No.162158

雪蓮冥琳√ 彼の想いが届くとき

米野陸広さん

お気に入り専用を、一般公開用にいたしました。
内容は変えていません。
まぁ、あまり長くないですから。
これからもご愛顧のほどお願いいたします。

2010-07-31 15:27:42 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4864   閲覧ユーザー数:4285

 

そうか、もう、夏なのか。

 

なぁ雪蓮、冥琳、天の国の行事なら、また君達に会うことも可能かな?

 

天に行ってしまった君達になら。

雪蓮冥琳√番外編 彼の想いが届くとき  

少しずつ日照りが強い季節になっていた。

呉国建業でもそれはかわらない。

ただ、日本のあの人工的な暑さに比べると、比較的ましといえた。

空気が流動するこの国は、まだすごしやすい。

それでもじっとしているだけで汗が出る。

(夏、なんだなぁ)

一刀は野菜を切っておままごとのように細工をしながら、そんなことを思っていた。

「一刀、貴方何やってるの?」

「ん、ああ、ちょっとね」

一刀は市で買ってきた野菜に小枝をつきたて、上手くバランスが取れるようにしていた。

場内の中庭で一人で珍妙なことをしているのだ。

蓮華も気になって見に来たのだろう。

「ちょっと、じゃあ、わからないわよ。また天の国の何か?」

「うん、そんなとこ」

どうにも要領を得ない。だが、あえて追求することはしなかった。誰に関することなのかは、察しがついたからだ。

「一刀、あまり、背負いこまないでね」

「ん、何をさ」

「それは……いえ、何でもないわ。仕事はちゃんとやっておいてね」

「わかってるよ」

そういって浮かべる笑顔がどことなく寂しく見えたのは、蓮華のうちの気持ちを反映したからだろうか?

それとも……。

一刀が作っているのは、精霊馬だった。彼のいた国、日本ではお盆の中の行事ではポピュラーなものといえる。

実は中国にも清明節といって先祖の墓参りをするといった似ているものがあるのだが、一刀はそのことを知らなかった。

ましてや、形式ばったこともよくわからずこの精霊馬を彼は作っていた。

ただこうしていれば故人となった彼女達にまた会えるのではないかという、淡い期待があるからだ。

一刀がまだ日本にいた頃、彼はよくこうした行事の意味をわかっていなかった。

いや一刀だけではないだろう。

周りの友人達でさえ、きっと理解していなかったに違いない。

こんなものを作ったりする意味なんか。

近しい人を亡くすことが、こんなにも苦しいことだったなんて。

一刀は不細工ながらも出来上がった二頭の精霊馬を見つめ、涙をこぼした。

胸にあいた穴を再び見つめなおしているような気にさえなったのだ。

「……なんで、二人とも……」

(これ以上言っても、どうにもならないか)

死者は死者。割り切って……生きていくしかない、たとえそれがどんなに親しかったものたちでも。そうしなければ、人は前に進めないのだから。

一刀は出来上がった精霊馬を抱えて自らの部屋へと戻っていった。そしてできるだけ窓際に飾っておく。

その後眠くなるまで、一刀は仕事をし続けた。

そう、いつの間にか机の上で寝てしまうほどに。

(……ん?)

ふとしたに身体が自然と反応を起こす。一刀の眉が少し動いた。

しばしして、もう一度衝撃が襲う。

どんでもなく、痛そうな平手打ちが背中に決まっていた

「っつうううううううううう!」

「おはよう、かーずと♪」

「え、?」

「久々だな、北郷」

一刀は目を疑った。これは夢なのか、だとしてもなんてタイミングのいい夢なんだろうか?

