No.185351

恋姫異聞録 番外編 -荀攸(鳳)-

絶影さん

またもやAC711様が私のssのオリキャラ
荀攸こと鳳(アゲハ)を描いて下さいました!!
これからようやく活躍していく彼女なので
本当にありがたいです><

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2010-11-18 23:32:43 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:12691   閲覧ユーザー数:9929

-新城-

 

 

 

「ねぇ、コレ良くない?」

 

「あーホントなのー!この間買った服に合いそうなのー!」

 

とある茶の有名店で服の絵が描かれた竹簡雑誌を読みながら声を上げる沙和と、柔らかく頷く少し長身の女性

その女性は髪を短く、左右非対称にしており

 

衣服は男性を思わせる健康的な服装、いわゆるボーイッシュファッションというやつで身を固めており

その上から羽織るようにロングシャツを着こなしていた

 

 

 

 

胸元には可愛らしい象のチョーカー、耳元には髑髏を象ったピアス

パッと見は誰も気がつかないだろうし想像もすることは無いだろう

 

彼女がまさかあの魏の大軍師、荀彧こと桂花の姪であるなどと誰も思うまい

 

唯一共通する点といえば、その羽織るロングシャツが桂花の着る物と酷似している事ぐらいだろうか

何せ体型から着る服装までそのほとんどが桂花とは正反対なのだから

 

「ねー沙和、その爪可愛いけど戦の時邪魔じゃない?」

 

「うーん、でもでも爪は可愛くしておきたいのー。だから練習で剣を振る時はそーっと振ることにしてるのー!」

 

「付け爪とか今あるみたいだからそれにしたら?引っ掛けて生爪剥がすよりはマシっしょ」

 

「えー、あれって可愛いのあるかななのー?」

 

等と如何にも女の子の話題を楽しむ二人、だがそこで沙和が思い出したように声を上げ

見る見るうちに顔が青くなっていく

 

「う・・・集合の時間すぎてるのー」

 

「警邏?久しぶりに会ったのに相変わらずだねー、早く行ったほうが良いよ。また今度話そう」

 

「うん、ゴメンなのー!鳳ちゃん、後でまたなのー!」

 

あわてて卓の上の竹簡雑誌を拾い集め、小脇に抱えると駆け足で走り去る沙和

それを頬杖を付きつつ軽く手を振り、残った茶をゆっくりと啜る鳳と呼ばれた女性

 

彼女の名は荀攸、真名を鳳(アゲハ)。荀彧こと桂花の年上の姪である

 

「ん~、お茶も飲んだしそろそろ行きますかー」

 

椅子から立ち上がり、両手を組んで体を伸ばすと上着の衣嚢(ポケット)に手を突っ込み

小銭をジャラジャラと鳴らす。彼女の衣嚢には常に数十枚の小銭が入っており、彼女を良く知るものは

その音を聞くと近くに彼女が居ると判断できるほどで、小銭の音は彼女の音と覚えられていた

 

「えっとー、とりあえずりっちゃんと後で合流するでしょ、その前に城でケイちゃんの顔見て・・・」

 

ブツブツと呟きながら城に歩を進める彼女。彼女の口にする【りっちゃん】とは常に行動を共にしている

李通のことであり【ケイちゃん】とは勿論桂花のことである。目の前では叔母様や御姉様など口にしてはいるが

どうやら可愛い年下の叔母様をついついからかってしまうからと言うのが理由のようだ

 

「やっほー、お疲れー!警備ごくろーさん」

 

頭の中で今日の予定を整理する鳳は、城に入ると同時に警備をする衛兵に何時もの挨拶

そして城の中に入って先ず見ることは城の警備の状況、そして兵の数、廊下や柱、そして敵の襲撃の退路

僅かに城から離れただけでも城の内部は変化する。その変化を逐一頭に叩き込むのが彼女の癖でもある

 

「良い感じだね~、さすが私の可愛い叔母様♪」

 

桂花の仕事振りに嬉しそうに頬を緩め、猫のように目を細める鳳。周りをきょろきょろと見回しながら

歩を進めれば、前からはその素晴らしい仕事振りをする桂花の姿

 

「むー・・・相変わらずだねぇケイちゃんも」

 

少し呆れ気味にずんずんと廊下を歩く桂花を見る鳳

彼女が呆れてしまうのは無理も無い、何故なら桂花の後ろには彼女に話しかけることを躊躇う

男の文官が三名ほど、まるでストーカーのように着いてきているのだから

 

