No.165116

時空を超える者

こしろ毬さん

私のサイトの10周年と「ヤマトイヤー」が偶然に重なって、フリーCGで『星紋』の佑介と『ヤマト』の古代くんのコラボイラストを描いたことで思いがけず落っこちてしまったものです。…なんせ25年以上ぶりに書いたものですから、背景描写があやふやなところもありますが大目に見て下さいませ;;

2010-08-11 23:03:26 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:1022   閲覧ユーザー数:1003

テスト航行中のヤマトの側面展望室。

 

「……やっぱりここだったか、佑介」

「あ、古代さん」

展望室の手すりに腕を乗せて、目の前の星々を見ていた土御門佑介は、ヤマト戦闘班長であり艦長代理でもある古代進を振り返った。

「見回りですか? お疲れ様です」

佑介のその物言いに、進は苦笑を浮かべて、

「こら。誰もいない時は敬語を使うなって言ったろ(^^;)」

言いながら、佑介の隣で同じように手すりに腕を乗せた。

「医務室に行ったらいなかったしな。佐渡先生が『また、あそこじゃろ』って(笑)」

そう言って笑いかける進に、佑介も僅かに笑顔を見せた。

 

普通に話しているふたりだが、実は佑介は進たちと同じ時代の人間ではない。

200年も前の過去から来た人間だというのだ。

 

それは、2週間ほど前―――

 

「うわああっ!」

ヤマトの通路を歩いていた進。その前に、悲鳴とともにひとりの少年が「降ってきた」。

「!?」

進は咄嗟に駆け寄り、少年を抱き起して上を見た。

だが、何かが起こった様子はない。

「……どういうことだ…?」

訝しみつつ、再び少年を見た。

なかなかに整った顔立ち。自分たちと同じ色の肌。

地球人か…?

 

―――この少年が、佑介だった。

 

とるもとりあえず、進は佑介を医務室に運んだ。

「古代? どうしたんじゃ、その少年は」

「いや、どう説明していいものか…」

医師の佐渡酒造が驚きつつも「ともかくそこに」とベッドを指した。

念のために、血液検査などを行なっている間、進は佑介が何故か天井から落ちてきたことなどを酒造に話した。

 

「それにしても…、かなり整った顔をしとるのう」

ベッドに横たわっている佑介の顔を見て言う酒造の横で、ロボットのアナライザーが、

「…コノ人ハ地球人デスガ、我々トハ違ウ世界ノ人間デス」

出てくる解析を見ながら告げた。

「どういうことじゃ? アナライザー」

酒造と進の視線を受けつつ。

「何ラカノ理由デ、時空ヲ飛ビ超エテイマス」

「つまり……タイムスリップということか?」

進の言葉に、アナライザーは頷くようにピコピコと音を鳴らした。

 

その時。

「う…ん」

佑介の目が、うっすらと開いた。

「お、目が覚めたようじゃの」

酒造が顔を覗き込んでくる。

ゆっくりと頭を動かした後、佑介は目を見開いた。

 

見たことのない機械。

映画で見るような設置。

 

ここは、どこだ。

 

がばっと起き上がった時、頭に鈍い痛みが走った。

「こりゃ、いきなり起きたらいかんぞ」

その声に、初めて酒造を見た。

「……あ…の、ここは…?」

困惑した表情で尋ねる。

「宇宙戦艦ヤマトの医務室じゃ」

「宇宙…戦艦…?」

佑介はその答えに混乱した。

 

自分は、家の屋根で星を見ていたはず。

それが、なんでこんなことに。

 

夢を見ているのか…?

だが、先ほどの頭の痛みは本物だった。

 

「…君が今いるのは、宇宙空間なんだよ。この艦(ふね)はそこを渡っているんだ」

気遣わしげに、進が穏やかな口調で言う。

「え…!?」

益々訳が分からなくなる。

「おいで」

進はそっと佑介の背中を支えて立たせ、医務室の窓から見える景色を見せた。

「………!」

 

目の前は、星の海。

果てしなく拡がる宇宙、そのもの。

 

「…な…んで…」

呆然とする佑介に。

「今は西暦2203年だ。君はこの時代の人間ではないだろう?」

進が静かに尋ねた。

 

暗黒星団帝国との戦いから、1年がたっている。

地球の平和は取り戻せたが、その後も調査を兼ねて航海しているのだ。

「2203年…」

ぽつりと呟いて。

「俺…、200年も先の未来に来てしまった…ってことですか」

不安の色を濃くした瞳で、進を見た。

 

そんな佑介を見て、ふっと安心させるように微笑んで。

「……大丈夫」

ふわりと佑介の両肩を抱く。

「元の時代に還る方法が見つかるまで、ここで過ごすといい」

そして、佑介の顔をの覗きこむように。

「安心していいんだよ」

にこりと笑う進。

「…ソウデス。アナタハ、コレカラハ私タチノ『仲間』デス」

アナライザーも何かを感づいたのか、佑介の傍に寄って励ますように言う。

 

「………」

 

未だ不安と戸惑いを残した眼差しで、佑介は進とアナライザー、そして酒造を見た。

酒造も「うんうん」と言っているように頷いている。

 

―――この人たちは、信じられる。

何故だか、佑介の中にその確信があった。

だから。

 

「…ありがとうございます」

佑介はその顔に、ふんわりとした笑みを浮かべた。

 

その後、進はクルーたちに佑介のことを説明した。

初めは胡散臭そうにしていた第一艦橋のクルーたちも、佑介の飾らない真っ直ぐな人柄に触れるごとに、気さくに接してくれるようになったのだ。

 

 

 

「そういえば、何かあるごとにここに来るな、佑介は」

「……ガキの頃から、星を見るのが好きだから」

変わらず星を見ながら、進の言葉に答える。

 

だが、それだけではない。

 

いきなり自分のまったく知らない世界に放り込まれて、不安にならないほうがおかしい。

それを進たちに悟られぬよう、こっそりと展望室に行って少しでも気持ちを落ち着けていたのだ。

もっとも、進と酒造、アナライザーにはとっくにばれていたが。

 

そんな佑介の心をいたわるように。

「…帰してやるから」

静かな進の声。

「え?」

佑介は進を見た。

「絶対、元の世界に帰してやるからな、佑介」

にこりと、勇気付けるように笑う。

「古代さん……」

佑介は目を細め、なんとも言えない気持ちになった。

 

と、進が思い出した、という表情になり。

「それ繋がりで佑介。初めにも聞いたかもしれんが、こっちに来る前に何か変わったことがなかったか?」

「………」

進に聞かれ、佑介は思い出すように首を傾げて。

「そういえば…あの時、声が」

「声?」

「うん。気のせいかもしれないけど、やっぱり家の屋根の上で星を見ていたら…」

そこで言葉を切って。

「急に頭の中に『来て、あなたの“能力”が必要なの』と聞こえたんだ。女性の声だったよ」

「そうか。…ということは」

進も考えこむように、

「もしかして…、佑介がここに来たのは“呼ばれた”ってことか…?」

「…………」

進と佑介は、不安げに顔を見合わせた。

―――お願い…あなたでないと駄目なの

 

「…ん…」

 

――でなければ、この宇宙に平和は来ない……

 

「!」

がばっと起き上がる佑介。

ふうっと息をつく。

「…どうした、佑介?」

隣のベッドで寝ていた進が目を覚ました。

「あ、ごめん;; 起こしちゃったね」

佑介は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「いや、それは構わんが…。大丈夫か?」

進はゆっくりと起き上がり、佑介の顔を覗き込むようにして。

「最近、眠れてないんじゃないか。顔色悪いぞ」

「大丈夫。ちょっと夢見が悪いだけだからさ」

佑介はその精悍な顔を、にこっと綻ばせるが。

 

