由々しき事態なのではと思うようになったのは、秋頃からだった。
日々の稽古に勤しみ自分自身を磨くなかにあって、どうしてもボクの気持ちは心ここに在らずといった状態が続いている。
彼女と出合った夏から、いまは秋の入り口まできている。
ボクはあることに気づきつつあった。
「もしかしてキミは・・・・・・スカートの私服をもっていないのでは?」
「――はぁ?」
円卓テーブルの向うで紅茶の香りを楽しんでいる国崎くんが、瞳を真ん丸くさせてボクを見つめてくる。
人気の少ない静かな喫茶店の店内に思ったよりも大きい国崎くんの声が響いた。クラシックな音調のBGMが、虚しく聞こえてくる。
「いきなり、なんだよ?」
「ほら、キミっていつも男物のブレザー着てるじゃないか?」
「そりゃあ、学校だかんな。制服着ないでどうするよ」
「でもボクは、キミがスカートを履いているところを、数えるほどしか見ていない」
そうなのだ。
彼女――國崎出面は、女性でありながら幼少の頃より男として育てられ、自分自身もすっかり男だと思い込んでいる、可哀想な女の子。
この歌舞伎界のプリンスであるボクでさえ、一目で恋に落ちてしまうほどに可憐な美しさを内外に魅せつけている彼女は、男らしい性格のせいで女性ものの装いをまったくしない。
それどころか、男らしく育てすぎたからか、女形を厭い歌舞伎そのものを嫌悪してしまうという・・・・・・
とんでもないことなっているのだ。
人の好みに口出しするほど野暮ではないけど、梨園の御曹司――否、梨園の令嬢としてはどうかと思う。
まさかいつまでも男でいられるわけがない。そもそもボクがさせない。國崎くんを幸せにするのは、このボクだけ――!
と、固く信じているから。
そう、いつかは巡ってくるだろう二人のゴールイン。そこでは國崎くんも無理をせずに、ありのままの自分――つまりは女の子としての自分――をさらけ出せるに違いない。
だけど、そのためには。
そのためにはッ!!
「キミはもっと自分が女の子だということを自覚するべきだと思う」
「・・・・・・」
「その、キミだっていつかはさ、け、結婚とかしないといけないだろう?」
「・・・・・・そうだな」
「そのときにはやっぱり、ちゃんとした――ウエディングドレスとか、着るわけだし」
「・・・・・・ほーお」
「ただ、あっいや! キミが和式を望むのなら、白無垢になるけど、それでも」
「わかった。言いたいことはよっくわかった」
「! だから!」
「さっきからハゲたこといってんじゃねーーーーーッ!!」
「ギャーーーーーッ!!??」
なぜか顔面にロイヤルミルクティーをぶっかけられた。
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1年後輩の出雲(男)に恋をする紗英(男)。
ある日から紗英は、出雲に関する、ある重大事に気づいてしまう・・・。