No.181692

TINAMI学園祭! 第1話:予算

マメシバさん

あの・・よろしくお願いします。

2010-10-31 20:47:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:659   閲覧ユーザー数:646

第1話:予算

 

私立TINAMI学園では10月の第2週週末に文化祭を開催する。

今年、すなわち2010年は10月8日、9日である。

正式名称は遊促祭。

開催に先立ち、生徒会長を議長とした運営会議が開かれる。

今日はその最終日である7月23日金曜日。

放課後、3年A組の教室に30人強の学生が集まっている。

強制ではないので全員ではないが、文化祭に出展するクラスや部の代表だ。

黒板の前に並ぶのは遊促祭実行委員会・・すなわち生徒会執行部。

 

窓側の隅に椅子を置き、膝の上に両手を突っ張り、ちょこんと座っているのは顧問の江頭弐子(えがしら にこ)先生。

小柄な若い女教師。

国語の先生でのんびりした性格。

笑顔を絶やすことがなく、我が校では癒し系の愛されキャラとして位置づけられている。

料理が大好きで、料理部の顧問をしている。

今回のような重要な会議が無い限り、生徒会には来ない。

なぜか不良連中はエガちゃん先生に対し、なんと言うか腰が低い。

清楚な大人の女性が、悪党共通の弱点なのだろうか?

平和な我が校に不良らしい不良はいないのだが、他校のたちの悪い奴らもエガちゃんに頭が上がらないようだ。

壱子という姉、参子という妹がいるらしい。

 

教壇に立つのは生徒会長の質寺紀章(しちじ のりあき)先輩(2年)。

見た目はごく普通。

標準体型、薄い顔立ち、フツーに真っ直ぐな短髪。

強いて特徴を挙げるなら、童顔ってことになろうか?

成績はきわめて良好。

我が校は成績を公表しないが、あるスジから漏れ伝わる情報によれば、学内のペーパーテストは1位固定。

全国模試でもトップ10に居座り続けている。

その頭脳は”コンピューターで強化されているのでは?”と疑われておかしくないほどで、若くして国際的な高IQ団体Mensa(メンサ)の幹部も勤めている。

運動神経はその頭脳ほど優秀では無い様だが、体育の先生が最高の評価をためらうほどではない。

社交的でも活発なほうではなく、その能力と裏腹に目立たない。

同級生からはノリと呼ばれているもよう。

 

会長の(向かって)左側に立っているのは副会長の蜂児湖絆(ほにこ きずな)先輩(2年)。

会長を尊敬・・いや≒神と崇めている。

11歳の頃から会長のストーカーをしていた、とても気持ち悪い残念な美少女。

違う学区でありながら、秘密の手段を用いて会長と同じ中学に進学することに成功。

はじめは尾行や盗撮、盗聴、そして下着ドロ程度で満足していたのだが、まもなく彼の私生活をバレないようにサポートすることにこれ以上無い喜びを感じるようになる。

だが、3年生になる頃にはさらに近付きたいという、気持ち悪ぅ~い欲求に抗えなくなっていた。

高校に進学してからすぐに暗躍。

質寺紀章を生徒会長の座に座らせ、自分がその側近・・副会長になることに成功した。

全く、裏アンケート”守ってあげたい美少女”のNo.1に選ばれた、可憐な容姿からは想像もつかない気持ち悪さだ。

オレに言わせれば”縁を切りたい病気持ちNo.1”。

 

廊下側に机を置き、ノートに忙しく記録を取り続けているのはオレ、1年の駆路智国(かけじ ともくに)。

身長175cm、キツネ顔。

成績は悪くないはずだ。

入学してすぐにバトミント部への入部届けを出したのだが、翌日”生徒会配属になったので、放課後B校舎3階の生徒会室に来るように”というナゾの連絡をうけた。

HRのとき、担任の先生からだ。

早速職員室に行き、バトミントン部はどうなったのかと顧問の先生を問い詰めたが、知らぬという。

目が泳いでおり嘘だ何かを隠していると直感したが、圧力に怯える先生をそれ以上追い詰めることは、オレにはできなかった。

生徒会室に入って、ある意味すべてを理解した。

オレ「あぁ、なんだ・・絆先輩かぁ。」

彼女はにっこりと微笑んでいた。

実は彼女は幼馴染のお姉さんなのだ。

彼女の会長に対する破廉恥な違法行為の片棒を担がされてきたのだ。

オレは・・ずっと・・

中学2年の終わり。

最初の進路調査で担任の先生の前に母と座ったとき、すでにTINAMI学園を目指すものとして話が進んでいた。

話はきわめて自然に進行。

それでいて他の選択肢を絶対に受け付けない、決死の緊張感が漂っていた。

すごく恐ろしく、こわばった顔でいやな汗をかきながら、逆らうこともできず、押し黙って二人の話を聞いていた。

受験直前の日曜日。

脱ぎたて品の補充のため、下着ドロの見張り役をやらされていたときだ。

オレと副会長は好機をうかがい、床下に潜む。

副会長はオレの顔色が冴えないなどと、珍しく心配してくれた。

病んだ魂に残っていたゴマ粒ほどの人の心に、オレは感動したものだ。

TINAMI学園1校しか申し込んでないから、落ちるのが怖くて眠れないと打ち明けると、彼女は眉をしかめ首をかしげていた。

副会長「あなた・・入学試験を受けるの?」

オレ「言っておきますが、合格の可能性すらぶん投げる気はありませんから。ええ、受けますよ!」

副会長「しぃぃぃ・・声が大きいぃっ。」

絆先輩はオレがキレた理由を理解できないでいる様子。

副会長「ふ、ふーん。受けなくても良いのに・・まぁいいんじゃない?記念ってことで。」

オレ「記念受験・・落ちるの前提かよ!?」

このときは言葉の意図を誤解してそう言った。

 

