〝ただいま・・・おかえりなさい〟~魏end after~
青年は去り、少女達は残された。
今まで涙を流さずに覇道を歩んできた少女は、この時初めて涙を流した。
抑えていた気持ちが溢れ、〝覇王〟であった彼女は、〝少女〟としてただ涙を流し続けた。
後悔と悲哀の気持ちから涙を流し続けた。
いっそのこと、雨でも降っていれば少しは救いがあったのかもしれない。
しかし、天に雲はなく満月が爛々と輝いていた。
包み込むように、ただ優しく少女を照らしていた。
この優しい光は、少女の心を決して癒す事はなく、彼女はこの日を境に月夜が嫌いになった。
それから月日はただ過ぎていく。
少女は彼が愛した彼女のままであり続け、泰平の世を守り続けていた。
いつか青年が帰ってくると信じて。
帰ってきた青年にたくさんの物語を聞かせてあげたいがために。
少女は今も道を歩んでいた。
決して楽な道のりではなかった。
一度消えた灯を再び起こすのは、戦に勝つ事なんかより余程大変な道のりだったと言っていいだろう。
少女が古くから知る双子の姉妹。
男嫌いな猫耳頭巾の軍師。
天真爛漫な親衛隊の少女達。
酒をこよなく愛する神速の将。
色事の度に鼻血を噴き出す軍師。
自由気ままで掴みどころがない軍師。
警備隊で彼と共にいた三羽鳥と呼ばれた少女達。
歌をこよなく愛している三姉妹。
皆が皆、青年の離別を哀しんだ。その中にはその痛みに耐えられずに命を断とうとした者までいた。
それでも時間は流れ、少女達にほんの僅かな火を再び灯すに至った。
彼が去って五年の月日が流れた。
全てが寝静まる夜に一筋の流れ星が荒野に落ちる
「さて、大丈夫ですか?」
「た・・・多分」
女性の背後で煙を出してぴくぴくと痙攣する人影があった。
「流星っていえば聞こえはいいけど・・・体験する側からすれば〝墜落〟だよね?」
「帰ってこられたのですから、文句は言わないでください」
「御尤も。それで・・・ここはどの辺りになるんだ?」
「陳留の外れ・・・貴方が〝この世界に現れた場所〟ですね」
女性の声に青年は懐かしい記憶を思い出した。
ここで青年は少女と出会い、共に道を歩み、そして別れてしまった。
こうして再びこの場に訪れる事が出来た事に感慨深いものが湧いてくる。
「それで?どうしますか?私の〝術〟で洛陽までお送りしても構いませんが・・・」
「いや、自分の足で帰るよ・・・」
「そうですか・・・ではここで別れましょう。貴方の物語に幸あれ」
女性は青年に背を向け去ろうとする。青年は彼女を呼び止めた。
「ありがとう管路。許子将によろしく言っといて」
「お断りします。私はアレが嫌いですから・・・それでは」
管路は今度こそ振り返らずに去っていった。
彼女の背が見えなくなって青年は空を見上げる。
「さて、それじゃあ歩きますか・・・」
青年は一歩を踏み出した。
少女の待つ場所へ。彼が居たいと願った場所へと歩み始めた。
~あとがき~
孫呉伝第一章拠点のあとがきにてお知らせした作品となっております。
タイトル、内容からわかる通り魏√のアフターストーリーなのですが、私がTINAMIデビュー作となったのも魏√。そして、一度は完結したものです。ならば何故、と思う方もいらっしゃる事でしょうが、孫呉伝拠点第一章でも言った通り、気分転換に改めて書いてみたわけです。完結した前アフターストーリーとは異なる新しいストーリー・・・新しい外史です。
今作はシリーズものなので当然続きます。
・・・ゆっくりではありますが、長い目で見てやってください。
それではまた――。
Kanadeでした。
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えっとですね・・・詳しくはあとがきにて
この作品は魏のその後を紡ぐ、新しい外史です。
それではどうぞ