No.171781

『舞い踊る季節の中で』 第81話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 いわゆる問題作です。 納得しきれませんが話を進めるためにも投稿しました。

 翡翠の誘惑に引き続き、翡翠に入れ知恵され、一刀を猫耳姿で誘惑した明命。

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2010-09-11 15:21:49 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:19594   閲覧ユーザー数:11848

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第81話 ~ 仮面の下に舞う想い ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

  (今後順次公開)

  最近の悩み:

         くっ、何故こんな事に!? 俺は目の前の女性に、戸惑いと焦りの中、必死に耐える。

        彼女が、俺が贈った服を着ているのは良い。 物凄く似合うし、着てくれて嬉しいと思

        う。 それにこうして夜中に、彼女が俺の部屋に訪問するのは良い。 色々あったけど、

        今や彼女との関係は、男と女のそれだし、それこそ俺の方から彼女達の部屋に行きたい

        くらいだ。

         だけど、彼女の頭と腰につけた物が、俺を異様なまでに駆り立てる。…くっ、何なん

        だこの破壊力はっ!? 昼間の明命の猫耳姿は、何とか耐えられた。明命の場合は、ど

        ちらかと言うと可愛さが表立っていたおかげで、温かな目で見守っていられた。

         だけど、明命と同じ物を付けた彼女の姿。俺を押し倒し、両手を抑えるように押さえ

        つける彼女の姿は、まるで獲物を逃さないようにした猫のようであり、その上熱っぽく、

        何処か悪戯染みた表情は、俺を吸い込む様に覗き込む瞳はいつもより潤ませており、彼

        女の幼い外見からは、想像できないほど妖艶で、俺の理性などとっくに吹飛ばし、俺は

        彼女を求めようとするが、彼女に押さえつけられている俺はもどかしさで、いっぱいに

        なる。

         だけど、そんなものは、まだまだ児戯でしかなかった事は次の瞬間思い知らされた。

        彼女の擽る様なキスに、子猫の様に、俺の肌を舐める姿と感触に、背筋が痺れるような

        感触に襲われる。その上、彼女に肌蹴させられた胸を、首筋を何度も往復しながら、焦

        らす様に、時に襲う甘噛みに、俺は頭の中まで痺れるような感覚に襲われ、真っ白にな

        って行く。

         そんな時、耳元を襲う感覚に……甘えるような、切ないような、誘うような彼女の声

        が、『にゃ~♪』と言う鳴き声が、俺の脳髄を溶かすと共に、押さえつけられていた手

        が解放された感触に、俺に残った最後の理性は、音を立てて吹き飛んで行った。

         うぅっ……俺って奴は……、

        

一刀視点:

 

 

「ふぅーっ」

 

 筆を置いてから、声が零れる出てしまうほど大きく息を吐く。

 今、纏め終えたのは、俺が以前挙げた政策に対して、浮かび上がってきた問題点に対する、俺なりの回答と修正案だ。

 もっとも、幾ら現代知識と実家の手伝いをしていたとは言え、所詮一学生に過ぎなかった俺に、こんな国の重大な政に係わって良いのかと思うが、自分で言った事についての責任は、きちんと取らないといけない。

 一応七乃に意見を貰ったうえで、冥琳を初めとする呉の頭脳人が、きちんと建策し直すから、そう大事には至らないだろう。

 だけど、俺が書いた事で民の生活に影響を及ぼし、職を失ったり、餓えたりする者が出るかもと思うと、正直気が重い。 以前翡翠に、

 

『 私は、今の一刀君に、私達の仕事を手伝う事を強制はしませんし、正直手伝って欲しくありません。

  半端な覚悟で、此方の世界に足を踏み入れるべきではない、と思っているからです 』

 

 と言われたが、今なら彼女の言葉の意味がよく分かる。

 だけど、怖いからと言って、出来る事があるにもかかわらず、何もせずいるなんてしたくない。

 

『ねぇねぇ、今日の周将軍見た?』

『知ってる。知ってる。 物凄く御機嫌で、本当に子猫そのものって感じなのよね、可愛かったなぁ』

『そうそう、それでいてどこか気怠そうな感じで、欠伸してた辺りが、まさにって猫って感じで』

『やっぱりあれかな?』

『そう思う?』

 

 そんな通りすがりの、侍女達の会話が聞こえてくる。

 

「う゛っ……」

 

 何時もなら、そんな女の娘達の明るいお喋りは心地良いのだが、今日ばかりは、その内容に呻き声が出てしまう。 そんな俺に七乃は自分の手を休めて、いつもの笑みを浮かべながら、

 

「くすくすっ♪ 噂になってますね~。 御主人様、明命さんに何したんですか?」

「……二人を嗾けておいて、そう言う事聞くのは止めてくれ」

「え~~、それは誤解ですよ。 私は翡翠さんに、御主人様が作り忘れたものを、代わりに作って差し上げただけです」

「……でも、こうなる事は予想していたんだろ?」

 

 俺の問いかけに、七乃は『にこにこ』と楽しそうに笑みを浮かべるだけで、答えてはくれない。

 ……まぁ、分かっていた事だけどね。 俺は深い溜息を吐きながら。

 

「ちょっと気分転換して来る」

「は~い、さっきの侍女の娘を襲うんですね」

「違うからっ!」

「ごゆっくり~♪」

 

 七乃のからかいに疲れたものの、思わず大声で突っ込んだためか、少しだけすっきりした気分になった事に気が付くも、せっかくだからこのまま散歩でも行こうと、気の向くままに裏庭の方に歩いて行く足を向ける。

 

 

 

 

「ぬっ」

「おっ」

 

 等と、時折危げになる度に声を出しながら、美羽が桶に水を運んでいるのを見かけ、何となく足を止める。

 美羽は城にいる時は、七乃の手が空く昼近くまで、ああやって侍女達の手伝いをしている。

 そのおかげか、多くの人や物事に触れ合う事で、少しずつだけど、美羽は色々な事を吸収してきているのが分かるから、妹の成長を見守っている兄のような気分になり、ついつい頬の肉が緩んでしまう。

 

 侍女達も、最初は美羽達を二人を冷たい目で見ていたが、やはり城に勤めていると、事情が分かってくるらしく、今では何人かが、それなりに思う所はあっても、頑張っている二人と言うか、美羽を可愛がってくれているのは、素直に嬉しいと感じる。

 無論、どちらかと言えば冷たい目で見る方が圧倒的に多いのも事実だけど、少なくても表立って手を出すような事をする人間は、この城にはいない。 それだけの頭と理性が無ければ、城には出入りできないからね。

 