「なんなら…、一緒に寝るか?」

 

佑介はトンデモな台詞にコケそうになる(笑)。

 

「古代さんっっ;;」

慌てる佑介と、明るい声で笑う進だ。

「ま、それは冗談で。ともかくちゃんと休め」

「……うん」

言われ、佑介は再び横になり、目を閉じた。

それを見る進の表情は、どこか曇っているようだった。

 

航行を続けるヤマト。と、その前方に一隻の戦艦がワープして現れた。

「!?」

第一艦橋に緊張が走った。

 

「―――久しぶりだな、古代」

 

「…デスラー!?」

メインパネルに映し出されたのは、ガルマン・ガミラス帝国の総統、デスラーだった。

「間に合ってよかった。古代、この先に行ってはならん」

「え?」

「今までに出会ったことがない敵が、待ち伏せておるのだ。我々も先ほど襲われた」

「出会ったことのない敵…?」

島や真田たちが、パネルを凝視している。

そんな時、佑介が入ってきた。

「佑介くん」

雪が気づいて小声で言う。佑介は指を口元に寄せた。

そして皆と同じようにパネルを見上げる。

 

「ああ、一言で言えば『見えない敵』だ」

デスラーが重々しい口調で言う。

「レーダーにも映らぬ。おそらく、ヤマトの亜空間ソナーでも捉えられんだろう」

「なんだって…!?」

真田が驚愕の表情になる。

 

(見えない敵って……。ステルス戦闘機と同じだな)

 

こんな状況の中にいながら、佑介はいやに冷静だった。

ステルス戦闘機。

レーダーから発する電波を受け、撥ね返さずにそのまま吸収させてレーダーに映りにくくする性能がある戦闘機だ。

パネルに映っている青い肌をした人が言う“見えない敵”とは、それらとはまた違うのだろうか。

 

そうしているうちに、佑介の存在に気づいたか、

「…古代、そこにいる彼は?」

デスラーが尋ねた。

「彼? …って、佑介;;」

振り返った先に佑介の姿を認めた進は、小さく息をついて手招きした。

そして自分の隣に来たのを見計らって。

「ヤマトの正式なクルーじゃないが、俺たちにとっては仲間も同然の少年だよ」

「土御門佑介です」

進の紹介を受けて軽く会釈した。

デスラーはじっと佑介を見つめていたが、ふっと表情を緩め。

「ガルマン・ガミラス帝国総統、デスラーだ。……いい瞳(め)をしておるな」

「え」

その後もデスラーが何か言いかけたところでパネルの映像がぶれ、消えた。

 

「どうした!?」

進が艦橋の窓を見ると、デスラー艦が攻撃を受けていた。しかし艦隊の姿は見えず、主砲らしい光が見えるだけだ。

「デスラーを追いかけてきたんだ」

島が険しい表情で言う。

 

その時。

 

「うわっ!!」

ものすごい爆音と振動。ヤマトにも攻撃をしかけてきた。

佑介がよろけて倒れそうになるのを、進がなんとか抱きとめた。

「佑介、ここに座ってろ」

と、進は自分の席の隣に佑介を座らせた。

「敵の位置は?」

雪のほうを見て尋ねる。

「駄目です! デスラー総統の言う通り、まったくレーダーに反応しません!」

雪の緊迫した声が聞こえる。

「艦長代理、主砲で応戦しましょう!」

南部がそう言うが。

「見えない敵に闇雲に撃っても、エネルギーを消耗させるだけだ」

進はぎりっと奥歯をかみ締める。

 

佑介は振動に耐えつつ、前方を見据えた。

変わらず、敵方の主砲の光だけが不気味に見えている。

 

(ここでも、俺の力が使えるかどうか……)

 

ここは本来なら、自分はいないはずの場所。

ましてや、地球ではなく大宇宙の中だ。

 

どこの誰かもわからない佑介を、進は笑顔で受け入れてくれた。

酒造も、アナライザーも。

そして第一艦橋の皆も。

それらに少しでも報いたい。

 

(いちかばちか、やってみよう)

 

佑介は集中力を高めた。

すると、だんだんと周りがクリアに見えてきた。

 

“見えない敵”の正体は……そうか。

宇宙ガスと同一したガスで艦隊が覆われている。これじゃ反応しないはずだ。

ガスがレーダーの電波を吸収しているのだから。

 

―――そうとわかれば…『視えた』。

 

「……古代さん、右40度」

ぽつりと言った佑介の声。

「え?」

「いいから、右40度に向けて発射して、早く!」

佑介がそう叫ぶのと同時に。

「目標、右40度、主砲発射!」

南部の号令とともに、主砲が動き発射した。……と。

何もないところから、凄まじい爆発が起こった!

 

「………!」

進たちは半ば呆然とそれを見、そして一斉に佑介のほうを見た。

(これで…、また気味悪がられるな)

佑介はふっと寂しげに笑った後、引き続き。

「まだ敵さんはいますよ! 今度は真正面!」

次々と敵の位置を伝え、壊滅させた。

 

 

再び、メインパネルにデスラーが映った。

「ありがとう、古代。巻き込んでしまってすまない」

「お礼なら、佑介に言ってやってくれないか。彼の指示で敵を撃てたんだ」

「彼が?」

デスラーは少し目を見開いて佑介を見た。

真っ直ぐで澄んだ瞳。意志の強さを感じさせるその光。

「…そうか……。礼を言うぞ、佑介とやら」

「い、いえ。そんな」

かすかに微笑んでそう言われ、恐縮する佑介だ。

「それでデスラー。奴らの正体はわかっているのか?」

進が尋ねる。

「いや。近頃見だした口だ。だが調査はさせているから、いずれわかるだろう」

「そうか…」

「気をつけろ、古代。今回のことでヤマトも目をつけられたも同然なのだから」

デスラーの口調には、申し訳なさが入り混じっていた。

「ああ。ありがとう、デスラー」

そうして、パネルからデスラーの姿が消えた。

 

「…ありがとう、佑介」

「え、古代さん?」

進がにこっと笑って言うと、佑介は目をぱちくりとさせた。

「あ、あの…。俺が気味悪くないんですか?」

恐る恐るという風に、佑介が言うと。

「なーにが気味悪いんだ! ヤマトを助けたんだぞ、おまえ」

真田が笑顔でばんっと佑介の背中を叩く。

佑介がふと見回すと、皆が優しい笑みを浮かべていた。

 

島も、太田も、山崎も。

相原と南部も。

そして、雪と進も。

 

「……ありが…」

 

ありがとう、と言おうとした時、意識が遠のいた。

 

「ゆ、佑介っ!?」

崩れる佑介の体を、進は咄嗟に腕を伸ばして受け止めた。

「…きっと、気が緩んだんだろう。あれだけ『力』を使ったんだから」

進の腕に抱かれた佑介の顔を見て、島が言った。

 

 

そして、しばしの休息が訪れる。

「なんじゃ、揃いも揃って。仕事はどうした」

所は医務室。呆れ顔でそう言うのは佐渡酒造だ。

「今は自動操縦にしてますから」

さらりと言う航海長の島。

「私はリモートで通信できますから(^^)」

と言うのは通信士の相原だ。

「徳川のヤツに任せてますから、大丈夫ですよ」

機関長の山崎もにっこりと言ってのける。

「私と技師長も、今のところはなにもないですし。ね、技師長」

「ああ。こっちのほうが大事だしな」

太田と真田も顔を見合わせて笑う。

「ったく、だからって全員が来んでも……(--;)。こりゃ古代、なんか言わんかい」

皆と反対側に座っている進は、酒造にそう言われてもただ苦笑いを浮かべているだけだ。隣にいる雪もくすくす笑っている。

「仕方ナイデス、佐渡先生」

「なにがじゃ」

アナライザーと酒造が言い合っていると。

 

