No.163410

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(15)

皆大好きと思われる曹仁こと華蘭。

絵が描けるならば描きたいと思うのですが、何分そんな技術が無いのが悔しい限りです。

風と華雄は自分の嫁!

2010-08-05 02:32:27 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:13083   閲覧ユーザー数:9138

 

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

一刀が洛陽を発ってから、二日後の洛陽。

洛陽を護る軍を率いるのは、何進大将軍の腹心である皇甫嵩将軍―円であった。

円はとても有能な人材だ。

十常侍さえいなければ、何進の代わりに大将軍になっていてもおかしくはない、と言われている程に。

だが、円は怒って否定するのだ。

「自分が美里様の上に立つ等、考えたくも無い」、と。

 

円はかつて、地方で父や伯父と共に異民族と戦っていた名将であった。

その功績を認められ、美里が直々に力を貸して欲しいと頼み込んだのだ。

だが、円はそれに応じなかった。

それもその筈、当時の円は宦官に支配されていた王朝を見下しており、上洛等には全く興味が無かったのだから。

だから、美里からの願いも無碍に断ったのである。

それはもう、現在での慕い様が嘘のように。

しかし、美里は諦めなかった。

断られたというのに、諦めずに円の屋敷の門の前に立ち続けたのだ。

円が昔太守を勤めていた北地郡は涼州の一部であり、夜になれば打ち水がそのまま氷となる程気温が下がる。

だと言うのに、美里はそんな過酷な場所で、一睡も微動だにもせずに一晩中円が門を開くのを待っていたのだ。

夜が明ける頃には、美貌は悉く凍り付きかけ、肌に無数の切れが生じていた。

円もこれに驚き、思わず美里に訊ねた。

 

 

「何故そこまでするのか?

涼州の夜は如何な猛将といえども身を凍らせ、下手をすれば命を落とす。

そうで無くとも、身の何処かを切らねばならない事になってもおかしくはないというのに」

 

 

と。

だがそれに対し、美里は笑ってこう答えたのだ。

 

 

「もし身を失っても問題はない。

何故ならば、お前と言う将を得れば、お前が私の新たな身になってくれるだろう?」

 

 

と。

その言葉に、円は酷く心を打たれた。

そして、気付けば美里に跪き、真名を預けてしまっていたのだ。

それからだ。

大将軍何進の腹心、皇甫嵩将軍が生まれたのは。

 

円は思う。

美里は自身の命よりも、自分の価値を重視してくれたのだと。

だから、その罪滅ぼしの為に。

そして何よりも、自分が付いて行きたいと心の底から思った人の為に。

円は戦う。

 

 

「(私は唯、美里様のお役に立ちたいと願う。

だからこそ、十常侍を除く為のこの策を・・・)」

 

 

悲しそうな表情をしながら、豪奢な箱から一つの木簡を取り出す。

そしてその中身を見て、涙が一滴、円の頬を伝って落ちた。

 

 

「(必ず、必ず完遂してみせます)」

 

 

涙を拭って顔を上げれば、そこには常の円がいた。

先日より官軍は黄巾の軍勢相手に連戦連勝。

その報は、円の耳にも入っている。

円が今成すべき事は、皆が帰って来るまで、宦官達の好きな様にはさせぬようにする事。

木簡を元通りに箱に仕舞いこみ、円は部下達に命令を飛ばす。

円の敬愛する大将軍何進の為に。

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第十四話「接敵」

 

 

戦場。

それは、殺し合いの場だ。

小高い丘の上から、黄巾の大群を眺める一刀の心中を、そんな言葉が過ぎった。

黄巾の方は、官軍の大軍が接近している事を分かっていないだろう。

何故ならば、申し訳程度に黄巾党が放っていた偵察を一人残らず捕えたからだ。

少しばかり黄巾が哀れになり、溜息を吐いてしまう。

やはり何処まで行っても、一刀生来の気質は変わらずお人好しのままなのだ。

 

 

「何を一人でたそがれているのかしら?」

 

「・・・曹操」

 

 

