No.176453

春の思いに誘われてー終わり編

TAPEtさん

これでお仕舞いです。

なんとまぁ、オチらしきオチのない話になっちゃいましたけど、

これで、思春を想った一人の男の「生涯」は終わりです。 では、

2010-10-04 22:24:03 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3408   閲覧ユーザー数:2913

本作品は、思春の部下であった一人の男を中心に語っている物語です。

 

 

実際にこんな話があったかもしれない。という感じで作ってみました。

 

 

尚、本作品はBAD ENDを目指していることを先にお告げします。

 

ですので、拒む方々はここでお戻りください。

 

それは、ハーレムという名前の一刀の生活にあるしかなかった、

 

 

 

 

悲しい裏話。

 

 

「……」

 

長江の上で、

 

思春に出会ってから俺の人生は変わった。

 

一生江賊で終わるだろうと思った俺が、逆に江賊どもを退治する側になって、その後は江東の虎の娘さんの兵になったのも、

 

あの時思春に出会わなかったら、無理な話だっただろう。

 

 

 

だけど、それらに何の意味があるというのだ?

 

俺はただ、

 

お前と戦いたかった。

 

それだけだった。

 

あの戦いの中で見た美しきお前の姿を、

 

見損ねてたあの姿を、

 

また見たかっただけだった。

 

それ以外には何も構わない。

 

 

 

そう思っていたのに、

 

「副頭、大丈夫か?」

 

「あぁ?何がだよ」

 

「お頭、いや、甘寧将軍ですよ。最近、あの天の御使いと一緒にいる時が多んじゃないですか」

 

「だからなんだ?孫権さまの護衛を果たすのは奴の仕事で誇りだ。仕方ないだろ」

 

「そりゃそうですけど…お副頭は本当にそれでいいんすか?」

 

「だから、てめぇら一体何が言いたいんだよ。はっきり言え」

 

「だってお副頭……

 

 

 

お頭のこと、」

 

 

 

 

 

その話を聞かなかったら、そうならなかっただろうか。

 

 

 

にゃー

 

「あうあー!お猫様ー!」

 

にゃー

 

「はうぁぅ……」

 

 

 

「お前は相変わらず猫が好きだな」

 

にゃっ

 

「あ、お猫様……ぁぅ…」

 

「おい、おい、そんな目で見ないでくれよ……」

 

「うぅぅ……ここにはどうしたんですか?」

 

「別に…たまたま見かけたから久しぶりに声かけてみただけだ」

 

「……おかしいですね。……そんなことする人じゃないですよね」

 

「な、何がだ。お、俺はただ……」

 

「ただ?」

 

「……」

 

ちっ、やっぱこいつとは話がうまく通じねぇんだよ。

 

「おい、思春だけどよ」

 

「思春殿がどうかしましたか?」

 

「あいつ、最近変わった様子っていないか?」

 

「変わった様子と仰いますと…?」

 

「何と言うか……だぁ、もういいわ。お前とは話が通じねぇ」

 

「何ですかそれ。ちゃんと言ってくれないと役に立てませんよ」

 

「いや、もういいわ」

 

ただのキチガイだ。

 

そう誰にも易々と笑ってくれる奴じゃねぇ。

 

いくら天の御使いといっても、聞くと奴は、寧ろ姫さまと仲がいいというじゃないか。

 

「天の御使い……」

 

「一刀様がどうかなさいました?」

 

「いや、何でもねぇ。猫のことはすまなかったよ。お詫びといったら何だが、街の料理店後ろに、猫たちが集まる空き地がある。行ってみたらどうだ?」

 

「はうあ?!そんなとこがあるなんて、知りませんでした。ありがとうございます!」

 

「ああ、俺はもういくぜ」

 

「あ、それと」

 

「ああ?」

 

「……」

 

その話を聞かなかったら、そうならなかっただろうか。

 

 

 

 

「……」

 

「よう」

 

「……貴様か、どうかしたか?」

 

朝、奴が休暇を返して姫さまの稽古をやってくれてることは知っていた。

 

「今日は貴様に構ってくれてる暇はない」

 

「解ってるって。お姫様の剣の練習だろ?だが、その前にちょっと付き合ってくれよ」

 

「知っているなら話は早い、帰れ」

 

「…おい、思春」

 

「何だ?」

 

「昔のこと思ってるか?俺がやめようといっても、お前は日が暮れて手足動かなくなるまで俺と戦(や)った」

 

「……」

 

「……ふっ!」

 

ガチン!

 

俺は何も言わず思春の剣に刃を向けた。

 

「っ……貴様」

 

「ちょっと付き合ってくれよ!」

 

「ちっ」

 

舌を打って思春は俺の剣に合わせて剣を振った。

 

あくまで合わせてくる。

 

こっちを殺すつもりで付いて来るとか、そういうものはない。

 

ガチン!