「……う…ん」

横になっている佑介が身じろぎした。

「佑介?」

進がそっと呼びかけると、佑介の目がうっすらと開いた。

「……古代…さん? 俺…」

「気分はどうだ?」

「佑介くん、戦闘の後に倒れたのよ」

進と雪が柔らかく微笑んで言う。

「そう…なんだ。まだちょっとぼうっとしてるけど大丈夫…って」

佑介はそこで島たちにも気づいた。

「な、なんでみんなもいるんですか;;」

佑介は慌てて起き上がろうとしたが、アナライザーに止められる。

「ソレハ当然デスヨ、佑介サン」

「え?」

「ミンナ、佑介サンガ可愛クテ仕方ナイノデス。ダカラ心配デココニ来テシマッタノデスヨ」

「!//////;;」

アナライザーの言うことに、佑介は目を見開いた。

「あ、アナライザー!」

進を初め、ここにいるクルーたちも慌てる。

「モチロン、私モ佑介サンノコトガ大好キデス」

「……ありがと、アナライザー」

佑介はふんわりと笑った。同性でも見惚れてしまいそうな笑顔だ。

「…まあったく、しょうのない奴らじゃ。すまんの、佑介」

溜め息混じりで苦笑する酒造に、佑介は笑顔のまま首を振った。

 

 

それからは何事もなく、謎の艦隊による襲撃の修理をしながらの航行。

そんな時、乗員休憩室にひとりの男の姿。技師長の真田だった。

なにやら、一心に手を動かしているようだが……?

 

「真田さん?」

「! うわった!;;」

 

突然の声に、真田は慌ててテーブルを隠すように前かがみになる。

振り向けば、そこには佑介が立っていた。

 

「…すみません、もしかしてお邪魔でした?;;」

佑介は申し訳なさそうな表情で言う。

「いやいや、とんでもない(^^;)。…もう大丈夫なのか?」

身を起こして佑介のほうへ向き直る。

「はい(^^)。…先ほどはありがとうございました」

屈託のない笑顔。進が佑介を構いたくなるのがわかるような気がした。

実際、自分もこうして……。

「立ったままもなんだから、座れよ」

真田は笑いながら、自分の隣を示した。

 

「何か、作っていたんですか?」

椅子に座りながら、真田の手許を見て佑介が尋ねる。

「…あ、ああ。ちょっとね」

「すごいなあ。俺なんか、こういうのは全然駄目で(^^;)」

ふうっと溜め息の佑介だ。

「そうなのか?」

真田は少し意外そうに佑介を見る。

「文系はまあ、強いほうなんですけど。理数系がどうも;;」

肩をすくめて笑う。

その佑介を目を細めて見ていた真田。

 

しばらく、ふたりで話していたのだが。

 

「…あ。あんまり長居しちゃうと真田さんが作業できないですよね(^^;)。すみませんでした、邪魔しちゃって」

「いや。それは全然構わんぞ」

立ち上がる佑介を、真田は引き留めるようなそぶりで言うのだが。

「また、ゆっくりお話聞かせて下さい。じゃ」

にこっと笑って、佑介は片手を挙げつつ立ち去ったのだった。

 

 

「―――ふられましたね、真田さん(笑)」

その声に振り向けば。

「古代…。おまえも言うようになったなあ;;」

進がくすくす笑いながら、真田の前に座った。

そういえば、佑介が現れてからはよく笑うようになってはいないか。

 

「……それ、佑介に渡すやつでしょう?」

進が真田の手許の部品たちを見て言った。

「ああ。またああいうことがないと言い切れんからな」

真田は再び手を動かし始める。

「かといって、銃なんて持ったことないだろうし。なら小型なら扱えるだろうと思ってな」

真田がつくっていたのは、小型のコスモガンだったのだ。

「でしょうね。剣と弓なら扱えると言ってましたけどね、あいつ」

「え?」

「なんでも、剣のほうは特に。子供の頃からずっと嗜んでいるみたいで」

「そうか。じゃあ……」

真田は自分の手にある部品を一瞬見て。

「ライトセーバーのほうがよかったか?」

「………(^^;)」

 

いったい、どこの世界の話をしてるんデスか真田さん……;;

 

 

テストと辺境視察を兼ねたヤマトの航行は、半ばに差しかかろうとしていた。

あの一件以来、第一艦橋にいることが多くなった佑介は、島とは反対側の進の隣に座っている。

「佑介。ほら」

進が何やら、佑介に包みを渡す。

「?」

なんだろう、という顔で佑介が進を見ると。

「真田さんからのプレゼントだよ」

にっこりと笑って言う。

「え?」

言われ技師長席の真田を見ると、真田も小さく頷いている。

中身を開けてみると、進たちが持っているのより一回りくらい小さなコスモガン。それと専用のホルダーだった。

コスモガンは佑介のイメージからか、グレーではなく海を思わせる綺麗なブルーだ。これならすぐに佑介のものだとわかる。

佑介は再び真田のほうを見、「ありがとう」と言うようにコスモガンをかざした。

真田も少し照れくさそうに笑った。

 

 

「……古代、あれを見ろ」

島が一点を指差した。

見れば、瞬くような光が見えている。

「メインパネルに映せるか?」

進がそう言うと。

「了解。切り替えます」

雪が操作し、メインパネルに映し出されたのは……。

 

「…戦争か」

 

艦隊が、一つの星に向けて攻撃しているのが見える。その星からも応戦の兆しが見えるが、圧倒的に艦隊のほうが有利だ。

 

「………!」

 

パネルを見ていた佑介の表情が強張る。

「古代さん……奴ら…」

言葉が震える。

「佑介? どうしたんだ」

心配そうに佑介を見る進に。

 

「あいつら……あの時デスラー総統を襲った奴らだよ…!」

 

佑介の言葉に、第一艦橋の空気が凍りついた。

「なんだって!?」

「どうしてわかったんだ?」

南部が尋ねた。

「……オーラですよ。あの時ガスに包まれていた時のその中のオーラと同じですから」

艦隊を見据えつつ、佑介が答えた。

 

佑介の能力は、一般的に言えば「霊能力」と言える。

今から1500年近くも前の平安時代の陰陽師・安倍晴明の末裔であり、また安倍秦親の生まれ変わりでもある佑介。

その能力は計り知れなく「未知数」といってもいい。「超能力」の域に入ってしまってもおかしくないのだ。

 

その『力』のために、幼い頃からつらい目に遭い人を信じることができなかった。

だが今は恋人や友人を得て、大切な者たちを護るためにその『力』を使おうと思うのだ。

それは今、この場所でも同じ思いだ。

 

と、佑介と同じようにじっと艦隊を見ていた真田が。

「古代…。あの艦隊の艦載機、見たことがないか?」

「え?」

言われて、進も身を乗り出して艦隊を改めて見る。

「……! ま、まさか……!」

進の目が大きく見開いた。

 

フォルムはどことなく、カブトガニを思わせる艦載機。

 

「白色彗星帝国の残党か…!」

 

「ええっ!?」

島たちが驚愕の声を上げる。ただひとりだけ、佑介は。

「白色彗星帝国って?」

と、進を見る。

「かつて、俺たちが戦った相手だよ」

ふっとなんとも言えない表情になる。

 

手強い相手だった。

こちらも大きい犠牲を払うほどに。

あの時、テレザート星のテレサが来てくれなかったら。

 

「でも古代さん。残党を取りまとめるとしたら、新たな指導者がいるってことですよ。いったい誰が…」

「………」

相原の言葉に、進も考え込んでしまった。

―――と、佑介が。

「俺は詳しいことは知りませんけど…。もし、かつての指導者に息子か娘がいたとしたら?」

佑介の言葉に、全員がはっとなった。

 

「そうか…。子供か…!」

「あの大帝にいたとしてもおかしかないよな」

太田と南部が納得顔で頷きあう。

「それなら、デスラーが襲撃されたのも頷ける。いうなればあちらさんから見れば“裏切り者”だからな」

真田も同感と言わんばかりの表情だ。

 

……その時。

 

 

―――よく来たわね

 

 

「!」

佑介の頭の中に声が響く。

この声は……!