背後に華蘭を就かせたまま一刀に語りかける華琳は、実に面白い物を見る目で一刀を見ていた。

フッ、と自嘲めいた息を漏らして、一刀は語り始める。

 

 

「俺の命一つで、これからあそこにいる者達が大勢死ぬかと思うとな」

 

「分かっていないわね、賊に情けを掛ければ、何時かそれは復讐という仇となって、貴方に降り懸かるわよ」

 

「いいや、分かっているよ。

それでも、なんだ。

俺はやっぱり怖いよ」

 

「・・・・・・劉備みたいな甘っちょろい事を言うのね、貴方は」

 

「甘い、か・・・いっその事、ずっとそのままの方が良かったかもなぁ・・・・・・」

 

 

そう語る一刀に少し苛つき、諫めてやろうと華琳が御節介を焼こうとした所であった。

 

 

「いや、一刀はそれで良い。

私が惚れた男は、少しくらい甘くなければ北郷一刀では無いぞ」

 

「華蘭・・・」

 

「華蘭、貴女ね・・・」

 

 

横から突然華蘭が入り込んで来た為に、腰を折られた。

だが、構わず続ける。

 

 

「お前という人間は、甘いからこそ慕われるのだ。

私然り、劉備然り、董卓然りだ。

それに、お前の「それ」は、唯の甘さでは無い。

底無しに近い度量の広さと、人であるが故の在り方。

それが、人々をお前に引き寄せる力になっている。

少なくとも私はそう思っている、だからお前を愛してしまったのだろう」

 

「・・・・・・ありがとう、華蘭」

 

「言葉の礼も大層魅力的なのだが、私としては行いの礼が欲しいぞ」

 

 

そう言い、己の唇辺りを、その白魚の様に美しい指でなぞる華蘭。

しかし、その表情は妖艶等とは程遠く、寧ろ親からの小遣いを期待する童の様な物である。

華蘭自身のギャップと相まって、思わず心がグラつく一刀であった。

それが面白くないのは当然華琳。

華蘭が一刀への思慕の情を隠していない事がそれなのだが、もう一つ。

褒美をねだられる事への口惜しさがあった。

 

 

「・・・なら、これでどうだろう」

 

「っふぅ、これは中々・・・・・・」

 

 

困った末に一刀が取ったのは、頭を撫でる事であった。

身長も然程違わない為に、何処か可笑しさの残る光景ではあるが、当の華蘭は非常に心地よさそうに目を細める。

華琳は益々もって面白く無くなって来ていた。

苛々の余り、自身の二の腕にほんの少しではあるが、血が出る程に爪を食い込ませる程。

だから。

 

 

「一刀、貴方はこんな所で油を売っている暇は無いでしょう?」

 

「ああ、確かにそうだな。

じゃ、俺はこれで」

 

「むぅ、もう終わりなのか。

後一刻程は欲しかったぞ」

 

「・・・それは流石にやり過ぎではないかしら?」

 

 

最早呆れしか感じさせない。

一方の一刀は、内心助かったと思いつつ、本隊の方へと走って行く。

その背を見送る華琳と華蘭。

そして、華琳は改めて眼下の黄巾の大群を見た。

辺りを見渡して一言。

 

 

「・・・いないわね、明らかに」

 

「そうだな、後に『天の御遣い』を得る為にも、張角達は捕えておきたいんだろう?」

 

「そうね、必ず役に立つもの。

私は有能な者が好きなのよ、無論貴女もね?」

 

「いい加減にその話は止めろ。

私は唯『華蘭様』への恩義を果たす為に、お前に仕えているんだ。

それに、私に女色の気は無い」

 

 

内心溜息を吐いて、再び黄巾党に視線を移す華琳。

その表情は、さしずめ謀略を巡らす奸雄のそれであった。

 

 

 

 

本隊に戻った一刀がまず行った事は、各諸侯より情報と各々の軍の概要に目を通す事だった。

それを、一刀の補佐として就いている稟と風と共に協議する。

その結果、先陣を切る隊を決める。

その筈だったのだが。

 

 

「孫堅が先陣を望んでいる?」

 

「はい、間諜よりの定時報告では何も怪しい動きは無いとの事なのですが」

 

