No.182652

残された時の中を…(第1話)(0203/09/19初出)

7年前に書いた初のKanonのSS作品です。
初めての作品なので、一部文章が拙い部分がありますが、目をつぶっていただければ幸いです(笑)。
メイン北川君でカップリングは北川ד?”です。“?”の人物は第1部最後に明かされます。

2010-11-05 01:01:34 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:601   閲覧ユーザー数:592

  相沢祐一という人物が転校してきたのは今年の冬、ちょうど新学期が始まったばかりのことだった。

 

 

  彼はここに来てから、わずか一月も経たぬうちに5つもの奇跡を起こしたということで

 クラスの、いや、学校中の生徒の中で伝説的な存在になっていた。

 

 

  5つの奇跡のうち、彼の幼馴染で7年間植物状態だった月宮あゆという少女が

 目を覚ましたという奇跡、これは彼のクラスメイトの北川 潤のおかげだとも言われている。

 彼はただ、相沢に頼まれて探してあげた彼女の天使の人形を偶然見つけただけのことだったのだが…。

 

 

  それでも彼は五つのうちの一つ、それもほんの少しだけだったが

 彼女が奇跡を起こせる様きっかけを作ったことに関しては、誇りに思っていた。

 

 

  だが、それ以上に彼が心から喜んであげられる奇跡があった。

 それは、彼のクラスメイトであり、話し相手でもある美坂香里の妹、

 美坂 栞という少女が助かったことである。

 

 

  彼女はもともと重い病気を患っていて、2月1日の誕生日まで

 生きてはいられないとまで言われていた。それだけではなく、

 仲のいい妹を失い、悲しい思いをすることを恐れた香里は、栞を無視していたのだ。

 

 “あたしに妹なんていないわ”

 

 彼が栞のことについて聞くと、冴えない表情でいつもこう返していた。

 そんな香里の力になれぬ自分に北川は不甲斐なさを感じたこともあった。

 

 

  そんな中、奇跡が起きて栞は助かった。それだけでなく、

 香里と栞が仲直りをして、香里にも笑顔が戻ってきた。

 

 

  美坂姉妹の関係がここまで修復したことに関して、彼は相沢祐一に心から今も感謝している。

 自分ではどうすることも出来なかったクラスメイトがここまで明るくなってくれたのだから…。

 

 “本当に良かった…”

 

 

  こうして、相沢祐一のおかげでもう何も悲しみは起こらないと誰もが信じてやまなかった。

 

 

  だが、もう起こらないと決まったわけでもなかった…。

 

  いつもの様にその日の授業が終わり、北川は掃除やら部活動やら

 すべきことがなかったので、そのまま帰ろうと廊下を歩いていたところ、

 前方を見覚えのある人物が少し疲れた様子で歩いていた。

 

 

 「よう、相沢。疲れてるみたいだけど…?」

 

 「お前も分かってるだろ…?皆から弁当攻めにあってたんだよ…!

  おまけにそのあと体育で1,500m走があったから、

  まだ胃の中にたっぷりと飯が残ってる状態で

  走らされて気持ち悪くなったしで…。

  頼む北川。明日も手伝ってくれ」

 

 「ははは…、もてる男って辛いねぇ…」

 

 「人事の様に言わないでくれ…。お前から見れば羨ましいかもしれないが、

  俺は俺で大変なんだよ。さっきはさっきで皆から弁当攻めにあうし、

  放課後は放課後で、名雪やら栞やらに奢らされるし…。

  俺が断ろうもんなら、名雪が

 

  『今日から祐一紅しょうがご飯だね♪』

 

  って脅してきやがるし…(あの目覚ましも使ってきそうだし…)。

  そろそろ懐が寒くなってきやがったんだ…。俺もうこの町出ようかなぁ…?」

 

  祐一が涙目で中身のほとんど残っていない財布を振る。

 今にも北風が吹いてきそうな勢いだ。

 

 

 「ははは…。そんなこと言うなって…。今の皆があるのも、

  全てお前のおかげなんだ…。お前がいなくなったら、きっと皆悲しむよ…。

  せっかく皆幸せ掴めたのに…」

 

  少し寂しげな表情で祐一に語りかける北川。

 いつもの北川らしからぬ様子に祐一は少し違和感を感じた。

 

  が、彼が雰囲気を出す為にした演出だろうと、すぐにそれは消える。

 

 

 「じゃ、俺はもう帰るから」

 

  そう言って、北川は階段を下りていった。

 

 

 

  靴を履き替え、今日の晩飯は何にしようかと考えながら歩いていたところ、後ろから

 

 「北川さん」

 