 

「佑介くん? どうしたの」

佑介の様子に、雪が怪訝そうに声をかける。

 

―――あなたに来てもらったのは、我が白色彗星帝国の再興のため…

 

―――それには、強大な力が必要なの

 

―――宇宙の平和のために…だなんて、そんな戯言にひっかかるのが馬鹿なのよ

 

「…まさか…っ」

 

―――私は白色彗星帝国大帝・ズォーダーの娘、アレス……

 

 

がくんと、佑介の体が崩れる。

「佑介くんっ!」

悲鳴のような雪の声。

 

「く…っ、」

「佑介!」

頭を抱えうずくまる佑介を、進はぎゅっと強く抱き締めた。

佑介の中で、何かが起こっている。

それは誰の目にも明らかだった。

 

声が。

自分の中で侵食するように広がっていく。

 

「佑介、落ち着け!」

進の腕の中の佑介は、いまだ呻きながらあがいていた。

…しかし。

 

「…俺…行かなきゃ…!」

「え」

「侵略…のために…俺を利用…するなんてこと、させやしない」

進は目を大きく見開いた。

「どういうことだ…!?」

「俺を…ここに呼んだのは、あいつらなんだよ…!」

第一艦橋クルーたちの表情が、驚愕の色に変わった。

 

「俺を…、俺がここにきてしまったきっかけになったのは…その、白色彗星帝国の大帝の娘なんだ…!」

「なっ…」

「じゃあ…、佑介くんを呼んでた声って…!」

雪の声も震えている。

佑介はそれに、力なく頷いた。

「だから…これは俺が向こうに行って、ケリをつけなきゃ」

「わかった…。俺も行こう」

「え!?」

佑介は弾かれるように進を見た。

「だ…駄目だよっ! 何があるか…」

皆の前なのに、敬語を使うのも忘れて言う。

「それに、古代さんに何かあったら…っ」

 

雪さんが悲しむよ。

 

その言葉を飲み込む佑介だった。

 

「…ばーか、誰に向かってそんなこと言ってる」

こつんと、軽く佑介の頭を小突く。

「それともなにか? テレポートでもして向こうに行く気か」

「う;;」

言葉に詰まる佑介。それをくすりと笑って。

「とにかくそういうことだ。行くぞ」

と言いつつ、進は佑介の背中に手をやり歩き出す。

「南部、援護頼む」

「了解!」

それを確認して、二人は駆け出した。

 

 

進と佑介はコスモゼロの格納庫にに辿り着く。

「これが古代さんの戦闘機…」

呆然と見上げる佑介。

今の二人は、制服にブーツ・手袋をしている姿だ。

「ほら、ヘルメットだ。さっさと乗り込むぞ」

佑介にヘルメットを渡し、進は飛び乗った。佑介も後に続く。

コスモゼロは進専用の戦闘機だがサブコクピットを併用でき、その時は二人乗りになる。

佑介が後ろに乗り込むことになる。

「じゃ、行くぞ。しっかり気を持てよ」

「う、うん」

緊張した面持ちで答える佑介の頭を、進はふっと笑ってぽんと軽く叩いた。

コスモゼロがエレベーターを伝って、カタパルトに出る。

 

「コスモゼロ、発進」

進の凛とした声とともに、コスモゼロが飛び立った。

 

 

案の定、コスモゼロに気づいた敵側…白色彗星帝国の艦載機が攻撃してくる。

それをかわし、攻撃しながら。

「佑介、大丈夫か」

「な、なんとか(^^;)」

とてつもない体への圧力に耐え、佑介は敵機を見渡していた。

 

「声」の主はどこにいるのかと。

懸命に集中力を高め、見つけ出そうとする。

 

「!」

真正面に、艦載機が現れた。

攻撃されるかと思うと、それは突然爆発した。

 

『班長! ひどいですよ、俺たちもいるのに』

 

え、この声は……

 

「加藤!?」

「加藤さん!」

ほぼ同時に、進と佑介は叫んでいた。

通信の相手は、コスモタイガー隊長・加藤四郎だった。

見れば、コスモタイガーがパラノイア型艦載機を次々と撃ち落している。

『佑介くんは俺たちにとっても、マスコットなんですからね』

「マスコットって…;; それやめて下さいよ(--;)」

『ほんとのことだろ~?』

四郎と佑介のやりとりに少し笑って、進が。

「よし、敵機に突っ込んで白兵戦に持ち込むぞ」

『了解』

少し笑いを含んだ四郎の声が聞こえた。

 

イーターⅡ型艦載機、パラノイア型艦載機の攻撃は続き、コスモゼロやコスモタイガーも果敢に応戦する。

ヤマトでも南部の指示により主砲、ミサイルなどが発射される。

 

そんな時に、佑介の声が聞こえる。

「古代さん! あれ、次々と艦載機が飛び立ってる…」

佑介が指差す方面には、確かに他よりも一回り大きい旗艦が見えた。

「あれか…! よし、全機続け!」

それが合図になり、コスモタイガー隊は一気に旗艦に向かって行った。

その後、進たちはなんとか敵の旗艦に入り込むことができた。

「佑介、絶対俺たちの傍から離れるんじゃないぞ」

進が後ろの佑介を振り返って言う。

「うん、わかった」

「大丈夫ですよ、班長。お姫様はしっかりお守りしますから(笑)」

「加藤さ~ん;; 俺、男ですよっ;;」

自分の後ろにいる四郎をじと目で見る佑介だ。

それに笑いながらも、進の意識は周りに向いていた。

敵兵がうごめいているのがわかる。

「一気に行くぞ。…佑介、どっちかわかるか?」

「ちょっと待って―――」

佑介にも敵兵の気配はとっくにわかっていた。

「…こっちが遠回りになるけど、手薄だよ」

進はそれに頷いた。

 

それより、少し前。

「戦闘班長より入電です」

相原がそう言うのとともに、進の声が第一艦橋に響き渡った。

『こちら古代、たった今敵の旗艦に潜入』

「佑介くんも一緒なんでしょう、古代さん」

『ああ』

相原の問いに答える。

「佑介、どんと構えてろよ。古代たちに任せておけ」

島の台詞に少し緊張感がほぐれる。

それも、佑介の気持ちを紛らわせるためだ。

『それはもう。たったふたりで頼りないけど…いてっ;;』

佑介の言葉の合間にポカッと音が聞こえた。どうやら進と四郎が小突いたようだ(笑)。

こんな状況なのに、不謹慎にも笑みがこぼれてしまう。佑介にはそうさせる雰囲気があるのだろう。

だがすぐに。

「気をつけろ古代。やっこさんもどう出るかわからんぞ。なんといってもあの大帝の娘なんだからな」

真田がそう言うと。

『ええ。わかってます』

緊張した進の声が聞こえた。

 

 

「―――アレス様」

旗艦の窓から戦闘の様子を見ている女性に、参謀が声をかけた。

「艦内に、侵入者が現れたようでございます」

アレスと呼ばれた女性は一瞥し、また視線を窓に戻し。

「……そう。ここにうまくおびき寄せなさい」

一旦言葉を切り。

「“彼”以外は、殺してもかまわぬ」

「はっ」

参謀は一礼をし、下がっていった。

 