「けれど、孫堅さんは断固として譲らないのですよー。

だから、これは何かを企んでいると思っていいと思うのです」

 

「ふぅん・・・」

 

 

三人揃って考え込む。

周りを馬に囲まれながらなので、少しシュールな光景ではある。

 

 

「御遣い様はいらっしゃいますか!?」

 

 

そこへ駆けて来る兵が一人。

三人は一時考え事を止め、そちらを見た。

 

 

「何事ですか?」

 

「はっ! 袁術軍の張勲将軍が、御遣い様にお目通りを願ってお出でです!」

 

「張勲さんが・・・?」

 

「むむ? 何の用でしょうかね?」

 

「大将が向こうの嬢ちゃんを引っ叩いたのへのお礼参りだったりしてな」

 

「有り得そうで有り得ないと思いますね」

 

「まあいいさ、会ってみよう。

済まないけど、張勲さんの所へ案内してくれないかな?」

 

「ははっ!!」

 

 

兵について行く三人。

少し歩くだけで、七乃の姿が見えた。

相も変わらず、胡散臭い笑顔を湛えたまま。

椅子も無いので、七乃も一刀も立ったままで会話する事になる。

 

 

「天の御遣いさん。

今日は、先日のお礼に参りました」

 

「お礼?」

 

 

一刀の目元が上がる。

それに気付いた七乃は、慌てて訂正した。

 

 

「あ、いえいえ、別に仕返しという意味では無くてですね?

本当にお礼に伺っただけなんです」

 

「・・・・・・」

 

「信じて下さいー! お願いですからそんな目で睨まないで下さいってばー!!

私、咲さんに比べて武の腕前さっぱりなんですから、貴方に斬られたら楽に死にますよ!?」

 

「・・・分かりました」

 

「ホッ」

 

 

思わず殺気の様な威圧を放ってしまっていた一刀は、七乃の必死の弁明を聞き、殺気を収める。

一方の七乃は、心底安心したように溜息を吐いた。

 

 

「あー、それでですね? 美羽様が何だかいい子になろうと努力を始めてくれた御蔭で咲さんの体調が改善の兆しを見せ始めたと、華佗さんから診察結果が出まして」

 

「それは喜ばしい限りです」

 

「"ボソッ” 私としては、ちょっとつまんないかなー、と思ってたり」

 

「・・・・・・なんですと?」

 

「あ、いえいえ、何でもありません! 何でもありませんったら!」

 

 

小声で付け足した言葉の内容を一刀に聞き取られ、慌てて取り繕う。

 

 

「まあ、それだけなんですけど、蜂蜜水を作る仕事も何だか少なくなっちゃったんで、お礼に来たんです。

あ、これ、粗品ですけどお礼の品です」

 

「それは有難いんですけど、流石に特定の諸侯に属する将からそう言った品を貰うと、賄賂の様に思われるんで、受け取れませんよ。

・・・と言うか、もしかしなくてもそれが狙いですか?」

 

「あらら、やっぱりお見通しですか」

 

 

悪戯がばれた子供の様に舌を出す七乃、一方の一刀は呆れ顔である。

 

 

「ま、しょうがないですね。

あ、念の為言っておきますけど。

私、本当に御遣いさんには感謝してるんですよ?

私は美羽様の事どうしても甘やかしちゃいますし、咲さんだって何だかんだ言っても美羽様を甘やかしちゃいますから。

貴方みたいに、【美羽様の為に】本気で叱ってくれる人は今まで一人もいなかったんですよねー」

 

 

そう言いながら、けらけらと笑う。

だが、そこには確かに、一刀への感謝の色があった。

 

 

「ですから、今更ですが言っておきます。

天の御遣い北郷一刀様、我が主君袁公路様を諭していただき、臣下一同真に感謝しております」

 

 

頭を深々と下げる七乃。

それは正に、忠臣の姿であった。

 

 

 

 

七乃が帰り、再び一刀、稟、風の三人組となってから、再度三人は協議を始めた。

その内容は、無論先陣の件。

だが、その中身は多少の変化が生じていた。

その原因は、去り際に七乃が残していった情報である。

 

