【白雪逃げ出す】
「で、どうするのだ? 紳士。
俺はつかまるつもりは一切ないからな」
「私としても、逃がすつもりはありませんよ。
…それにしても、このお菓子はおいしいですね」
「おい、人の話を聞いているのか!」
「聞いてますよ、もぐもぐ」
(はっ…そうだ。
こいつがお菓子を食べている間に
逃げればよいのだ。俺ってば頭いいな)
白雪は、こっそりと風乃宅から抜け出した。
【白雪つかまる】
「よし、ここまでくれば大丈夫だな。
風乃には悪いが、俺は逃げねばならんのでな。
…ん!? なんだ!?」
白雪の目の前に、細長い何かがうごめいていた。
夜の暗闇は深く、目を凝らしても、よく見えない。
「うわっ!?」
細長い何かは、白雪に飛びつく。、
あっという間に、白雪の全身をぐるぐる巻きにする。
「く、くそっ…こんなにきつく
巻きつきやがって!
身動きがとれん!
こいつ、何者だ!?」
街灯の明かりが、細長い「何か」を照らし出す。
「へ…蛇、だと!? なぜこんなところに!?」
「その理由は、私が教えて差し上げましょう」
「な…南国紳士! この蛇は、お前のしわざか!」
「いかにも。
あなたに巻きついているその蛇は…ハブです。
沖縄の蛇で、猛毒を有しています」
「なんだと!?」
「もっとも、あなたにまきついているそれは
本物のハブではありません。
枯れ枝や土で生成した偽者です。
リアルでしょう?」
「あ、ああ…ものすごくリアルだな。
結構細長いし、いろんな縛り方ができそうだな?」
「はい、いろんな縛り方ができますよ。
たとえば」
「こんな縛り方」
「こういった縛り方も」
「自由自在です」
「お、おお!
すごいな。さすがだ。
ところで、紳士。
あれも縛れるのか?」
白雪は、路上においてある車を指差す。
「造作もないことです。
とくとご覧あれ」
紳士は、白雪の身体からハブの呪縛を解くと、
車にハブを飛び移らせた。
車はあっという間に、ぐるぐる巻きにされ、
プレゼントのリボン状に結ばれた。
「ほら、車がくるまってますよ」
にっこり笑う紳士。
「…って、あれ?
白雪様!? どこへ行ったのですか!」
南国紳士の前の前に、白雪の姿はなかった。
【ハブだらけ】
白雪は、ハブの呪縛から逃れることができたので、
そのまま逃走をはかっていた。
「くっくっく、紳士も馬鹿だな。
俺を縛っていたハブを解いたら、
逃げるに決まっているだろう?」
白雪は、走る、走る、走る。
とにかく、遠い場所まで逃げなければならない。
南国紳士につかまらないためにも。
「ここまでなら追ってこれまい」
勝利を確信した白雪だった。
「うぼっ!?」
白雪は、転んだ。
アスファルトの道路に顔面を打ち付ける。
「馬鹿な。
この俺が、何もないところで転ぶはずが…」
白雪はちらりと足元を見た。
何かが、白雪の脚にからまっている。
それは生きている。
まぎれもなく、それはハブ。
「ハ…ハブだと!?
馬鹿な、こいつさっき車を縛っていたはず!」
「こんなところにいたのですか。
探しましたよ。
白雪様、もう少し大人しくしてくれると
嬉しいのですが」
暗闇の向こうから、南国紳士が現れる。
「紳士…!」
「私の操るハブは1匹だけじゃありませんよ。
市内中のいたるところにハブが潜んでいます。
それらは、すべて私の意志で操ることができます。
あなたの脚にからんでいるハブは、下水道に潜んでいました」
「げ…下水道だと!」
「そうです。驚いたでしょう?
ハブが下水道にひそんでいるなんて」
「汚いではないか、この馬鹿者!
俺はさっき風呂に入ったばかりなんだぞ!」
「…申し訳ございません」
紳士は、丁重に頭を下げた。
次回に続く!
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【前回までのあらすじ】
風乃は、夜の校舎をうろつくのが大好きな女の子。
ある夜、風乃は家庭科室冷蔵庫にて
「白雪」という雪女に出会った。
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