真・恋姫†無双 萌将伝
夏祭り作品
【ある暑い夏の日……】
(コンコン)
「ご主人様、失礼します。軍編成について至急目を通して頂きたいのですが……」
しかし、部屋で政務をしているはずのご主人様のお姿は無く、月と詠だけが政務の仕事をしていた。
「ああ、あのバカなら『ちょっと用事が』とか言って出て行ったわよ。まったく、忙しいってのに何考えてるのよ。あいつは」
「詠ちゃん。そんな事言ったらダメだよ。ご主人様だって毎日頑張ってるんだから」
「月~、月はあいつに甘すぎだよ。少しはガツンっと言わないとダメだよ」
「へぅ~、でも、詠ちゃんだって毎日ご主人様は働きすぎだって言ってるよね?」
「なっ!そ、そんなこと言ってないわよ!そりゃ、頑張ってるとは思うけど……。あいつは甘やかせば図に乗るんだから!」
「ふふふ♪詠ちゃんは良くご主人様の事見てるよね」
「月~」
「……んんっ!私を無視して盛り上がらないで欲しいのだが?」
「へぅ~。すいません」
「月が謝る事じゃないわよ。悪いのは全部あいつが居ないのが原因なんだから!」
「それで、ご主人様は何処に行ったか言っておられなかったのか?」
「ご主人様でしたら、街に行ったと思いますよ。侍女の方がご主人様に頼まれていた品が出来たと伝えてに来ていましたから」
「……そうか……もしかして護衛も付けずに街に行ったのか?」
「あのバカなら考えられるわね。自分が皇帝だって自覚が無いんじゃないの?それともこの暑さのせいで頭がおかしくなったんじゃない?」
「詠ちゃんも心配なんだよね」
「なっ!どうして私があんな奴の事を心配しなくちゃいけないのよ!」
口は悪いが、詠なりにご主人様の事を心配して言っているのであろう。横で月がクスクス笑っているからな。
「確かにこう暑いとな……まったく、ご主人様は……わかった。とにかく街に行ってみる。手の空いているものが居たらよこそう」
「ありがとうございます。愛紗さん」
「助かるわ」
私はご主人様の執務室から出て誰か手の空いている者を探しに向かった。
「ん?あそこに居るのは朱里と雛里ではないか、そう言えば今日は非番と言っていたが。ご主人様がお戻りになるまでの間、月達を手伝ってもらえるか聞いてみるか」
そう思い、朱里と雛里に近づいていくとなにやら話しているようだった。
「雛里ちゃんついに手に入れたよ」
「あわわ、本当に手に入れたんだね朱里ちゃん」
「うん!これでもっとご主人様を喜ばせる事が出来るよ」
「ご主人様きっと喜んでくれるよね?」
「当たり前だよ!これがあれば、胸が無くたって喜ばせる事は出来るんだから。これを貧乳党の皆と勉強すれば」
「皆と何を勉強するのだ?」
「はわわっ!」「あわわっ!」
「な、なにをそこまで驚いているのだ?」
「な、なんでもありましぇんよ、あいひゃひゃん!」
「あわわ、な、なんでありましぇん。あぅ、また噛んじゃった」
「そ、そうか?ならいいが」
「そ、それより私たちに何かご様ですか?」
「ああ、非番の所、悪いのだが月たちの手伝いをしてもらいたいのだが頼めるか?」
「ふえ?あの、ご主人様はいらっしゃらないのですか?」
「それが、なんでも頼まれていた品が出来たと連絡があって出て行ったらしいのだ」
「……まさかとは思いますが、護衛は……」
「付けていないだろうな」
「「「……はぁ~」」」
思わず同時に溜め息がでてしまった。
「わかりました。ご主人様の確認が必要なもの意外は月ちゃんたちと分担して終わらせておきますね」
「ああ、すまないがよろしく頼む。私はご主人様を探しに街に行ってみることにする」