―――約十分前

 

 

「それではこれで失礼します。

・・・・・・ああ、そうそう、言っておく事がありました。

孫堅さん、張角、張宝、張梁を救う気らしいですよ?」

 

「なっ!?」

 

 

と、いった事があったのだ。

その情報を元に、三人は話し合う。

 

 

「どういう事だと思う?」

 

「考えられる事は三つですね」

 

「はいー」

 

「まぁ、そこまでは俺にも分かる。

一つは、張角達は唯利用されているだけだからそれを救う為に。

もう一つは、これだけの人を乱に巻き込んだ力を利用する為。

そして最後は・・・」

 

「その両方、即ち救い出したついでに、その恩を突き付けて協力させようって腹ですねー」

 

「恐らく、それが最も真実に近しいかと」

 

「ふむ・・・となると、先陣を切ろうと此方に提案してきた理由もしっくり来るな」

 

「そうですね・・・しかし、我々が今狙いを定めているあの軍勢に張角がいない事位、孫堅も分かっている筈でしょうに」

 

「ですねー、正直無駄な気も」

 

「いいや、それは違うぞ」

 

 

稟と風は、その一刀の言葉に釣られ、同時に一刀を見る。

稀代の軍師二人に同時に軍師としての目で見られ、一刀は居心地悪そうに肩を竦める。

だが、自分の言葉を二人とも待っていると理解していたので、口を開いた。

 

 

「ここで先陣を切っておけば、いざと言う時、即ち黄巾党軍勢内に張角達がいる時に先陣を切りたいと切り出しても全く不自然じゃないし、筋が通っているから俺達も拒否し辛くなる。

【今までそうだった】、が【今回もそうだろう】と取られるのは、意外と普通の事なんだ」

 

 

二人して、成程と頷く。

それなら、今先陣を切る事の危険性を鑑みても、後の利の方が大きい。

 

 

「と言う事は、今まで孫堅とその娘の孫策が無謀とも取れる突撃作戦を繰り返していたのも、その為の下準備だったのでしょうか?」

 

「・・・どうなんだろうな?」

 

「風としては、唯の性分な気もしますがねー」

 

 

うむむ、と三人揃って考え込んでしまう。

そこで、稟が突然手を叩いた。

 

 

「どうした、稟?」

 

「いい策でも思い付いたんですか?」

 

「ええ、聞いて貰えます?」

 

 

一刀と風は頷き、稟の策とやらに耳を傾ける。

そして、揃って笑う事になった。

 

 

「何だそれ!? 賛同を得られるかどうかが、かなり微妙じゃないか?」

 

「稟ちゃんらしくない策ですね、一体どうしちゃったんですかー?」

 

 

二人の反応に対し、稟が零したのは笑顔。

それも、とても綺麗なもの。

 

 

「それはきっと・・・」

 

 

そこで一度言葉を切り、一刀の方を感情の籠った目で見詰め。

因みに風は、親友の反応からハッと何かに気付き。

こう続けた。

 

 

「一刀殿の影響、でしょうね」

 

 

とてもとても嬉しそうに、一刀を見ながら笑う稟に対し、一刀は唯首を傾げるしか無く。

稟が、自分と同じ想いを一刀に抱いている事に漸く気が付いた風は、内心気が気ではなかった。

 

 

 

 

―――約一時間後

 

一刀は、自分が率いる事になった軍勢を見渡した。

色取り取りの異なる様相の軍団。

稟の提示した策通りの内容を認めた文を、各諸侯に送った結果がこれだ。

稟の策。

それを簡潔に表すのであれば。

「各諸侯より武将を一人、そしてその将の率いる隊を一隊、一刀の隊として召集する。

その隊が、今度の戦における先陣を切る隊である」

と言う物だ。

これは言うなれば、全諸侯が先陣であり同時にそうではない、と言う事になる。

だが、この策には当然欠点がある。

それは、一刀がしっかりと部隊を率いている面々を御せねば崩壊の危機があると言う事だ。

一刀は自身に課せられた重い責任に溜息を吐かざるを得なかったが、何とかしようという気概も相当に持っていた。

 

 

「どうした、景気が悪そうじゃないか。

そんな事では、私がお前を護らなければならなくなってしまうぞ?

