「探せ!何としても探し出せ!」
建業の街で思春の怒号が飛び、兵達が青い顔をして走り回っていた。
街のあちこちで早朝にもかかわらず行われているこの騒ぎに、街の人々も野次馬として駆けつけている。
街の中心に張られた臨時の天幕では、この世のものとも思えない程の怒りの表情で蓮華が報告を待っていた。
その横では同じく怒りの表情の冥琳が兵達に細かい指示を出し、穏がその二人に怯えながら入ってくる報告
をまとめ、祭と明命、亞莎が部隊を率いて街中を捜索している。
彼女達が捜索しているもの・・・それは一刀となぎ、そして雪蓮。
明け方、会議の予定の時間になっても現れない一刀の事を不思議に思い、蓮華が一刀の部屋を訪ねると
一刀の寝台の上に手紙が一枚置かれ、一刀となぎの姿が消えていたのだ。
そしてその手紙に書かれていた言葉は────
『天の御遣いと子供は貰って行く。さらばケツデカとデコメガネ』
『華蝶仮面王頭<かちょうかめんおうず>』
だった。
当然犯人はすぐに割れる。
雪蓮の部屋から、手作りの華蝶仮面のマスクを付けた雪蓮が堂々と出て行くのを侍女が見ていたからだ。
そして手紙の筆跡も間違いなく雪蓮。
どうやら本人はバレていないと思っているらしい。
そこへ祭が戻る。
「だめじゃ。どこにもおらん。すでに街の外という事はないか」
「いえー。それは無い筈ですー・・・」
涙目の穏の言葉に溜息をつきながら一休みしようとした時────
「「祭」」
蓮華と冥琳の絶対零度の声が聞こえた。
「おおっと。そうであった。こちらを調べよう」
ものすごい棒読みで祭はそそくさとその場を後にし、やはり残された穏はさらに涙目になる。
ギリ・・・という歯軋りは蓮華か冥琳か。
燃え上がる怒りの炎を感じ、穏はこっそりと溜息をついた。
「いたか!」
「いや、確かにこっちだと思ったが・・・!」
「くそっ!見失ったら俺達どうなるかわからんぞ!」
「探せ探せ!」
兵達がワラワラと走り回るのを屋根の上からこっそりと覗いているものがいた。
「あーもぅ!しつっこいわねー!」
それは華蝶仮面のようなマスクをつけた雪蓮。
その傍らにはゴザでグルグル巻きにされ猿轡をされた一刀の姿があり、さらにその横には布袋に入れられた
なぎが涙目の瞳で顔だけを出していた。
キョロキョロと辺りを見回し、兵が一通り過ぎたのを確認すると二人を片手で軽々と担いで次の屋根に飛び移る。
「えー・・・っと。確か計画ではあっちにいけばいいのよね」
「あきらめてください・・・もうにげられません」
「もがー!」<そうだ!>
広げた紙を見ながら呟く雪蓮になぎが投降を呼びかけるが、
「だーいじょうぶよぉ。お母さんにまかせなさい♪」
と取り合わない。
物凄く嬉しそうな雪蓮はテンションも高く、鼻息を荒くしながら目を輝かせている。
(ああ・・・これはむりだ・・・)
雪蓮の事をよく知るなぎがガックリと肩を落とすが、一刀は諦めずにジタバタと暴れた。
「ああん♪アナタったら!暴れるのは閨だけにしておいてね・・・ッと!」
ドフッ!!
「うごっ!」
雪蓮の一撃が一刀の鳩尾に入り、一刀がクタッと崩れる。
それを肩に担ぎなおし、『なぎ袋』を手からぶら下げながらひょいひょいと屋根を飛び越えた瞬間────
足元に手裏剣が数本刺さる。
「チィッ!」
舌打ちをしてそちらを見れば、そこには明命の姿があった。
そしてその手にはいつの間にか『なぎ袋』が握られている。
「ああああああ・・・」
ぷらんぷらんと揺らされたなぎの目が回る。
「あっ!?なぎちゃん!!────みん・・・じゃない、周泰将軍か!」
「もう逃げられません!おとなしく縛についてください!」
「断る!」
「諦めてください!」
「嫌だ!」
「うう・・・こ、ここは包囲されています!街からは出られませんよ!」
「知らないもーん」
「うぅぅ・・・投降してください、雪蓮さま・・・」
「雪蓮ではない!王頭だ!あ。真ん中は伸ばすんじゃなくて、"う"を強調するのよ。わかった?」
「はい!・・・・・・じゃなくて!おとなしく帰ってくださいよー・・・」
「嫌よ。いーい、明命。このままだと魏に一刀獲り返されちゃうじゃない。それでなくてもここにいると
あの万年デカジリ娘か陰湿デコ眼鏡に独占されちゃうわよ?それでもいいの?」
「うぐ・・・」
「それだけじゃないわ。祭。あの"お一人様"。あれはヤバイわね。後が無いのよ。今は冷静なフリを
しているけど一皮剥けばあの"お一人様"が一番危険よ」
「あの・・・"お一人様"って・・・なんですか?」
「女がオバサンと言われて怒るのはまだホントに若いからよ。でもね・・・それを超えた豪の者にはもう
関係無いわ。オバサンだろうがハバアだろうがまったく効果は無くなるのよ」
「はぁ・・・」
「そんな者が本当に恐れるもの・・・それが"お一人様"よ。食事処に一人で行った時、『お一人様ですね』って
