No.162426

真・恋姫無双 萌将伝 『夏の怪談』

アインさん

恋姫†夏祭りに、参加させて頂きました。
本編は恋姫†夏祭り用ですが、限定作品ではありません。多くの方が楽しんで頂けたら何よりです。
ところでまだ萌将伝途中プレイなんですが、噂で一人の乙女が崩壊しているという噂が気になってちゃっています。

2010-08-01 16:37:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4534   閲覧ユーザー数:4108

 夏限った話ではないのだが、人は夏によく怪談話をする。そんなとても恐ろしい噂がこの都にもきた。

 そこで真相を確かめるため白蓮と北郷は、その噂の森へと足を踏み込んだ。

「遅くなってすまない。北郷、他の皆は?」

 白蓮が待ち合わせの場所である森の入口に着くと、そこには北郷が一人で佇んで居た。

「みんな怖くて来ないって。今日は白蓮と、僕だけ」

(……よしっ!)

 北郷と二人きり。

 それが嬉しくて、白蓮は心の中でガッツポーズをとった。ただでさえ北郷はモテモテで毎日いろんな女性達が彼を取り巻いている。日頃から存在が薄いと言われていわれている白蓮にとっては嬉しい限りだ。

(少しは、運命だって思っても良いわよね・・・・・・)

「それじゃあ、僕達も行こうか」

 差し出された北郷の手を取って、白蓮が嬉しそうに頷いて暗がりの中を月明かりを頼りに手を繋いで歩いた。

「……それにしても、『都の郊外の森を真夜中に入れば二度と帰ってこれない』なんて怖い話だよな白蓮」

「はは。でもさ、真相を確かめないとずっとみんな怖がってしまうからしかたがないさ」

 白蓮はそうだろ、と北郷に同意を求めると、北郷は苦笑いした顔で「そうだね」と答えた。

「そう言えば私の方が先に出たのに、随分早く着いていたんだな」

「男だからね」

「何だそれ?」

 微妙に答えになっていない答えと笑顔ではぐらかされて、つい白蓮は苦笑してしまうが、それでも、普段とは違った一面の北郷を見れた事が少しだけ嬉しかった。

 

キィ・・・・・・キィ・・・・・・キィ・・・・・・

 

 その時、暗闇の森を支配する闇の奥から幽かな音が聞こえて来る。

 

キィ・・・・・・キィ・・・・・・ガラガラッ・・・・・・キィ・・・・・・ガラガラッ・・・・・・

 

 金属の擦れるような音と、車輪の付いた何かを引き摺る音。徐々に接近してくる音がハッキリと聴き取れる距離に近付いた時、廊下の向こうに人影が浮かび上がった。

 白い服を来た女性だ。その女性が小さな台車の様な物を押して歩いて来ている。

 

キィキィ、ガラガラガラッ・・・・・・キィキィキィ、ガラガラッ・・・・・・

 

 耳障りな音を立てる白い影が視認可能な距離まで近付いた時、そこにいたのは顔見知りの人物だった。

「……何やってるんだ、星?」

「お、おや? 主殿と伯桂殿。どうしてこのような場所に……」

「その後ろにあるのは……」

 台車の中身には蓋をした大きな壷がいくつも乗せてあった。

「……誰にも言わないでください」

 よほど人に見られるのが恥ずかしかったのだろうか星は真っ赤になってしまった。

「ははは……誰にも言わないさ」

 そんな星を北郷は笑顔で返してあげた。

(はぁ……。やっぱり真相はこんなもんか・・・・・・)

 白蓮はなんとなく落胆してしまう中、星は自分達が来た方へ台車を引いて消えていくのを見送った。

「まさか、星のあんな姿を見られるなんて意外だったな白蓮」

 ふと、北郷が尋ねてきた。白蓮が視線を移すと、幾分寂しげな顔が目に映る。その顔は質問に答えるのも忘れ、暫し魅入ってしまった。

(うう……この顔一つで、どれだけ私が苦労しているのか)