最も、私としてはその方が嬉しいのだが?」

 

「華蘭、からかうなよ」

 

 

曹操軍よりは曹子孝―華蘭。

最初は春蘭が、華琳の露払いにと出張ろうとしたのだが、華琳の言う事以外は碌に聞かない春蘭では駄目だと華琳が判断し、代わりに華蘭を出させたのだ。

 

 

「北郷、お前は何人女を囲うつもりなのだ?

董卓様を悲しませるのであれば、いかにお前と言えども・・・」

 

「金剛爆斧を仕舞え!? 普通に怖いぞ!」

 

「冗談だ、お前が討たれた方が、董卓様は悲しむからな」

 

 

董卓軍よりは華雄。

かつてならいざ知らず、今では呂布よりも冷静に戦場を分析把握し、張遼よりも優れた武を有するに至った華雄ならば、一刀の力となってくれるだろうと、月が送り出した。

 

 

「ふむ、これはこれは、いい塩梅に修羅場ですなぁ。

いやはや、これは私も加わった方が良いでしょうかな?」

 

「これ以上場を掻き回さないでくれ、頼むから」

 

 

劉家軍(一応一諸侯扱いになっている)よりは趙子龍―星。

意外にも、劉家軍内で最も強く参陣する事を望んだのが、星であった。

星にも確かめたい事があったのである。

 

 

「一刀・・・一体何人増えるんですか・・・・・・?

もう軽く十人はいるじゃないですか!」

 

「待て待て、そんなにはいないだろ?

俺自慢じゃないけど、魅力なんてこれっぽっちも無いぞ!?」

 

「嘘だっ!!」

 

 

西涼軍よりは龐令明―葵。

一刀に会えると、周りの全てを抑え込んでやって来たのだが、目にしたのは一刀に明らかに好意を抱く女性がいるではないか。

思い込みの激しい性格も相まってか、一刀もたじたじになる程の嫉妬感情が表に現れていた。

 

 

「ふーん、これが修羅場ね、実際は初めて見たわ」

 

「何処をどう見ればそうなるっ!?」

 

「えー、どこからどう見てもそうじゃない?」

 

 

呉軍よりは孫伯符―雪蓮。

参陣理由は勘であった。

因みに、雪蓮の視線は一刀を上へ下へと嘗める様に観察していた。

時々舌なめずりをするかのような音も混じっている。

一刀は全力で無視する事に決めた。

 

その他にも、袁家両軍を含める他の諸侯よりは十把一絡げとして処理できそうな将が派遣されてきていた。

これは、一刀を未だに甘く見ている者もいると言うのが少しと、出したくても出せない者が少し、そして余りにも無謀に映る為に出し渋ったのが大半。

一刀は少しばかり間を取って、気を整える。

その背後では、先程一刀に話し掛けていた武将達が互いの力量を量り合っている。

それも、稟の策の一部に含まれているのだが。

一つは、それぞれの諸侯が持つ、この戦いに求めている物への期待値の高さを測る為。

そしてもう一つは、主要な将を送り出した場合、その将の実力の記録を手にする事。

主にこの二つであった。

開戦が近い事を悟り、各将は各々の武器を取る。

暁を抜き放ち、一刀は声高らかに宣言した。

 

 

「突撃ィーーー!!!」

 

 

その言葉が、地響きを生んだ。

 

 

 

 

「突撃ィーーー!!!」

 

 

一刀の号令に真っ先に反応したのは、雪蓮であった。

己の手勢を率い、真正面から黄巾の群れに吶喊。

偵察を悉く失っていた為に接近を感知する事が遅れた黄巾党は、あっさりと混乱の渦中へと叩きこまれた。

狙うは大将首。

それさえ得れば、今後の事にもかなりの発言力を手にする事が出来る。

だがそれ以上に、雪蓮の戦人として血が滾っていた。

 

 

「邪魔、よっ!!」

 

"ザシュゥッ!!”