 とにかく関係者からでもと、二人を受け入れさせるような会話や噂を広げて行く、そう言う打算もあって、二人を城へと出入りさせているけど、今の所上手く行っているようだ。

 俺はそんな美羽を遠くで眺めるように、庭の隅に設けられている椅子に座っていると、降ろし髪の煌びやかな姿の女官が、此方に歩いてくるのを見かけ。

 

「よっ」

「……その軽薄な挨拶は、何とかならんのか」

 

 相変わらず堅い表情の思春を、少しでも解そうとした挨拶はどうやら失敗に終わり、ますます冷たい目で睨まれてしまう結果になってしまった。

 

「……こんな所で何をしている?」

「ちょっと息抜きさ、 他に何かしているように見える?」

「……女を漁色しているように見える」

「………」

 

 多分思春の冗談なんだろう。 例え少しも笑っていなくても、冷たい目どころか、軽蔑したような目で見ていようが、きっと思春なりの冗談なんだと思う……と言うか思いたいっ。

 其処へ美羽が再び空になった桶を持って、再び井戸に向かって歩いて行く。

 あっ、こけた。 ……何で、ああも何もない所で躓けれるんだろう?

 

「……貴様の趣味に、どうこう言う気は無いが・」

「だぁぁぁぁ! 違うから、色々最初から違っているからっ!」

「……何を慌てている、冗談だ」

「いや、思春の場合は本気で冗談に聞こえないから……」

「……そうか」

 

 うん、冗談で良かった。 でも思春、冗談は冗談らしく言ってくれ。

 間違っても、心の芯まで冷えるような、軽蔑の眼差しで言う物じゃないと思うぞ。

 とにかく俺は、一度息を大きく吐き、

 

「座ったら? 話しあるんだろ」

「ふん」

 

 俺の言葉に、思春は素直に隣の腰掛に座る。 その姿は武人らしく、とても綺麗な姿勢だ。

 表情は硬いけど、目鼻の整った顔立ちや、切れ長の目はとても印象的で、ある意味これだけで絵になると思える程だ。

 

 

 

 

「苦労しているようだね」

「……ふん、今日で終わりと思えば済々とする」

「流石に三日目となると、思春に手を出す命知らずは居なくなったね。 全部で九人だっけ?」

「十二人だ。 だが、あのような不心得者を炙り出せたと思えば、少しは意味があったのかもしれん」

 

 そう言って、思春静かにゆっくりと息を吐く。

 この三日間、思春は思春なりに孫策達に言われた事を気にして、頑張ったと言うのは、今の溜息一つをとってもよく分かる。

 蓮華のためと思って、何度も無理やり笑みを浮かべもしたらしい。 ……まぁ、どう見ても死神の笑みにしか見えないため、侍女が泣き出したり、腰を抜かす兵士が出たりと、騒ぎを大きくしただけだったけど。

 侍女らしく柔らかな物腰を真似しようとすれば、やはり武人の癖なのか、そっちの動きが出てしまい、事情を知らない兵士に潜入してきた他国の密偵と勘違いされる始末。

 そんな訳で、祭さん辺りの酒の肴になるだけだった。

 それでも、思春を慕う侍女や女官がそれなりに、助言をしていたらしいけど、一朝一夕に身につくようなものではない。 それに……。

 

「ねぇ、それ以外は無意味だった?」

「……いや、無意味ではない、皆が私を思う気持ちはよく分かった。

 だが、独立を果たしたとはいえ、我等の土地を全て取り戻した訳ではない。

 何より、まだまだ我等の力が必要としている民がいる。

 だと言うのにこのような事をしている暇など無い事が分からぬ貴様ではあるまい」

 

 そう、それが彼女の想い。

 民の為、孫家のため、自分を殺し、民の涙のために、己が力を振るう。

 彼女は自分の力が、何のためにあるかを知っているし、その事を誇りを持っている。

 彼女の事を知らない人間は、彼女の孫家への忠誠振りを、何も考えずに孫家に依存しているだけと言う人間もいるけど、それは大きな勘違いだ。

 

 彼女は確かに孫家を信頼し、その力の限りを振るってきたらしい。

 でも彼女は、力を振るう理由を外に置いてはあっても、その力の振るう先を見ていない訳では無い。

 だから、もし孫家が間違った道を歩もうとしたなら、彼女はそれを正す為、その前に立ち塞がるだろう。

 この三日間、慣れない事に、悩みながらも皆の想いを受け止めようと、頑張ってきたのが、その証拠とも言える。

 

 でも、彼女も、彼女の周りも勘違いしている。

 確かに、彼女の公式の場での態度を直すのが目的とは言ったけど、彼女に女官姿をさせた事自体には、はっきり言って意味は無い。……まぁ、普段着飾る事が殆どない思春を、着飾るのは蓮華達が率先してと言うか、孫策達が面白がって思春に着飾る事や化粧を教えていたから、それなりに意味はあると思う。

 けど、俺的には気持ちを切り替えさせるための切っ掛けでしかなく、そもそも彼女が本当に女官のように振る舞えるとは思っていない。

 彼女がその人生の大半を武に注ぎ込んできたように、女官達も長い年月の果てに今があるんだから、それを三日かそこらで、身に付けさせようと言う考えに無理がある。

 それに、そんなもの身に付けなくても、彼女は十分に女らしいし、可愛いと思う。

 まぁ今それを言うと、きっと彼女の事だから、『軟弱な事を』とか言って怒るから言いはしないけど、(それくらいは流石に学習した。……けど、何で怒るんだろうなぁ?)

 

 

 

 

 出来れば自分で気が付いて欲しい、俺が今回君に女官姿をさせてまで求めたものに……。

 君が武人であるなら、蓮華達をこれからも守ろうと思うなら、それは必要な事だと思うから……。

 これからの君に必要になるものだから……。

 だから、そのためにも……。

 

「じゃあ思春、付き合ってくれ」

「なっ! き・貴様は何を言ってい・いるっ。 そ・そんなこと冗談でも・」

「えっ? 冗談じゃなく本気だけど、」

「うっ・あっ・ななななっ、何・」

「此処にいるって事は、今日はもう大して仕事残ってないんだろ」

「そ・そもそも、お前には翡翠様や明命が…………仕事?」

「ああ」

 

 俺の言葉に、何故か顔を赤くして慌てていた思春だが、やがて、いつものムッツリ顔……と言うか、あの思春、何でそんな朱い靄みたいのを出しているんでしょうか?

 翡翠や冥琳もそうだけど、この世界の将には、そんな奇怪な得意技があるのか?

 と言うか、何で今までにない程、殺気を放ってるのっ!?