その後も身動きせず、アレスは窓の向こうの情景を見ていた。

「…ヤマトめ」

本当にあのズォーダーの娘なのかと思うほどに美しい顔立ちが、憎悪で歪む。

 

父・ズォーダーを死に追いやった、地球の戦艦。

あんなちっぽけな戦艦に。

直接はテレザートのテレサが手を下したにせよ、彼女にそうさせたのはあの艦(ふね)だ。

 

あの時、自分は別の搭載機にいたためにかろうじて難を逃れた。

僅かに残った艦載機とともに、なんとか制圧を続けてきたが、所詮、女の身では限界もあった。

たとえ「大帝の娘」という肩書きがあっても。

もっと、もっと大きな“力”が必要だった。

だからテレサを真似て「宇宙の平和のため」と偽って、自分の能力で四方にメッセージを飛ばしたのだ。

それが、なんの悪戯か……。

 

(誰でもいいわ。とにかく帝国を再び大きくするには“力”が必要なのよ)

アレスはきりっと唇を引き結んで。

「総員、ヤマトに攻撃を仕掛けよ!」

凛とした声を張り上げた。

 

 

その頃―――

 

「総統、レーダーに反応が」

「なに?」

タランの声に振り返るデスラー。

「…パネルに切り替えろ」

そう言って見上げた先には、攻撃を受け、応戦しているヤマトが映し出されていた。

「総統……!」

タランが眉をしかめてデスラーを見た。

「やはり、我々を襲った連中に狙われたか。…タラン」

「はっ、直ちにワープの準備をいたします!」

タランの反応に、ふっと口角がつりあがる。

 

「それに…あの少年にも借りがあるからな」

デスラーの脳裏に、臆せずに真っ直ぐ自分を見つめた瞳が甦った。

 

 

その少年―――佑介を庇いつつ、進たちは敵兵と白兵戦を繰り広げていた。

「くそ、次から次へと」

コスモガンで撃ちながら、進が舌打ちする。

「どうも、俺たちが行くところに待ち伏せているとしか思えませんね」

四郎も腑に落ちない表情で言う。同じようにコスモガンを構えて応戦している。

ふたりとも、さすがトップクラスの腕前だけあって全て的中している。

しかし、応戦するには相手の数が多すぎた。

 

「多分…、大帝の娘も俺と同じかもしれません」

「佑介くんと?」

四郎が佑介を振り返った。

「ええ。特殊な能力を持ってるから、俺たちの位置がわかると。俺が娘…アレスと名乗ってるけど、彼女がいる場所が分かるのと同じで」

 

そして、時代を超えて自分のところにも“声”が届いたほどだ。

同じ「能力者」であってもおかしくはない。

 

「なるほどな。…だとしたら」

進がコスモガンを構え直す。

「なおさらこんなところで、まごついてるわけにはいかないな」

そう言って射撃体勢に入ろうとしたのを。

「待って古代さん。……俺に任せて」

佑介が制止した。

「え?」

進と四郎が佑介を見た。

「ちょっだけ、離れますね。近くでやったら危ないから」

佑介は片目をつぶると、素早く進たちの傍を離れた。

「佑介! あの馬鹿っ」

進は後を追おうとしたが、集中するレーザーに憚られる。

「佑介くん!」

四郎も呼びとめる。しかし、すでに佑介の姿は遠くなっていた。

 

佑介は178㎝の長身とは思えない身軽さで、なんとか敵兵の死角になる場所まできた。

これも剣道・居合で鍛えられた反射神経、瞬発力のなせる業か。

(こんな人数、古代さんと加藤さんだけじゃ追いつかないよ)

そっと物陰から顔を出すと、すぐさまレーザーガンの光が襲ってくる。

「ひえっ、おっかね~;;」

と言いながら、こういう状況でも比較的冷静でいられるのは、佑介自身も数々の修羅場をかいくぐっているからかもしれない。

 

いつの時も命の危険と隣り合わせ。

それくらい怨霊・悪霊たちと対峙してきたのだ。

 

「とにかく、異星人にも効くかな、これ(^^;)」

そう言いながらポケットから出したもの。

酒造に言ってもらった紙で作った、佑介の血で書かれた『血符』だ。

(ええい、ままよ)

佑介は護符をばっとまき散らした。そして。

 

『ナウボ タリツ ボリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイ タラサンダン オエンビ ソワカ』

 

佑介が真言を唱えると、護符はすうっと敵兵の群れのあたりへと動いていく。

敵兵たちは進たちを撃つのに気をとられて、護符に気づいていない。

その瞬間。

 

『哈(は)っ!』

 

佑介の一声とともに、護符がカッ! とまばゆい光を起した。

 

「!?」

敵兵たちは何が起こったのかわからず、顔を腕で覆ったり、バランスを崩して下に落ちたりしている。

その様子を驚いた表情で見ている進と四郎の耳に。

「古代さん、加藤さん! 今のうちに早くっ!」

佑介の声が聞こえた。

 

進と四郎は、佑介の許へ急いだ。…が。

「…この、馬鹿野郎っ!」

進の怒声が飛んだ。肩をすくめる佑介。

「無事でよかったものの、無茶するな! おまえが離れた時はどんなに…」

声が、震えている。

「班長…」

四郎が目を細めて、なんとも言えない表情をした。

佑介は少し俯き加減になり、再び顔を上げて。

「……ごめん」

ほろ苦い笑みを見せた。

進はふーっと息をついて。

「ったく…。心配させるなよ」

佑介の頭に手を置き、かき混ぜるように回した。

 

 

その後も白兵戦を繰り返し、ついに大帝の娘がいるというあたりまできた。

「ここか、佑介」

「うん、間違いないよ」

向こうにいる四郎とドアを挟んで、中に入るタイミングを図りながら話す。

「今なら、見張りの敵兵も来ないし、チャンスだと思うけど…」

「ああ、そうだな」

そう言って、進はふっと佑介を見た。

 

「……佑介」

「え。…わ!?」

不意に頭を抱えられ、首元にひきよせられた。

「…守ってやるからな」

「! こだ…」

 

ヘルメットが、あるのに。

どうしてぬくもりが伝わるんだろう。

 

この時、どうして自分は「うん」と言わなかったんだろう。

今にして思えば、予感があったんだろうか。

もうすぐ……。

 

進はそっと佑介を離し、ドアの反対側にいる四郎に目で合図した。四郎も頷く。

3人とも、一気に飛び込むように入った。

 

―――そこには。

黒のドレスを纏った、長く銀髪に近い髪の後姿。

 

「戦と殺人の神」の名を持つ娘―――アレス。

 

アレスはゆっくりと、進たちを振り返った。

進たちが、ズォーダーの娘・アレスと対峙している頃。

 

ヤマト第一艦橋では艦長席のエレベーターが動き、ひとりの男性が椅子に座ったまま降りてきた。

「艦長!」

「もうお怪我はいいのですか?」

クルーたちが口々に声をかける。

「ああ、皆には心配させてしまったな。……進は」

「今、敵の搭載艦に潜入しています」

相原がそう答えると、

「では、先ほどの通信がそうだっのか。…あの少年も一緒だな」

「はい」

今度は南部が答えた。

それを聞くと、「艦長」と呼ばれた男性…古代守は、ふっと目を細めた。

(まったく…。あの進がああも穏やかに話すんだからな。どんな少年か会ってみたいものだ)

 

守もこのテストおよび辺境調査の航行でヤマトに乗っていたのだが、途中で怪我を負い、艦長室で療養していた。

佑介がヤマトに現れたのはその最中だったので、守は佑介に会っていないのだ。

時々見舞いにくる進から、よく聞いていた佑介のこと。

あの直情型で突っ走りそうな雰囲気のある弟であるのに、その時の穏やかさには目を見張ったくらいだ。

笑顔もよく見せるようになっている。

雪とはまた違った意味で、この短期間で大切な存在になっているのだろうと察せられた。

「戻ってきたら…ちゃんと紹介しろよ、進」

守の口元に笑みが浮かんだ。

 