 

「ぎぃやぁあああああああああああああ!!」

 

 

眼前に捉えた黄巾を迷う事無く切り裂き、雪蓮は更に戦場奥深くへと斬り込んで行く。

返り血を身に浴びる度に、雪蓮の身体が熱くなって行く、それはもう燃える様に。

それを追う者が一人。

 

 

「ちぃっ! 孫策め、周りをもう少し見ろ!」

 

 

華雄である。

雪蓮は、戦場の奥へと更に踏み込もうとしている、【一人で】。

華雄は雪蓮を追いつつ、周囲を囲もうとしている敵兵の群れを金剛爆斧の一振りで群れの一角に穴を開け、配下の兵に命じ退路を開かせたままにする。

それを間断なく繰り返しながら、猛進する雪蓮から引き離される事無く追い掛けているのだ。

異常な程の技量と、空間認識能力が無ければ土台不可能な業である。

多少の混乱の治まりを見せて来た戦場において、最も必要なのは、互いが何処で何をしているかの把握。

それがちゃんとしていなければ、同志討ちに陥る可能性すらある。

華雄はそれらの全てを完璧に理解しながら、漸く雪蓮に追い付こうとしていた。

 

 

「止まれ、孫策!」

 

「華雄!? あんたが何で!?」

 

「いいから周りを見ろ、配下まで引き離して何の利があるんだ、この猪め!!」

 

「んなっ!? あんただけには言われたくないわよ!」

 

 

確かにそうだろう。

何故ならば、雪蓮が知っている華雄は大蓮に大敗した頃の華雄なのだから。

だが、今の華雄はまるきりあの頃とは別人なのだ。

 

 

「恨み事は後で受ける、私を猪と呼んだ事も許す、今はこの場より脱するのが先だ!」

 

「はい!? ・・・・・・あんた、本当に華雄?

華雄の皮被った別人じゃないわよね・・・・・・?」

 

「・・・来るぞ!」

 

 

深くまで入り込んだ為に、自然周りを囲まれた雪蓮と華雄は、背中合わせで戦う事になる。

全方向から同時に襲い掛かって来る黄巾だが。

 

 

「孫策、伏せろ!」

 

「ちょ!?」

 

 

その場で回転する様に金剛爆斧を振り抜いた。

当然、雪蓮は前以って忠告されていたので躱せたが、雪蓮程の反射神経を持たない黄巾兵は纏めて真横に斬断される。

 

 

「あっぶないじゃない! 私が死んだらどうするつもり!?」

 

 

立ち上がりつつ、飛んで来た矢を切り払う雪蓮は、華雄に対して恨み事を吐くが、華雄は至って涼しい顔。

 

 

「私の知る孫家の女は、あの程度では死なん」

 

「ぐぬっ・・・」

 

 

鼻で笑いながらそう言った。

雪蓮は頭が沸騰しそうになるが、逆に沸騰しそうになる事で、観の目を取り戻した。

その為に、今自分が置かれている状況を客観的に判断できる様になった。

 

 

「・・・成程ね、これは流石に猪と呼ばれてもしょうがないわ。

と言うよりも、ここにもし冥琳がいたら、確実にそう言われてたわね。

礼を言うわ華雄、ありがと」

 

「そんな事はどうでもいい、今は協力した方が得策だ」

 

「その案乗ったわ・・・思ったよりも仲良く出来るのかもね、私達」

 

「どうだろうな」

 

 

互いに鼻で笑いつつ言う。

黄巾は、二人の武将に恐れを抱きつつも向かって来る。

それを、二人して薙ぎ払った。

そして。

 

 

「董卓軍が将の一、華雄。

我が武無双に届かず、されど我が武万夫不当なり!!

命を惜しまぬ者は掛かって来るがよい! 須らく冥府へと送ってやろう!!」

 

「江東の小覇王、孫伯符。

朱に染まる覚悟が出来た者から前に出るがいい!!」

 

 

揃って名乗りを上げた。

それは、大いに黄巾の恐怖心を煽る効果を及ぼした。

 

 

 

 

葵は蒲公英より託された鶺鴒を駆りつつ、黄巾を次々と屠っていっていた。

その葵の目に留まったのは、馬に乗った男。

正しく大将首、そう判断してからの葵の行動は早かった。

 

 

「そこの将、一騎討ちを申し込む!