確認されるのが怖いのよ。女が一人で拉麺食べれない?焼肉食べれない?違うわ!『お一人様ですね』って言われ
たくないから行かないのよ!そんな女が行くのは痕尾荷<こんびに>・・・何故か?それは簡単よ。声を掛けられ
ないからよ・・・夜に買う一人分のお弁当ほど悲しげなものは無いわ・・・。
明命・・・あなたもそうなりたいの・・・?」
壮絶な笑顔で微笑む雪蓮の表情に明命の脳裏に祭の姿がよぎり、背筋が凍る。
「だが・・・明命。そこにいる者を渡せば、貴様の事くらいは助けてやれるかも────」
「じゃあ・・・」
「「「みーーーーーーーーーーーーんめーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!!」」」
きゅう・・・と目を回していた『なぎ袋』を手渡しかけた明命の背に怒号が飛ぶ。
「はぅあっ!?」
驚いてそちらを見れば、怒りに燃える冥琳、祭、亞莎と小蓮がいた。
特に祭は鬼だ。
もう表情が、とかではなく、鬼だ。
亞莎と小蓮はガタガタと震えながらその後ろに控えている。
「いっただきぃ♪」
「あっ!?」
その隙を突いて雪蓮が再び『なぎ袋』を奪取する。
「ああああああああああ・・・」
再びぷらぷらと回され、なぎがさらに目を回す。
「討て」
「応」
シュッ!
「あぶなっ!?」
冷酷な冥琳の声に同じく冷酷な声で鬼が答え、雪蓮のすぐ横を矢が通り過ぎた。
「ちょっと!当たったらどうすんのよ!」
「心配するな。次は当てる」
ニタリと笑った冥琳の暗い笑顔にゾクッとして冷や汗が頬を伝わるが、その横の祭はもう鬼だ。
「しぇれ・・・いや、王頭か・・・一体何のつもりだ・・・」
眼鏡をクイッと上げたその奥の瞳の鋭さは、完全に殺人鬼のそれになっている。
「何のつもりって・・・ああ、大丈夫よ♪三年後には帰ってくるわ♪」
「「「はぁ?」」」
あっけらかんと話す雪蓮の言葉に全員が唖然とする。
「三年後・・・?」
冥琳の呟きに雪蓮がえっへんと胸を張る。
「そぅよお。三年後。子供が二人程出来て、ほとぼりが冷めた頃に戻ってくるのよ♪一人目が三歳ぐらいで、
二人目が一歳くらいね。そうすれば少し言葉が話せるようになった子供の可愛さと、乳児の可愛さで
仕方なく許すか・・・という・・・」
「どこの不良娘だ!!!」
ツッコミに雪蓮がえへっと笑う。
「まぁ、三年経ったらとりあえず帰ってくるからさー♪あ、でも祭はあがっちゃって無理か!」
「三年後だったら、シャオはまだ────」
ドスッ
「────ガクッ」
どこからともなく攻撃された小蓮が崩れ落ちる。
あまりの恐怖で亞莎は前が見れなかった。
「王頭・・・」
ザワリ・・・と殺意が起きた。
それは冥琳の後ろから。
見れば蓮華と思春、穏もそこにいた。
家の下には兵達も集まってきており、すでに逃げ場は無い。
蓮華の顔もすでに般若だ。
「もご・・・?」
あまりの殺気に一刀も目を覚ます。
そして見たのは、鬼達。
あまりの恐怖に体が硬直する。
「もう逃げられんぞ・・・王頭」
蓮華の瞳からは光が失われ、ザワリとした気配が周囲を包む。
だが当の雪蓮は涼しい表情だ。
妙に余裕のある雪蓮の姿に違和感を覚えるが、蓮華がズイッと前に進む。
「一刀兄さまとなぎをかどわかした罪、あながうがいい!!」
『南海覇王』を抜き、剣先を向ける蓮華の姿に雪蓮がフッと笑う。
「いいのか?公表するぞ、"世界地図"を」
「・・・!?」
「・・・世界地図・・・?何のことだ・・・?」「さあ・・・?」
雪蓮の突然の言葉に蓮華が動揺するが、それが周りの兵に伝わる。
「私が捕まったら公表されることになっている。そうされたくなければ・・・」
「な・・・何のことだ!何を言っている!?」
渋い声を出しながら不敵に笑う雪蓮に蓮華が叫ぶが、それを兵達は隠し事があるから動揺していると捉えた。
「あくまでもシラを切るか・・・では、先日黄巾党に襲われた村・・・覚えているな・・・」
「そ、それがどうした!?」
「あの村の宿屋・・・その一番高級な部屋で"世界地図"が作られた・・・」
「「「・・・?」」」」
全員が一斉に首を傾げる・・・一刀となぎを除いて。
一刀がチラリとなぎを見たが、なぎはスッと目を逸らす。
「あの宿屋の一番高級な部屋はただ金を積めばいいというわけではない・・・呉の王家御用達という事もあり、
身分の高い者しか泊まれない・・・あの時、その村にいた一番身分の高い者、それはれ・・・孫権、キミだ」
ビシッ!と突きつけた指先に蓮華がポカンとする。
「ああああ・・・」
突きつけた腕の下に吊るされた『なぎ袋』がぶらぶらと揺らされた。
揺れが収まったなぎと目が合い、
(なぎ・・・なぎがおねしょした事を自白すれば助かるんじゃないか?コレ?)
