No.170701

またね~夏夜に交わした、一つの約束~

黒助さん

眠いです、黒助です。
あんまり書くとネタばれのきけなりなので。
あまり語りません。
最後に・・・雪蓮ーーー!!愛して・・・ぐぅ。

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2010-09-05 23:50:34 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:3945   閲覧ユーザー数:3600

 

そうして、何もかも忘れてしまった

 

記憶も思いも、何もかも

 

残ったのは、空っぽの約束だけ

 

 

 

 

 

―――暑い暑い夏の夜に 交わしたそれが

―――いつか 叶う日を夢見ている

 

 

 

 

 

 

早朝―――日も出ていない時間に雪蓮に叩き起こされた一刀は現在、釣りをしていた。

 

「う~、何で釣れないのよ~」

 

前回と相変わらず、全く動かない竿の先にだんだんと機嫌が悪くなっていく雪蓮に一刀は、

 

「だから釣るのは俺に任せて、雪蓮は果物とか取りに―――」

「何よその言い方。一刀は私と一緒にいたくないの?」

 

ずい、と一刀に顔を近づける雪蓮。

そういう意味に取られるとはみじんにも思っていなかった一刀は慌てて言った。

 

「あ、いや、そういう意味で言ったんじゃ・・・」

「じゃ、一刀は私と一緒にいたいんだ?」

 

不機嫌と太文字で書かれていた顔は、すぐに笑顔に変わった。

そこで一刀は、雪蓮が自分をからかっているのではと思いもしたが、口には出さなかった。

口に出せば、今度は何を言われるのかわからないし、それに、

 

「ああ、俺は雪蓮と一緒にいたいよ」

 

そう思ってることも事実であるからだ。

一刀の言葉に雪蓮は僅かに頬を赤くした。

こういう風に言われるとは思っていなかったらしい。

雪蓮と一刀との距離はとても近い。

あと少し顔を寄せれば、互いの吐息が分かるほどに。

当然、それだけ距離が近ければ、顔に朱が差したことなんて丸わかりなわけで―――

 

「雪蓮、もしかして照れ・・・・」

「さぁ、一刀。魚は釣れないみたいだから町に行って朝ごはん食べましょう」

 

一刀が言い終わる前に、雪蓮は一刀の腕を突然掴み、立ち上がった。

 

「え!?ちょっ、雪蓮!?」

 

一刀の腕を掴んだまま歩く雪蓮。

いきなりそんなことをされても、立ち上がれるはずはなく。

一刀は雪蓮に引きずられるようにして移動していく。

 

「文句はないわよねぇ。さっき私と一緒にいたいって言ったばかりなんだから」

「ない!ないから立たせてくれっていうか、いったん止まれ!!」

 

それは、とても分かりやすい照れ隠しであった。

 

 

 

 

引きずりまわしの刑は、一刀が思っていたよりも早くに終わった。

さすがに男一人を片手で引きずるのは疲れるらしい。

その代わりなのか、雪蓮は一刀の腕を抱えるように抱いたまま歩いている。

もし呉の将の誰かに見られたら、からかわれるか、それとも嫉妬の目を向けられるのどちらかであるため、離すよう雪蓮に言うと、

 

「大丈夫、大丈夫。誰にも会わないわよ、絶対に」

 

含みのある笑みで、そう言った。

実際、朝食を食べたときも、町を歩いている今も、自分の顔見知りには誰一人として出会わない。

 

「ねぇ一刀、これ、似会うかしら?」

 

町で一番大きな服屋で、様々な衣装を手に取り、体の線に合わせていく雪蓮に一刀は

 

「うん、似会ってるよ」

 

決まってそう言った。美人はよほどのことが無い限り、何を着ても似会うのだ。

 

「もう、一刀ったらさっきからそればっかり」

「だって似会ってるんだからしょうがないだろ?」

「むぅ・・・一刀の種馬」

「どういう意味だよ、それ」

「女の子なら、誰彼構わず褒めるっていう意味」

 

くすくすと笑う雪蓮。

ひとしきり笑った後で、

 

「じゃあ、今度は一刀が選んでよ、私の服」

 

一刀が選んだのを買うから、と雪蓮は言った。

それを聞いた一刀は店内をぐるりと一周。

どうせなら、普段の彼女が選ばないようなものをと一刀が選んだのは、

 

「・・・・これ?」

「これ」

「えー・・・」

「文句言っても、もう買ったからな」

 