「はい、今日はいつにもまして暑いので気をつけてくださいね。愛紗さん」
「ああ、気をつけよう雛里。もっとも一番気をつけて欲しいのはご主人様なのだがな」
「あはは、そうですね」
「うむ、では行ってくる」
「行ってらっしゃい愛紗さん」
軽く手を上げて朱里たちと別れる。
「それじゃ雛里ちゃん、ご主人様の執務室に行こうか」
「うん。でも、その本を持っていくの?」
「はわわ、い、一旦部屋に置いて来た方がいいかな?」
「うん。それがいいと思うけど」
「それじゃ、一度部屋に戻ってから行こうか……それにしても、愛紗さんまた胸大きくなってなかった?」
「あわわ、朱里ちゃんもそう思ったの?」
「それじゃ、雛里ちゃんも?」
「うん」
「「……」」
「巨乳は死すべし!巨乳は悪だ!」」
なんだか、朱里と雛里が叫んでいたが既に離れていたので聞き取る事は出来なかった。
「まったく、何処に居られるのだご主人様は」
街を歩きながら民に聞いて周るが様としてご主人様の居場所はつかめないで居た。
「あら、愛紗じゃないどうしたの?」
「雪蓮殿、このような所で何をしておいでなのですか?」
「私?私はね、面白い事がないか見て周っていたのよ♪」
「はぁ、まったく、あなたは呉の重鎮なのですよ?護衛くらい付けて頂きたいのですが」
「私は強いから護衛なんて不要よ♪そんな不届き者、切り刻んでやるわよ」
「いや、出きれば警邏に引き渡していただきたいのですが」
「努力するわ」
はぁ、まったく困ったお方だ。
「それより愛紗は何していたの?何か探してるみたいだったけど」
「ええ、ご主人様に至急確認を取って貰いたい案件があり探していたのですが、雪蓮殿は見ませんでしたか?」
「今日は見てないわね」
「そうですか。他のものから聞いても今日はここには立ち寄っていないみたいですね」
「ふ~ん……なんだか面白そうね。私も手伝ってあげよっか♪」
「……雪蓮殿が、ですか?」
明らかに何かを企んでいる目につい怪訝そうな顔をしてしまった。
「なによ~。私の勘は凄いんだからね~」
「ほう、なら。私が言いたい事もその『勘』とやらで判ってくれるとありがたいのだがな雪蓮」
「げっ、冥琳……」
「冥琳殿」
「おや、愛紗ではないか奇遇ですね。どうかしましたか?」
「ご主人様を探しに街に出てきたのだが。冥琳殿はご主人様を見なかったであろうか?」
「北郷か?北郷ならつい先ほど中央区で会ったが。西区に行くと言っていたぞ、今から行けば間に合うのではないか?」
「西区に?そうか。冥琳殿助かりました。早速行って見ようと思います」
ちなみに、ここは中央区と東区との丁度入り口あたりになる。
「礼には及ばんさ。私も雪蓮を探していたところだったからな。足止めしてくれていて助かった」
「ちょ!冥琳、手に力入れすぎじゃないかしら」
「こうでもしないとお前は逃げ出すだろ。さあ、戻るぞ。いくら王座を退いたとは言え、お前は呉の将なのだ。やってもらわないといけない仕事が山ほどあるのだからな」
「ええー?!私の出番はこれでお仕舞いなの?!」
「何を訳のわからない事を言っているのだ。さあ、行くぞ!」
「い~や~~~!」
雪蓮殿は良くわからない事を叫びながら冥琳殿に引きずられて人ごみの中へ消えていってしまった。
「……さて、私もご主人様を探さなくては。確か、西区と言っていたな。急いでいってみるか」
「西区に来ては見たが、ご主人様は何処に居られるのだろうか……」
西区と言ってもこう広いと何処をどう探せばよいものか……
「すまぬ。ここにご主人様……北郷一刀様は来て居られないだろうか」