 と呼びかけられ、振り返ってみれば彼がよく知っている少女がそこにいた。

 

 

  天野美汐(みしお)。北川 潤の幼馴染であり、祐一が昼休みに皆からの

 弁当攻めにあっていた屋上前の踊り場にもいた少女である。

 

 

 「天野か…」

 

 「奇遇ですね、北川さん。途中まで一緒に帰りませんか?」

 

 「真琴ちゃんはどうしたんだ?」

 

 「今日も相沢さん達と一緒に帰るそうです。

  今日も肉まん奢ってもらうんだと嬉しそうに…」

 

 「結構大変なんだな…。相沢は…」

 

 「ええ…、でもああ見えて本当は嬉しいんだと思いますよ…。

  本当ならあの子はもうここにはいなかったはずでしたから…」

 

  空を見上げて少し寂しげに、でも嬉しそうに呟く。

 

 「そっか…。それもそうだよな…」

 

  北川も嬉しそうに呟く。

 

 

 

 

 

 「なぁ、天野…」

 

 「何でしょうか?」

 

 「相沢にあって、俺にないものって一体何だろう…」

 

 「いきなりそう言われてましても…」

 

 

  北川からの質問に少し戸惑いを見せる美汐。

 

 

 「相沢はここに来て一月足らずで、5つもの奇跡を起こした。

  あゆちゃんを始めとして、水瀬のお母さん、真琴ちゃん、栞ちゃん、川澄先輩…。

  あいつはこれだけの人を救ったんだ!周りの人も…!

  それに比べて、俺は何も出来なかった!

  クラスメイトの美坂にさえ…、友達がいなくなって悲しんでたお前にさえ…、

  何も…、何もしてやれなかった…!」

 

 

  悔しそうにうつむく北川を慌ててなだめる様に、

 

 「北川さん…! そう自分を責めてはいけません…!

  私から見て、あなたと相沢さんに違いなんて殆どないと思います。だから…」

 

 「じゃあ何で相沢はあれだけの奇跡を起こせたんだろう…!?

  俺とあいつに違いがなければ一体何で…?」

 

 

  少しためらいつつも美汐は答えた。

 

 「その人達への想いが…、相沢さんの方が強かったからだと思います。

  北川さんも強かったと思いますが、それ以上に相沢さんの方が

  ほんの少しだけ上回っていた…。でもそれだけの話です。

  違いなんて殆どないと思います。」

 

 「じゃあ俺はほんの少しの為に、ここまであいつに差を付けられたのか?

  はは…、何か自分が情けなく思えてきた…。」

 

  自嘲気味に呟く北川に対し、美汐は優しく言葉をかける。

 

 

 「そんなことはありませんよ…。

  今の私達がいるのは、あなたのおかげでもあるんです。

  あなたがいなければ、ここまで皆楽しく過ごせたかどうか…。」

 

 「天野…?」

 

 「あの時あの子が私の目の前からいなくなって、

  悲しみのどん底にいた私を他の皆は避けていた中、

  あなただけは優しく、そしていつもと変わらない口調で話しかけてくれました。

  あの時はあなたのお節介振りに腹が立っておりましたけど、

  今思えばそれが今の私に繋がったのだと実感しています」

 

 

 「そんなに俺、大したことしてたつもりはなかったんだけど…?」

 

 「いえ、あなたの笑顔を思うたびに私は悲しみのどん底から

  少しずつ這い上がっていけたのだと思います。

  真琴の時も最初は避けていたんですが、

  その時もあなたは私を励ましてくださいました。

  それが真琴に接する勇気を私にもたらしてくれた…。

  そして、この世にはもういなかったはずの真琴が

  戻ってきてくれた時にはどんなに嬉しかったことか…!」

 

 「天野…」

 

 「私だけじゃない…!

  栞さんを失うことによる悲しみを恐れて、美坂先輩が栞さんを避けていた時も、

  あなたは美坂先輩に優しく、そしてさりげなく話しかけていたと聞いております。

  それが病気だった栞さんと向き合う勇気をもたらし、

  そして栞さんも病気が治って、今に至ったのです」

 

 「そうかなぁ…?俺そこまで…?」

 

 「栞さんは嬉しそうにおっしゃってましたよ。

 

  『お姉ちゃんと仲直り出来たのは、北川さんのおかげです』

 

  と。それにあなたはあゆさんの人形を見つけたんです。

  あなたはもう十分に皆の力になれたのです。だから…」

 

 「自信を持っていいってことか?」

 

 「その証拠に、卒業した川澄先輩や倉田先輩も含めて

  皆あなたにお弁当を分けてくださっているじゃないですか。

  相沢さんと同じくあなたのことも信頼してくだってるってことですよ」

 

 「そっか…、それもそうだよな…。

  でも栞ちゃんの場合はハンパじゃなくでかいから、

  俺も手伝ってやんねえとなかなか減らないからな…」

 

 「クスッ、それもそうですね…」

 

  いつもの北川に戻ったことに美汐は微笑んだ。

 

 

 

 

 「ところで、北川さんは何でそんな話を私に持ちかけたんですか?」

 

 「ああ…、さっき相沢と廊下で会ったんだけど、

  あいつ水瀬達に奢らされてるって聞いてね…。

  それはそれで大変そうだったけど、言い換えれば、

  それだけあいつが頼りにされてるってことだろ?

