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よく晴れた日、荒野に面した森の入り口付近に、一人の少女が寝そべっている。
髪は燃えるような赤色で二本の触覚のような毛が飛び出しており、ところどころ見える肌は褐色で、露出された柔らかそうな腹部や細い肩には刺青が見え隠れしている。
彼女の傍らに置かれた戟はこれまで幾人もの血を吸ってきたのだろうか、物々しい雰囲気を醸し出しているが、少女はそんなことを気にすることもなく、気持ちよさそうに眠っていた。
―――ィィイ………。
「………ん」
―――ィイイイイ………・
ふと、眠っていた少女は目を開いた。寝転がったまま何度か目を擦ると、何かに呼ばれたかのように空を仰いだ。
キイイイイイイィィィィィ………………。
「なに…あれ………?」
空には光る塊が、一筋の軌跡を残しながら飛来していた。
「…落ちる」
その飛来物が落ちたかと思うと、太陽の光すら霞んでしまうほどの眩い光が発せられた。
少女は可愛らしく首を傾げつつ、起き上がって伸びを一つすると、先ほどの物体が落ちた方向へとふらふら歩き始める。
森の入り口から一里ほど進んだ地面に、直径20メートル、深さは3メートルほどの穴が空いており、その中心には―――
「………誰?」
――― 一人の青年が倒れていた。
「変な服」
彼は、この時代にしては目を見張るほど綺麗な白い服を身に着けていた。
もしここにいるのが賊か、あるいは欲の強い人間であったらその服を剥いでしまったであろう。
下手をすれば、殺されてでも奪われてしまうかもしれない。
しかし、今この場にいるのは一目で無垢とわかる少女である。
彼女の興味はその一言で終わりを見せ、それよりも彼は?と問うように、穴の中へ踏み出した。
近づかなくても、青年が生きていることはわかる。
呼吸により胸が上下しているからだ。
しかし、その上下運動はゆっくりとした規則的なものであり、おそらく眠っているのであろう。
少女はしばらく逡巡して見せたあと、彼の背中と膝裏に両手を差し込み、抱えあげた。
「こんなところにいると、風邪ひく」
先ほどまでお腹を出して寝ていたとは思えない言葉が聞こえてきたが、少女は人一人抱えてるにも関わらず、足元も確かに歩き出した。
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