しかし、この間にもヤマトには攻撃が続けられている。

「主砲発射用意! 反撃を続けるぞ」

守の凛とした声が響いた。

 

 

そして、もう一隻の戦艦がワープして現れた。

「…調査を聞いていて、もしやと思ったが…。まだ生き残りがいたとはな」

デスバデーター等の艦載機をパネルを通して見るデスラー。

「なんでも、大帝ズォーダーの娘が再興に向けて動いていたようです」

「あの大帝に娘がいたとはな。それなら私の艦隊が襲撃されても納得だ」

タランの言葉に頷いて。

「ともかく、今はヤマトに加勢することが先だ。全艦続け!」

 

 

 

彗星帝国の搭載艦。

そこで進たちとアレスは向き合っていた。

進はさりげなく、庇うように佑介を自分の後ろに回している。

 

「まったく…役立たずね。ここまで来られるとは思ってなかったわ」

「……!」

アレスの言葉に前に出ようとした佑介を腕で制して、進が。

「宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進だ。…あなたがこの者を呼んだのか?」

変わらず守るように、腕を僅かに佑介の前に出している。

「…呼んだんじゃないわ。彼が私のメッセージを“キャッチ”したのよ」

佑介を一瞥して、アレスは言葉を続ける。

「私の力を使って、手あたり次第にメッセージを送ったの。それを彼がね。…それは私にもわかったわ」

「だから、引っ張ったということか…?」

四郎も佑介の前に出た。佑介は険しい表情だ。

「そういうこと。まさか感応するとは思わなかったけど」

そして真っ直ぐ佑介を見た。

「それだけ、大きくて強い“力”を持っているということだわ」

アレスは僅かに口角を上げ、嫣然と笑った。

 

佑介は剣呑に目を細めて。

「俺の力を利用して…帝国を再興させるつもりだったんだな。平和のためになどと騙して…!」

「あら。私たちが制圧していたから平和だったのよ」

アレスは心外だというふうに眉を吊り上げた。

「嘘つけ! 他の星を侵略しておいて何が平和だ!」

 

戦争なんて…正論もなにもない。

ある夏の広島。佑介が身を以て『戦争』の痛みを知った場所だ。

なにも生まれない。生まれるのは憎しみと虚しさだけ。

それはこの時代でもそうではないのか。

 

「帝国再興のためよ。そのためなら侵略など関係ない」

つい、とアレスが前に出る。

進が腕を後ろに回しつつ、じりっと後退する。

「だから…あなたのその“力”で、私に手を貸してちょうだい」

アレスの言葉に、佑介は。

 

「断る」

 

きっぱりと、そう言った。

アレスはすうっと目を細めて。

「……そう。それなら仕方ないわね」

と言うと、すっと腕を上げた。

「…ぐっ」

「うあっ!?」

突然、進と四郎が苦しみ始めた。

「こ、古代さんっ!? 加藤さん!!」

佑介が進に触れようとすると、

「うわっ!」

パチッと電流のようなものに弾き飛ばされた。

 

そうだった……。

アレスも「能力者」だ。

それなら。

 

佑介もすっと体勢に入ろうとした。

「やめておいたほうがいいわ。あなたが力を使おうとすれば…」

「……っ!!」

進が更に苦しげな表情になる。

「……っ。卑怯者…っ!」

佑介の呻きにも、アレスはにっと笑うだけだ。

「ふたりを助けたくば、私に力を貸すのね」

「くっ…」

 

「ゆう…すけ、絶対に行くな…!」

進が懸命に声を絞り出す。

「でも…っ!」

「俺たちのことはいいから…っ、行くんじゃない!」

四郎も声を張り上げた。

 

……いやだ。

俺のために、ふたりが……!

 

 

「……わかったよ…。行くからふたりを放せよ!」

佑介がそう言うと、アレスは満足そうに目を細めた。

「佑介…っ!」

「それはできないわ。先にあなたがこちらに来てからよ」

アレスは片手を上げたまま、もう一方の手を佑介に差し出した。

「佑介…っ、駄目だ!」

「そんなことはやめろ…!」

アレスの力で苦しげにもがく進と四郎。

 

「さあ、銃を置いてこちらへ。力を使おうとすれば…わかってるわね?」

アレスがにんまりと笑う。

「……っ」

佑介はぎりっと歯噛みしたが、コスモガンとホルダーを地に置き、歩き出す。

「佑介!」

進の引き止める叫びも空しく、徐々に佑介とアレスの距離が縮まる。

 

一瞬、佑介の右手がぼうっと光ったと思った途端。

 

ザシュッ!

 

「……な…」

アレスの目が、驚愕で大きく見開く。

 

佑介の剣―――さる事件で授かった安倍晴明の霊剣が、アレスの胸に突き刺さっていた。

霊剣自体は形はないが、佑介が持つことで「力」として形成されるものだ。普段は佑介の手から現れる。

 

「…俺の体内(なか)にも、武器はあるんだよ」

今までの佑介のそれとは思えぬ、低く冷徹な声。

 

「あ…あなた、相手…が女でも…手を下せるの…!?」

信じられないという顔で、アレスは佑介を見た。

「当たり前だろう…。俺を本気で怒らせたのが間違いだったな」

そう言って笑う佑介の表情は、ぞっとするほど冷たい。

なまじ整った顔立ちをしているから、尚更だ。

冷ややかな目、抑えてはいるが凄みのある声。

進たちには見せたこともないような表情だった。

 

佑介にとっても、進たちは大切な存在になっていたのだ。

どこの誰かも知れない自分を「心配ないよ」と受け入れてくれた人たち。

その彼らが危険にさらされたとなれば、怒りが湧き出るのも無理はない。

 

佑介はずっ…と剣を引き抜いた。アレスの体が崩れ落ちる。

それと同時に、進と四郎の体の自由が利くようになった。

「佑介…!」

片膝を折り、呼びかける進に佑介は、先ほどとは打って変わって優しい笑みを向けた。

だが、その時。

 

「お…おのれ、かくなるうえは…!」

「!」

アレスはスイッチボタンのようなものを手にしていた。

「おまえも、道づれよ!」

 

「佑…っ!」

 

カアッ!

 

一瞬の閃光の後、凄まじい爆音が響きわたった。

 

「うわあっ!!」

進と四郎も、爆風で飛ばされる。

あわや床に叩きつけられるかという時。

 

ふわり…と、包み込むものがあった。

あたたかい風のように。ふたりを護るように。

そして、それとともに伝わった「もの」。

 

「……!?」

なんの痛みもなく、すとん、という感じでふたりは床に座り込んでしまった。

だがそれが何かを考える暇もなく、進は弾かれるように立ち上がった。

 

目の前には激しく燃える炎と、煙。

アレスの自爆でそうなったのはわかる。

だが、あそこには。

あいつが……!