 俺を怨敵のように睨み付けていた思春だが、やがて己の内の物を吐き出すように、ゆっくりと大きく息を吐きだし。

 

「…………分かっていたはずだ。 こいつが、こう言う奴だと言う事は、

 くっ、まだまだ私が未熟と言う事か」

「あの、思春?」

 

 何か、自己嫌悪するようにブツブツ呟く思春を、少し心配して声を掛けると、先程程ではないが、いつもよりキツイ目を俺に向け、

 

「……貴様は、もう少し言葉を気を付けろ」

「えーと、何か気に障るような事言った?」

「……ふぅ~、なら一発殴らせて貰おう」

「え・えーと、何で?(汗」

「貴様がそれだけの事をしたからだ。 嫌なら・」

 

かちゃっ

 

 思春は何故か理不尽な申し出を行ってきた上、それが嫌ならと又もや"鈴音"を構えだす。

 ……本当、どっから抜き出してるんだろ、あれ?

 まぁ、それは置いといて、思春の攻撃なら避け続ける自信はあるけど、この様子だと後々根に持つような雰囲気なんだよな……。

 まぁ、よくは分からないけど、とにかく俺が悪いらしい。

 なら、一発殴られて思春が機嫌を直して、俺に付き合ってくれるならと思い、頷いたわけだが……。

 

 

 

 

 

 

   ド ッ !!

 

 

 

 

 ……すんません。 ほんの少し前の判断を、すっげー後悔する羽目になりました。

 と言うか、腹を殴られてから十分ほど、後悔も何も、空気を吸う事以外何も考えられず、ただ只管その場でもがく事しかできなかった。

 これでも、手加減してくれたみたいだけど、咄嗟に衝撃を逃してもこの威力って、……手加減なしで、まともに喰らったら、これは死ぬな。

 等と改めて、この世界の将の異常な身体能力を、この身を持って知る羽目になった訳だけど、……できれば一生、知りたくなかったな…。

 

 そんな訳で、まともに呼吸が出来るようになっても、足に来ていたため、回復するまで、そのまま椅子に腰を下ろして休んでいる訳だけど。

 ダメージが足に来て、ふらつく俺を腰かけさせてくれたのは意外にも思春で、今は俺の横の椅子に座り、俺が回復するのを待ってくれている。

 不器用だけど、こういう何気ない優しさが、思春らしいと思える所なんだよな。

 そう俺が思春を見ながら、小さく笑うと。

 

ギロッ

 

 ……本当、何で俺こんなに思春に嫌われているんだろう?

 そんな事を思っていると、先程まで水汲みをしていた美羽が、俺達の事に気が付いていたのか、相変わらず危なっかしい手付きで、厨房からお茶を持って来て、俺と思春に差し出してくれる。

 俺はそんな美羽に、まだダメージの抜けなきれない震える手で、お茶を一口飲む。

(……今日は茶葉が少な過ぎの上、葉を碌に泳がせていないから、香りが僅かについただけだな……、昨日とは反対だけど、それでも、少しづつ良くはなってるかな)

 思春もそんな美羽の淹れたお茶を文句も言わず、黙って飲んでくれている。

 そんな思春らしい優しさと、美羽の成長に、心の中で少し笑みを浮かべていると。

 

「主様は、こんな所で何をしておるのじゃ?」

「ちょっと休憩さ、もうお手伝いは良いのかい?」

「うむ、主様がいるのなら、主様の相手をするのが、妾の仕事じゃと申したのじゃ」

「そっか」

 

 俺がそう、美羽の言葉を微笑ましく受け止めていると、美羽は何処か意地悪を思いついたように、流し目で、更に口元を手で隠しながら……。

 

「で、主様は思春に悶絶させられる程、何をやらかしたのじゃ?

 浮気か? あの者達が言ってたように思春を誑かしておるのか?」

「違うからっ! 何で俺が悪い事前程なのっ!? 仮にも主なんだから信じようよっ!

 って言うか、いったい、いつのまに思春の真名をっ!?」

「貴様には関係ない事だ」

 

美羽のトンでも発言に、色々突っ込む俺に、思春に冷静に突っ込み返された俺に。

 

「うむっ、主様は、他の事は信じられるが、こと女絡みでは、欠片も信用が無いのじゃ」

「……いや、そんな事を胸を張って言われても……と言うか、俺が一体何をしたって言うんだ?」

「そう言う所なのじゃ」

 

 結局、美羽は、訳のわからない自信を持って、俺が悪いと断定して来る。

 美羽の中の俺って、いったいどんな人物なんだよ…………トホホッ。

 

 

 

 

 そんな感じで、義妹のように思っている娘から、そんな風に思われていたショックに落ち込んでいたが。

 

「そう言えば、さっきあの者達と言っていたけど?」

「うむ、厨房に居った侍女達じゃ、先程『早速皆に知らさないと』と言って出て行ったのじゃ」

 

 ……うん分かっている。

 まず間違いなく、今日中には孫策達全員に知れわたると言う事は、簡単に想像できる。

 そして、その後に待っているのは、二人の『OHANASHI』と言う名の尋問と、それを擁護する孫策達の姿が、脳裏に無駄にリアルに浮かぶ。

 ……いったい何でこんな事に?

 ……俺が一体何をした?

 と言う思いと、これから起こるであろう事と、世の不条理に悲観していると。

 

「主様、大丈夫なのじゃ、妾が後で話しておくのじゃ。

 あの者達も、何故そんな勘違いするのか分からぬ。

 そもそも主様に、自分から女を口説くなんて甲斐性が合ったら、翡翠達があれ程苦労していないのにのぉ」

「ぐはっ!」

 

 美羽の何気ない言葉に、俺は血を吐きそうになるくらいの衝撃を受ける。

 うん確かに俺が変な事に拘っていたばかりに、翡翠達に苦労かけているのは本当の事だけどさ。

 ……純粋さって時に残酷だよね……、それでも美羽の気持ちだけはきちんと受取ろうと。

 

「……ありがとうな」

 

 そう美羽の頭を髪を優しく何度も撫でる。 美羽もそんな俺の手を少しも嫌がらずに、むしろ心地よさそうにしており、俺にされるが儘にされていた美羽だが……。

 

「うむ妾は今機嫌が良いのじゃ。 この間教えて貰った歌を、聞かせてあげるのじゃ」

 

 そう言って、俺の腰かけている椅子にと言うか、俺の膝の上に強引によじ登ってくる。

 

「あの、それは良いけど、何で其処に? なんと言うか、一部視線の痛い方がいるんですが……」

 

 俺の戸惑い等関係なしに、俺の膝を椅子に、胸と腹を背もたれにしてきた美羽は。

 

「この間のアレをやるのじゃ、妾はアレが好きなのじゃ」

「いや、アレはあくまで声を良く出しやすくするためのもので……まぁいいか」

 