文官たちが意を決して話しかけようにも

 

「あの・・・」

 

「何よ、アンタなんかと話すことは無いわ、話しかけないでっ!」

 

といった具合になってしまう。鳳は、仕方が無いなぁと桂花か近づくのを隠れて待ち

近くに来た瞬間にひょこっと顔を出す

 

鳳に気が付いた桂花は身構えるが、身長差のある鳳は構わず桂花の頭からヒョイとネコミミフードを取り上げてしまう

 

「ちょ、ちょっと何するのよっ!返しなさいっ!!」

 

手を伸ばし講義する桂花に構わず自分の頭にかぶせると、可愛く舌を出して片目を瞑り

 

「お兄さん達、こんなおちびちゃんに聞くよりも、お姉さんに聞いたほうが楽しいわよー」

 

 

 

 

と言って、手を伸ばし取り返そうとする桂花を他所に、わざと腕組みをして胸を強調させると

桂花の動きは止まり、その額には青筋が立つ。文官たちと言えば、その強調された豊満な胸に

眼を奪われ、顔を赤くし直ぐに眼を反らすが、其処は男の悲しい性か、チラチラとその視線は

彼女の胸に注がれていた

 

「くっ、返しなさいっ!」

 

「うわっと!」

 

怒りの形相で鳳に取り付き、無理やり頭からフードを引っぺがすと直ぐに自分の頭にかぶって

詰め寄ろうとする桂花。だが鳳の周りにはいつの間にか増えた男の文官達が彼女の近くによって

囲んでおり、その様子に心底嫌そうな顔をして【覚えておきなさいよ!】とばかりに睨みつけ

きびすを返し一瞥すると、ズンズンと両腕を大きく振りながらその場から立ち去ってしまう

 

(あ~、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ)

 

等と少し反省しながら鳳は頬を一掻きすると、堰を切ったかのように始まる文官たちの質問攻め

そして「私が先に来たのだ」「私の方が重要な案件だ」と我先にと順番を言い争い始まめる

 

「はいはい、解ったから順番ね~」

 

少し大きめに拍手を打つが、普段桂花に中々聞くことが出来ない文官たちは、今が絶好の機会とばかりに

同じように高い知識を持つ鳳に詰め寄ってくる。しかもよく見れば文官達の数は次第に増えていき、

気が付けば廊下一杯に文官たちが鳳を囲んでいた

 

「えっと、それは納税方法の変更と新たな土地に住む人が何名居るのか正確に調べないと・・・」

(ヤバイな~、まさかこんなに集まってくるとは、私もそんなに男の人得意じゃないんだよねー)

 

一人一人迫る文官をあしらいつつ、適切な判断で問題の答えを丁寧に答えていくが文官達の数は

減るどころかますます増えているように感じてしまう

 

「それは市の物品納入方の見直しと検査の仕方の再考をしないと駄目だね~・・・」

(うぅ~、キッツイなぁ。ケイちゃん普段全然この子達の話聞いてないなぁー!)

 

迫る文官たちに振舞う笑顔とは裏腹に、鳳の心は焦りと得意ではない男達の圧迫感で一杯になってくる

 

と、その時、囲む文官たちの隙間から視界に入ったのは此方を見ている李通の姿

心の中で「助かった~」と呟き、目線と手振りで此処から抜け出せるようにしてくれと送る

 

(助けてりっちゃん・・・ってあれ?あれあれっ!?どこいっちゃうのーっ!!)

 

必死に手と目線で思いを伝えるが、李通は何を勘違いしたのか頷いて手を振りその場から立ち去ってしまう

 

どうやら彼女はこの状況を見て【文官たちの相手をするから待ち合わせに遅れる】などと勘違いしたのだろう

その証拠に立ち去る時、口をパクパクさせながら【ごゆっくり】と動いているのが見て取れた

 

「とりあえず其処は許昌と同じ方策を取って対応したほうがいいと思うよー」

(違うっ!違うのにーっ!あぅ・・・ケイちゃんいじめた罰かなぁ)

 

心の中でがっくりと項垂れる鳳、一人一人対応していくが一向に人数が減る気配が無い

それどころか迫るように増える文官、そんな中順番を待ちきれない文官が順番を争い喧嘩を始めてしまう

 

