No.172132

I`ll be there

まめごさん

「Princess of Thiengran」落書き。
整理していたら、これ書いていた当初の落書きが出てきました。
私の書き方は小話をダラダラ書いて、それをつなぎ合わせて一本の話にする形なんで入れることのできなかった小話もあるんですわ(プロット苦手なんで)。
だから迷走しがちなんですが(汗)。

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2010-09-12 23:06:13 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:839   閲覧ユーザー数:824

ある春の日。

 

鳥のさえずりが響き渡り、太陽はうららかな光を降り注いでいた。風が吹くたびに淡い花びらが舞い落ちる。どこからか女官の笑い声が聞こえた。

「楽園」を絵にかいたような庭を窓の中から一瞥し、目前に積み上げられた書類の山を一瞥し、王女様はげんなりして頬杖をつきつつあくびをした。

「こちらが本年度のものでして……殿下?」

「んあー?」

まったく気の乗らない返事をかえして、書類の角をぴらぴらとめくる。

ぴくり、とトモキの動きが止まった。

「あのですね、言いたくはないんですがね」

「なら言うなよ」

「いいえ、言わせていただきます」

矛盾だらけの会話に気づかないふりをして、トモキがにーっこりと笑う。しかし、目は笑っていないのとこめかみに一本青筋が浮き出たのをリウヒは素早く見てとった。

「一週間も政務をほっぽりだして雲隠れをした挙句に城下の飲み屋で下郎相手に大乱闘を演じてらっしゃったのはどこのどいつさまでしょうね!!」

おかげで書類は滞るわ、下宮は徹夜続きでひっくり返るもの続出だわ、猿山の馬鹿共に皮肉られるわ!!

なおもトモキのシャウトは続く。

「そーかそーか、それは苦労をかけたな。しかしだな、わたしもびっくりしたぞ。まさか忠実な下僕に後ろから殴られるとは思ってもなかったからな。しかもグーで」

そう、王女様はやんごとないお兄様方とご乱闘中に、トモキに後ろから殴られてひっくり返った。

気がついたら後宮に連れ戻されていたのである。

お兄様方は、ただ呆気にとられて見守っていたそうな。

頬に手をついたままの行儀のよろしくない姿勢でトモキを見上げると、こめかみの筋が二本に増えたのが分かった。

「当たり前です! そうでもしないとまた逃げるでしょう!?」

「逃げるともさ」

青筋三本目出現。おまけに片眉も跳ね上がった。

リウヒも負けてはいない。相変わらずのふてぶてしい態度を崩さず、それでも目はらんらんと輝かせてトモキを睨みつけている。

双方動かず。

どこからか風がヒュウと吹いた。

忠実な下僕、トモキは気が付いている。

なぜ王女がこれだけ王宮を抜け出すかを。小さい頃はまだ素直であった。無邪気に笑い転げるあどけない姿は本当にまぶしくて、幼心にも「血統」の違いを本能でトモキは察した。数年が過ぎ、久しぶりに再会したいといけな少女は、闇をまとっていた。無邪気のむの字もなかった。

僕は幻を見ているのだろうか、これは現実だろうかと思ったくらいである。

しかし、王宮で過ごすうちにリウヒの変貌に納得がいくようになった。

闇は自衛のものである。

後宮を抜け出すのは息をするためである。

そうでもしないと自我を保っていられないのだろう。実際、ここには魔物に落ちたものがうようよとしている。そして自分や王女がそこまで落ちないと言い切れないのも現状だ。

だからと言って「後宮からの脱走」をよしとしているわけではない。

息継ぎだろうがなんだろうが、王女はなすべき政務があり義務がある。甘やかしてばかりいるわけにはいかないのである。

だからこそ、ほどよい時期を見計らって連れ戻す。ある時は殴り、ある時は人浚いの如く担いで走って。

三か月に一度の割合で城下のどこかで発生されるこのイベントは民の人気を呼び、若者に至っては「見ることができたら幸せが訪れる」と訳の分からない迷信まで生まれていた。

ともかく。

睨みあう二人の沈黙を破ったのはトモキである。

「まあ、殿下がどこに行こうが逃げようが、必ず私が探し出してここに連れ戻しますからね。お覚悟なさい」

ふん、と嗤ってリウヒを見下す。

臣下と思えないような態度だったが、リウヒの瞳の奥に恐怖が宿った。

本気だ。こいつ、本気でどこまでも追いかけてくる気だ。

逃げても逃げても草木をかき分け、雲を蹴散らし、雨を吹き飛ばし高笑いをしながら包丁を持った鬼トモキ(トラのぱんつをはいていた)が俊足で追ってくる映像がリウヒの頭の中に浮かんだ。

想像してご覧……。

 

いーーーやーーー!! 怖すぎるーーーー!!

 

大人しく椅子に座りなおしたリウヒを見て、トモキはよしよしと微笑んだ。

「取りあえずは至急のものだけでも片づけてしまいましょうね」

 

トモキ・イズルジュ。

 

陰で王女使いと呼ばれていることには、まだ気が付いていない。

 


 
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