゃん」
「どこの世界の海だそれは!」
まったく、いったい何を興奮しているんだこのサーヴァントは、これだから男キャラというヤツは……
「納得いかない! あんなバカに負けて死ぬなんて納得いかないよライダー!」
「奇遇だねえマスター、あたしもついさっきまでは「これも悪党の末路だからしょうがない」なんて思ってたけど今ではほんのちょっぴり負けたことを後悔し始めてきたよ……航海者だけに」
「やっぱりハズレだよお前!」
二回戦・宝具と真名
あろうことかダン・ブラックモアは自らの手で自身のサーヴァントの宝具を封じ、そして命じたのだ「正々堂々と戦え」と、確かにこれで俺は校内で敵のアーチャーに襲われる心配はなくなったし相手の宝具も封印された上に彼には校内での戦闘行為を仕掛けたペナルティがつく、しかし俺にはそういった実際の有利以上に揺るがぬダン・ブラックモアの信念に脅威を感じずに入られなかった。
「ふむ、あの老戦士は思った以上の難敵のようだな、しかし相手の宝具がわかったのは収穫だ。マスター、Matrixも更新されたようだし一度確認しておくといいだろう」
確かにここはアーチャーの言うとおりだ、相手のプレッシャーにおののいてばかりもいられない、ここは今手に入れたアドバンテージを活かして少しでも勝率を上げることに専念すべきだろう。
「なるほど『祈りの矢』か……」
Matrixに更新された情報によれば何でもこの矢は相手の中にある不浄を増幅し火薬のように爆発させる効果を持つのだという。なるほど、確かに宝具の名前がわかるというのは収穫だ、これでもう敵のアーチャーの真名はわかったも同然だ。こういった宝具を使う英霊は後にも先にもただ1人……
「アックマンしかいないな」
きっとこの宝具は『祈りの矢(アクマイト光線)』と読むのに違いない。
Matrixが更新されました
Matrix Lv2→1
「マスター!? Matrixがえらいことになっているぞ!?」
「ということは本当のクラスはアーチャーじゃなくてランサーだな」
悟空相手には何の役にも立ってなかったが槍を出して戦っていたからきっとそうだろう。
Matrixが更新されました
Matrix Lv1→0
「マスターもう黙れ! もはや取り返しがつかない事態になっている!」
「マスターに向かって黙れとはなんだ黙れとは!」
まったく持って無礼なサーヴァントである、キャスターだったら絶対こんなことないのに……がっでむ!
なぜだか二回戦の決戦では相手の手の内が一枚も読めませんでした。……なんでだろう?
三回戦・ご質問はなんですか?
「えへへ、見つかっちゃった。じゃあありすがおにいちゃんのいうこときいてあげる」
ふむ、これは思わぬ収穫だ、ありすにはいろいろ聞いてみたいこともあったことだしここは慎重に質問内容を選ばないと……
・あの『黒い子』は誰?
・『お友達』をどかせて
→・そんなことより下着の柄は?
「なぜ何の躊躇もなくその選択肢を選ぶのだマスター!? というよりどこから沸いて出たその選択!」
「したぎ? したぎってパンツのこと? 今日はね、うさぎさんだよ♪」
「君もこんなアホのセクハラに答えなくてもいいから!」
「マスターに向かってアホとはなんだアホとは! 令呪使って全裸で校内一周させるぞコラッ!」
「くっ、他のマスターならまだしもこのアホなら本気でやりかねないのが恐ろしい」
たりめぇだ! 命が惜しくて令呪の一個や二個出し惜しみできるかってんだべらんめぇ!