 

「どうした、思春!その程度だと、姫様が来る前に俺に腕一本ぐらい折られても大丈夫そうだな」

 

「言わせておけばっ!」

 

ガチン!!

 

奴の剣は少しは真面目になる。

 

でもまだ物足りない。

 

「ごめん、遅れちゃって……て、思春」

 

ガチン!

 

「おい、貴様!蓮華さまの前だ。剣を控えないか!」

 

「らぁあああっ!!」

 

ガチン!

 

「ちっ、この猪が」

 

もっとしたい。

 

もっとこいつを感じたい。

 

もっと………

 

「おーい、蓮華」

 

「あ、一刀」

 

「って、思春は誰と戦ってるんだ?初めて見る人だけど…」

 

「ああ、あれは思春の部下の人よ。私が来る前にちょっと稽古をしてたみたいだけど」

 

「へぇ…それにしてもすごいな……なんか、明命と思春とやってる時よりすごい気がするよ」

 

「ええ」

 

あれが天の御使いか。

 

あいつが……

 

あいつが思春に

 

「って、ちょっと一刀、そんなに近く行くと危ないわよ」

 

「え?」

 

あいつが!!

 

ガチン!

 

「!」

 

手が滑ったふりをして、持っていた剣を思春の剣にぶつけて飛ばせた先には天の御使いが……

 

ガキン!

 

「うわぁっ!」

 

「一刀!」

 

「……真剣勝負で勝手に近づくからだ」

 

思春は特有の素早さで俺の手から放れて天の御使いに向かうその剣を防いだ。

 

「いやー、もしわけございません。ついー、手が滑っちまって……」

 

「あ、いや、だ、大丈夫だよ、あははは……」

 

ふん、完全に固まっちまってるな。

 

「まったく、危険なことをするからそうなるのよ」

 

「くうぅ…気をつけます」

 

「…おい、そろそろいいだろ。去れ」

 

「あ、ああ……それでは、姫さ…いや、仲謀さま」

 

「ええ」

 

「それじゃ……」

 

俺は姫さまに礼をしてその場を去った。

 

 

 

 

「貴様、何をするつもりだった」

 

その後、夜でばったり会った思春はいきなり俺にそう聞いた。

 

「何の話だ?」

 

「とぼけるな!貴様、朝のあれは明らかに手が滑ったわけではなかった。貴様、北郷を殺す気か」

 

「…いつからあいつのことを名前で呼ぶようになったか」

 

「………」

 

思春が黙り込む。

 

「思春、お前の言うとおり、俺はわざと剣を滑らせたのかも知らねぇ。だからなんだ」

 

「だから…なんだと?」

 

「所詮奴は名前だけどただのヘタレ男だ。奴が死んだところで、何も変わりはしない」

 

「貴様……それを本気で言っているのか?」

 

「…少なくとも俺にとってはそうだ」

 

そこまで言って、俺は立ち去ろうとした。

 

その時、

 

ガチン!

 

 

 

「……何の真似だ」

 

「貴様……今まで貴様を見てきたが、今回ばかりはただでは済ませぬぞ!」

 

「だからなんだ?お前に俺をここに叩き込む力でもあるのか?」

 

「貴様ー!!」

 

ガチン!!

 

何故、

 

俺は思春を挑発したのだろう。

 

解らない。

 

解らないが、

 

今の攻撃は、今までのやつの中で、

 

あの時の攻撃に一番近い。

 

ならば……

 

ガチン!!

 

「思春、お前は俺がお前のように孫呉に忠誠を果たせようとここにいるのだと勘違いしているのか?」

 

「なんだと?」

 

「俺はな、単にお前がここに来るというから、一緒に来ただけだ。それだけのことだ。その以外には礼儀を正すつもりも何もねぇ。気に食わん奴はぶっ飛ばす。それが誰だといってもな!」

 

「だからなんだ。貴様はその相手が天の御使いでも構わないと言うのか?蓮華さまのことを誰よりも理解してくれるあいつだとしても」

 

「構わねぇんだよ!!」

 

ガチン!

 

「うっ!」

 

「俺は江賊だ!江賊、長江の毒蛾とは俺のことだ!正義もくそもない江賊に何を望む!従わせたけりゃ、力尽くして敗北させてみろ!!」

 

ガチン!!

 

「馬鹿な話を…!!」

 

「馬鹿はどいつだ!」

 

ガチン!

 

「何だと?」

 

「弱くなっちまったんだよ、お前は!」

 

思春、お前は忘れてしまったのか。

 

江賊だった頃のお前の姿を。

 

滔々しくて、冷酷だった思春はどこに行っちまったんだ?

 

ブチッ!

 

わざと肩に当ててやる

 

「なっ!」

 

「だから、あまいんだよ」

 

ドスン!