「これはこれは、関羽将軍!いいえ、本日はまだ見ておりませんが」
「そうか。すまなかった。商売、頑張ってくれ」
「ははぁ、ありがたきお言葉です」
ここでも聞き込みをしてみたがご主人様の足取りはつかめないで居た。
「それにしてもこう暑いと気が滅入ってしまうな」
額に滲む汗を拭い、日陰に避難する。
「このままでは、ご主人様を見つける前に私が倒れかねんな……」
「あれ?あそこに居るの愛紗じゃないの?」
「む?」
「あ、本当だ。愛紗さんどうかしましたか?」
「ああ、季衣に流琉ではないか。お主たちこそここで何をしているのだ?」
「華琳様に頼まれたものを買いに来てたんです」
「美味しいもの一杯買ったんだよ!」
「それはよかったな」
「もう、殆ど季衣の分じゃない。華琳様は材料だけしか頼んでないんだから」
「えへへ♪だっておいしそうだったんだもん」
「もう」
季衣の袋一杯の点心を見て微笑む流琉。あぁぁ、なんと可愛らしい、こう抱きついてモフモフと……はっ!いかんいかん。まずはご主人様だ。
「所で季衣に流琉、ご主人様を見ていないだろうか。ここら辺に居ると聞いて来たのだが……」
「え!兄ちゃんが居るの!?どこどこ?」
「兄様ですか?ああ、じゃあ、あれは兄様だったのかも……」
「え~!流琉、兄ちゃん見たの?!ずるい、なんで教えてくれなかったのさ!」
「だって、ちょうど路地に入っていく所で白い服しか確認できなかったから」
「ぶー」
「それで、そこはどこらへんだ?」
「はい。ここをまっすぐ言った。二つ目の十字路を右です」
「わかった。すまなかったな季衣、流琉」
「いいえ。見つかるといいですね」
「ボクも行くーーー!」
「季衣はお使いの途中でしょ。遅れてるんだから早く華琳様の所に戻るよ」
「え~!、流琉が届けに行けばいいじゃんよ~。ボクは愛紗と兄ちゃん探しに行く!」
「わがまま言わないの!もう何も作ってあげないよ!」
「なにを~!そんな事許すもんか!流琉のバカ!」
「季衣が言う事聞かないからでしょ!バカ!」
「言ったな~」
「む~!」
「むむ~!」
「お、おい二人とも街中で喧嘩は……」
「「てやあああぁぁぁぁっ!」」
はぁ~、始まってしまった。こうなると手が付けられなくて困る。
「しかし、放って置く訳にも行くまい。はぁ~、もう少しでご主人様に追いつけると思ったのだが……」
「うぅ~、ご主人様……何処(いずこ)ですか~」
あれから季衣と流琉を宥めるのに半刻ほど時間を費やしてしまった。
「お陰でご主人様の行方がわからなくなってしまった」
「……はて?私はなぜご主人様を探していたのだろうか?」
う~む、色々な事がありすぎて忘れてしまった。
「しかし、用があるのは確かだ。とにかくご主人様を探そう」
歩き出そうと一歩踏み出した所でこの暑い中、聞きたくない声が聞こえてきた。
「お~っほっほっほ!お~っほっほっほ!今日こそ決着をつけますわよ。ヒラヒラ仮面さん!」
「ヒラヒラ仮面などではない!私は愛と正義の使者、華蝶仮面だ!お前たちこそ年貢の納め時だ。今日こそ捕らえて見せるぞ、たれ乳団」
「ムキーッ!誰がたれ乳ですって!やれるものならやってみなさい!さあ、行きなさい。むねむね団の恐ろしさを思い知らせて差し上げなさい!」
「「あらほらさっさ~」」
「うぅ~文ちゃん、また愛紗さんに怒られないかな」
「そんな事気にするなって!そん時はアタイが庇ってやるよ!」
「にゃ~!バインバインににゃる為に頑張るのにゃ!行くぞお前たち!」
「にゃー!」
「にゃ~!」
「……にゃ~」
うぅ、頭が痛くなってくる……
