No.171548

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第三十八話

狭乃 狼さん

刀香譚、連日投稿です。

益州で起きた騒動、そして、一刀の下を訪れる、

あの人物。

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2010-09-10 11:46:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:12300   閲覧ユーザー数:10470

 「子慶殿じゃないか!なんとも久しぶりだ」

 

 「孟達のおねーちゃんなのだ!お久しぶりなのだ!……生きてるほうなのか?」

 

 「お久しぶりです、公孫瓚どの。私は生きているほうですよ?張飛どの」

 

 孟達と握手を交わす、公孫瓚。そして、その周りをなぜかぐるぐる周る張飛。

 

 「二人とも、知り合いなのかい?」

 

 「ほら、前に話しただろう?洛陽での孤児院の一件」

 

 「ああ。例の幽霊騒ぎ」

 

 「!!」

 

 一刀の言葉を聞き、一瞬で身を硬くする関羽。

 

 「もしかして、愛紗ちゃんが立ったまま気絶した、”あれ”?」

 

 「と、桃香様!お願いですから、もうそれは言わないでください!」

 

 「あはは。ごめんごめん」

 

 顔を真っ赤にして劉備に詰め寄る関羽。そしてそれをなだめる劉備。

 

 

 所は荊州、襄陽の城中。その玉座の間。

 

 突如としてこの地を訪れた、孟達と名乗る人物を、荊州(正確には荊北勢)の者たちが総出で迎えていた。

 

 「……さてと。それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか。孟達さん、今回はどういったご用件でしょう?」

 

 笑顔から一転、真面目な表情で孟達に問う一刀。

 

 「……あまりにもぶしつけであり、そちらにこのような義理が無い事は、重々に承知しております。ですが、この孟達子慶、その上で劉翔様にお聞き届け願いたいのです!どうか、どうか我が主厳顔と、友である魏文長をお助け下さい!どうか、どうか……!!」

 

 床にひざまずき、必死で一刀に懇願する孟達。

 

 

 

 「……大まかなことは、先に事情を聞いた輝里、いえ、徐元直から聞いています。主君である劉季玉殿の、荊州侵攻の命にに逆らったと」

 

 「はい。……お恥ずかしい話ですが、今の益州牧である劉璋さまは、分別のつかない子供と同じでして。年だけは劉翔様とさほど変わらないのですが、なんと言いますか、その」

 

 「……わがまま?」

 

 「……端的に言えば」

 

 一刀の言葉に、なんとも言えない表情で答える孟達。

 

 「少し前の美羽ちゃんみたいな感じかな?」

 

 「……そんな感じと思って、間違いなさそうだな」

 

 現・荊南太守である袁術の、およそ半年前の姿を思い浮かべる、一刀と劉備。

 

 「孟達、というたの。前益州牧の君郎は妾もよく知っておる。あれは聡明な人物であったが、子にはきちんと教育をせなんだのか?」

 

 孟達に問いかける劉封。

 

 「……先主は紅花さま、あ、いえ。劉璋さまのことは全て、腹心であった張任殿に任せておられたと、私は聞き及んでいます。張任さまは、紅花さまを相当に甘やかして育てられたそうで、成人された今でも、昔とほとんど変わらず、政は張任殿に任せ、遊び惚けておられるようで」

 

 「……なんともはや」

 

 孟達の言葉を聞いて、あきれる劉封。

 

 「……あの。あなた様は一体……?先主さまとはどういうご関係で……」

 

 「ん?ああ、洛陽におったときに、何度か顔をあわせたことがあるのだ。妾がまだ『弁』と名乗っておったころな」

 

 「エ?!」

 

 劉封の元の名を聞いて驚く孟達。

 

 「……あ、今の妾はあくまで、一刀おじの配下の劉封じゃ。そこのところ、よしなにな?」

 

 「は、はあ……」

 

 「孟達さん。援軍の話ですけど、少し考えさせてもらっていいですか?と言っても、夕刻までには答えを出しますから、別室にて休んでてください」

 

 呆然としている孟達に、そう声をかける一刀。

 

 「あ、は、はい。ご英断、期待いたしております」

 

 深々と頭を下げる孟達。

 

 「鈴々、孟達さんを客間に案内してあげてくれるかい?」

 

 「りょーかいなのだ!さ、おねーちゃん、鈴々について来るのだ!」

 

 バタン、と。扉を閉めて出て行く、張飛と孟達。

 

 

 

 「はわわ。ご主人さま、何で即答されなかったんですか?」

 

 「あわわ。こ、これこそ天下三分の第一歩だと思いましゅ」

 

 諸葛亮と龐統が一刀に迫る。

 

 「二人の言いたいことはわかるよ。けど、どんな理由があれ、他人の領地にこっちから戦を仕掛けるってことは、俺たちは今まで一度たりともしてこなかったろ?風聞を気にするってわけじゃないけど、多くの兵の、民の命が俺の決断で失われることになる。それが果たして、良いことかどうか……」

 

 そう言ってうつむく一刀。だが、

 

 「あんた馬鹿?」

 

 ばっさりと。一言で否定する賈駆。

 

 「ちょっと詠ちゃん。駄目だよそんなこと言っちゃ」

 

 「いーのよ。前々から一辺言いたかったんだけど、あんた心底馬鹿でしょ?何のためにぼくたちがいるのよ」

 

 「そうだな。……なあ、一刀。確かに戦ってのは罪しか生まない、本来ならあっても仕方のないものだ。けど、だ」

 

 「世の中には、その罪を背負わなければいけない人間もいるのよ。特に今と言うご時世じゃね。……まあ、蒼華に同意されるとは、思ってなかったけど」

 

 ちらりと華雄を見る賈駆。

 