文官達が争ってしまうのも無理は無い、なにせ魏の中を歩き回る鳳に会える機会などめったに無く

また余り表舞台に立たない鳳に対し、この機会を逃せば彼女の知に触れる機会を逃してしまうどころか

男嫌いの桂花にどうやって話を聞いてもらうか悩まなければならないからだ

 

「コラコラーっ!喧嘩するなら聞いてあげないよーっ!」

(うぅ、囲まれて手が震えてきちゃったよ。情け無いなぁ)

 

とりあえず喧嘩を止めなければと震える手を衣嚢に突っ込み、掴み合いをする文官の元へ歩み寄ると

一人の文官の持つ竹簡が振り回され、彼女の左耳付近を掠る

 

とっさに避けるが掠めた竹簡は彼女の髪を巻き上げ、其処から覗くのは大きく傷の残る左耳

まるで切り裂いたような痕のその傷は、耳の原型を無くすほど大きいものだった

 

「わっと!あぶないよ~、ホントにもう終わりにしちゃうぞー!」

(ヤバイっ、ヤバイヤバイっ!手の震えが止まらなくなっちゃった)

 

「も、申し訳ありません荀攸殿」

 

「今回だけ特別に許しちゃおー!だから喧嘩は駄目だぞ~」

(唇も震えてきた、何話しているか解らないっ、私ちゃんと喋れてる?)

 

耳を掠める竹簡に昔を思い出した彼女は周りを囲む男達に恐怖を覚える

カタカタと揺れる腕、衣嚢の中の小銭は震える指先に当たり音を立てる

次第に足まで震えてくるが、彼女は気丈にも笑顔を崩さず、皆に悟られぬよう言葉を返していくが

 

(あ、マズイナ。これは駄目だ・・・情け無いな、傷なんかもう平気だと思ったのに)

 

「鳳」

 

ふらりと足元からくずれそうになる瞬間、聞こえてくるのは少し低めの優しい声

振り向けば其処には美しい牙門旗と同じ蒼天の色をした外套を纏う男

 

(た、助かった~)

 

男は真っ直ぐ囲まれる鳳に近づいていく、文官達は王と同等の舞王に自然と道を開ける

目の前に来ると「お久しぶりです昭様~!私が居なくて寂しく無かったですか~!?」とその腕に飛びつく鳳

舞王は苦笑しながら鳳を見ると、囲む文官達に向き直り

 

「悪いが鳳を借りても良いか?」

 

と一言。文官達はそれは困ると抗議の声を上げるが、男は笑顔を崩さず近くに居る文官の竹簡を借り受け

一通り眼を通してまた一言

 

「誰かこの案件、案のある者はいるか?」

 

と言って囲む文官達の前に広げれば手を上げる者がぽつぽつと出始める。そして男は竹簡を文官に返し

 

「これだけ優秀な文官がそろっているのだから、先ずはここに居る皆で各々の案件を話し合ってはどうだ?

それでも解決できなければ鳳に持って来ればよい。中々回ってこない順番を待つより建設的だろう?」

 

男の言葉に文官達は顔を見合わせ、しばらくざわつき、考え頷く。文官という職業柄だからだろうか

優秀であると言われ「出来ません」と鳳に聞くのは恥だと思っているのだろう。実に巧妙に思考を操り

その場を鳳と共に立ち去ろうとする男、だがせっかくの機会を逃すものかと、数人の文官は食い下がろうとする

 

「あの、失礼ですが昭様は荀攸様に何をお聞きするのですか?」

 

「勿論、天の知識の利用に関してだ。それではこの魏の頭脳を借り受ける理由には足らないか?」

 

天の知識などといわれては引き下がるしかない、自分達の案件などより優先されるものであり自分達の知識の及ばぬ所

流石に食い下がるわけにも、強引に引き止めるわけにも行かず、数人の文官はため息を吐いて自分達の

竹簡を見せ合う仲間達の輪に入っていく

 

「いやぁ~本当に久しぶりですねぇ!色々お話は聞いてますよー!大活躍じゃないですか~」

 

囲みを抜け出し、男の歩くまま腕を掴んで着いて行く鳳の口は、自分の気持ちとは関係なく言葉を紡いでいく

男は柔らかく微笑み、聞きながらしばらく歩を進め、周りに誰も居なくなった所で鳳の手を取り優しく両手で包む

 

「落ち着いたか?」

 

「あ・・・ははは、やっぱりばれてました?」

 

「あまり無理はするなよ、李通がもう直ぐ来る」

 