「こらー!お前ら、また騒動を起こしやがって!いい加減にしやがれ!」
「翠っ!」
「ん?ああ、愛紗か丁度良いや、一緒にあいつらを捕らえるの手伝ってくれよ」
「ああ、それは構わぬが……桃香様?なぜここに居られるのですか」
「ふえ!あ、愛紗ちゃん?!あ、あのね?華蝶仮面さんが現れたって聞いてね。その~……」
「政務を抜け出して見に来たのですね」
「あは、あはははは」
「まったく……帰ったら、お仕置きが必要ですね」
「そんな~、べ、別にご主人様みたいにサボってるわけじゃないんだよ?!ちゃんと戻ったらやるよ?」
「桃香様までご主人様の様にサボり癖が着いたら困ります。……とにかく、その話は後にして。翠、行くぞ」
「おうよ!」
「きーーーっ!覚えてらっしゃい!てふてふ仮面!それと脇役さん!」
「誰がてふてふ仮面だ!愛と正義の使者、華蝶仮面と言っているだろうが!」
「こんちくしょう!誰が脇役だ!お前たち、先回りするぞ!」
「「はっ!」」
「愛紗!あたしはあいつらを追いかけに行って来る!桃香様を頼んだぞ」
「ああ、判った。気をつけるのだぞ」
「へっ!誰に言ってるんだ?あんな奴らに遅れなんて取るかよ。それじゃな!」
「翠ちゃん、頑張ってね!」
「さてと、桃香様、お戻りになって政務の……何をなさっているのですか?」
「え?華蝶仮面さんにさいん?貰おうと思って」
「?『さいん』とはなんですか?」
「ご主人様が言うには、有名人の人の名前書いて貰うことらしいよ」
「はぁ~、ご主人様も桃香様に変な事を吹き込まないよう注意をしないといけませんね」
「おや?このような場所で何をしているのですかな?桃香様に愛紗よ」
「あ、星ちゃん!華蝶仮面さん見なかった?」
「はて?私は今着たばかりですので見ておりませなんだが、その可憐で優美な華蝶仮面に何かようがあったのですかな?」
「うん!あのね、華蝶仮面さんにさいんを貰おうと思って探してたの?」
「さいん?」
「星よ、その質問の前に頼みがある。桃香様を城まで送り届けて欲しいのだ」
「構わぬが、愛紗はどうするのだ?」
「私はご主人様に用があるので探さねばならぬのだ」
「ほほう……主なら先ほどあっちで見かけたが……でえとか?」
「なっ!そ、そんなわけが無いだろう!」
「赤くなっては説得力が無いぞ愛紗よ」
「愛紗ちゃんご主人様とでえとするの?いいな~」
「ち、違います!先ほどから騒動に巻き込まれすぎて何で探しているか忘れましたが、でえとなどではございません!」
「では、そう言う事にしておこう」
「だから違うというに!」
「さあ、桃香様、我々はお邪魔なようなので城へ戻ると致しましょう。戻りながら先ほどのさいんについて詳しく教えてくだされ」
「うん、それじゃ愛紗ちゃん。がんばってね!」
桃香様は勘違いをしたまま、星はニヤニヤと笑いながら城へと戻って行った。
「星め、からかいよって、確かに最近、誘われてはいないが……いかんいかん!とにかくご主人様を探さなくては!」
「星の話ではこちらに居ると言うことだったが……」
「しかし、こうも暑いと水不足が心配だな、朱里に帰ったら相談してみるか」
汗を拭いながらご主人様を探す。
「今年は例年よりも倒れる人が多いらしいからな、ご主人様もご無事であれば良いが……」
色々考えていると、目の前に見覚えのある白い服が見えてた。
「あれは……ご主人様!」
「ん?あれ?愛紗?どうしたんだ、こんなところで?」
振り返り私が居る事に驚くご主人様に私は文句の一つを言おう歩き出そうとした。が……
あ、あれ?頭がくらくらと?