 確かにアレをやられた方は、思った通りに声を出しやすくなるから、心地良く歌えるだろうな。

 俺はそう思いながら、後ろから美羽を優しく抱きしめてあげるように、両手を美羽のお腹の気海と中極にあてて、美羽の呼吸に合わせ、歌うための筋肉の動きを、気脈を、そして呼吸を補助してやる。

 美羽はしばらくその感触を心地よさそうに、俺に身を預けていたが、やがて背筋を正して、その小さな口から、声を紡ぎ出して行く。

 

 ゆっくりと、

 想いを込めて、

 優しく、辺りを包み込む様に、

 美羽の歌声が、静かに染み渡って行く。

 

 

 

 

 さぁ、歩いて行こう。

 例え辛くても、貴方は決して一人ではない。

 誰かの想いが、貴方を知る皆の想いが、その手の中に。

 深い胸の奥で、貴方の想いが眠っている。

 貴方が、汗と泥に塗れていようとも、

 暗闇に迷い込んでいても、

 輝く星が、貴方を見守ってくれている。

 

 星達が、貴方の軌跡を教えてくれる。

 貴方が一人じゃ無い事を、皆の想いが貴方と共にある事を、

 だから、自分を信じて歩こう。

 何も出来ないと諦めないで、

 貴方のしている事が、

 何気ない毎日の繰り返しが、

 きっと誰かの力になっているのだから、

 

 貴方は決して一人じゃない。

 たとえ涙は見られなくとも、

 その想いは、誰かに伝わっている筈

 だから、一人でも歩いて行こう。

 生きて、誰かに伝えて行こう。

 

 輝く未来に向かって歩いて行く事を、

 笑って歩んで行く事を、

 星々に見守られて、大地に抱かれて、

 心を休ませて、また歩いて行こう。

 世界は厳しくても、貴方は確かに愛されているのだから、

 さぁ、その想いを、ゆっくりと伝えて行こう。

 

 

 

 

 美羽の清んだ歌声が、やがて静かに終わりを告げる。

 通りかかりに、足を止め聞いている者。

 仕事の手を休めて、足を運んだ者。

 此処から見える人達は様々だけど、その殆どが、優しげな目で美羽の歌を聴いてくれていた。

 思春も、優しげな眼で、そんな美羽を見守る様に見つめて……いたんだけど、何故か俺の視線に気が付くなり、睨みつけてくるのは、何故ですか?

 

「お疲れ、いい歌だったよ」

「うむ、主様は妾に歌の事で色々教えてくれるが、主様は妾の歌が好きか?」

「ああ、美羽の歌は好きだよ。

 これからも聞かせて欲しいし、皆にも聞かせてあげて欲しいと思っている」

「そ・そうか、妾の歌が好きか」

 

 美羽は褒められたのが嬉しいのか、やや顔を朱に染めながら嬉しそうに、そして恥ずかしげに俯いている。

 俺は、そんな美羽の頭を優しく撫でてあげると、美羽はますます嬉しそうに、俺に体を預けてくるが…。

 

「妾は、またいつかの時の様に、主様と一緒に競演したいのじゃ」

「そうだね。 俺もあの時は楽しかった」

「うむ、妾も楽しかったのじゃ。

 じゃが、今の妾の技術では、主様の舞いについて行けないのじゃ。 それくらいの事は分かる。

 なのに主様は、技術をあえて学ぶ必要は無いと申すのは、何故じゃ?」

 

 美羽は、真剣な顔で顔だけを俺の方に向けて聞いてくる。

 見た目の年齢の顔ではなく、年相応の顔で、…歌にはそれだけの想いがあるのだと、そう目で訴えてくる。

 だから俺は…。

 

「良いんだよ。 美羽なら技術なんて、その内自然に身について行く。

 必要なのは、想いを声に乗せる事、想いを歌に乗せて届かせる事、それが一番大事なんだ。

 だから美羽は今まで通り、歌を楽しみながら、その想いを乗せて行けばいい。

 少なくとも、俺はそんな美羽の歌が好きだよ」

 

 そう微笑んであげる。

 言葉に嘘が無いと、その想いに少しも嘘は無いと、美羽の歌は好きだと言う想いを載せて、美羽が安心して歌えるように、微笑んであげる。

 美羽は、その事に安心したのか、再び俺に背を向け、黙って俺に凭れ掛かってくる。

……あの思春? 何で其処で溜息を吐いているんでしょうか? 俺、そんな変な事言った?

 思春の呆れるような眼差しにそう思いつつ、厨房の方から誰かを探している様子の人物を見つけ。

 

「ほら、春霞がお迎えに来たみたいだよ」

「うむ、せっかく良い所なのじゃが仕方あるまい。 では主様、またなのじゃ」

「ああ、勉強頑張ってな」

 

 俺はそう言って、美羽の後姿を見送りながら、回復した足を確かめるように立ち上がり。

 

「さてと、俺達も行こうか」

「……これでは明命達が心配するのも、仕方あるまい」

 

 ……いや思春、そう言うなら、せめて理由を言ってくれると助かるんですが……。

 それに、そう度々そう言う態度取られると、本気で俺が知らずに悪い事しているように思えてくるんですけど……。 でも絶対、教えてくれないんだろうな。 『……それくらい自分で考えろ』とか『……何故私が貴様に教えねばならぬ』とか言って、トホホっ……。

 

 

 

 

「御遣い様、今日は寄ってかないのかい」

「また寄らせてもらうよ」

「今日は偉い美人を引き連れて、逢い引きかい」

「残念ながら、一方的に嫌われてるから、それだけはないよ」

「御使い様、今朝摘み立ての香草や山菜が入っているよ」

「うん、美味しそうだね。 幾つかを其処の籠分でいいから、屋敷の方に届けておいてくれると助かる」

 

 街の雑踏を、幾つか商店が並ぶ通りを思春と歩きながら、威勢よく掛けられる声に、適当に応えながら歩んでいると。

 

「……ずいぶん人気者なのだな」

「うん、まぁよく顔出している通りだからね」

「……怠業して遊び歩いた結果とも言うがな」

「ぐはっ! ……いや、まぁ否定は出来ないけど、これでも一応意味は・」

「……冗談だ」

 

 思春の言葉に、少なからずに精神的ダメージを受けつつも、少し仕事を抜け出しすぎたかなぁと、少しだけ反省する。

 

「……戦後の混乱の時だからこそ、市に力を入れるべきだと言う、貴様の意見が、少しづつ効果が出てきているようだな」

 

 周りの雑踏、……市に行き交う人々、……その人々に声を掛けるお店の人達を、いつもより力を抜いた瞳で、周りを見渡しながら言う思春に、連れてきて良かったと思う。

 そして、そんな思春を俺は温かい目で見守りながら。

 