そういって振り向く男の視線の先を見れば、手を振りながらその小さな体には似合わない紫の重鎧を揺らしながら

此方に一生懸命に走ってくる。その姿に鳳は自分の心がようやく落ち着いたとクスリと笑ってしまう

 

「では俺は行くぞ、これから娘を迎えに行かねばならないからな」

 

男はそういって鳳の頭を一撫でしてくるりと背を向けると、振り向かず真っ直ぐに城の外へと歩いて行ってしまう

入れ違うように李通が鳳の元へとたどり着き、急いで駆けてきたのだろう肩で息をして、そして

 

「ごめんなさいっ!私、私っ鳳さんが助けを求めていたなんて解らなくって!」

 

「あー、あー良いの良いの。御姉様をからかった罰だねぇ~コレは」

 

「それに、鳳さん何時も着ている服が、だから苦手だなんて」

 

「もしかして聞いちゃったりした?あららぁ~」

 

どうやら李通は鳳との目線のやり取りの後、舞王と会い色々と聞いたようだった

 

想像すると、りっちゃんはあそこから離れる途中に昭様と会って、昭様はりっちゃんが私と居ないから不思議に

思ったのかもしれないなぁ。それで事情を聞いてあの場に急いで来た筈だ、相変わらずニクイことするなぁ

 

等と少し上を向いて人差し指を顎に当てて考えていれば、怒らせてしまったのかと心配そうに顔を下から覗き込む李通

少し眼を潤ませてご主人様の許しを待つ犬のような李通に

 

「も~、りっちゃんは可愛いなぁ♪」

 

と抱きしめて李通の顔を自分の胸へと押し込んでしまう。李通は突然のことに驚くが、鳳からする

柔らかく優しい匂いで同じ女性だというのに何故か頬が赤くなってしまう

 

「あ、あの、お話は聞きました。ごめんなさい」

 

「いいよ~!それに昭様にだって特に話したわけじゃないし、あの人はなんとなく気がついたみたいだからね」

 

「え?そうなのですか?私はてっきり」

 

そうなんだよねー、話したわけでも無いし、ましてや眼を見られて心を探られた訳でもない

尤もそういうことをする人じゃないから気に入ってるんだけど、あれくらいじゃないと奥さんの気持ちに

気がついてあげられないのかなぁ?

 

「うん、そうだなー。りっちゃんには特別に教えてあげよう、乙女の秘密をっ!」

 

「えっ!そ、そんな、私なんかに」

 

「と言うかりっちゃんには聞いて欲しいんだ、私の親友としてさ」

 

鳳の言葉に驚くが、親友と言ってくれたことが素直に嬉しかったのだろう。先程のようにまた頬を染めて

「はい、私で宜しければ・・・」と照れていた

 

うーん、可愛いねぇ。ツンツンしてるケイちゃんも可愛いけど、こうやって素直に照れたり驚いたりする

りっちゃんもまた違った可愛さがあるよねー

 

「それじゃさ、私の目的は終わったし、何も無いなら茶店にでも向かいながら話そうよ」

 

「はい、あ!でも日が暮れたら一馬さんと書類の整理がありますので、それまでになってしまいますが」

 

「ん~?まだ日が高いよー、そんなに付き合ってくれるの?嬉しいな~」

 

と照れる李通を後ろから抱きしめ、寄りかかるように体を預け。李通は照れながらずりずりと

鳳を引きずりながら城から出て町を歩く

 

 

 

 

 

十分に李通の抱き心地を堪能した鳳は、引きずられる足を、きちんと地に着き隣に並ぶと

ぽつぽつと話し始める

 

「さて、何から話したものかね・・・う~ん、先ずはこの耳から話してみようか」

 

そういって耳に被る髪を手で軽く上げれば、そこから覗く痛々しい傷跡の残る耳、それを見た李通はまるで

自分が切られたかのように顔を歪めるが、そんな顔をしてはいけないと顔をフルフルとふり、顔を真面目に戻す

その仕草が面白かったのか、猫のように眼を細めて噴出す鳳

 

「この耳が私が男の人を苦手とする理由」

 

「その耳がですか?」

 

「そ!コレはね、私の叔父さんが酔っ払って錆び付いたボロボロの小刀を振り回してた時、止めようとして

耳にグサリ!!」

 