「お、おい愛紗?どうした?」
ああ、そうだ……私はご主人様に用、が……
「愛紗?愛紗!しっかりしろ!」
何を言っておられるのですかご主人様……ご主人様の方がフラフラなさっているではありませんか。
「と、とにかくどこか日陰に移動しないと!」
そうですね。日陰に移動してじっくりとおはな、しを……
そこで私の意識が途切れた……
『――しゃ!しっか―――あい――っ!』
うっ……誰かが私を呼んでいる……
「しっかり――愛紗!――の声が聞こえるか!」
「ご、しゅじ、んさ、ま?」
「よかった!意識が戻ったな!」
「わ、たしは……なにを?」
「暑さで倒れたんだよ。とりあえず移動するから抱き抱えるぞ」
ご主人様は私を抱き抱えようと体を少し起こし首と膝に手を差し入れてきた。
「ご主人様の手を煩わせるわけには……」
「良いから大人しくしてろって、どちらにしろ歩けないだろうからさ」
「…………」
ご主人様の笑顔と頭を優しく撫でる手に何も言えなくなりなすがままになってしまった。
「とりあえず首の下に濡れた布を入れるからね」
「んんっ!」
首の下に濡れた布を入れられ途端に身震いをしてしまった。
「大丈夫?」
「はい、冷たくて気持ちが良いです」
「本当は脇とかにもやったほうが良いんだけどね。移動するから落ちるかもしれないし」
「いいえ、これだけでも十分気持ちが良いです。お心遣い感謝します」
ご主人様は『そう?』っと微笑みながら立ち上がり城への道を歩き出した。
「所でご主人様。その頭の帽子は随分と変わっていますね」
「ああこれ?麦わら帽子って言うんだよ。こう暑いと普通の帽子だと蒸れちゃうからね。こうやって少し隙間が開いてるといいんだよ」
「それは便利ですね」
「だろ?そう思って一応全員分作ってもっらったんだけどさ。数が多くて一人で運べなくて城まで送ってくれる様に頼んだんだよ。夕刻くらいには届くんじゃないかな?」
「では、侍女が言っていた頼まれた品が出来たとはその麦わら帽子なのですか?」
「え?ああ、それもそうだけどもう一つあるんだよ」
「もうひとつ?」
「ああ、それは帰ったら見せるよ」
「そうですか……」
暫く話していると急に眠気が襲ってきた。
「眠いのかい?」
「い、いえ……そんなことは……」
い、いかん、ご主人様の前で醜態を晒すわけには……
だが、その心とは裏腹に眠気がどんどんと増してきた。
「愛紗は頑張りすぎなんだから少しは休まないと体壊しちゃうぞ」
「そ、のように……させているのは、誰ですか……」
「ははは、耳が痛いな……でも、今は休んでくれるかな?きっと疲れも出たんだと思うんだ」
「まったく……あなたと言う人は……」
そんな顔されては断れないではありませんか……
「お休み、愛紗」
ご主人様の微笑を最後に私は眠りについてしまった。
「う……ここは?」
目を覚ますと見慣れた天井がうっすらと目に入ってきた。
ここは城の部屋?私は一体……そうだ、ご主人様を探しに街に出て、それで……
「だめだ、頭がボーっとして思いだせん。それはそうとここは誰の部屋だ?」
辺りを見回すと見慣れた服が椅子に掛かっているのを見つけた。
「ここはご主人様の、部屋?」
と、言う事は、今横になっているこれは……
その瞬間、一瞬で頭に血が巡ったかのように頬が熱くなるのがわかった。
「お、落ち着くのだ。な、なに、ただ寝かされているだけではないか。何も取り乱すことはない」
自分に言い聞かせて心を静めていると、
(ぎぃ……)
扉があいた事に気づき顔を横に向ける。
「あ、目が覚めたみたいだね愛紗」
「ご、ご主人様?!……あ」
入ってきた人物がご主人様だとわかり、急いで体を起こしたが眩暈と共に横に倒れ寝具から落ちそうなってしまった。
しまった、このままでは床にぶつかって……
そう思いながらも体は思うように動かず頭から落ちていった。
「――っ?!……?」
目を瞑り衝撃に備えたが一向に来ることは無く、代わりに温かい温もりが私を抱きとめていた。
「……ご、ご主人様?」
「まったく、急に起きるからだぞ愛紗」
目の前にご主人様の困ったような、それでも安心した顔があった。
「も、申し訳ありません」
「とにかく横になろうか」
「は、はい……」
ご主人様に抱き抱えられながら寝具に横になる。
「もう大丈夫かい?」
「はい、申し訳ありませんご主人様。ご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて思ってないよ。愛紗が無事ならそれでいいよ」
「ご主人様……」
ご主人様が私の事を想ってくださる……それだけで心が満たされていくようだった。
「それであの時、俺を探してるみたいだったけど。何か用事?」
「え?……あ」
「?」
そうだ、確かに用があったのだが……なんだったか。
「も、申し訳ありません」
「え、なんで謝るんだ?」
「そ、それが……その……忘れてしまいまして……」
「……忘れた?」
「……はい」
ああ~、穴があったら入りたい!