「まあね。 とにかく最初は此方が出費してでも人を呼び込んで、安全だと周りの町や村に噂を広げる事が大切なんだ。 此方が声高に平和だ安全だと言うより、街の人間や地元の商人達が話す噂の方が、信頼性があるって彼等は経験的に知っているからね。

 それに、そうして行けば、大きな商隊だって噂を知り、安心して来てくれる来れるようになるから、人や金が動くようになる。 なにより……」

「まってよーっ」

「手伝い終わったら、あっちの区域を探険したいって言ったのはお前だろ。

 ぐずぐずしていると陽が暮れちゃうぞっ」

 

 俺の視線の先には、そんな声を上げて駆けて行く子供達の姿が、ちらほらと見られる。

 他にもこの通りの中には、大人達に交じって子供達も親の手伝いをしたり、子供達だけで一生懸命逞しく生きている子達もいる。

 御世辞にも、長く続いた重税や不作の影響で、庶民の生活は一部を除いて裕福とは言えない。僅かな食べ物を分け合って、何とか飢えを凌いでいるのが実情だ。 だけど、それでも大人も子供も生きる希望を持って一生懸命生きている。 重すぎた税金が減った事や、田畑に若い男達が戻って来た事。 それに、モヤシを初めとする、早育性の野菜類の栽培方法と共に、推奨した事で、当座の食料の確保に目途がついて来ている事が、この賑わいを生んでいるのだろう。

 

「ああやって、街の子供達に笑顔が戻ってきた。

 遠くの町や村の方の事を考えれば、まだまだこれからだけどね」

「……」

 

 返事は無い、だけどそんなもの無くても分かる。 きっと、俺と同じだから…。

 

 

 

 やがて、賑やかな一画を少し離れた路地裏に足を運ぶと、そこには、大きな子供が一人で、沢山の小さな子供達を面倒を見ながら、親達が仕事を終えるのを待っていた。

 

「あっ、御使い様だ」

「えっ? 本当だ」

「今日も違う人を連れて来ている」

「ねぇねぇ御使い様、誰が本命なの?」

「やっぱり、この間の桃色の髪の美人のお姉さん?」

「ちがうよ。きっと片眼鏡の人だよ」

「でも、この間の小さい方の桃色の髪のお姉さんは『ふふーんだ、まだまだ負けた訳じゃないもん』て言ってたよ」

「ばか、あまり迂闊な事を言ってると、猫のお姉ちゃんに聞かれるぞ」

「えっ、金髪のお姉ちゃんの方がヤバイって聞いたけど」

 

 ……子供達は、最初こそ俺が来た事に喜んではいたが、もう俺を放って、自分達で(主に女の娘を中心に)楽しく騒いでいる。 本当、子供って何でも楽しみの材料にする天才だよな……でも、その井戸端会議のオバサン達みたいな会話は、どうかと思うぞ(汗

 それと思春、子供達が勝手に言っているだけだから、その軽蔑しきった目で見ないでほしいんですけど……、本気で、身に覚えもないのに、子供達の言う事が、本当の事の様に聞こえてくるから……、

 とにかくそんな思春の目と、子供達の末恐ろしい噂話から逃れるため、手近の子供を優しく抱え上げ、

 

「元気だったか?」

「うん、お母さんも前より元気になったよ」

「そっか、村のお友達も元気かい?」

「うーん、おじちゃん達が、最近大猪が田畑を荒らして困ったって、嘆いていたよ」

「そりゃ困ったね。 お兄さんの方でも、何とかならないか相談してみるよ」

 

 そんな感じで、彼方此方の町や村から、市のために来ている子供達から、身近な事を聞いて行く。

 子供達は、大人が自分達の話を聞いてくれるのが嬉しいのか、聞かれなくても、自分達の周りの事を話して来てくれる。

 大半は『お父ちゃんが、またお母ちゃんに叱られていた』とか『弟におかずを盗られた』とか他愛のない話だけど、中には大人達が困っている様子を心配げに話してくれる子もいる。

 子供達は素直だ。 それに大人達が思っている以上に回りを良く見ている。

 それは自分達が周りに頼らなければ、生きて行けないと言う事を、本能的に知っているから、と言うのもあると思う。

 そうやって、子供達が話す事に飽き始めない頃合いを見計らって、

 

「じゃあ今日は、君達位の子供の話をしようか」

 

 俺のその言葉を合図に、子供達は騒ぐのを止め、俺の話がよく聞こえる場所に思い思い座ったり、壁にもたれ掛ったりする。

 中には、出遅れて前が見えない子が思春を見詰め(……あっ、思春困ってる困ってる)、

 やがて思春は、子供の悲しげな顔に根負けしたのか、諦めたかのように子供を抱えてあげる。

 そんな思春の子供に対する接し方に、意外に子煩悩なのかもと思いながら、舞いで学んだ呼吸や演出を活かして、物語を語り始める。

 小さな女の子が、おかしなウサギを追って、とんでもない世界に迷い込むお話を……、

 

 

 やがて、かなり割愛したものの話を終えると、子供達が競う様に、

 

「ねぇ、やっぱりその子の冒険は夢だったの?」

「さぁ? どうだろうね。 でも、夢でも現実でも、その子にとっては本当の事だったんじゃないかな」

「え~~、夢でも?」

「そうだよ。 夢の中だったとしても、その子が思った事はその子の中に生きていると思う。

 大切なのはその想いをどう受け止めて行くかって事だよ。 うーん、こんな説明はだと分からないかな?」

「うん分からない。 けどなんとなく分かった」

 

 そんな感じに、今話した物語についていろいろ質問をぶつけてくるが、本当に子供って、色々な捉え方をするよな、型が無いから発想が自由だ。

 とにかく、子供達の質問を適当な所で切り上げ、俺達は子供達に別れを告げて、城へと戻る事にした。

 これ以上サボっていると、また七乃にとんでもない手で、お返しされかねない……俺って、一応主なんだよな……と、我ながら情けない事を思い浮かべながら、溜息を吐いてみる。

 

 

 

 

 俺は思春と共に、城の庭にまで来た頃を見計らって、

 

「あの子達の笑顔、守らないとな」

「…そうだ。 だが貴様に言われるまでもない事だ」

 

 そっけなく目を瞑りながら思春は答えてくる。 思春らしい答え、だけどそれで良いと思う。

 その想いを表に出すも出さないも人それぞれだし、思春はそう言う面では人より少し……いや大分出さないだけだけど、あれはあれで慣れれば趣のある性格だと思う。

 