  昼間もあいつの方が皆から向けられてる笑顔が多かったみたいだし…。

  そう考えたら自分があいつより存在が軽い気がして何か情けなく思えてきたんだ。

  でも今のお前の話を聞いて何かホッとしたよ。ありがとう」

 

 「いえ…、北川さんに落ち込んでいる姿は似合わないですから…」

 

 「それもそうだな…」

 

 

  その後、二人の間で取り留めもなく会話が続いた。

 が、やがて十字路に差し掛かり、

 

 

 「それじゃ、俺はこっちだから…」

 

 「そうですね。それでは失礼致します。お気を付けてお帰り下さい」

 

 「ああ、天野も気をつけてな。じゃあな」

 

  そういって二人それぞれが帰路に着いた。

 

 

 「祐一、あーん、だよっ♪」

 

 「ちょ…、ちょっと待って…」

 

 「祐一さーん、佐祐理が作ったおかずもいかがですかー?」

 

 「祐一…、私が作った牛丼も食べて欲しい…」

 

 「祐一さーん、私が作ったお弁当全然減ってないですよー!」

 

 「あうーっ。名雪ばっかりずるい。

  真琴にも祐一にあーんさせてっ」

 

 「ちょっ、ちょっと皆待って…(@∇@;)」

 

 

  翌日の昼休み、屋上前の踊り場ではいつもの様に

 女子達による相沢祐一争奪戦が繰り広げられていた。

 

 

  そこには、冒頭で紹介した相沢祐一を始め、

 彼の幼馴染であり、下宿先の娘でもある水瀬名雪、

 祐一に続いて新たに水瀬家の居候となった沢渡真琴、

 祐一のクラスメイトである美坂香里と妹の栞、

 すでにこの学校を卒業した倉田佐祐理と川澄 舞、

 沢渡真琴の保護者的存在である天野美汐とそして、

 

 

 

 

 

 

 

 「栞ちゃん…、いくらなんでもこれ全部食えってのは…」

 

 「えうー、北川さんいつも私が祐一さんに作ったお弁当の残りを

  美味しそうに食べてたから、せっかく北川さんの分も

  朝早く起きて作ってきてあげたのに…」

 

 「でもこれ優に3人前はあるんだよ…。

  相沢と二人で食っても多い位だったのにそれを一人で食えってのは…」

 

 「北川君…、栞にこれ以上何を言っても無駄よ…。

  観念して全部食べることね…」

 

 

 

  相沢祐一の他に、美坂 栞が作ったもう一つの3人前の弁当と

 格闘している少年、北川 潤であった。

 

 

  彼も去年は祐一達と同じクラスに在籍していたが、

 クラス替えと共に、美坂チームと呼ばれたグループから

 唯一人離れることとなったのだ。

 

 

 「誰か手伝って…」

 

 「ダメです。せっかく作ってきたんです。

  残したり、他の人にあげたりする人なんて嫌いです!」

 

 「そ…、そこまで言わなくても…。

  大体俺が相沢の分を取っても何も言ってなかったのに…」

 

 「北川さんにはともかく祐一さんが他の女子に分けてたら、

  それこそ祐一さんは人類の敵です!」

 

 「そこまで言うか?俺だって名雪達から弁当攻めにあってるんだぜ!?