我が名は龐令明!

いざ、尋常に勝負!」

 

「何っ!? ・・・良かろう! 俺の名は孫夏、この首見事取ってみせろ!!」

 

 

名乗り、鉄の槍を構えて葵へと一直線に突っ込んで来る孫夏。

落ち着き払い、葵は前虎を振り上げて槍を撥ね上げる。

そのまま後狼を真っ直ぐ、孫夏の着ている鎧の上から叩き付けた。

 

 

「がふっ!」

 

 

余りの衝撃に馬の上から突き飛ばされ、地面を二、三度転がる。

槍は孫夏の手を離れ、地面に突き刺さった。

それを確認し、ゆっくりと孫夏に近付く葵。

鶺鴒より飛び降り、突かれた場所を押さえて蹲る孫夏に前虎を向けた。

 

 

「殺せ」

 

 

そう簡潔に喋り、目を上げる孫夏。

その姿に、葵は違和感を抱いた。

到底賊とは思えないのだ、おまけに黄巾を身に付けてもいない。

前虎を突き付けたまま、葵は口を開いた。

 

 

「貴方は、何故黄巾を付けていないのですか?」

 

「あんな物は邪道だ、俺達は黄巾に集まったんじゃない・・・これ以上言う事等無い、さっさと殺せ」

 

 

葵の違和感が更に強まった。

だから。

 

 

「誰か! この人を拘束しなさい!!」

 

「何!?」

 

「貴方には、もっと聞きたい事がありますので」

 

「そうか、なら仕方が無いな」

 

 

諦めた様に目を閉じる孫夏。

葵はてっきり捕縛される事を善しとしたのだと思った。

が、その考えが大いに間違っている事を、直後に思い知らされた。

 

 

「”ゴボッ”」

 

「・・・え?」

 

 

孫夏の口から、血が流れ始めた。

それも、相当な量の血が。

 

 

「まさか!?」

 

 

してやったりと言わんばかりの表情のまま、地面に倒れる孫夏。

舌を噛み切って自害。

古来よりある自害方法だが、葵は実際にやった人間を見るのは初めてだった。

葵の表情が、苦々しいものへと変わる。

今まで討ってきた黄巾とは違い、ちゃんと話し合える理性を持った人だったのに。

そう、後悔を抱く理由としては、十二分だった。

 

 

「私は、何をやっているの?」

 

 

自分を責めてしまうのも、彼女の性格上仕方の無い事。

だが、ここは戦場だ。

背後から飛びかかって来た黄巾兵の頭蓋を後狼の一振りで叩き割り、葵は振り返る。

ほんの僅かだが、聞いた孫夏の話が全て事実ならば、孫夏は黄巾の所為で自分と戦わざるを得ず、死を選ぶしか無かった事になる。

 

 

「許さない・・・貴様等は、一体どれだけの人の命を歪めれば!!」

 

 

憤激。

葵が遂に、自身の壁を超える。

 

 

 

 

一刀の目に映る現世の地獄。

そこで舞うのは、白い蝶。

否、星であった。

ヒラヒラと正に蝶の様に舞い、蜂どころでは無いが、鋭く刺していく。

それは舞の様であり、とても美しく一刀の目には映った。

もう既に大勢は決しているが、一刀にはどうにも奇妙な違和感があった。

そう、まるで誰かにじっと観察されているかのような。

辺りを見回して見ても、気になる視線の主は何処にもいない。

それが、とても不気味だった。

 

 

「いたぞ、あいつが総大将に違いない!!」

 

「殺せー!!」

 

「ウォオー! 俺の獲物だー!!」

 

 

攻撃の隙間を潜り抜けて、一刀まで辿り着いた黄巾の群れが、一刀に襲い掛かる。

奴等の目には、一刀がまるで太った牛や豚の様に見えているのだろう。

だがしかし。

 

 

「下衆がっ!!」

 

"ゾブリッ!”