「ぷっ……あはははは!」
「わ、笑わないでください!」
「ご、ごめんごめん。愛紗でも忘れる事があるんだなって思ってさ」
「うっ、あ、当たり前です。私とて完璧ではないのですから」
「そう拗ねるなよ愛紗」
「知りません!」
「まあ、それはさて置き、愛紗も熱中症になるとはな。本格的に何か対策を立てないとな……」
「ご主人様、ねっちゅうしょう?とはなんですか?新しい将の位ですか?」
「へ?」
「え?」
お互い首を傾げること数拍、ご主人様がまたもお笑いになった。
「あはは、違うよ。熱中症って言うのは病気?見たいなものでね。こういう暑い日になり易いものなんだよ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、愛紗、ちゃんと水分とか塩取ってたか?」
「い、いえ。と言いますか摂る暇も無く……」
「そっか。まあ、今後気をつければいいんだし今はゆっくりと休むんだよ」
「は、はい……」
横になっている私の頭にそっと手を添えて優しく髪を撫でてくださった。
『リーン……リーン』
「この音は?」
「ああ、あの音だよ」
「何ですかあれは?」
「あれは風鈴って言ってね。ああやって風が吹くと中心にある鉄芯がガラスに当たって音が鳴るんだよ」
「綺麗な音ですね……」
「ああ。俺の国だとああやって夏の暑さを紛らわしてたんだ」
「良い風習ですね」
「ああ……」
「「……」」
風鈴の音に耳を傾ける。
「愛紗……」
「ご主人様……」
ご主人様の顔が近づきやがて……
「んっ……」
(リーン……リーン)
抱き合う私たちを風鈴だけが優しい音色と供に見守っていた。
葉月「ども、初めての方もいつも読んでくれる方も読んでいただきありがとうございます」
愛紗「うむ、ありがたい事だ」
葉月「如何だったでしょうか?恋姫祭りのテーマが『夏』と言う事で、熱中症、麦わら帽子、風鈴を出してみましたが」
愛紗「それにしても、今年はいつも以上に暑いようですね。各地で熱中症が多発しているようです」
葉月「はい、日に当たっていなくてもなるので対策が難しいですね。こまめに水・塩分を摂るように心がけましょうね」
愛紗「そうだな。私も街の中で倒れるとは思いもしなかった」
葉月「でも、その分、一刀とイチャイチャ出来てるみたいですが?」
愛紗「い、言うな!は、恥ずかしいではないか!」
葉月「またまた、まんざらでもないくせに」
愛紗「~~~っ!そ、それよりも随分と長くなっているが一万文字以内に収められているのか?」
葉月「さあ?でも、ギリギリなのは確かですね。こう、後書きを一文字一文字書いていく毎に制限文字数に近づいて……」
愛紗「な、なら早々に締めに入ったほうが良いのではないか?!」
葉月「そうですね。では皆さん、またお会いしましょう」
愛紗「本編の作品もよろしく頼むぞ」
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恋姫†夏祭り作品になります。
愛紗視点のお話となっています。
少々長くなって島しましたが、
多分ギリギリ10000文字に収まっていると思います。
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