No.178988

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 拠点・馬超、馬岱、亡き母よりの叱責を届けられるのこと

狭乃 狼さん

さて、刀香譚最終拠点シリーズ、第五弾です。

これが、刀香譚における最後の拠点となります。

今回も前回同様、どたばたは無しです。

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2010-10-18 15:29:56 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:10947   閲覧ユーザー数:9494

 

 公孫賛と張飛達が綿竹関を落とした、その翌日。

 

 時はそこまでさかのぼる。

 

 関の中の会議場にて、公孫賛たちの下を、一人の女性が訪れていた。

 

 「李恢、字を徳昂にございます。お目通りいただき、感謝いたします」

 

 「私が公孫賛だ。一応、この関の責任者を勤めさせてもらっている。それで、一体何の御用でしょうか」

 

 「翠と蒲公英、いえ、馬超・馬岱の二将に、面会をさせていただきたく」

 

 「あの二人とお知り合いなんですか?」

 

 拱手をしたままひざまずく李恢に、徐庶が問いかける。

 

 「はい。翠の、孟起の母とは親しく交わっておりました故、あの二人のこともよく存じております」

 

 「そうか、馬騰どのの御友人か。……で、あの二人に用とは、どのような内容で?」

 

 「……亡き杏になりかわり、叱りつけに来ました」

 

 「叱りつけに?」

 

 「はい」

 

 

 

 場面は変わって、関の中の一室。

 

 馬超はうなされていた。

 

 それは、悪夢。

 

 あの戦場での光景を、何度も何度も、繰り返し見続けさせられる。

 

 一刀によって、母が討たれる瞬間を。

 

 「おね……しっか……!!」

 

 「う、うう、うあああ!!」

 

 「お姉さま!しっかりして!!」

 

 「はっ!?……たん、ぽぽ……?……そうか、あたしはまた、あの夢を……」

 

 全身にびっしょりと汗をかき、息を乱しながらも、従姉妹の馬岱の顔を見て、馬超はほっと胸なでおろす。

 

 「また、いつもの夢?」

 

 「ああ。……なあ、蒲公英。あたしさ、正直に言うとさ、判んなくなってきたよ。あの時見た一刀が、本当に、本物の一刀だったかどうか」

 

 「……お姉さまも?」

 

 「!…おまえも、か?」

 

 顔を見合わせる二人。

 

 「うん。昨日、あの人に負けて気絶した後、今のお姉さまみたいに夢を見たの。でも、私の夢の中でおば様を殺したのは、一刀さんじゃ無かった」

 

 「あたしは、昨日鈴々に敗れた瞬間だけ、お前と同じ夢を見た。……あれは、一刀じゃなかった。あたしの、まったく知らない奴だった」

 

 昨日の幻視と、今日の夢。その二つが食い違っていることを、互いに語り合う。

 

 この時、二人はある事に気づいていなかった。

 

 昨日までは、二度と呼ぶことは無いと誓ったはずの、一刀と張飛の真名を、呼んでいることに。

 

 

 

 がちゃり、と。

 

 突然扉が開けられたのは、その時だった。

 

 「翠、蒲公英。どうだ、体の具合は?」

 

 「……心配してもらわなくても、あれ位でどうにかなるあたしじゃないよ。何か用かよ、白蓮」

 

 「……翠。お前、今なんて……」

 

 「あ?何だよ?名前を呼んだだけだろ?」

 

 「……気づいていないのか?お前、今私の真名を」

 

 「……え?あれ、あたし、何で」

 

 公孫賛に言われ、その事にようやく気づく馬超と馬岱。

 

 「……どうやら、術が解けかかっているようね」

 

 「術?」

 

 「……椿さま?」

 

 「あ!椿さんだ!!」

 

 公孫賛の後ろにいた李恢に、ようやく気づく馬超たち。

 

 「公孫賛どの。ここは、三人だけにしていただけませんか?」

 

 「ああ。二人もその方がいいだろう。話が終わったら、外の兵に声をかけてくれ」

 

 「わかりました」

 

 ぱたん、と。扉を閉めて公孫賛が部屋から退出する。

 

 

 

 「……それにしても、二人とも元気そうで何よりだわ。でも、それ以上に情けなさ無いことこの上ないわね」

 

 「……面目ない。母上の仇も討てず、こうして囚われの身になっているなんて。……穴があったら入りたいです」

 

 寝台に腰掛けたまま、馬超はうつむいてため息をつく。

 

 「……何を勘違いしているの?あたしが言っている情け無い、というのはね、そんなことを言っているんじゃないの」

 

 「え」

 

 「私が言いたいのはね、敵にまんまと利用されて、大切なお友達を殺そうとしたことを言っているのよ」

 

 「りよ、う……?」

 

 「……それってどういうこと?蒲公英たち、敵に利用されてなんか……あ」

 

 「蒲公英は気づいたようね。……これから先は、杏の、母親からの叱責と思って聞きなさい」

 

 『母上(おば様)の?』

 