「よし、ついでにそのまま保健室に突貫させて間桐桜に「支給品のお礼に私のお稲荷さんをどうぞ」とか言わせてやんよ!」
「やめてくれ! 桜の前でそんなことさせるくらいならいっそのこと「今すぐ自害しろ」とか言われたほうがまだマシだ!」
「やっぱりお兄ちゃんおもしろい~くすくす♪」
うん、ありすにも好評なことだし早速やるか。
「我がサーヴァントよ、汝がマスターが令呪によって命じる……」
「当て身!」
……畜生、アーチャーの野郎……意識が……
結局令呪は使えなかった。次はもっとうまくやろう。
幕間・のぞきは犯罪です
ふと視線の先にユリウスが歩いているのを見た。なにやら様子がおかしいのであとをつけてみると視聴覚室に入っていった。
「ここで何を……?」
普段は何らかのセキュリティが働いていて入ることすらできないこの部屋であいつはいったいなにをしているのだろうか? 部屋の扉の前で聞き耳を立ててみるが特に変わった様子は無い。
「マスター、ここは慎重にな」
アーチャーに注意を促されて無言でうなずく、相手はユリウス、プロの暗殺者なのだ。本来ならこうやって近づくべき相手ではないのだろうが俺の中の何かが今ここでやつが何をしているのかを探るべきだ、と叫んでいる。
しかしいつまでたっても部屋の外からでは中の様子は伺えず、ユリウスが出てくる気配もなかった。
「こうなったら仕方ないか」
意を決して扉に手を掛ける。覗き込んだ瞬間ユリウス殻の攻撃が来るかもしれないがそこはアーチャーに警戒してもらう。
しかし視聴覚室の扉の先にあった光景は予想外のものだった。
「ユリウス!?」
映写機が音を立てて回る前でユリウスは倒れていた。何らかの罠の可能性もあるのでここは慎重に近づいていくことにする。
「……死んでいる」
しかし警戒は杞憂にすぎずユリウスは間違いなく死んでいた。サーヴァントの気配もまわりにないことからおそらくはすでに消滅したのだろう。
だがいったいなぜ? この視聴覚室にユリウスを絶命させるものなど……そう思い周りを見回した時、ふと動きっぱなしの映写機に目がいった。
「これは!?」
そこに写っていたもの、それは遠坂凛とラニの……
「シャワールーム?」
そう、それはそれぞれの自室に備え付けられているシャワールームであった。すでに中には誰もいないが片方はシャンプーの入れ物を初めとする小物類が赤いしもう片方は最低限のものしか入っていない殺風景さ、間違いなく遠坂凛とラニのシャワールームだ。
改めてユリウスの死に顔を見てみると「わが生涯に一片の悔いなし」と言わんばかりの満足げな表情だった。おそらくは他者の自室を許可なくみるという行為はムーンセルにおける重大な規約違反、にもかかわらずこの男は覗きを決行し、ムーンセルのセキュリティプログラムによって命を落としてなおその両の目でその光景を焼き付けたのだろう。
俺とアーチャーは気がつけば倒れ付すユリウスに対して敬礼のを取っていた。それは命を懸けてロマンを追い求めた強敵(とも)に対する無言の友情であった……
四回戦・一目でわかる正体とわからない人にはサッパリわからない対策
四回戦の相手である臥藤門司、そのサーヴァントはバーサーカーであり魔眼をもつ女性、そこから推察される正体は……
「アルクェイド・ブリュンスタッドだな」
「……なぜ今回だけは一見で見抜くのだ? マスター」
んなもんメ○ブラプレイヤーなら見ればわかる。つーか隠す気無いだろあの電波マスター。
「とりあえず対策としてはHかFスタイルの軋間のしゃがみB対空でカウンターだな」
「落ち着けマスター、メタな台詞はやめたまえ。そんなヤツはここにいないしそもそも今時そんな対空簡単に食らってくれるプレイヤーはそうはいない」
「だよなあ、今となっては懐かしいけどアクトカデンツァverBとかなら起き上がりガード不能攻撃とかできるんだけど……」
「だからそういう台詞はよせと、誰もついてこれないぞ」
「その時はその時でお前が背中で「ついて来れるか」って……」
「誰がやるか!」
ちぇ、ケチンボ。
五回戦(ではないけど)・取り扱い時は説明書をよく見ましょう
今俺達の前には再びあの男が立ちはだかっている。ユリウスとアサシン、まさか電脳死をも乗り越えてやってきたというのか。
「気をつけろマスター、あのアサシン様子が変だ」
アーチャーに言われてアサシンを見るが確かにおかしい、殺意に満ちた目をしたユリウスに気を取られて気づかなかったがアサシンのほうも目が狂気に満ちている。
「あの男の腕、おそらくは他のマスターの腕を令呪ごと移植したものだろう」
ということはあの腕はバーサーカーのマスターのものか! 今のアサシンはアサシンでもありバーサーカーでもある二重属性!