手を握り、まるでその手に小刀を握るような仕草を取り、そのまま自分の耳に突き刺すように動かせば

李通は顔をゆがませ小さな声で「ぁぅ・・・」と声を漏らすが鳳は相変わらずカラカラと笑う

 

「それでその傷が」

 

「うん。それでさ、本当なら叔父さんに何てことするんだー乙女の柔肌をーっ!って言うんだろうけど

私はなんと言うか、叔父さんがコレに気がついたらきっと自分を責めるだろうなーって」

 

そうなんだよねー、どうも自分がーとかって言うより人が傷ついたり悲しむのが好きじゃないし

自分で言うのもなんだけど驚くほど気使っちゃうんだよね、損しかしない性格だよ

 

「だからずーっと左の耳は叔父さんに見えないように隠して遊びに行ったりしてたんだ、可哀相だからね」

 

「鳳さんは優しいですね、私はとても黙っていることは出来ません」

 

「そんなこと無いよー。唯、そのせいで男の人って怖いって思うようになった。特に酔っ払ってる人は駄目」

 

普通に素面の人は大丈夫なんだけど、酔っ払っている男の人の前に立つと体が震えちゃうんだよね

それとさっきみたいにあんまり沢山の男の人も怖くなる。ある程度は克服したと思っていたんだけどな

 

等と考えながら隣を見れば、鳳に何と声をかけて言いか口元に手を当てて真剣に悩む李通

そんな懸命な姿を見ながら鳳は柔らかく笑う

 

「大丈夫だよー!今は結構慣れたし」

 

「今度からは私もお助けします」

 

「うん、あてにしてるよ~」

 

「はい!任せてください」と紫の重鎧の胸を叩き、笑う李通に鳳も「うん、任せた!」と肩を叩く

 

「あれ?でもそれなら何故そのような服を着てるのですか?」

 

「あー、コレ?コレはねー可愛い叔母様の為、私より酷いでしょ男嫌い」

 

との言葉に眼を丸くして驚いてしまう李通、どうやら彼女は男嫌いの桂花の為、自分がボーイッシュな格好をして

徐々に慣れさせようと考えているらしい。本当にこの人は誰かの為に気を使い続ける人なのだと李通は驚いてしまう

何せ、自分ですら苦手なことなのに桂花のことを守り、はては克服させようとしているのだから

 

「この格好で近くに居れば多少はなれるかなって、でも昭様と知り合ったしこの服も変えても良いかもね」

 

「え?何故昭様が?」

 

「フフッ、あの人結婚してるし、失礼しちゃう話だけど私たちのこと女と見てないんだよね

本当に奥さんしか見てない、だから男ってよりは・・・そうだな、お父さんかな」

 

悔しそうに話す鳳に李通は気がつく。前に昭様一筋と言っていたのは実はコレも自分の叔母の為なのでは?と

 

男の人との交流、恋の話が多いのも自分自身の男性恐怖症克服と、荀彧様が気軽に話せる異性を探す目的で、ようやく

父を感じさせる舞王と出会い、彼ならば叔母の男嫌いを少しは緩和できるのではないのだろうかと思っているのではと

 

「あの、鳳さんは何故それほど荀彧様を?なにか鳳さんの伯父様の時とは違った感じを受けるのですが」

 

「おお~!良いところに気が付いたね、褒めて使わそう!」

 

疑問を投げかける李通に手を叩き、その黒く美しい髪をまるで子犬を撫でるように撫でる

こんな話し方や仕草が基本の彼女だが、その一つ一つは優しさを感じさせるもので

李通はきっと自分に姉が居たらこんな感じなのだろうかと思ってしまう

 

「ケイちゃんはね~、私が男の人が全然駄目になっちゃったのを立ち直らせてくれたんだよ~!」

 

「えっ!でも荀彧様は・・・あれっ!?」

 

「あはは、解らないよねー。ケイちゃんは何をしたって訳じゃないんだ、そう!強いて言えば生まれてきたってだけ」

 

「生まれてきた・・・」

 

鳳は歩きながら自分のつま先に視線を合わせ、衣嚢(ポケット)に手を突っ込んで小銭をカチカチと鳴らす

まるでその音で自分の記憶を呼び起こすかのように

 

「うん。耳のこと以来、男の人の前に出るのが怖くなっちゃって、次第に外にも出れなくなっちゃってさ

そんな時にケイちゃんが生まれたんだ~」

 

赤ちゃんなんか初めて見たわけじゃ無いのにさ、なんかすっごく可愛いくって!まるで小さな花みたいで

吃驚するほど感動しちゃって。それでおかしな事にこんな小さいのに自分の叔母さんだって言うじゃない?