手に持った服を雪蓮に持たせ、試着室へと連行する。

最後まで嫌だの似会わないだの言っていた雪蓮を試着室に押し込んでからしばらく。

衣擦れの音がやみ、試着室とこちらを分ける布が取り払われた。

いつものよりも布地の多い、おちついた色合いのワンピースを着た雪蓮を見て、一刀は、

 

「うん、かわいいよ。雪蓮」

「ありがと・・・」

 

一言だけ、そう言った彼女の腕をしっかりと一刀は握った。

 

「あの、かず・・・・」

「お世辞じゃなくて、本当ににあってるからさ」

 

だから、

 

「今日一日だけでいいから、このままじゃ、駄目かな?」

「・・・また・・・・」

 

小さい、近くにいる一刀ですら聞き取れない声で、いつもと違う触れれば壊れるのではないかと思ってしまうような、そんな儚い表情で雪蓮は何かを呟いた。

 

「雪蓮、悪い。もう一度・・・・」

 

言ってくれと、そう言う前に、

 

「もう、一刀ったら我がままなんだから♪仕方ないわね、今日一日は、この格好でいてあげる」

 

いつも通りの笑みと声で雪蓮は言った。

さぁ、行きましょ、と一刀の腕を引いて店から出る雪蓮。

その時だった。

 

(あ、れ・・・・・・)

 

違和感が脳をざらりと舐めた。

立ち止まりそうになる足。無理やり動かす。

立ちどまえれば、きっと何かを無くしてしまう。

だから、一刀は必死に足を動かした。

そのことに、雪蓮が気付いたのを知らず―――。

 

 

 

そうして、時間は瞬く間に過ぎて行った。

もうじき日が沈み、夜が来る。

一刀と雪蓮は早めの夕食を食べていた。

帰ったらきっと冥琳に捕まっちゃうから町で食べようと言った雪蓮に、一刀は、どうしてだ、と尋ねた。

仕事はないし、怒られるようなことでもしたのか、と。

一刀の言葉に雪蓮は違うの、と笑った。

そのことを不思議に思った一刀だが、まぁいいかとも思い、こうして町の料理屋で夕食を食べている。

 

「それでさ、思春の奴なんて言ったと思う?大真面目な顔で・・・」

 

卓の上に置かれた料理を箸でつつきながら、二人は話をしていた。

話すのは主に一刀で、雪蓮は一刀の話を酒を飲みながら聞いている。

 

「うっそ~。あの思春がまさかそんなこと言うなんて」

「だろ。あの時も言った瞬間、場がシーンのなってさ」

 

話をし続けるうちに、また違和感が浮上する。

一刀が話しているのは、ここ最近起こった呉のことだ。

なのに、彼女は知らない。

知っている、はずなのに。

ああ、そんなこともあったわねと返すのは―――

 

雪蓮が■■■―――

 

「一刀?どうしたの」

 

急に黙りこんだ一刀に雪蓮は声をかけた。

その、声。

その、姿。

それ、は。

あの日、あの時、■われた筈の、もので。

 

「いや、なんでもないよ」

 

そう言って、一刀は笑った。

それは昼間、雪蓮が浮かべたような儚げなものだった。

 

「本当に?」

「ああ、本当に」

 

気付いてしまった。

思いだしてしまった。

 

「ほら、雪蓮も酒ばっか飲んでない食べろよ。これなんてかなりおいしいぞ」

「あっ!ちょっと一刀!その酒瓶返しなさい!!」

 

だけど、どうか、お願いします。

もう少し、もう少しだけでいいから。

 

「夕飯食べ終わってから飲めばいいだろ。料理が冷めるし」

「一刀の鬼!悪魔!鬼畜種馬女泣かせ!!」

「酒取りあげたくらいでそこまで言うなっ!」

 

 

―――この楽しくて、楽しくて仕方がない時間をください。

 

居るかどうかも分からない神に、一刀は、そう願ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、夜。

二人は、朝、釣りをした川に来ていた。

ぽつりぽつりと、宙に光が舞っている。

蛍だ。

星光と月光を浴びて輝く川と、宙を踊る蛍光。

綺麗としか言えない景色を、雪蓮と一刀は静かに見ている。

どれくらい、時間がたっただろうか。

お互いの吐息しか聞こえない中。

静かに、名残惜しそうに、雪蓮は声を紡いだ。

 

「一刀、楽しかった?」

「ああ。楽しかったよ、雪蓮」

「そっか」

「・・・あのさ、雪蓮・・・・・」

「なぁに?」

「・・・俺は、死んだのか」

 