「……お前だけは絶対に殺す!」
「来るぞ!」
ユリウスの怨声にアサシンが咆哮すし、来たるべく猛攻に備えて俺とアーチャーは身構えた。
「クロスアウツッ!」
ところがいきなりアサシンが服をすべて脱ぎ捨てた。いったいどうしたというのだろう?
「……どうやらあのバーサーカーの令呪、元は変態仮面の令呪だったようだな」
よくみるとアサシンは女性物の下着を頭にかぶり足には網タイツを装着していた。どこからどう見ても立派な変態である。ちなみにユリウスはというと先ほどまでの狂気は身を潜めただ「やってもうた~」って顔でがっくりと肩を落としている。すっげー珍しいものを見た気がする。
「よしアーチャー、お前もこの遠坂凛のパンツをかぶって対抗だ!」
「心得た! ……じゃない! 絶対にやらんからな!? というよりなぜ持っているそんなもの!」
「ノリノリだったくせに」
というかコッソリ懐にしまうな、貸すだけだからな、ちゃんと返せ。
「それはそうとあれはどうするのだマスター?」
アーチャーが指差したあれとは言うまでもなくユリウスだ、体育座りでうずくまりひたすら地面に『の』の字を書き続けている。
「……じゃあ俺達もういくから、元気出せよ」
「うむ、失敗は誰にでもある、気を落とさないことだな」
とりあえずどうすればいいのかよくわからないので絶望して地に伏しているユリウスに挨拶してさっさとその場を去ることにしたが、背後から聞こえる「とってもエクスタシー!」という声に中国拳法史上最高峰の1人といわれた魔拳士のあんまりな末路に涙が止まらなかった……
六回戦・頼れるパートナー
「これは赤原礼装、私の師が今回の戦いのために私のために用意してくれた礼装です」
ラニがここまで俺のことを考えて手を尽くしてくれていたことが嬉しくて涙が出そうになる。だけど……
「メイド服だよね? これ」
ラニに手渡されたそれはどこからどう見てもメイド服だった。しかも下着とガーターベルトまで用意されている点が無駄に手が込んでいる。
「いいえ、礼装です」
「いやいやメイド服だよね?」
「しかしながらそれは師が私のために調整した礼装であるためあなたが使えるようにするにはそれ相応の強敵を倒して礼装に認められるようにならなければいけません」
「聞けよ人の話」
結局俺の意見は一切ラニに聞き入れられることなくアリーナまで強敵を探しに行く羽目になってしまった。
「……なんでこんなことに」
そう、結局この礼装に認められるということはこいつを使わなくてはいけないという訳である。というかお弁当の一件もあるしもし使わない、なんてことになったらラニは間違いなくがっかりする。それは嫌だ、かといってメイド服を着るのも絶対に嫌だ。
「くっくっく、大変なことになったなマスター」
アーチャーはアーチャーで「こいつは面白いことになった」という顔でニヤニヤ笑って時折皮肉を入れてくる、めっさムカツク。
しかしよくよく考えてみればアリーナ内にそんな強敵がいることなんかめったにないわけなんだし……そうだ!