 「ふ。……一刀、戦の罪を、お前が一人で背負う必要はないんだ。共に背負う者が、ここにこれだけいるんだから」

 

 一刀に微笑む華雄。

 

 「あたしたちが罪を背負うことで、助けられる人たちも居るってこと、忘れちゃ駄目だよ?おにいちゃん」

 

 そして、劉備の一言とともに、全員が一刀に笑みを向ける。

 

 「……ありがとう、みんな。わかった。迷うのはもうやめるよ。俺は、益州を取る。たとえ大罪人としてそしりを受けようとも、そこに泣いている人が居る限り、俺はもう前進をやめない。……皆、ついてきてくれるかい?」

 

 『ついてまいります、どこまでも。我が君』

 

 一刀に拱手し、頭を下げる一同だった。

 

 

 

 一方、益州・巴郡にて。

 

 「何度きても無駄じゃ。わしは荊州攻めなんぞには、手を貸さん」

 

 ぷい、と。牢の中で張翼に背を向ける厳顔。

 

 「……何故そうまで意固地になられますか。紅花さまもおっしゃっておられます。荊州さえ取れば、益州の民たちにかける税や労役を、半分にまで減らすと」

 

 「そもそもそこがおかしいと言うておる!民によって生かされているわしらが、何故民を苦しめる必要がある!ましてや、税も労役もはじめから、今の半分で十分に事足りておったこと!そんなものはいまさらというやつじゃ!」

 

 「そ、それは……」

 

 厳顔の言葉に反論できない張翼。

 

 「蒔よ、そなたも考え直せ!今からでも成都に戻って、嬢に馬鹿なことをやめさせるのじゃ!」

 

 「それは……出来ませぬ」

 

 「何故じゃ!」

 

 「……朔耶が、危うくなります」

 

 「………朔耶、じゃと?まさか」

 

 「……………」

 

 厳顔から目をそらし、歯噛みする張翼。

 

 「そういうことか。自分の家臣を人質にして、他の者を動かすなどとは!……情けない、なんと情けない!!」

 

 ガシッ!!

 

 牢の壁を叩く厳顔。

 

 「桔梗様、そういうことですので、何とか力を貸してくだされ。……といっても、出陣までにはいま少し時間がかかりますが」

 

 「?……どういうことじゃ?」

 

 「美音の手違いでして。兵糧の到着が”大幅に”、遅れております。それまでに逆に攻め込まれなければよいのですが。……由が居ないのは、”そういうこと”でしょう?」

 

 厳顔に笑みを向ける張翼。

 

 「……おぬしら、まさか」

 

 「さて、私はそろそろ巡回に出ねばなりませぬゆえ。では」

 

 去っていく張翼。

 

 「……馬鹿たれが。小憎らしいことをしおって」

 

 顔のほころぶ厳顔であった。

 

 

 

 再び荊州。

 

 「ではあらためて、陣容を確認する。益州に赴くのは俺と桃香、愛紗、鈴々、恋。蒼華と白蓮に水蓮さん。参謀には輝里とねね、そして拓海。兵力は重装兵二万と、雷弩兵一万。弓騎兵と軽騎兵が五千づつの計四万で出陣とする。なにか質問は?」

 

 「あの~」

 

 おずおずと手を上げる一人の少女。

 

 「なんだい、拓海」

 

 「何でボクなんでしょう?参謀としてなら、姉ちゃんのほうが適任だと思いますけど」

 

 拓海、と呼ばれたその少女、馬謖、字は幼常が一刀に問いかける。

 

 「それに、本当にこの格好のままで行かなきゃいけないんですか?ぼく、”男”なのに……」

 

 そう。どこから見ても少女にしか見えない姿の馬謖は、正真正銘の”男”である。なのに何故、こんな格好をしているのかというと。

 

 「だって可愛いんだもん。ね~、朱里?」

 

 「はわわ。拓海ちゃん、カワイイです」

 

 満面の笑みを浮かべる馬良と、目が半分逝っちゃっている諸葛亮。

 

 そう。全ては、”男の娘”が大好きな姉の命令。でもって、尊敬する諸葛亮にまでほめられては、馬謖としても、断りようがなかったのであった。

 

 「あうう……。僕って不幸……シクシク」

 

 「え~っと。と、とにかく!拓海には参謀としての才があるから、ぜひ今回の戦で経験を積んで欲しいって、朱里が言っているんだ。だから頑張って!な?」

 

 「……はい」

 

 「ごほん!……由さん。先鋒の鈴々と一緒に、道案内。よろしくお願いします」

 

 「はい、一刀さま。……鈴々ちゃん、よろしくね」

 

 「まっかせるのだ!!」

 

 笑顔で握手する、孟達と張飛。

 

 「命。荊州の事は君の判断に任せる。……”北”への対応もこみで」

 

 「わかった。安心してくれ、一刀おじ」

 

 「ん。……他の皆も、留守をよろしく頼む。……よし!ではこれより出陣する!目指すは益州・巴郡!益州の人々を愚政から解放するために!仁を持ち、義を訴え、勇を示す!皆、奮起せよ!!」

 

 おーーーーー!!

 

 

 

 

 こうして、一刀たちの益州攻略が開始された。

 

 

 その先に待ち受けるものは、希望か、それとも。

 

 

 先陣を進む孟達の胸中には、裏切り者の汚名を被るであろう事への罪悪感と、それに対する覚悟が同居し、

 

 

 劉備には、兄を必ず支えようという決意があり、

 

 

一刀には、同族攻めと、侵略者としての罵倒を甘んじて受ける、その覚悟が出来ていた。

 

 

 時に、漢の献甲元年。

 

 

 五月初頭のことであった。

 

 


 
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