その、言葉。

夕食時に気付いた事。

それを雪蓮は、

 

「あははははははっ!」

 

笑った。

笑い、笑い続ける。

そんな彼女を見て固まる一刀。

俺、変なこと言ってないよなと思わず自問した。

夜に響いた笑い声は、だんだんと小さくなっていき、、止んだ。

 

「あ~、もう一刀ったら変なこと言うのね」

「変なことって・・・」

「だいたい、もしそうだったら私、どんなことをしてでも一刀のことを生き返らせるに決まってるでしょ」

「決まってるのか・・・」

「ええ」

 

だったら、

 

「なんで、雪蓮がここにいるんだよ」

 

てっきり、死んだ自分を雪蓮が迎えにでもきたついでにこうして自分と遊んでいるんだと思っていた一刀。

それが違うのならば、何故、彼女は自分と一緒にいるのだろうか。

 

「一刀を助けるため?」

「・・・それって、どういうことなんだ?」

 

意味が分からず、説明を求める一刀に雪蓮は説明した。

 

―――事の始まりは、一刀がはやり病で瀕死の状態になったことだった。

魂が向け出しこちら―――冥府の入り口付近まで来て、そこを雪蓮に保護。

肉体が治るまで行かせなければ大丈夫だろうと思い一緒にいたが・・・

 

「一刀ったら日に日に記憶を忘れちゃってね」

 

生きている人間の魂が入り口とはいえ、冥府にいたのが原因でそうなったのだろうと、雪蓮は言った。

 

「だから、記憶が元に戻るまで帰さないでいようって話になったの」

「そう、なんだ・・・」

「うん、大変だったんだからね。冥府の人たちと話しつけたり、冥琳に一刀に会いたいっていう母さま押しつけたり」

 

でも、

 

「思いだしちゃったんなら、お別れだね」

 

寂しげな雪蓮の笑顔に、一刀も笑った。

 

「そう、だな」

 

ここで、こうして笑いあえて、話しあえただけでも、奇跡なのだ。

だから、笑わないと。

雪蓮だって笑っているんだから。

 

「あっち、まっすぐ行けば帰れるから」

「分かった」

 

指さされた方向に足を向け、

 

「ああ、そう言えば」

 

思いだした様に、一刀は言った。

 

「昼間、なんて言おうとしたんだ?」

 

心に引っかかっていた疑問を、雪蓮に尋ねる。

しばし、口を閉ざした後、雪蓮は言った。

 

「またこうして一日中私と一緒にいてくれるんなら、いいわよ」

 

それは、どうしたって叶えられない願いだった。

一刀は生きていて、雪蓮は死んでいて。

二人の間には、どうしたって越えられない境界がある。

一刀は、その言葉を聞いた後、

 

「分かったよ。じゃあ、約束な」

 

言った。

彼だって、それが叶えられないことだってしっている筈なのに。

 

「袖振りあうのも多少の縁っていうだろ」

 

だから、

 

「会えるよ、絶対。会えなくても、雪蓮が俺を見つけてくれたみたいに、今度は俺が雪蓮に見つけるよ」

 

いつか必ず、どこにいても会いに行くと、一刀は言った。

 

「・・・約束、してくれる?」

「ああ」

「絶対、だからね?」

「うん」

「諦めたら、許さないんだからね?」

「分かってるよ」

 

そう、と彼女は言い、

 

「じゃあ、またね。一刀」

「ああ、またな。雪蓮」

 

そうして、一刀は走って行った。

とても大切な思い出と、約束を持って。

 

 

 

 

 

はぁ、と雪蓮はため息をついた。

どうしてあんな約束をしたのかしら、と。

ここには、記憶を刻む体はなく、魂しかない。

おそらく、起きた時には約束のことなんて忘れいるし、覚えていたとしても―――

 

「生まれ変わったら、忘れちゃうのにね」

 

自分も、彼も。

何もかも全てを忘れ、また生まれる。

約束が果たされることなんて、きっとないだろう。

・・・けれど、それでも、願ってしまう。

また、彼と一緒に過ごせる日々を。

だから、信じてみようと、雪蓮は思った。

 

「一刀」

 

―――待ってるからね。

 

いつか自分を迎えに来てくれる、そんな奇跡(日)を

 

 

 

 

目を開けた時、体が異様に重かった。

そういえば、病気で死にかけていたのだったか。

誰かから聞いた言葉を思い出した。

 

「・・・誰だったけ」

 