 だが、今日は自分が独占できると考えた白蓮は、北郷の質問にどう答えるべきか迷った。頼りになる所をアピールするべきか、女の子らしく怖がって見せるべきか。

 ほんの一瞬の間に、脳内で行われる白蓮の会議がもたらした答えは、非常に打算的なものであった。

「だけど、わかるまで少し怖かったな……」

 白蓮が北郷の腕にしがみつく。豊かな胸を押し付ける様に。

「そっか、それじゃ先に進もうか」

 しかし、返ってきたのは、予想外の反応だった。照れるでもなく、少し嬉しそうに微笑んで続きを促がされる。照れて顔を赤くする、と言う期待通りの反応ではなかった事に、僅かに不満を感じるが。

(まだまだアピールのチャンスはある筈だし、今はいいか……)

 白蓮はこの好感度作戦をあれこれ考えつつ、白蓮は北郷の腕を一層強く抱きしめながら森の先へと進んだが、白蓮の作戦の戦果は失敗に終わった。

 理由は明確だった。現れたお化けは星の登場だけだけだった事だ。

(はぁ……けっきょくダメだったなぁ)

 落ち込む白蓮。そんな中、北郷がいないことに気付いた。

「あれ? 北郷」

 さっきまで離さずにいたはずなのだがいない。

「おーい。白蓮~~」

 その時、北郷が遠くから自分の真名を呼ぶ声が聞こえてきた。

「え? なんで北郷が?」

 近づいてきた北郷は息を切らせながら話す。

「はぁはぁはぁ……。白蓮ひどいよ~~置いていくなんてさ」

「はい?」

 一瞬、北郷が何を言っているのか理解できなかった。置いていって先ほどまでずっと傍にいた者の言葉ではないからだ。

「何言ってるんだ? さっきまで私と一緒に森を歩いていたじゃないか」

「? 何を言ってるんだ白蓮?」

 白蓮より後に向こうを出て、さっき着いたばかりだよ。そう耳打ちする。その答えが、白蓮の混乱に拍車をかけ話が全くかみ合わなくなる。

 白蓮が到着してからここに着くまで、北郷はずっと一緒に居た筈だ。

その時、情報を整理する為に記憶を手繰っていた白蓮は、一つの違和感に気がついた。自分が到着した時に、北郷はこう言った。

『みんな怖くて来ないって。今日は白蓮と、僕だけ』

 北郷は自分を『俺』と呼ぶはず。少なくとも、白蓮の知る限りでは、そうとしか呼ばないかった。

(まさか、そんな・・・・・・それじゃあ、さっきのは・・・・・・)

 高らかに自己を主張する恐怖を否定する情報を求めて視線を動かし、その視線が恐怖の発生源を捕らえた時、白蓮は見てはいけない決定的なものを見てしまった。

(北郷っ!?)

 森の暗闇の奥から北郷が此方を見つめていた。いや一人だけじゃない。幾人の北郷が白蓮を見つめており口々に『白蓮どうしたの?』と呼びかけてくる。

「う、うわぁぁぁぁ――!!」

 不気味を通り越して恐怖へと落ちてしまう白蓮はそのまま気を失ってしまうのだった。

 目を覚ますと北郷が心配そうな顔で見ていた。

「北郷……私は……」

「心配しちゃったよ。来てみたら倒れてるんだから」

「はは……ごめんな」

「それじゃ、行こう」

「えっ?」

「『えっ?』じゃないよ。この森を調べるために来たんだから調べないとな」

 差し出された北郷の手を取って、白蓮は暗がりの中を月明かりを頼りに手を繋いで歩いた。

「あ、れ?」

 しかしこの光景になぜか見覚えがある。

 

 

――それもそのはずだ。

 

だって彼女はすでに星の数ほどの回数でこの森を北郷と歩いているのだからね……。


 
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