 

「ギャァアアアアアアアアアアア!?」

 

 

華蘭とその兵達によって、一人残らず討ち取られる。

護りに特化した華蘭の部隊は他の部隊とは違い、未だに一人の犠牲も出していない。

改めて、その異様なまでの錬度に惧れを抱く一刀であった。

 

 

「貴様等の様な人の姿をしただけの穢れた獣風情が、天の御遣いに触れようなどとは片腹痛いわ!

最も、せめて私程度を退けられねば、一刀を討つ等決して不可能だがな!!」

 

 

まあ、味方である内はとてもありがたいのだが。

自分も前に出るべきかと思案をしていると、すぐ隣に星が立った。

 

 

「御遣い殿、大勢は決しました。

龐徳殿が大将首を取ったそうですし、後は残党だけです。

追撃させるか、退くかを選んだ方がよろしいかと」

 

「あ、ああ、そうだな、ありがとう星」

 

「何、この程度は労にもなりませぬが故」

 

 

チェシャ猫の様に笑いながら、一刀の耳元で囁く星。

内心ドキドキな一刀であった。

 

 

「趙雲、私もやっていいだろうか?」

 

「おや、曹仁殿もお好きなので?」

 

「馬鹿を言うな、一刀以外に誰がやるものか」

 

「おやおや、これは何とも・・・男冥利に尽きますなぁ、御遣い殿?」

 

 

頭を抱えてしまうのは自由だが、今回ばかりは一刀が悪い。

きっと、この状況を見た者ならば、血涙を流して歯軋りする事だろう。

二人を振り払い、一刀は。

 

 

「先陣を切った部隊は退け!

残った者は、黄巾の残党を殲滅せよ!!」

 

 

先陣を務めた部隊を後方に呼び戻し、背後に控える諸侯の軍勢に命を下した。

雪崩れ込むように突撃する諸侯の軍勢。

最も、曹操や孫堅と言った【利口な】諸侯はその場に留まり、突撃した者達が討ち漏らした黄巾を討っていっていた。

その中で、最も大きく響いていたのは、戦場にはとても不似合いな高笑いの声。

頭を押さえたのは、一刀だけでは無く、当然華琳もであった。

 

張角を見付け出すまで、後何戦交えねばならないのかは分からないが、少なくとも決戦はそう遠い日の事ではないと、一刀は確信していた。

 

 

 

 

第十四話:了

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

ちょぉっと、駆け足で書きました。

もしかしたら誤字があったりするかな?

あったら指摘をお願いします。

即直していきますので。

 

レス返し

 

 

悠なるかな様:コメントありがとうございます。 美羽の成長は、ゆるゆるが理想です。

 

はりまえ様:微妙に成長はしています。 が、それが良い方向に転ぶとは限らない、かも?

 

poyy様:咲さんの胃は治るかも知れませんが、ね・・・

 

砂のお城様:別の要因で倒れるかもしれませんよ? 後、○スター10は医者王に寄付されました。

 

F97様:応援ありがとうございます!!

 

睦月ひとし様:うぅっ! その一言が、頑張る気力をくれます!

 

うたまる様:貴方のイメージの様な笑顔が素敵な美羽様に、何れはしたいなあ・・・

 

mighty様:今回はどうでした?

 

RING様:何気に華蘭初登場の回だけ、異常に伸びてるんですよね・・・

 

2828様:やばいけれど、周りがしっかり者なので大丈夫です。 特に、まだ出ていない瑠香が・・・おっとまずい、これはネタバレになる。

 

takewayall様:さて、どうしましょうかね、と言うか余り広げ過ぎるとキャラ立ちが薄くなったりするので、考えどころなんですよね・・・IFルートとかありかな?

 

瓜月様:今までにない美羽、それは咲さんがいる時点で半確定状態ですよ。

 

 

気付けば、華蘭初登場の第九話のみが閲覧数3000を突破いたしました。

これも須らく皆さまの御蔭です(土下座)。

となると、華蘭は軽視できませんね。

専用IFルートを特別に書こうかな・・・?

 

ではまた次回で会いましょう!

 

 

 


 
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