 

進の瞳が炎に照らされ、揺れていた。

 

「……っ」

 

―――元ノ世界ニ帰シテヤルト、

 

「ゆ……」

 

―――守ッテヤルト、言ッタノニ。

 

「ゆう…すけ…っ」

 

―――コンナノッテ、ナイ。

 

「佑介――――――っっ!!」

いまだに、燃え盛る炎と立ち込める煙。

その中に、進が飛び込もうとした。

「班長! 危険です!」

四郎はその腕を掴んだ。だが進は。

「放せっ、あの中に…!」

 

あの中に、あいつが―――

 

認めたくなくても、認めざるを得ない事実。

だが自分は、佑介の死体を直視できるだろうか。

今まで、多くのそれを見てきたというのに……。

その思いさえ振り切るように進は四郎の手を振りほどき、炎と煙のほうへ駆けていった。

「班長!」

四郎もその後を追いかけた。

 

炎の熱と視界の悪い中、佑介を探す進の足許にこつん、と当たったもの。

「………!」

小ぶりの、青いコスモガン。炎と煙で黒く煤けているが間違いない。

震える手でそれを拾い、ぎゅっと握りしめた時、その先に見えたものにぎくりとなる。

 

血だらけの、手。

…佑介のものではない。アレスの手だった。

知らずにほうっと息が漏れる。

しかし……おかしい。

 

「佑介くん、どこにもいませんね」

同じように佑介を探していた四郎が進に言う。

アレスの傍にいたのだから、爆発に巻き込まれたのなら当然、近くに死体があるはずなのに。

「………」

 

もしかして。

 

そうとも思うが、そんな都合のいい……と進は頭を振った。

ただわかっているのは、今戦っているこの相手が自分にとって「仇」になったということ。

―――佑介の。

そうでなくても、無差別な侵略を繰り返す彗星帝国の残党は、根源から討たなければならない。

 

「……加藤、戻るぞ」

進がそう言うと、四郎は「え」という顔をした。

「で、でも。佑介くんが…」

言いながら、はっとする四郎。

つらそうに、表情を歪めている進の横顔があったから。

 

進とて本心は、たとえ死体になっていたとしても佑介を見つけ出してから、ここから脱出したい。

だがここは戦場だ。一刻の猶予もない。

僅かの感傷も許されないのだ。

「……わかりました」

何も言えず、四郎も泣きそうな表情で答えた。

 

コスモゼロ、そしてコスモタイガー隊は、敵の攻撃をかわし応戦しつつヤマトに戻ってきた。

その間、四郎にはコスモゼロが無茶な飛行をしているようにも見えた。その理由がわかるだけに、やりきれない思いであった。

シュン、と第一艦橋の扉が開いて、足早に進が入ってきた。

「古代。……!?」

島が振り向いて声をかけるが、違和感を覚えた。

いつも進の隣にあるはずのものが、ない。

「古代さん…。佑介くんは?」

相原が恐る恐る尋ねた。

雪や真田たちも不安げに進を見る。

 

だが、進は答えない。

その手にある、青いコスモガンを更に強く握りしめる。

かすかに、体が震えているようにも見えた。

きっと前を見据えている瞳も揺れている。

まるで、泣き出しそうになるのを必死でこらえているかのように。

「古代くん…。まさか、佑介くんは…」

雪の言葉に、進は思わず俯き加減に顔を向けてしまった。

「……っ!」

その瞳に涙を浮かべ、雪は体を後ろに向けた。

南部や大田、相原も顔をそむけている。

島は俯いて、ぎゅっと操縦桿を握りしめた。

 

「……進」

 

不意に聞こえた声に、進は弾かれたように振り向いた。

「兄さ…いえ、艦長」

「…こういうときにまで“艦長”はないだろう」

守はいたわるような表情になる。

それに進は再び俯いてしまう。……だが。

「…艦長。……あの彗星帝国の艦隊に向けて、波動砲発射の許可を」

ばっと顔を上げ、きっぱりと言い切った。

口元を引き結び、真っ直ぐ守の目を見て。

守は一度目を閉じ、そして再び進を見た。

揺るぎのないその瞳の光と、握りしめられたままのコスモガン。

 

(それほどに…大切だったんだな。俺も会ってみたかったよ…)

 

「……わかった」

静かな口調で、守が言った。

 

その時、メインパネルに映し出されたのは…。

 

「……古代。加勢に来たぞ」

「デスラー。…先ほどの主砲は君の艦のものだったんだな。ありがとう」

コスモゼロとコスモタイガーがヤマトに戻るまでの間。

ヤマトの主砲と、それとは違う色の光が交互に、援護するように彗星帝国艦隊に向けて放たれていたのだ。

「いや。私はただ…」

そこにいる少年に借りを返しただけだ…と言おうとしたデスラーだったが、その少年…佑介の姿がないのに気づき、

「古代、あの少年はどこだ?」

「……っ…」

進の表情が、一瞬歪んだ。

「……何かあったのか」

デスラーは目を細め、訝しげに進を見る。

やはり進は答えず、顔をそむけた。

 

その様子で、デスラーは察してしまった。

ふっと目を閉じて。

「……そうだったか。…なら、私にとってもあいつらは“仇”だ」

無表情だったが、その声には怒りが込められているようにも感じられた。

「…デスラー?」

「こちらもハイパーデスラー砲でやつらを葬る。…だからそちらも波動砲で撃て」

デスラーはそこで目を開けて。

「……仇討ちだ」

「!」

進の目が大きく見開いた。

「いいな、古代」

「デスラー…」

泣き笑いにも似た表情の進を見つつ、デスラーはあの不敵な笑みを浮かべ、片手を挙げた。

 

「波動砲への回路開きます」

山崎の声が聞こえた。

「波動砲セーフティロック解除」

「エネルギー充填80%」

 

「……エネルギー充填、100%へ」

「ターゲットスコープ、オープン!」

進の前にターゲットスコープとトリガーが現れた。

 

一方、デスラー艦。

「タラン、ハイパーデスラー砲発射準備を」

「はっ」

タランがその場を離れ、デスラーは険しい眼差しで彗星帝国の艦隊を見据えた。

「……なかなかの少年だったものを…。このデスラーを怒らせたこと、後悔させてやる」

ガルマン・ガミラス帝国の総統である自分を、臆することも怯むこともせずに真っ直ぐ見つめてきた少年。

どこか進を彷彿させるものを感じていたのに。

 

 

ヤマトでは、発射のプロセスが続いていた。

「電影クロスケージ、明度9。目標、前方敵艦隊! 距離5万」

「エネルギー充填120%」

山崎が告げる。

トリガーに指をかける進。

「発射10秒前。総員対ショック用意、対内光防御!」

クルーたちがゴーグルをつける。

「…8、7、6、5、4、3、2…」

 

一瞬、進の脳裏に佑介の様々な表情がよぎった。

走馬灯の如くに。

 

(佑介…。今、仇をとってやるぞ)

 

「発射―――!!」

進は全ての思いを込めるように、トリガーを引いた。

 

それとほぼ同時に。

「ハイパーデスラー砲、発射」

デスラーもトリガーを引く。

 

波動砲の淡いブルーと、ハイパーデスラー砲の紫がかったピンクの凄まじい光。

それらはぶつかったと思うと、2匹の大蛇が絡み合うように回りながら、彗星帝国の艦隊に向かっていく。

 

そして。

 

爆音とまばゆいばかりの光の後―――そこには跡形もなく、艦隊は消えていた。

 

「…………」

 

進たちも、そしてデスラーも。

静寂(しじま)の戻った宇宙に、彼らの心に鮮烈に影を残したひとりの少年に思いを馳せていた……。

戦いが終わって―――。

ヤマトとデスラー艦が、横に並んで航行している。

「古代…こういうことを聞くのは酷だが。彼はどうして……」

パネルの中のデスラーが尋ねる。

進は一度目を閉じて。

「敵艦に乗り込んだ時に…、ズォーダーの娘の自爆に巻き込まれた」

デスラーが眉をひそめた。

「死体は…あったのか?」

進は首を振り。

「いや。探したが何故かなくてな。娘のそれはあった」

「死体がなかったのか?」

横から真田が声をかけた。

「ええ。加藤と一緒に探したんですが」

進の答えに、真田は手を顎にやった。

 

「……古代。望みはあるかもだぞ」

「え?」

真田の言うことの意味がつかめず、進は目をしぱたかせた。

「佑介は、還ったのかもしれん。自分のいるべき場所にな」

「ええっ!?」

他のクルーたちも目を見張った。

「爆発のエネルギーと異次元空間は繋がっていると何かで聞いたことがある。おそらく、その時も何らかの作用で…」

「………」

「還ったとは、どういうことだ?」

話が見えないらしいデスラーが問うてきたので、進は佑介が200年の過去から来た人間だということなどを話した。

 

「…そういうことだったのか。それは私もそうであって欲しいと思うぞ」

納得したような、少し複雑な表情でデスラーが言った。

それは、進もそう思う。

 

―――そういえば。

 

進は、あの爆発の時のことを思い出した。

爆風に飛ばされて床に叩きつけられるかという時。

ふわりと自分を包み込むものを感じた。

まるで……護ってくれるように。

 

あれは……。

 

―――大丈夫だよ、古代さん……

 

「……!」

 

あの声は……!