「あ、もしもしラニ? アリーナ内を探したんだけど強敵が見つからなくてさ……」
そう、強敵が見つからなくて礼装に承認されなければこれを着る必要もないわけだ。
「大丈夫です、そこの突き当たりにある隠し通路の先の隠し部屋に強いエネミープログラムの反応を感じます、それならば礼装の承認を得るのに十分だと思われます」
「……ラニはほんとうにたよりになるなあ」
頼りになりすぎて涙が止まらなかった。
七回戦・仲良し二人
聖杯戦争もすでに七回戦、しかしアーチャーの様子がおかしい、まさか……
「腹でも壊したのかアーチャー?」
あの皮肉屋が大人しいのはそれくらいしか考えられないのだが……
「やれやれ、冗談交じりの皮肉とは随分と図太くなったものだなマスター、ついでに言っておくが私は腹痛ではない、侮ってもらっては困る、胃にダメージを与えるものなど調理人として断じて作らん!」
……なんだろう、ものすごい方向から怒られた。というかもうお前アーチャーの名前返上してコックかハウスキーパーに改名しろよ。
「じゃあいったいなんだっていうんだ?」
「ふむ……実はだな、地上におけるオリジナルの聖杯戦争と違いこのムーンセルにおける聖杯戦争では我々サーヴァントに一つの制約がつくのだ」
「制約?」
「ああ、ムーンセル内で召喚されたサーヴァントはマスター以上にムーンセルを優先しなければいけないという制約だ」
なるほど、万が一マスターがムーンセルに危害を加えるようなことになるというのならサーヴァントはマスターの排除を行うことも辞さない、ということか。
「ということは……」
「ああ、そうだ」
俺とアーチャーはアイコンタクトでうなづきあう。ここまで一緒に戦ってきた仲だ、言わんとすることはそれだけで十分に理解できる。
「「まったく問題ないってことだな!」」
まったく何事かと思えばそんなことか、他のサーヴァントとマスターならまだしも俺とアーチャーに限っては心配する必要などまったくないじゃないか。
「ふむ、私としては君がその三つ目の令呪を使い切った瞬間にその心臓を打ち抜くことを心待ちにしているというのにな」
「はっはっは♪ その時にはすでにお前は三つ目の令呪で『アホ過ぎてごめんなさい』の遺言を残して自害しているぜ」
「「んだとコラァ! 歯ぁ食いしばれ!」」
その日、夕日が降り注ぐ校舎で俺とアーチャーはお互いの拳を交し合った。スキルポイントのほとんどを筋力につぎ込んだサーヴァントの拳は硬かった……超痛てぇ。
聖杯戦争終結・どこかで見たことあるような?
聖杯の中に入ると膨大な知識が頭の中に流れ込んできた、これがムーンセルが長い間地上を観測し続けて集めてきた地上のデータなのだろう。
「ん? なんだろうこれは……?」
俺には俺で今からやらねばならなきゃいけないことがあるのだが何か引っかかるデータが目に入った。
「これは地上の聖杯戦争の勝者の記録?」
それは一人の少年の記録だった。
「な、なんだこりゃ!? 金髪美少女にツンデレ同級生、通い妻後輩にスレンダー眼鏡美人にアルビノ妹キャラにそのメイド、さらには毒舌シスターに天然ドジッ娘人間凶器についでにタイガーまで!? 何だこのハーレムは」
まるでこの世の男全員を敵に回しているかのような環境で暮らしていやがった、しかも「いかにも苦労しています」って表情が逆にムカツク。
「まったくもってけしからんヤツだな、女性にはもっと真摯な態度で接するべきだ。アーチャー、お前もそう思うだろ?」
「ああ、うん、そうだな。だけどまあ彼もそれなり苦労しているのではないかな? ハハハ……」
なぜだろう? 皮肉屋で饒舌なアーチャーにしてはえらく歯切れの悪い答えだった。
~お終い~
Tweet |
|
|
2
|
0
|
追加するフォルダを選択
フェイトエクストラをクリアしたので書いてみました。ものすごくダメな感じで主人公やアーチャーが壊れています。どうかご容赦を。