思いだせない。

とても、とても大事で、忘れてはいけないことなのに。

なのに、思い出せなくて。

気付けば、

 

「・・・あ、れ」

 

喉も口も、何もかもが乾いているのに、瞳だけが濡れていて。

 

「・・・あ、くそ・・・・・」

 

心に空いた、大事な空白と。

そんな空白に残っている、一つの約束。

会わなければ、いけないのに。

見つけないと、いけないのに。

なのに、思い出せなくて。

そのことに、ただ涙した。

 

 

 

 

 

そうして、何もかもが眠りについた

 

意識も心臓も、何もかも

 

残ったのは、空っぽの約束だけ

 

―――眠りについた 大切すぎた思い出が

 

―――いつか 目覚める日を夢見ている

 

 

 

 

連日の猛暑。

太陽は容赦ない光線を地上に浴びせ、地上のアスファルトは熱をため続ける。

そんな中、俺は家への帰路を歩く。

 

「あ~、くそ」

 

右手に持った買い物袋がいつもよりも重たく感じた。

夏休み。

家へと帰った俺に待っていたのは、炎天の下を歩く権利―――つまり、買い物役だった。

当然反対したが、母さんに勝てる筈がなく。

俺はこうして、買い物をしに行ってるわけである。

気温は現在36度。

ひっきりなしに浮かぶ汗を左手で拭う。

・・・どうでもいい話だが、俺は夏が苦手だ。

何か特別な理由があるわけではない。

確かに、こんな馬鹿みたいに暑い空気は好きではないが、そんな普通の理由ではない。

それだけは確かだ。

時折見るあの夢のせいかもしれない。

見るたびに、何故か悲しくなる夢。

ここではないどこか。

いまではないいつか。

誰かと交わした、空白の約束。

 

「本当に、なんなんだろうな・・・」

 

見覚えのない―――けれどどこか懐かしい景色の中で、俺は誰からと笑いあう。

すべてがおぼろげで、いつも朝の空気に溶け、すぐに曖昧になってしまう夢の内容。

ここ数年のうちに見始めたそれは、本当によくわからないものだった。

どうでもいいと言えば、どうでもいい。

だって、そんなこと、分からなくても生きていける。

変な夢の一言で片づけられるのに、それをしないのは・・・

 

「やめだやめ」

 

・・・こんなにも暑いせいだろうか。

普段なら思わなくてもいいものを思うのは。

思考を中断し、歩くことに専念した。

下を向いていた視線も正面へと正し―――。

 

「・・・・・・あ」

 

―――   、  。

 

三メートル程先にいる誰か。

知らないのに知っているその顔を見て、心の中の何かが埋まり、歓喜した。

 

 

 

 

 

 

「ほんっとにあついわね~」

 

右手に持った団扇をパタパタと扇ぐ。

顔に当たる風はもちろん冷たくなんて無いが、無いよりはましだ。

引っ越ししてきてから早数時間。

荷ほどきの魔の手から逃れるべく、家を飛び出したのはいいけれど、ついうっかり財布を忘れてしまったのが運の尽き。

とんでもなく暑い空気の中を、私は歩いている。

 

「家に帰ったら、何言われるかわかんないしな~」

 

帰った時のことを考えると気分が重くなった。

視線も僅かに下がる。

けれどこんな気温の中、重い荷物を娘に優先的に渡す母はどうかと思う。

私でなくても逃げ出す筈だ、たぶん。

 

「それにしても・・・」

 

今朝、また見た夢のことを考える。

楽しくて、楽しくて仕方がない―――けれど、見るたびに何故か寂しくなる夢。

内容は明確に思い出せないけれど、それがとても大切なものなのだとは分かる。

昔から見るそれは、よくわからないものだ。

ただの夢であるのに、夢ではないような気もするそれ。

考えても結論はでない。

けれど、もうすぐ、夢がなんであるのか、分かるような気がする。

私の勘は良く当たるから、多分そうなると思う。

その時、

 

「・・・・・・あ」

 

聞こえた声。

どこかで聞いた事があるようなそれに、何故か私は視線をもとに戻し。

 

「・・・・・・え」

 

―――   、  。

 

三メートル程先にいる誰か。

知らないのに知っているその顔を見て、理由も分からずに、涙した。

 

 

 

 

―――そうして、空っぽの約束は果たされた。

 

二人が記憶を思い出すのかどうかは、これから次第。

 

さぁ、物語を始めよう。

 

いつかから続く、奇跡の話を。

 

 

 

 
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