なんでかその時思っちゃったんだよね、私がしっかりしてこの可愛い叔母様を守らなきゃ!ってさ

 

「ケイちゃんは私にとっての花なんだよ、桂とは人を惹き付ける芳しい香り。私は蝶だからね

素敵な香りのするケイちゃんに魅せられちゃったのさ」

 

その時のことを思い出しとても優しく嬉しそうに語る鳳は、李通の目にはとても輝いて見えた

なんて良い笑顔をして自分の叔母のことを語るのだろうと、よく見れば足取りも心なしか

軽くなっているようにも見えた

 

「その花は私が外に出る切欠を勇気をくれた、蝶がまた空を飛べるくらい強くなる力をくれた

だからケイちゃんだけはどんなことがあっても私が守るって決めたんだ」

 

「鳳さん」

 

「だからね、ケイちゃんがこの魏に、華琳様に仕えるって言って私を登用に来たときコレを彫った

コレが私の決意であり、誰にも曲げることの出来ない信念」

 

そういって服を軽く捲くる

 

 

 

 

李通の眼に映るのは彼女の真名を顕すアゲハ蝶

よく見ればその羽の模様は髑髏を象り、彼女の魏に対する忠誠を物語っていた

 

李通は思う、この人が裏方の仕事ばかりするのは荀彧様が活躍する場を奪わないようにしているのではないか

あくまで主役は花であり、自分はそれに寄り添う蝶であると、だからこそ地味な仕事を一手に引き受け

荀彧様の不得意な男の文官との交流までしているのではないかと

 

良く考えて思い出して見れば。今までの彼女行動は全て荀彧様に繋がっている

全て荀彧様を際立たせるように、余程のことが無い限り華琳様の前にさえ出ないと

 

「なんだけど、駄目なんだよねー。どうもあのツンツンしてるところが可愛くて、からかいたくなっちゃう」

 

「フフッ、本当ですね、からかったりしたらいけませんよ」

 

アハハと苦笑しながら笑う鳳、李通は彼女を見ながら思う。もし魏の父が舞王ならば

魏の姉はこの人では無いのだろうかと。今こうして話している自分でさえそう思うのだから

きっと喧嘩するように言い合ったりする荀彧様もきっと同じように感じているのでは無いのかと

 

「このことは内緒だよ~!特に、ケイちゃんには絶対にね」

 

「はい、勿論です」

 

口元に人差し指をあて、片目と瞑り小さく首をかしげる鳳。承知いたしましたと笑顔で頷く李通

その時、近くから「泥棒!」との叫び声。即座に反応する李通は背中に携える短い槍を手に取り

声の方に走り出す。鳳も同じく走り出し、眼に飛び込んでくるのは三人の男が店から飛び出す姿

 

逃げ出す賊に、李通はこの距離は追いつかないと思ったその時、鳳は衣嚢(ポケット)に手を入れ

横投げで小銭を連続で投げ飛ばす

 

逃げる賊の頭部に風切り音を立て、突き刺さる小銭

その余りの衝撃に賊たちは頭を抱え地面に倒れもがく

 

これこそが彼女が常に衣嚢(ポケット)に手を入れている理由、鳳唯一の技

指先で挟んだ小銭を水平に手首を使って投げ飛ばす【羅漢銭】

 

投げ終わった鳳は、そのまま指で銃を撃った後のような格好を取り、指先にフッと息を吹きかける

 

「さぁ~て、賊の頭に当てた今日の鳳ちゃんの得点はっ!?」

 

「勿論百点満点ですっ!」

 

パチパチと手を叩き賞賛すると、李通は直ぐに賊たちの手足を賊本人の衣服で縛り身動きを封じてしまう

周りで見ていた市井の民も鮮やかな鳳の技に賞賛の拍手を送り、鳳はそれに答えるようにウインクをしていた

 

賊を警邏中の兵に引渡すまでに、鳳の技を見て集まった子供達に得意げに賊を的にした【羅漢銭】を

見せようとするが、容赦の無い非道な行動だと李通に止められ心底つまらない顔をしていた

 

「さて、それじゃいこっか!時間もいい感じだし、食事に変更でも良いカモ。新城の新たな食を堪能しちゃう?」

 

