No.162386

ヤサシサハ雨 エピローグ

ナオヒラさん

中学生暗黒小説
終劇

2010-08-01 12:27:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:506   閲覧ユーザー数:505

―エピローグ―

 

 

ウララは、僕が理想のクスリを飲んでいたことを知っていた。

アサカから聞いたんだって。

ただ、僕が人を消していることまでは知らずに、僕に無視されたくなければ相手にするなって言われたんだって。

 

エイジを消したあとも、彼は僕をからかいにきてたらしい。

けど、僕はエイジを自覚していないようで、あまりの気味の悪さに、エイジは僕を相手にしなかった。

それに加え、アサカがナオコのセーラー服を着て、僕にくっついてばかりいるのだから、学校中の生徒は僕らを煙たがり、近づきもしなかった。

ナオコは、全校生徒の前で飛び降り自殺した生徒。

そんな彼女の制服を着たアサカを避けてとのこと。

 

すべて、アサカの計算どおり。

 

ウララは、僕を心配するも、アサカがいつも僕といる。

アサカは意識して、ウララを寄せ付けないようにしてた。

 

あの日……。

アサカと心中しようとしたあの日……。

 

ウララは、ライブに備え、練習するために朝早く登校してた。

そのとき、僕とアサカが屋上に向かうのを見て、あとを追ったとのこと。

ただならぬ予感がしたんだって。

僕が人を消していることを知り、僕に消されたのを知っていて、それでも、心中を止めないとって思ったんだって。

 

サエねえさんは、僕が家に帰って来なかったことをずっと心配していた。

家に帰らないのは、僕がアサカの家に泊まってたからだけど、何度僕の家を訪ねても僕は出てこなかった。

心中の日、朝早く空き教室に来ると思ってたウララまでいないから、大あわてで学校中を探し回ったって。

 

屋上での騒動は先生たちの間で処理され、問題なく文化祭が開催されたらしい。

ウララはギターを壊し、軽音部の発表は中止。

結局、ウララとサエねえさん二人だけの軽音部は、成果を残さずに廃部になった。

その代わり、ウララはクラス劇の指揮に加わり、盛況のまま無事終えたらしい。

 

文化祭開催中、僕は病院に運ばれ、入院した。

意識を失って、倒れて……。

そのときのことは、よく覚えていない……。

 

精神的にきついことばかりだったのか、僕は一日中寝ていたらしい。

目覚めると、雨は止んでいた。

冬の始まりを思わせるような、ひんやり肌寒い風が窓から入ってくる。

窓から外を見ると、ひさしぶりの青空に太陽。

なんだか、まぬけな感じ。

まぼろしの雨はなにもありませんでしたよ……そう僕に言っているようだった。

 

サエねえさんとウララがお見舞いに来てくれた。

顔はぼやけてなくて、はっきり見ることができた。

「よかった……」

僕が認知してることを知ると、二人は涙を流してくれた。

クスリのことを気にかけていたようだけど、もう心配はないようだった。

「ナオが退院したら、先生と一緒に演奏するから……」

ウララが言った。

僕は、そのときを待ちわびている。

 

病院の先生から、念を入れてと5日間の入院を宣告されたけど、おかげで元気を取り戻すことができた。

入院中、僕は色々なこと……とりわけ、ナオコのことを考えていた。

一緒に心中しようと言ったナオコ。

あのとき、心中せず、自殺してしまったナオコのことを思うと、今でも消えたいくらいつらい気持ちになってしまう。

 

ナオコは、世の中の、悪いものを目にし、悲劇の果てに死んでしまった。

世の中には、ナオコのような可哀想な人がいる。

そんなナオコも罪を犯し、深い爪痕を残した。

だけど……。

「僕は、生き続けるよ」

そして、もう一言。

「世界中でひとりだけだとしても、僕はナオコを許すから」

 

退院する日、僕はアサカのところに行った。

僕と同じ病院で入院してた。

僕よりも症状が悪く、死んだようにぼーっとしてるだけで、同室の患者とも、看護師とも話さないらしい。

話しても、無反応。

たぶん、消してしまったんだろう……僕は思った。

 

アサカは、上半身を起こし、ただ一点を、ぼんやりと見つめていた。

僕が入室しても、振り向きもしない。

「アサカ……」

その言葉に反応し、アサカは目を少しの間、僕の方へ。

「ナオちゃん?」

そう言うと、また視線はどこか別のとこへぼんやりと。

「どうして、心中してくれなかったの?」

僕は、自分の意志で、心中するのをやめた。

それでも、胸が詰まる思い。

ごめん……。そう言いかけたとき……。

「ボクも死ぬって言ってるのに。河瀬ナオとは心中しようとしてたのに、どうして?」

河瀬ナオ?

ナオちゃんって、もしかして僕じゃなくて……。

「ナオちゃん、またそう笑って、見下してちゃって。え、なに……。どうして、ボクにクスリを使わなかったって?」

アサカは、僕を見ていない。

 

 

「アサカが、河瀬ナオにクスリを使い、心中するからだよ…………」

 

 

アサカは、すやすやと眠りだした。

僕はしばらくアサカの顔を見ていて、ため息のあとで、重い腰をあげる。

病室を出る前に、アサカを見て、つぶやく……。

「また、お見舞いに来るよ……」

 

受付に着くと、サエねえさんとウララが迎えに来てくれた。

看護師に見送られ、病院を出ると、突然の夕立に降られた。

立ち止まる僕の手を引っ張って急かすウララに導かれるままに、僕らはサエねえさんの車に飛び乗り、家路に就いた。

 

 

 

 

ヤサシサハ雨 完


 
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