さて、話を戻そう。

遊促祭の全てが決まり、運営会議が終わろうとしている今、シャーペンを持つオレの右手は小刻みに震えていた。

会長「異議なければこれで決定とする。」

我慢できずオレは震える手を天に突き上げた。

やっと帰れると思っていた学生たちから、ため息や舌打ち。

会長「駆路、なんだ?」

オレ「ええとですね、今一度、見積もった費用の総額を発表したいのですが。」

会長「税込みで20億3千百24万5千6百61円だろう?」

副会長「ノリくんは10桁くらいの数字、一度聞いたら覚えちゃうのよ。」

オレ「へーすごいですね(棒読み)。じゃあ、我が校の文化祭予算を発表いたします。」

会長「200万円だろう?」

副会長「ノリくんがそのような簡単な数値を忘れるはずが無いでしょう?」

オレ「それはしつれいしました(棒)。それでは予算と見積もりの関係を、的確にあらわすことわざを発表いたします。」

会長「ほう、それは聞きたいな。」

オレは席を立ち、チョークを手に黒板に書きなぐってやった。

怒りを込めて、力の限りな!

 ”無い袖は振れない”

書いている間、チョークはバキバキと折れていった。

オレ「予算の1千倍を超える見積もりをするとは正気ですか!?」

怒りに震えた指先は、自然と顧問江頭の方を向いていた。

オレ「先生も先生です。どうするんですか、これ?」

オレの書いたことわざを、しげしげと眺める会長。

会長「駆路の認識は間違っているな。」

副会長がオレの書いたことわざを消し、会長にチョークをうやうやしく手渡す。

手渡すとき、副会長はぎゅっと会長の手を握り、手の甲をさわさわと撫でた・・キモ。

不快な顔をして手を引っ込める会長。

その気持ち、よく解ります。

そして会長は書いた。

 ”限界を超えてゆけ!”

オレ「厨煮スローガン!イラネーッッ!!」

会長「TINAMIにこれは、先々週キャッチコピーを検討したとき、駆路が出してくれた案だ。」

オレ「すいませんでした。本当に勘弁してください。」

ああそうだ、そして食らったよ失笑ってやつを。

精神衛生上の理由から、記憶の隅に追いやっていたのだ。

副会長「あらぁ、ジャンピング土下座なんて始めてみたわぁ。」

会長「駆路、もういいな。」

オレ「くっ・・」

席に戻り予算案を見ると正門のゲートが1億2千万円。

宣伝費が5千万円。

予算の200万円では、遊促祭終了後大量に発生するゴミの廃棄費用にもならない。

総額20億円超・・どうする気なのだ?

涙を浮かべたオレの目は、今一度エガちゃんに訴えていた。

何とかしてくださいと。

江頭「うーん、そうねぇ・・汚(けが)れたお金でよければ5億円くらいは・・」

オレ「うぉあ!?待て、待てっ!!」

教室の全員に向かって、両の手で待てのポーズをした。

オレ「今、ぜーんぶ突っ込むから、話を進めずに待て!」

オレは大きく息を吸った。

オレ「何とかしてって、そっちじゃねぇ!見積もりが200万円切るように指導しろ!!汚れたお金ってなんだよ!奇麗な金使えよ!俺たちの青春の一ページに何する気だ!あと!アンタ何者だぁああぁぁっっ!!!!」

一息で叫びきったので後半声はかすれ、言い終わった後ちょっと咳き込んだ。

会長「がんばったな。」

ぽんと置かれた手を払いのけはしなかったが・・肩に手を置かれる筋合いは無いぜぇ~。

オレたちの意見はまだ、天文学的な距離で並行しているのだからな。

江頭「駆路くんは用心深いのね。先生見直しちゃったわ。了解よ。お金はちゃんと洗って足がつかないようにしておくわ。」

オレ「ほんともう、オレそういう世界に免疫無いんで、勘弁してください。」

副会長がぷぷっと可愛く噴出した。

そうだった。

オレ、この人に付き合ってきた以上、決して綺麗な人生とは・・

オレ「ぐ・・」

なんか泣けてきた。

心が痛いよ、母さん・・母さんゴメンよ。

 

そのまま、なし崩しに会議は終了。

皆、退出しながら「さすがオチ担当」と声をかけてゆく。

そうなのだよ・・

本当に誰が考えたのだろう?

生徒会の3人の名を読み替えたジョーク。

 会長   質寺紀章  7時、起床

 副会長  蜂児湖絆  8時、御飯

 オレ   駆路智国  9時、遅刻

遅刻のオレがこのネタ・・転じて生徒会のオチってわけだ。

こんなのすぐには思いつかないだろう?

わざわざ流行らせる理由も無い。

生徒会活動を除いて会長はフツーに地味だから、不特定多数の生徒に話題にされることもないからね。

ところがこの小ネタは生徒会の3人がそろった直後に発生し、あっという間に広がったのだ。

いったい誰が考え、どのような経路で広まったのか?


 
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