「それは良い考えです。聞いたところによると、昭様が天で食していた拉麺と言うのが此処では食べられるそうで」

 

と天の食べ物に思いを馳せていると、目の前からは見知った姿。その人物は脇に竹簡を抱え

先程会った時のようにズンズンと道を進む。どうやら機嫌が悪いようだ

そして道に立つ鳳と李通に気が付くと、足を止め鳳を睨みつける

 

「あれだけの文官に囲まれて随分早かったわね」

 

「なぁに?心配してくださるの御姉様」

 

「御姉様なんて呼ばないでっ!そもそも貴女の方が年上でしょうっ!」

 

「では叔母様、そんなにカリカリしていると皺が出来ますよ~」

 

天下の往来で口喧嘩を始める二人、何時も直ぐに喧嘩は終わるのだが、性分だろう止めなければとオロオロしだす李通

 

しかし、何時もならそれほど長くは続かず、直ぐに終わるはずの喧嘩が終わらず、次第に加熱し

何か違う雰囲気に李通はあせってしまう。如何したのだろう、何時もはこんなに剣呑とした雰囲気じゃないと

 

鳳もまた、心の中で呟く(あれ?如何したの?さっきの事そんなに怒ってるの?)と表情には決して出すことは無いが

心の中では不安と疑問で一杯になってしまっていた。そしてつい何時もの癖、衣嚢(ポケット)に手を入れて

小銭をカチカチと鳴らしてしまう

 

「大体、アンタの服装だって気に入らないのよ!何よその格好、まるで男みたい。汚らわしいっ!」

 

「あ・・・ははははっ、参ったね」

 

何時もは言われない言葉、汚らわしいと言われつい平静を保っていた仮面が少しだけ崩れてしまう

ほとんどが笑顔の彼女、顔を曇らせることの無い鳳の横顔が悲しさと寂しさで曇ってしまい

李通は驚き、そして我慢できないとばかりに声を上げる

 

「取り消してくださいっ!鳳さんはっ、鳳さんは、荀彧様の為にっ!!」

 

「良いんだよ、りっちゃん」

 

怒りと悔しさを顔一杯に表し、涙を目じりに少し溜めた李通は、桂花に詰め寄ろうとするが

鳳に肩を掴まれて止められ、悔しくないのですかと見上げれば、何時もの優しい笑顔で首を振っていた

 

李通は思う、この人は、この人の想いが荀彧様に伝わっているはずだと思っていたのは間違いだったのか

会えば喧嘩ばかりしていても、本当は通じ合っているからこそでは無かったのかと自分のことのように唇をかみ締める

 

そして、鳳に手を握られ引かれるままその場を立ち去ろうとした時

 

「知ってる」

 

ぼそりと呟く小さな声に反応する二人、振り返れば桂花は変わらず真っ直ぐ鳳を睨んでいた

そしてその小さな手で胸を握り締め

 

「影でこそこそ男の文官を自分の方に向けさせたり、好きでもない男達と交流を持とうとしていたこと

その服だってそう、全部知ってるわ」

 

そして心底嫌そうな顔をして、脇に抱える竹簡を鳳にへと乱暴に投げ飛ばし

受け取った竹簡を広げて見れば、桂花には似つかわしくないもの、沙和のよく読む衣装の竹簡雑誌

そこには鳳に似合いそうな可愛らしい衣装が幾つも描かれていた

 

「そんな汚らわしい格好、何時までもしなくても良いわよっ!それに、あの文官達だって

自分で考えさせ無ければ伸びないわっ!」

 

「ケイちゃん・・・」

 

「フンッ、甘えさせるばかりじゃ成長しないわ。私はまだ仕事が残ってるの、こんなところでアンタ達の

相手なんかしてる時間なんて無いんだからっ」

 

吐き捨てるように早口でまくし立てると、くるりと踵を返してまた城のほうへと歩きはじめる

どうやら機嫌が悪いように見えたのは、彼女が鳳にどうやってこの竹簡雑誌を渡そうか悩んで

いたからのようで、それが解った鳳は苦笑する

 

そして最後に吐き捨てた言葉は、自分を甘やかさないでと言っているようにしか聞こえず

鳳の苦笑は満面の笑みに

 

(そっか、解ってたんだ・・・)

 

自分が今までしてきたことを全て知っていて、逆に心配されたことが心底嬉しく

つい瞳を潤ませてしまう。そしてそれを李通や周りの人間に悟られたくない彼女は

去り行く桂花に走り、追いつき

 