 

「…佑…介…」

「古代? どうした」

進の様子に訝しんで、島が顔を覗き込んでくる。

「あ、いや……」

 

まさか。

でも、もしそうなら。

佑介は……。

 

「…では、私はこれで失礼する。また会おう、古代」

どこか嬉しげな表情で、デスラーが言った。

「ああ。……また」

進もパネルを見上げ答える。

 

ゆっくりと、デスラー艦がヤマトから離れていく。

真田の言葉もあってか、少し第一艦橋の雰囲気が軽くなったかという時。

 

ピピッ、ピピッ。

 

相原の席から発信音が聞こえた。

「…もしもし、こちら宇宙戦艦ヤマト。応答せよ」

相原が呼びかけるが、応答がない。

「おかしいな。…もしもし? 応答せよ」

「通じないのか? 相原」

進が歩み寄って覗き込む。

「ええ。確かに繋がってはいるんですが」

「メインパネルに切り替えてみろ」

「はい」

相原が操作してメインパネルに切り替えると、繋がってはいるが映像が出ず、ノイズと音を表す波だけがザザ…と動いている。

……と、その時。

 

「……コダイ…サン…」

 

「!!」

呼ばれた進はもちろん、クルー全員が驚愕の表情を浮かべた。

この声は……。

忘れられない、絶対忘れたくないこの声は。

 

「ゆう…すけ…。佑介なのか!?」

進が身を乗り出すようにパネルを見上げた。

相原は感度を最大まで上げる。

「そう…だよ。…よかっ……繋がって」

「佑介くん…!」

雪も手を口に当てて、涙ぐんでいた。

艦長席の守は、じっと目を凝らしてパネルを見ている。

「……ご…めん。こんな……形で、みんなと…離れ…ちゃって」

佑介の声は生で繋がっているのか、途切れ途切れだ。

「謝るな…! 不可抗力だったんだから」

半分泣きそうになりながらも、進は懸命に言う。

「…でも…」

「そうよ! 仕方なかったの、佑介くんが悪いんじゃないわ」

雪もパネルの前まで来た。他のクルーたちも。

「…ん…。繋がらな…なる前に、これだけは…言いた…て…」

途中で、ジジッと音がする。

途切れないでくれと、願ってしまう。

「……ありがとう…って」

「佑介…!」

「佑介くん!」

「それは私らが言うことだ…!」

南部や相原、山崎が声を張り上げる。佑介に届けと言わんばかりに。

進たちクルーも佑介がいてくれたから、つらい戦闘でも乗り越えられたのだ。

 

守は改めて、この佑介と呼ばれている少年に会いたかったと思う。

進もだが、ここにいる皆が全員、この少年を可愛がっていたということがわかるから。

 

そうしているうちに、途切れる音が強くなってきた。

「佑介…! 聞こえるか」

進の呼びかけに。

「ごめん、もう…げんか…みたい」

「佑介くん…!」

「もうひとつ…言わせて? 俺も…」

益々強くなる雑音。それでも。

「俺も…古代さんのことも…み…なの…こと…も」

最後の力を振り絞るような声。

 

「大好き…だよ……」

 

この言葉を最後にパネルからノイズが消え、真っ暗になった。

 

「……っ…」

雪が両手で顔を覆う。

「本当に…行ってしまったんだな、あいつ」

島がぽつりと言った。

進は…台に置いた両手と肩を震わせていた。

その肩に置かれる手。

「…真田さん」

「だから言ったろう…還ってるって」

そう言う真田の表情は、どこか寂しげだ。

こくんと頷く進。

そして、すぐ横に置いてある青いコスモガンを掴んで、優しくいとおしむような眼差しで見つめた。

「…古代さん。これをここのどこかに飾りましょう。沖田艦長のレリーフみたいに」

そう言って南部と太田が持ってきたのは、一枚の写真を加工したものだった。

それを見た進の目が見開き、あとから泣き笑いのような表情でそれを掴んだ。

大きく引き伸ばされ、破れないようにしっかり頑丈に加工されたその写真には、進と雪に両側から肩を抱かれ、照れくさそうに笑う佑介の笑顔があった。

佑介が幾分かヤマトでの生活に慣れてきた頃、みんなで撮ろうと言っていたものだ。

進はそっと、指で写真に触れた。

 

「いい顔をしているじゃないか」

 

いつの間にか、守が艦長席から降りてきていた。

「兄さん……あ;;」

「構わん。今は戦闘中でもない」

くすりと柔らかい笑みを浮かべて、守は再び写真を見る。

「おまえが言っていた通りの少年だな。素直そうで、それでいて強い…」

「うん。それに、優しいヤツだったよ…」

 

自分と四郎がアレスに囚われた時。

佑介のどこに、あれほどの強さと冷たさがあったのかと思った。

誰かを護ろうとする故の強さと冷酷さ。それは「優しさ」の裏返しだと、進は思うのだ。

 

そしてこの写真は、そんな佑介が確かにヤマトにいたという『証し』だ。

「そうだな…。この写真はそうするとして、これは……あそこに置くか」

進は手にしたコスモガンを見て、ふっと笑った。

 

 

―――その、一方…

 

「もう、佑ったら、なんであんなところで倒れてたの」

 

時は、現代。

病院のベッドで身を起こしている佑介に、母の小都子が呆れた風に言う。

「ごめんって(^^;)。風が気持ちよかったから、そのまま寝ちゃったんだと思う;;」

小都子が言うには、何度も佑介の部屋をノックしても返事がなかったので、外に出てふと上を見れば、二階の屋根で横たわっていたらしい。

佑介は星を見るのが好きで、屋根から見ることがあるのだ。

 

(とてもじゃないけど…200年も先の未来に行ってたなんて言っても、信じないだろうな)

 

夢だったのか…とも思う。

だが、最後の会話はリアルすぎるほどに憶えている。

 

「いくら気持ちいいったってねえ;; …あ、そうそう」

と、小都子はエプロンのポケットを探って。

「佑の服の中に、これが入っていたわよ。…なにかのイベントにでも行ったの?」

「イベント?」

怪訝そうにしながら小都子から「それ」を受け取った佑介の目が、大きく見開いた。

そして、なんとも言えない表情で笑った。

「…古代さん…」

 

佑介の肩に手を回して、優しく微笑んでいる人。

夢なんかじゃない…。

確かに自分は、あの場所にいた。

 

それを忘れない限り、この写真がある限り。

繋がりは途絶えることはないだろう。

 

「…忘れないよ…絶対」

佑介はぽつりと呟いた。

 

 

佑介のコスモガンは彼が普段いた場所として、ヤマトの医務室に置かれている。

そこを訪れるたびに、クルーたちはコスモガンに触れて佑介を思い出しているらしい―――

 

 


 
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