 

膝が思春の腹に入る。

 

「ぐはっ!」

 

「……ふん」

 

思春は、

 

その場に倒れて気を失った。

 

 

 

「…ちっ、かなり入ったな」

 

肩をやったのはわざとだが、うまく入りすぎた。

 

手当てをしねぇと死ぬだろう。

 

だが、その前にしておくことがある。

 

あいつを……

 

 

 

 

がらっ

 

おい、おい、真面目な警備もいねぇのかよ。

 

仮にも天の御使いだろうが。

 

「………」

 

やつは俺が窓から入ってくることにも気付かず眠っていた。

こりゃ俺じゃなくてもその気になれば誰でも殺れるじゃねぇか。

 

「……」

 

俺は

 

何故こいつを殺す必要がある。

 

単なる男だ。

 

俺の何の関係もないはずだ。

 

……いや、関係ならある。

 

だが、認めたくない。

 

こいつと……

 

『一刀様と思春殿、最初はあまり仲良くなかったんですけど、最近は思春殿も一刀様のことを認めてくれてます』

 

………

 

それだとしても、そこを俺が気にする必要はないはずだ。

 

『お副頭、お頭のこと……』

 

ちっ!

 

さっさとやってしまえばいいものを…!!

 

俺は考えるのをやめて、まともな腕のほうに剣を握って寝ている奴の胸を狙った。

 

 

 

ガチン!

 

「!!」

 

「何をするんですか!」

 

「小娘……お前!」

 

「お猫様が教えてくれなかったら……どうしてこんなことをするんですか」

 

「邪魔だ!!」

 

力で押し返そうとするが、片腕だけじゃうまく力が入らない。

 

「させません!」

 

ガチン!

 

「くっ!」

 

ここで引くわけには……

 

「せやあっ!」

 

「くふっ!」

 

仕方ない!」

 

先ずは窓から逃げ出す。

 

「逃がしません!」

 

小娘が追ってくる。

 

ちっ、この腕であ奴は厳しいか。

 

 

 

 

「……どこに行く」

 

ゾクッ!

 

これは……

 

「あっ!思春殿!」

 

「…明命、お前は下がってろ。あいつは私がやる」

 

「え、ですが…」

 

「引っ込んでろ!小娘!」

 

やっと、やっとだ。

 

「やっとまたやる気になったのか。思春。いや、鈴の音」

 

「…貴様のことを信じていた」

 

信じる?

 

「…先に裏切ったのはお前だ、思春」

 

「何だと?」

 

「貴様は長江を片付けるといって俺を誘った。だけど、貴様は俺たちを捨てようとした。実は俺は自分の罪を償うための手駒にすぎなかったんだろうが」

 

「それは……」

 

「それでも俺が、お前についてきた理由が解るか?」

 

何故だ?

何故俺は…?

 

「その理由が解ってんのかぁ!!」

 

ガチン!!

 

「くっ!」

 

思春は片腕になった俺の攻撃を押し返した。

 

チリン!

 

来る!

 

ガキン!

 

「ちっ!」

 

片手じゃあ収まれねぇ……

 

腕が痺れる。

 

「はぁああっ!!」

 

ガキン!

 

「くふっ!」

 

一つ一つの攻撃に火が篭っている。

 

あの時の思春だ。

 

長江の上で鈴の音を鳴らしながら戦った可憐なあの時の思春だ。

 

俺が、

 

俺がこんな腕になっているのが残念でしょうがない。

 

 

 

いや、これでもういいのか。

 

「はぁああっ!!」

 

そして次の瞬間、

 

俺は思春の鈴の音に逆らうことをやめた。

 

 

 

 

「…貴様……」

 

「……おい、思春」

 

剣は綺麗に腹に入っていた。

 

「一つだけ教えてくれ」

 

「……貴様、今わざと剣を…」

 

「お前のこの剣は、何を抱いている?」

 

「……」

 

「姫さまへの忠節か?孫呉への忠誠か?それとも……」

 

……

 

「…私、私は…」

 

「思春殿!」

 

後ろから小娘の声が聞こえるが、振り向く力はない。

 

いや、もうどうでもいい。

 

俺はやりたいことをやりつくしたつもりだ。

 

思春がやりたいことも全部この目に収めておいた。

 

見たかった思春の姿も見れた。

 

もう…悔いはないはずだ。

 

あの時長江の船の上で、最初に思春にあった時死ぬべきだった身体だ。

 

ここまで長く生き延びれた甲斐があったのかどうか、知ったこっちゃねぇ……

 

もう、

 

どっちなのか考える気力もないんだ。

 

「おい!しっかりしろ!……!!……!!」

 

もう無理だ、思春。

 

完全に…もう神が助けに来ても無理だ。

 

 

 

ああ、最期の問いの答えが聞けないのは残念だったな。

 

いや、それとも救いだったか。

 

 

 

 

 

どっちにしろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

これでもうお仕舞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで……

 

 

 

 

 

 

 


 
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