「なっ!」

 

 

 

 

「そっか~、心配してくれてたんだね。ありがとー!心配ついでにコレもいいかな?最近また大きく育っちゃって

肩こって仕方が無いんだよね、ケイちゃん背の高さがちょうど良いからさ」

 

驚き、次に青筋を立て、桂花の握りこぶしを作る手は震える

何故ならば、桂花の頭の上には自分には無い、そして決して持つことの出来ない脂肪の塊

桂花の心底憎むべき物体が彼女の頭上にコレでもかと言わんばかりに圧し掛かっているのだから

 

「アンタ、死にたいのね?そうなのね?私に殺して欲しいんでしょう?」

 

「えぇ~?鳳ちゃん死にたくないよぅ~、御姉様何を怒っていらっしゃるのぉ?」

 

「殺すっ!絶対に殺すっ!!」

 

猫撫で声で白々しく話す鳳に、頭上の胸を振り払い、振り向きざまに拳を放つが

鳳は桂花の頭を手で押さえ体を離す

 

身長差のある桂花の腕は届くはずも無く空を切り、そして手を突っ張ってしまえば桂花は掴むことも

殴ることも出来ず。まさに大人と子供の喧嘩状態

 

馬鹿にされたと怒り心頭の桂花はいったん後ろに飛びのき、笑顔で二人が仲直りしたと笑う李通から

槍を取り上げる。その様子に自分が今からされることを想像したのか、鳳は「ヤバイっ!」と一言

その場から走り出す

 

慌てて逃げ出す鳳に桂花はニヤリと笑うと槍を振り回し追いかける

李通はそんな二人を見て呆れ笑いを浮かべ、空を見上げれば日は高く青空に一匹のアゲハ蝶が舞っていた

 

「さて、それでは鳳さんを追いかけますか」

 

そう呟くと、李通は走り出す。姉のような自分の親友を助ける為に

 

 

 

 

その日の夜

 

「風邪引くぞ~、昼間走り回ったから疲れちゃったんだね~」

 

桂花の様子を伺いに、彼女の部屋へ足を運んだ鳳が見たものは、疲れきって蜜蝋に火をつけっぱなし

机に竹簡を広げその上に突っ伏して小さな寝息を立てて寝る桂花

 

 

 

 

鳳は風邪を引かないようにと桂花の体にそっと寝台の布団をかぶせ、蜜蝋の火を吹き消す

 

そして部屋からゆっくり音を立てずに退室しようと戸を開ければ、両手に大量の竹簡を持つ李通とばったり出会う

 

「どしたのそれ?」

 

「あっ、鳳さん。これは一馬さんと纏めた報告書です。荀彧様に眼を通して頂こうと思って」

 

「よし、それ私の部屋に運んじゃって!ケイちゃん寝ちゃってるから」

 

「えっ?」と少し驚くが、もう既に鳳の心を知っている李通は笑顔で「はい」と頷く

鳳は静かに部屋の戸を閉めると、首を左右に振りコキコキと鳴らす

 

「さ~て、もう一仕事しちゃいますかっ!」

 

と一言呟き、顔は笑顔。そして竹簡を抱える李通を先頭に廊下を自分の部屋へと進む

 

「あ、鳳さん。雑誌良かったですね、今度一緒に服を買いに行きましょうか?」

 

思い出したように振り向き、昼間のことを話す李通

 

「いいよー、でも服装は変えないけどね」

 

「えっ、何故ですか?」

 

「だって変えちゃったらケイちゃんに心配してもらえないじゃん!」

 

鳳は本当に嬉しそうに笑顔を作る。そんな彼女に李通も実に彼女らしと笑顔を返すのだった

 

私はアゲハ蝶だからね、大好きなケイちゃんの為なら、私に力をくれる優しい香りを持つ

可愛らしい花の為なら、私は全てをかけてやるのさ

 

鳳は空に浮かぶ満月を見上げ、う~ん!と小さく声を出し手を組んで背筋を伸ばす

そして愛する花を枯らさぬため、自分の進む道を真っ直ぐ見つめ足を進めるのだった

 

 

 

 

 

おまけ

 

AC711様の描いてくださったラフを此処に張らせて頂きます~

本当に有難うございました><

 

彼女の乳に挟まれたい(*´д`*) ハァハァ

 

 

 

 

 

 

 


 
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