「……貴様が言いたい事は分かる。

 もっと力を抜き、あの子達を見守ったように、蓮華様を見守れと言う事はな。

 ……だが私はもうあのような思いはしたくないのだ。

 相手を見誤り、その結果守るべき主を守れずに地面に這い蹲る等とな」

 

 その事は何となく分かっていた。 思春が孫策との一件を事を気にしていた事……、だからこそ思春は、孫策を傷付けようとした俺に、頭を下げてでも教えを受けたのだから。

 でも思春が言った事は半分正解、もう半分……いや、もう彼女なら分かっている筈だ。 そしてだからこその拘り何だろう。…武人として、…蓮華を見守る者として、後悔するような事をしたくないのだろうな。

 そんな思春の、『誰かを守るため』と言う武人の誇り高さに、俺の胸の中を、心地良い風が通り過ぎる。

 この三日間で、思春は思春で色々考えたはず。……なら、後は思春に合わせるしかないな。

 そう思い至り、思春に待ってもらうように言ってから、近くの衛兵から棍を借り受け、

 

「思春、仕合やってみようか」

 

 俺の突然の申し出に、思春は、一瞬怪訝な表情を見せるも。

 

「…それは構わぬが槍が使えるのか? それにいつもの鉄扇はどうした?」

「仕事サボって散歩行くのに必要ないから、持って来なかった」

「…き・貴様はそれでも武人…くっ、ややこしいっ!」

 

 俺の不用心さに呆れつつも、俺が武人で無い事を、武では無く、舞でしかない事を思い出してくれた事が、ほんの少しだけ嬉しく思う。

 確かに、思春の言っている事はもっともだと思うけど、何かあっても、わざわざ戦闘する必要なんて何処にもないし、糸も数本は一応持ってはいる。

 まぁ、それはともかく置いとくとして、今は思春との事だ。

 

「舞いの一環で齧った程度だけど、多少は使えるつもりだよ。それとも思春、その格好だと戦いにくいから止めておくかい?」

 

 そう思春を挑発して見せる。実際のところ多少の影響はあるだろうけど、思春ほどの腕前ならば、格好等気にならないはず。そしてその証拠に、思春は武人らしい獰猛な笑みを浮かべ…。

 

「ふっ、何を馬鹿な事を…。格好を選ばねばならぬ程、生温い鍛え方はしていない」

 

 

 

 

 思春は、そう言って自分の獲物"鈴音"を構える。

 何時ものただ突っ立っているように見える構え、…だけど、片手に持つ剣は、その長さを相手から隠すように、その半身をその背に隠す構え。

 己が内の気を高め過ぎないようにし、その分息を小さく吐く様に、気を薄く広く伸ばして行く。

 俺との距離を己が内に取り込み、俯瞰の視界で自分と俺を見つめているのが分かる。

 そんな思春に、俺は『大分自然に入るようにできて来たな』と、短期間のうちに、呼吸の基本を自分の物にしつつある思春に感心しながら、いつも通り思春の出方を待つ事にした。

 俺と言えば棍を構えるでもなく、棍の中心から拳一つ分手前を持って、肩の後ろから足手前の方へと、片手で持って、突っ立っているだけだ。 真っ直ぐにね。

 

タッ!

 

シュッ

 

 一足飛びに、下から斬り上げられる剣を、身体を横にする事で避わす。 

 もっとも思春がこれで攻撃を終わらせる訳は無く、剣を持つ反対の手で突き込みながら、時間差を置いて、剣を引き戻しながら斬りつけてくる。

 俺はそれを片足を軸に、横に回転しながら手刀を避わし、剣は肩から伸びた棍が巻き込むように逸らしてやる。 きっと端から見たら、俺が只その場で回っただけにしか見えなかっただろう攻防。 だけど、それは大きな勘違いだ。

 思春は攻撃を躱され、流されただけではなく、その身体の軸を、間をずらされ後退するしかなくなり、そしてその通り大きく後退した彼女は、俺を油断なく強い眼差しを向けてくる。

 気が付いている筈だ。 もし思春の剣を逸らした後、棍を少し上げていたら、足を払われていた事を。

 もっとも、それで気圧されるような思春じゃない。 むしろ……。

 

「…余裕のつもりか」

「いや、実力も出せないまま終わらせるにはもったいないと思ってね。

 それと、今日も導いた方が良いかい?」

「ふっ、自分で引き出せなくて、何の実力か」

 

 そう不敵な笑みを浮かべて、再び地を蹴る。

 格好のせいか、いつもと違い、思春は小さな円を描くような足運びで、攻撃の回転を速めながら、攻撃を繋げて行く。

 それを俺は棍を立てたまま、同じく小さな足運び避わし、逸らし、彼女の間をずらしてやる。

 槍の最大の利点は、敵を近寄らせる事なく相手を倒す事が出来る事、だけど内側が安全とは決して限らない。ましてや俺の手に持つのは棍だ。 その重心の安定さを活かした攻撃は、長物の獲物の中では、接近戦において最速で、多彩。

 小円を描くように、繰り出す技は、遠距離の時とは比べ物にならない連携で、敵を巻き込み、払い、突く、それだけでは無い。 この距離において棍は使い方次第で二本の武器となる。

 相手は真剣、体術にしても、化け物じみた力を持つこの世界の将、喰らえばそれで終わり。 俺に立ち上がる術どころか、死ぬ危険性の方が高い。 それでも俺は、棍の利点を最大限に活かしながら、思春の腕に合わせてやる。

 思春が少しでも掴みやすいように、俺から盗び、学べるように、俺は舞う、思春と共に……。

 

 煌びやかな女官の袖を、空に舞わせる様な攻防は、

 彼女の攻撃を躱し、逸らし、彼女を巻き込んで、その場で回る俺の舞いは、

 まるで二人、息を合わせた一つの舞いのように見えるだろう。

 事実通りかかった者や、棍を借りた兵が、俺達の舞いに見とれている。

 これはこれで楽しい一時かもしれない。

 これが人を傷つける事を目的として身に付けたものでなければね。

 俺は、この観客の殆どいない舞いを終わらせようと、今まで以上に足を踏み込む。

 

ギッ

 

 横から斬り払われる剣の根元近くに棍の先を当て、棍が斬り払われないよう、彼女の力を利用するように、棍を回転させ、棍の反対側を彼女の脇の下に入れ込み。踏み込んだ勢いと彼女の勢いを利用して跳んでやる。

 

ドッ

 

「…ぐっ」

 

 背中から俺の体重と共に地面に叩きつけられた思春は、勝負がついた事を、薄目を開いたまま受け入れる。

 深く、ゆっくりと息を吸いながら、己の敗北を受け止める。

 そんな彼女の息が顔に吹きかかる程の距離に、思春が尊敬できる武人であると同時に、女性なんだとつい思ってしまう。

 