という目で一刀がなぎを見れば、なぎは俯きながら小さな声で「・・・めいよのためです」と呟く。
(なぎ・・・?なぎ!なーーーぎーーー!!!)
一刀の悲痛な心の叫びは心を閉ざしたなぎには通じなかった。
だが、あまり反応の無い蓮華にとうとう雪蓮が痺れを切らす。
「ああ!もう!アンタおねしょしたでしょ!」
「な!!??な、何を言う!!!???」
「え。孫権様が・・・」「そんな・・・」「それで世界地図・・・」
ザワザワとする兵を見て蓮華が真っ赤になって焦る。
「きーたわよー。あの宿のあの部屋から"世界地図"の描かれた布団が干されてたの」
「ち、違います!私はあの宿には泊まっていません!あの部屋には一刀兄さまとなぎが泊まっていた筈です!!」
慌てて否定するが、真っ赤になったその顔は怪しまれるには充分だった。
「昔からよく使ってた手じゃない。おねしょしたのをシャオのせいにしてたの」
「え・・・?」
倒れていた小蓮がかすかに顔を上げる。
「聞いては駄目よシャオ!敵の甘言よ!!」
ドスッ
「ぐふ・・・ッ!」
倒れていた小蓮に蓮華の拳の一撃が入り、昏倒した。
「今だ!!」
その隙をついて雪蓮が持っていた煙幕弾を爆発させ、辺りは白い煙に覆われる。
「「ゴッホ!ゴホゴホ!!」」「あ!目が、目が痛い!!」「うわー!助けてくれー!」
「はーーーーーっはっはっは!!!さらばだ!!!あ。明命も来る?」
「はい!」
混乱する兵達の中、その声が遠くなる。
「ま、待て!、ゴホッ!!」
煙が晴れた時、そこにはもう雪蓮達の姿は無かった。
ベキ・・・という音がする。
それは冥琳が家の柱を握りつぶした音。
「追え、思春・・・いや。殺せ」
「は、えっ!!?いや、あの、殺してしまうのは・・・」
途轍もなく冷たい蓮華の声に思春も戸惑うが、その目は本気だ。
「そうだぞ、思春・・・構わん。毒を持て」
続く冥琳の声もまるで地獄から響くようだった。
「あれは王頭じゃ・・・なんら遠慮する事は無いぞ・・・クククククク」
鬼だ。
────この日、建業の街に三体の鬼が現れたという・・・。
「そう言えば・・・しぇれ、いや、王頭に手助けした者がいるようなのだが・・・」
冥琳の言葉に穏がビクッ!と反応した。
「ほぅ・・・穏・・・どうしたのかしら・・・?」
くるりと振り返った蓮華の顔を見て、穏が震え上がる。
「そうじゃったか・・・お主か・・・」
ガクガクと振るえ、涙が止まらない。
「あ、いえ、そのー、です、ね。手助けしないと書庫を燃やすって、あの。助命願いを書く時間が・・・あ。」
鬼にむんずと襟首を掴まれた穏が引きずられていく。
その跡には濡れたような跡が続いていた。
その姿を見送りながら、亞莎は思う。
(明日、三国同盟会議・・・ですよね・・・)
(三国同盟・・・もうだめぽ)
お送りしました第34話。
挿絵に挑戦してみました。
その様子は次話で明らかになると思います。
フルカラーはものすごい手間がかかると気付きました。
かなりキツイです。
そして今回は全編ギャグです。
これもキツイです。
さらに風邪引きました。
ものすごくキツイです。
熱で朦朧とする中、月のもので腰が重くて
さすがに死にそうです。
そして今日、休んでいた所に荷物が届いて開けて見たら
桜が丘高制服コスプレ衣装Mサイズ女性用とウイッグが入っていました。
なんぞコレ。私に着ろってか。
は!?ウィッグ込みで15000円!?
ん?あれ?この前も何かチョコレートと午後ティー大量に買ってたよね。
金は何処から出た。
保険が満期になった?私聞いてないよね。
バカじゃねーの!?バカじゃねーの!?バカじゃねーの!?
大事な事で三回言いました。
・・・。
ちょっと本気でOHANASHIが必要ですので色々おさまるまで少し更新期間が開きます。
本編は三国同盟会議で危機ですが、リアルでは家族会議で危機です。
では、また。
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もう色々ありまして・・・。
詳細は後書きで。