最初に部屋を訪れたのはお燐だった。
しきりに辺りを見回しては、あれでもないこれでもないと部屋を散らかし始めている。
「どこにやったっけなー」
どうやら何かを探しているようだった。確か彼女は今、仕事中のはずなのだが。
こんなチャンスめったにないのに、なんて思いながらお燐は右往左往している。
あの芳醇な香り、コクのある飲み口は筆舌尽くしがたい。
お燐は相当おいしいらしいその飲み物を想像して、口元をジュルリと拭った。
いっとき散らかし放題していたが、ある瓶を引っ張りだして止まる。
あれはマタタビ酒のようだ。なるほど、ねこまっしぐらである。
「たまには息抜き位しないとね」
お燐は瓶に頬ずりをしながら部屋を出ていった。
次にやってきたのはお空だった。
ひどく焦っているようだ。顔色も悪い。
「やばいよやばいよ」
さとり様のお気に入りの花瓶割っちゃったよ、とお空は身を震わせた。
先ほどのお燐と同じように部屋を散らかし、何かを探し始める。
「確か接着剤がこの辺に……」
くっつけて直す気らしい。さすがにあそこまで壊れたものを直すのは無理があると思うのだが。
お空は手を止めると、ついに接着剤探しを諦めた。
もうどうすればいいのか。絶望に満ちた顔が、しかし次の瞬間ぱっと明るくなる。
もっと散らかしてしまえば花瓶も見つからないかもしれない。木を隠すなら森の中だ。
火事場の馬鹿力とでもいうのか、お空にしては素晴らしいアイディアを思いついたのだった。
お空は散らかすだけ散らした後乱暴に花瓶を放り込み、手を二、三回たたいて息をついた。
これで大丈夫だろう。私は何も見てない知らなーい。
お空は飛ぶように部屋を出ていった。
その次にやってきたのはこいしだった。
散らかった部屋を見ても意に介さず、ひょいひょいと探索を始める。
こいしが乱入したことで、散らかった部屋はさらに無惨なものへと変貌していく。
「ここかなー?」
がちゃんがちゃん。
「こっちかなー?」
ばきんばきん。
これは片づけだけではすまなさそうだ。
「あ! あの戸棚怪しい」
まあ、あの二人にやらせればいいだろう。
こいしは戸棚の扉に手をかけると、勢いよく開け放った。
「お姉ちゃんみーっけ!」
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