「……貴様と対峙している時のような感覚、静かな湖面のような感覚、…確かにあの状態でおれるのであれば、相手が貴様ではない限り、そうそう後れを取る事は無いかもしれない」

「……」

「……だが、無理だ。 悔しいが、私は其処までまだ達していない」

「良いんだよ、それでね。 大切なのは、歩んで行く事だろ」

「……そうか…」

「そうだよ。きっとね」

 

 思春は今まで通りで良いと思う。 蓮華だってそれを望んでいる筈だし、そんな二人の仲を壊したいとは思わない。

 ただ思春に蓮華を守る為の存在になってほしくなかった。 蓮華と共に歩んで欲しかった。

 美羽が俺に言ったように、思春だって、この国の民の一人だ。

 だから、彼女にも笑って……は無理かもしれないけど、頬笑んで見守っていられるようにしたいと思う。

 俺は立ち上がって、思春に片手を伸ばし、

 

「まぁ、皆に情けない所ばかり見せて、守られてばかりの俺が言っても、説得力ないかもしれないけどね」

「……ふん、自覚しているなら、少しは何とかしろ、軟弱者が」

 

 と、俺の手を取る事なく、一人で跳ね起きる。俺は行き場を失った手を、どうしようかと苦笑を浮かべながら手を引っ込める。……格好悪いな俺…。 でもまぁ俺達らしいと言えば、らしいよなと自分を納得させ。

 

「相変わらず手厳しいな。 でもまぁ、俺なりに頑張るよ」

 

 無言のままに、自分の仕事に戻って行こうとする思春を見送りながら、負けていられないなと思う。

 ……と思っていたのだが、思春は思い出したかのように足を止め、

 

「……かなり遠回しだった今回の件、この礼は何時か返させてもらうぞ」

 

 と言い残して、今度こそ去って行った。

 

 

翡翠視点:

 

 

 仕事にひと段落ついた頃、私の部屋を猫耳と尻尾を付けた人物、明命ちゃんが約束通り、来てくれました。

 私は彼女を安心させるように笑顔で迎える。 仕事の顔ではなく、私人としての笑顔で迎え入れられた事に、彼女も緊張を緩めてくれるのを確認してから、彼女にお茶を淹れてあげます。

 私も彼女と共に自分で淹れたお茶を飲み……。

 

「やっぱり、まだまだ一刀君の腕には敵いませんね」

 

 そんな私の溜息交じりの言葉に、明命ちゃんは『一刀さんは特別です』と、あまり慰めにならない事を言ってきます。 私はそんな明命ちゃんの言葉に、内心苦笑しながら。

 

「明命ちゃん、そんな呑気な事を言っていて良いんですか?

 明命ちゃんも少しはお茶やお料理を頑張らないと、そのうち美羽ちゃんにも抜かされてしまいますよ」

「はぅあっ! そ・それは困ります」

 

 流石の明命ちゃんも、私の言葉に少しは危機感を持ってくれました。 美羽ちゃんは、まだ料理をやらせれる段階では無いとはいえ、その内やれるようになるでしょう。 そうなった時、一刀君に会うまで、食べる事にあまり興味を持ってこなかった明命ちゃんが、このまま居て美羽ちゃんに追い抜かれないとは限りません。

 それに、七乃ちゃんの事もあります。 いつまでも今の状況に甘えている訳には行きません。 今日明命ちゃんを呼んだのは、その事もあっての事です。 取り敢えず、それは置いておいて、まずは明命ちゃんの意思確認です。

 

「昨夜はどうでしたか?」

 

 私の言葉に、明命ちゃんは、顔を赤くし、恥ずかしげに手をせわしく動かしながら、

 

「はぁぅぅ……翡翠様の言うとおり、一刀さんの上で、小さなお猫様が甘える様に、甘噛みしたり、すりすりしたりして、甘えたら、……その…ぁぅぅ………」

 

 昨夜の事を思い出したのか、体を捩りながら、恥ずかしそうに小さな声で、話してくれます。

 あの晩、一刀君にちょっとしたお仕置きのつもりで、一刀君を焦らしてあげた後の一刀君は、本当に凄かったです。 あまりの凄さに、意識が飛んでいきそうになるのですが、それすらも、冬の荒波の様に次々押し寄せる感覚に、意識を失う事も出来ませんでした。

 何時もの一刀君の激しさなど、優しく思えるくらい、激しく私を求めてくれた一刀君が嬉しくて、明命ちゃんにも教えてあげたのですが、結果は朝から御機嫌な明命ちゃんの様子からして、聞くまでもない事でした。

 本来は此処で話を次に進めるべきなのですが、私はふと思い。

 

「ちなみに一刀君、何回で落ち着いたんですか?」

「あ・あの、その……」

 

 私の何とはなしに聞いた問いに、明命ちゃんが更に顔を真っ赤にして、立てた指の本数は………私より一回多い…………。

 二晩連続だと言うのに、私より多い理由について一刀君に問いただしたい気分ですが、此処は大人の女として、懐の大きさを示す事にしましょう。 そう自分に言い聞かせるように、ゆっくりと深呼吸をします。

 私は話を本題に持っていく事を決め。

 

「私達はこれまで何度か、一刀君の想いを身体で確かめる事が出来ました。 ですがそれに甘えてばかりいてはいけないと思うんです」

「はー、確かにそうだとは思います」

 

 私の言葉に、明命ちゃんは賛同するものの、よく分かっていないようです。 ですから、

 

「まぁ、ぶっちゃけてしまえば、気持ち良くしてもらうばかりじゃなく、此方から一刀君を気持ち良くしてあげたいと思っています」

「えっ! えっ あ・あの、そ・それは、もしかして…はぁぅぁぅ…」

 

 私の言っている意味が流石に分かったらしく、明命ちゃんはその事を想像したのか、手を胸の前でもじもじさせています。 そんな明命ちゃんを見ていたら、そこに悪戯心が湧き、

 

「明命ちゃんが何を思いついたかは、敢えて聞きません」

「はぅあっ!」

 

 私の言葉に明命ちゃんは、耳どころか、首筋まで真っ赤にして声を上げ、自分が今何を考えていたかを冷静に判断してしまい、自己嫌悪に陥ってしまいます。 そんな様子が微笑ましくもあり、ちょっとした悪戯が成功した事が嬉しくもあって、笑みを浮かべながら明命ちゃんを見守ります。 やがて、少し落ち着いて来た頃を見計らい。

 

 

 

 

「明命ちゃんは任務の関係上、どういった物かは知っているようですけど、詳しい事は知っていますか?」

「…あの……残念ながら、……任務の関係上、そう言う場も見てきましたが、特に意識していなかったので、その……分かりません」

「やっぱり、そうでしたか…、ならちょうど良いです。 以前、水鏡先生から房中術・八家百八十六巻を纏めたものを戴けましたので、その紐を解く時です」

 