  こんだけの量一人で食える人間なんて絶対に…」

 

 「います!ある目が見えない女生徒は10人前のカレーくらい楽勝で…」

 

 

  「「「違うゲームの人間だからここには絶対にいない!」」」

 

 

 「えうー…」

 

 「まあ、残した分は今日の晩飯のおかずにでもするよ。

  だから今日はこれくらいでいいかな?」

 

 「それならいいですよ」

 

 「じゃあごちそう様」

 

 

 

 

 

 

 

  美汐が魔法瓶から注いでくれた紙コップの温かい煎じ茶を片手に

 皆がのんびりとくつろいでいる時だった。

 

 

 「そういえば、北川さんの誕生日っていつなんですか?」

 

 

  栞が突然質問してきた。

 

 

 「ああ、そういえば俺はまだ北川の誕生日がいつなのか、

  聞いてなかったな。おい北川、いつなんだ?」

 

  続々と視線が北川に向けられてくる。

 

 「そういえばまだ言ってなかったっけ?まあいいや。

  俺の誕生日は4月18日だけど…」

 

 

  「「え…、4月18日って…。

 

 

 

  明日(なんです)(なの)かー!?」」

 

 

 

 「まあね…。でもそんな驚くことでもないと思うぞ?二人とも」

 

 「だってせっかくの誕生日が明日なのに、

  それを黙っているなんてもったいないですよー!」

 

 「別にこの年になっていちいち報告する様なことでもないと思うんだけどな…?」

 

 「でも場の雰囲気から、

 

  『ふっふっふっ…、聞いて驚くなよ…?諸君。

   実は…、明日なんだよな~♪俺の誕生日は♪』

 

  てくらい、お前ならかましてもいいような気がするんだが…?」

 

 「そ…、そこまでは出来ねぇな…。何か恥ずかしいし…。

  でも、俺は一人暮らしだから誕生日って言われても

  ほとんど考えてる余裕がないんだよな…、生活費稼がなきゃならないから」

 

 「一人暮らしなんですか…?大変なんですね…」

 

 「なあに…、ここに入学してからだからもう慣れてるさ。

  それに一人暮らしって言っても、仕送りも多少してもらってるし…」

 

 「でも誕生日を一人で過ごすって言うのは寂しくないですか…?」

 

 「そうでもないさ…。去年も美坂や天野からプレゼントくらいは貰ってたから…」

 

 

  そうは言うものの、空を仰いでいる北川の表情はどことなく淋しげだった。

 

 

 「それなら明日、佐祐理の家で北川さんの誕生日パーティーを

  やりませんか?ねー、舞?」

 

 「はちみつくまさん。すごくいい」

 

 「え…?」

 

  突然の佐祐理の提案に北川の思考が一瞬凍りついた。

 

 

 「北川の誕生日パーティーか…。いいねぇ!」

 

 「北川君へのプレゼント何がいいかなぁ?香里」

 

 「受験参考書なんてどうかしら?」

 

 「あうー、真琴は何にしよう?肉まんがいいかなあ?」

 

 「肉まんより文庫本なんていかがですか?真琴」

 

 「ふっふっふ…。今日は北川さんのために

  腕によりをかけていっぱいお料理やお菓子を作ってきますよ」

 

 

  北川だけが凍りついている中、それぞれが北川の誕生日で盛り上がっていた。

 

 

 「ちょ…、いきなりそんな…」

 

 

  我に返った北川が慌てて鎮めようとする。が、

 

 

 「あははーっ!北川さんは全然気にしなくていいんですよー!

  佐祐理はいつでも北川さんのことを歓迎しますから」

 

 「はちみつくまさん。私も北川を歓迎する」

 

 「でも…」

 

 「せっかく佐祐理さんがここまでしてくれるんだから

  遠慮すんなよ?それに断ったらかえって悪いぜ?

  それとも明日バイトかなんかあるのか?」

 

 「いや…、いきなりだったし…。

  それに俺みたいなのがいてもかえって場違いなんじゃないかって思ってさ…」

 

 「だから大丈夫だって。お前がいなきゃ何も始まらねえよ。

  皆こうしていられんのはお前のおかげでもあるんだ。

  そのお前が遠慮する必要なんて全然ないと思うぜ?」

 

  「「「北川(さん)(君)…」」」

 

 「うーん…」

 

 

 

 

 

  少し迷いを見せたものの、北川は素直に佐祐理の好意に甘えることにした。

 

 

 「それじゃ決まりですね」

 

 「何時くらいから大丈夫だ?」

 

 「明日は学校が終わってからずっと暇だけど」

 

 「なら、明日は5時くらいからで宜しいでしょうか?」

 

 「はい。ではお願いします」

 

 「あははーっ!御安い御用ですよ!」

 

 

   やがてチャイムが鳴り、各自そのまま教室へ、

 佐祐理と舞は通っている大学へと戻っていった。

 

 

 

 

 「ねえ祐一」

 

 「何だ?真琴」

 

 「ところでさっき北川の誕生日がどうとか言ってたけど、

  誕生日って何?食べられるの?面白いの?」

 

 「お前なぁ…。今まで誕生日の意味も知らずに会話に加わっていたのか?」

 

  祐一が呆れた様子で真琴を見る。

 

 「あうー…。だって…」 

 

 「いいか!?誕生日ってのはな…」

 