 李恢の言葉に、思わず身を引き締める二人。

 

 「……親を殺されて、大きな衝撃を受けた。それは、当然のことよ。でもね、そこで我を忘れたことが、あなた達の失策。杏が殺された後のこと、何も覚えていないんでしょう?」

 

 「は、はい。……気がついたら、漢中の者に保護されていました」

 

 「覚えていたのは、一刀さんに、おば様が、殺されたことだけ、でした」

 

 「敵の巧妙なところはそこよ。杏を討てるほどの者が、貴女たちだけは見逃した。なぜか」

 

 「……あたし達と、一刀を、同士討ちさせる、ため」

 

 こくり、と。馬超の言葉にうなずく李恢。

 

 「どんな術かまでは見当がつかないけど、あなた達二人を気絶させたか何かした後、その記憶の一部を消し、そして書き換えた」

 

 「私達が、漢中で拾われたのも、一刀さんたちが益州を侵略しようとしてるって言う、その情報を流したのも、もしかして」

 

 「おそらくはね。……随分、遠回りな、手の込んだ二虎競食の計だわね」

 

 馬超と場岱は、ただ、黙りこくるしかなかった。

 

 それも仕方のないことだった。

 

 何者かの陰謀にまんまと乗せられ、それに気づくこともないまま、大切な友らを仇と憎み、そして、昨日に至っては、とんでもないことを宣言してしまったのだ。

 

 真名の返上という、とんでもないことを。

 

 

 

 気がつけば、二人は大粒の涙を流していた。

 

 後悔なんていう、そんな生ぬるい言葉では表現しきれない、様々な想いのこもった涙が。

 

 まるで、何かを洗い流すかのように、いつしか二人は、大声を上げて泣き始めていた。

 

 その声に驚いた公孫賛や張飛達が、慌てて部屋に駆けつけても、二人は延々と、涙を流し続けた。

 

 それこそ、涙がすべて、枯れ果てるまで。

 

 

 

 それから数日後。

 

 公孫賛に連れられ、成都の一刀たちと合流した馬超たち。

 

 だがその中に、李恢の姿はなかった。

 

 是非協力を、という公孫賛の言葉に対し、李恢はただ、静かに首を振った。

 

 「私はすでに隠棲した身。今後も影に徹し、皆様を裏から支えたいと思います故」

 

 そう、にっこりと笑顔で。

 

 それを聞いた一刀は、

 

 「……そか。残念だな」

 

 「絶対応えたいね、そうやって支えてくれる人たちに」

 

 「そうだな」

 

 劉備と笑顔を交わすのであった。

 

 

 なお、馬超と馬岱の二人は、正式に一刀の配下に入ることとなった。

 

 あの涙が全てを流しつくしたのか、もう、例の悪夢を見ることは無くなった。

 

 綿竹関において、公孫賛と張飛に言ったあの言葉に関しても、二人は土下座をして許しを請い、取り下げさせてもらう事が出来た。

 

 後日、馬超はこう語った。

 

 「その日からだな。やっと、安心して眠れるようになったのは」

 

 と。

 

 母を討ったのが、実際には誰だったのか。そして、自分達に一刀を仇と思い込ませた、その術者は誰なのか。

 

 二人がそれを知るのも、おそらく、そう遠くないであろう。

 

 李恢は最後に、二人にそう語った。

 

 自信は無いが、確信はある、と。最後に添えて。

 

 

 

 <あとがき>

 

 あ、さて。拠点の恒例あとがきです。

 

 「はい。司会進行の輝里です」

 

 「同じく由や。今回もよろしゅう」

 

 さて、と。ようやくこれで、拠点は終えれたわけですが。

 

 「でも、結構書いてないことがあるんじゃない?」

 

 「せやな。袁家と孫家のその後とか、魏のこととか」

 

 袁家と孫家については、最終章で少しだけ語るつもりでいます。魏に関しては、本編に絡む重要な話ばっかりなんで、拠点からはあえてはずしました。

 

 「で?最後のプロットはもう出来たわけ?」

 

 まだです(きっぱり)。

 

 「・・・・・・あんたな」

 

 「開き直ればいいってもんじゃないですよ?」

 

 というか、エンディングはもう出来てる。大筋も大体組みあがってる。

 

 「ならほとんど出来てるんじゃ?」

 

 細部調整がうまくいかんの。それと、仲達と五神将の正体も、二通りあるうちのどっちにするか、結論が中々でない。

 

 「・・・優柔不断」

 

 (ぐさっ!)・・・だから、次の投稿まで少し時間がかかるかもしれません。気長にお待ちいただけたら、嬉しいです。

 

 「学園祭は?参加するんでしょ?」

 

 ・・・内緒。君らもうかつなことしゃべらないようにね。

 

 「へーい」

 

 では、今日はここまで。

 

 「コメント、たくさんお待ちしてますね」

 

 「支援もぽちっと、押してやってくれると、作者が喜ぶんで、一つよろしゅうにな」

 

 それではみなさん、

 

 『再見~!』

 


 
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