 私が取り出した数冊の本に、私が開いた項の内容に明命ちゃんは驚き、目を開かせています。 ですが恥ずかしげにしていながらも、その目はしっかりと本の内容に固定されています。 まぁ内容としては、口淫や手淫の手管なのですが、この本の凄い所は、そこらの指南書と違って、相手の肉体だけではなく、"氣"を操り、男女の営みでのみ行える仙丹法が書かれている所です。

 明命ちゃんに、この本の事を詳しく説明しようとした時、廊下から侍女達の話し声が聞こえてきます。……まったく、大きな声で噂話なんて、今度少しお話しなければいけませんね。 そう心の中で溜息を吐いていた時、私達にとって聞き逃せない内容の話が聞こえてきました。

 

 その後は早かったです。 明命ちゃんが身柄を確保し、侍女二人は私達に詳しく教えてくれました。 内容としては、純粋に誤解だと言う事はすぐ分かりました。 着飾った思春ちゃんとの庭の隅で楽しげに会話していたと言う事も、侍女達が言うようなものではないでしょう。 美羽ちゃんを膝に乗せて抱きしめていたと言うのも、この間やっていた練習方で、一刀君にやましい気持ちが無いと言う事は信じられます。

 ですが、信じられる事と、安心できる事と言うのは同じではありません。 ですから、今の話を聞いて私と同じ気持ちになっていると確信している明命ちゃんに。

 

「私達が一番だと言う事を、一刀君に教えてあげましょう」

「はいっ」

 

 明命ちゃんの力強い返事を受けて、私達は今が仕事中と言う事も忘れて勉強に励みます。

 

 「…成程、丹田に相手の"氣"を受け止めながら、自分の"氣"と合わせて相手に返す事で…、あっでも、力が抜けてしまって、自分から動けない時はどうすれば良いんでしょうか?」

「その時は私が導きますから、その辺りはお互い助け合って一刀君を気持ち良くしてあげて行けば良いと思います。 そのためにも、同じ知識をある程度……」

 

 二人で、実際想定しながら話し合っていくと外から。

 

「おい、甘将軍と御使い様が、庭で舞いを舞われたって本当か?」

「違う違う仕合だよ仕合、まぁ北郷様相手だと舞いに見えてしまうらしいけどな。 俺も直接見た訳じゃないから詳しい事は知らないけど、最後は北郷様が甘寧様を押し倒した形で終わったらしいぜ。 侍女達がまた黄色い声で騒いでたしな……まったくあいつ等はそう言う話が好きだよなぁ」

「それなら納得、いくら甘将軍があんなに綺麗な格好しても、それは無いなと思ってはいたんだよな」

「ばーか、当たり前だろ」

 

 衛兵達はそんな無駄話をしながら巡回してこの部屋から遠ざかって行きます。 兵達の話にまず間違いはないでしょう。 ですが私の脳裏に、綺麗に着飾った思春ちゃんと一刀君が舞い踊り、最後には一刀君が思春ちゃんを甘く押し倒す姿が浮かび上がります。

 

……ぷちっ

 

 そう、何かが切れる音が、私以外からもします。 その音が何処から出ていたかなんて、確認を取るまでもありません。 私は自分でも顔が引き攣っているのを自覚しながら、明命ちゃんに私の中で決定した事を伝えます。

 

「三日連続となりますが、明命ちゃんは構いませんね?」

「はい、幸い此処に書いてある天丹法、地丹法、人丹法、どれも相手の"氣"を中から高め、身体の回復力も上げると書いてあります」

「なら、今回は御仕置きの意味も込めて此れなんてどうですか」

 

 そう言いながら、本の項を開き提案を示します。 そこには、男性に胤を出させずに、達せさせる方法が幾つかが示してあり、二日連続してたっぷりと出した一刀君にとって、一番効果的な方法です。

 一刀君。 一刀君に幾ら言っても、きっと自覚してくれないでしょう。 ですから教えてあげます。 一刀君を一番好きなのが誰なのかと言う事を、私達二人で一刀君の心と身体を染めてあげます。

 

 

 

 

 あの方が、一刀君を諦められる様に……。

 あの方が、私達の中に入り込めないように……。

 今の理想の関係を壊さないためにも……。

 一刀君は、私達を見ていないといけないんです。

 

 一刀君が喜ぶなら、どんな事もしてあげます。

 一刀君が間違えたなら、幾らでも叱ってあげます。

 一刀君が背負った罪に泣きだしたくなったなら、幾らでも受け止めてあげます。

 一刀君が選んだ道が辛く、悲しい道であっても、私達は何処までも一緒に歩みます。

 

 だから、本当に心を開くのは、今の家族だけにしてください。

 あの方の想いに、気が付かないで上げてください。

 あの方への想いに、気が付かないでください。

 あの方の決意を、揺らがせるような事をしないでください。

 

 

 

 

 

 

 一刀君、今夜は快楽と苦痛の果てに、

 

    その身体にしっかりと、教えてあげますね。

 

 

 

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第81話 ~ 仮面の下に舞う想い ~ を此処にお送りしました。

 

 今回の主役は間違いなく思春で書いてみました。題材としては、愚直なまでに孫家を守ろうとする思春の葛藤の一端を書いてみました。

 最初は、思春と孫家の過去を描く事も考えましたが、それだとかなり脱線しそうだったので、腹案出合った今回のような展開にしてみました。

 最近のこの外史での一刀で気を付けないといけないなぁ、と思っているのが、一刀が目上視線になりすぎないよう気を付けねばと思っています。やはり、一刀は弄られなければ♪(w

 最期の展開は、思春が何を思っての事なのかは色々捉え方はありますが、この外史では、思春√に入る事はありませんので御了承ください。あの関係が気に入っていますから♪

 翡翠が明命を誑かして、企んでいましたが、ただ単に作者が、無印で朱里が出したあの本のネタを一つ書きたかったのと、翡翠なりの某王様への牽制として描いてみました。 やっぱりシリアスより、一刀を酷い目(?)に合わせた方が書いていて楽しいです。 まぁこの後、一刀がどうなったかは、今後のおまけをお待ちください。

 取り敢えず、最期の翡翠達の閨ネタでの暴走話は、これくらいにしておいて、次回から本格的に話を進めていきたいと思います。また~りとですけど(汗 そして最後に、翡翠エロ娘にさせすぎでしょうか?

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

 

 

PS:一刀が二人によって染められるのか、それとも逆に染められるのか、その辺りは皆様のご想像にお任せいたします(w


 
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