 「その人が生まれた日のことを指すんですよ。真琴。

  1年に1回しかない特別な日で、その日ごとにその人は成長していくものなのです」

 

 「ふうん…。そうなんだ…」

 

 「あ…、天野…。俺がこいつに言おうとしてたことを…」

 

 

  祐一が言うより早く、美汐は真琴に説明した。解り易く、かつ正確に。

 

 「じゃあ祐一は真琴に何て説明しようとしてたの?」

 

 「俺も天野と同じことを言おうとしてたんだよ!」

 (本当は北川がもっと野獣になる為の男にとっては試練の日と言おうとしたんだが…)

 

 

  「「(祐一)(相沢さん)! 真琴にそんなウソを教えたらダメ(だよ)(ですよ)」」

 

  名雪と美汐に同時に突っ込まれる。

 

 「何ー!!?お前ら俺の考えてること分かるのかー!?」

 

  「「全部口に出して(たよ)(ましたよ)」」

 

 (またか…。また口に出してしまったのか…。いい加減このくせを直さねば…)

 

  そう思う祐一だった。

 

 

 「あうー!祐一ぃ!また真琴にウソを教えようとしてたの!?」

 

 「いや…、全部がウソって訳でもないんだが…」

 

 「アンタの言い訳なんて全然当てになんかならないわよ!今夜は覚悟しなさいよ!」

 

 

  また真琴のイタズラによる夜中の悪夢が始まるのか…。

 そう考えたか、最後に無駄だと分かりつつ悪あがきを試みる。

 

 「なあ真琴・・・。大体男なんてそんなもんだって。

  男ってのは誕生日に女と一緒なら流れ的に…」

 

 「そんなエッチなこと考えてるのは祐一だけだよ…!?」

 

 「どういう意味だよ?」

 

 「言葉通りよ」

 

 

  その現場の一部始終を見ていた香里に突っ込まれ、祐一はあえなく撃沈。

 

 

  そんなやり取りを尻目に北川は微笑しつつ、教室に戻った。

 

 

  やがてその日の授業が終わり、この後はアルバイトがあったので、

 北川は足早に校門を出て、そのまま勤務先へと向かった。

 

 

 「誕生日会かぁ・・・。そう言えば最後にしたのはいつだったかな…?」

 

 

  ふと思い返してみる。

 

 

  北川が最後に誕生日パーティーをしたのは、中学3年生のことだった。

 彼の母親は彼が物心つかない頃に他界し、それからは

 彼と彼の妹で双子の姉妹の姫里(きさと)と空(くう)、

 それに父親の4人で暮らしていた。

 

 

  当時は大変だったものの皆で支えあい、幸せに暮らしていた。

 

 

  だが彼の最後の誕生日会から間もなくして、父親は自動車で買出しの最中、

 信号無視の車と衝突し、それがもとで他界した。

 同乗していた北川もまた意識不明の重傷を負ったが、奇跡的に助かった。

 

 

  残された3人は親戚に引き取られたが、北川だけは

 中学卒業と同時にここに来て一人暮らしを始めた。

 親戚にあまり負担を掛けたくないということもあったので、

 親戚の同意のもと、ここに引っ越して高校に入学し、今に至る。

 

 

  本当は別の理由もあったからなのだが、今はあえて伏せておこう。

 

 

 

 

 

  やがて交差点を差し掛かり、青信号だったので

 そのまま横断歩道を渡り始めたその直後だった。

 

 

  突如、スポーツカーが減速せずそのまま左折してきたのだ。

 とっさに逃げようとしたが、恐怖からか足が竦んで動かなかった。

 

 

   キ キ キ キ キ ー ー ッ ッ ! ! 

 

 

  急ブレーキのスキール音が響き渡る。

 だが、もう遅かった。

 

 

   ド ン ッ ! !

 

 

   鈍い音と共に北川の体が宙に舞い上がり、

 

 

   ド サ ッ ・ ・ ・

 

 

 そのまま地面に叩きつけられた。

 

 

 「高校生がはねられたぞー!」

 

 「救急車呼べー!!」

 

 

  突然の交通事故に交差点一帯が騒然となる。

 

 

  その一方で、北川は突然のことに何が起きたのかを理解出来ずにいた。

 

 

  襲い掛かる激痛と多量の出血により意識が朦朧としている中、

 北川は自分が事故にあっていることをようやく理解した。

 

 

  「俺…、もう…、死んじまうの…、かな…?」

 

 

 

  自分の体から流れ出た血の海を見て、息も絶え絶えにつぶやく。

 

 

  やがて、そのまま静かに瞳を閉じた。

 


 
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