一刀の眼前には、見紛うことなき雪蓮と冥琳があの頃の姿のままそこに立っていた。

「しぇれん? めいりん?」

「そうよ、久しぶりね一刀」

「ふむ、まぁ驚きたい気持ちもわかるが、私たちも現状を理解し切れていないのでな、たぶんそのキュウリとナスが私たちを連れてきてくれたのではないかと思うのだが」

そういって冥琳は窓際にあったキュウリを指差した。

「ああ、あれは笑ったわよね。キュウリの格好した馬が『一度だけ現世に戻ってみるか』なんていうんだもの」

「ふふふ、確かにな。……が、再び逢えて嬉しいぞ、北郷」

「そうね、それに戦乱が終わってからあんなに寂しい一刀の顔を見ていたら、こんなことしてくれなくても絶対来たけどね」

笑いあう二人が一刀に目を移すと、驚きを隠せなかった。なぜなら一刀が泣いていたからである。

「ほんとに、ふた、りなん、……だ、な。しぇ、れん」

「そうよ」

「めい、りん」

「ああ」

「あい、たかった。ずっと、あいたかったよ」

一刀は立ち上がって二人を抱きしめた。

そこには温もりが、二人の香りがあった。

「ちょ、ちょっと一刀」

「ほ、北郷」

「ほんとに、よかった」

一刀の声はしばらくやむことはなく、黄泉帰りを果たした二人はかつて愛した男を抱きしめた。その涙が枯れるまで。

「はーやーくー」

「ちょっと待ってくれよ、この時間に執務室抜け出すの難しいのは雪蓮が一番よく知ってるだろ?」

「私の頃は冥琳がいたもの、でも今はいないじゃない」

「ふふ、まぁそういうことだ。頼むぞ、北郷」

一刀は動きやすい格好に着替えて酒蔵に忍び込む用意をしていた。

「なぁ、やっぱり、二人がいってくれないか?」

「いやよ、幽霊騒ぎなんてなったら困るもの、変な騒動を故郷に持ち込みたくないし」

「だったら、ここにあるだけのお酒で我慢してくれよ」

「それはもっと聞けないわね」

一刀は嘆息しながら、扉の前に立っていた。

「面倒をかけるな北郷」

「気にしないでよ、冥琳。せっかく大好きな二人が帰ってきてくれたんだ。それ相応のもてなしをしたいさ」

いきなり大好き、といわれて二人の頬が赤く染まる。

「それじゃあ行ってくる」

そうして、一刀は部屋から出て行った。

「ねえ、冥琳」

「なぁ、雪蓮」

二人は顔を見合わせ、苦笑をもらした。

「一刀ずいぶんと女の子の扱いが上手くなったわね」

「あのときの初心な一刀も可愛かったがな」

「へぇ、私と二人のときは一刀って言うんだ」

その言葉に、冥琳はしまったといった顔をした。

「ねぇどうして? どうして冥琳は一刀を名前で呼んであげないの?」

「……でるわよ」

「え?」

「二人きりのときは呼んでいる……」

冥琳の顔がかぁっと赤くなる。

「恥ずかしいじゃないか、閨で呼び合う名前を呼び合っているところを、人に見られるのは」

「もう、冥琳、かーわーいーいー♪」

そういって雪蓮は後ろから冥琳に抱きついた。

「こら雪蓮、やめろ、あっ、そこは、駄目って、どさくさにまぎれてどこを……っあ」

「何やってるの二人とも」

「あら一刀早かったわね」

「まぁ、一応黙認してもらってる抜け道使ったから……って、二人ともさせっかくこっちに戻ってきたのに、なにしてるのさ」

「うーんと、冥琳いじり?」

雪蓮の責めが一度やみ、冥琳がぜえはあと息を荒げている。

「大丈夫、冥琳?」

「まぁ、まだ、な」

「あら、私の腕も鈍ったかしら」

そういって、雪蓮は冥琳の性感帯を一撫でした。

「ひゃっ、ん、ん、ん」

その一撫でで決壊したのか、冥琳は艶やかな黒髪を左右に振るい、身体を小刻みに痙攣させた。

「あっ、いっちゃった♪」

「わざとやるなよ、雪蓮」

「……せ、れんんん」

冥琳は倒れそうになる身体を何とか机に腕を突くことで姿勢を保った。恨みがましそうに雪蓮を見つめる。

「さぁ、一刀飲みましょう。白酒、白酒♪」

「はいはい、じゃあここに置いとくから注いでおいてくれよ。ほら冥琳」

「ん、北郷?」

「辛いだろ、寝床まで運んでやるから」

そういうと強引に冥琳の身体を抱きかかえると、一刀は寝床に身体を横たわらせた。

「一刀贔屓だ、ずるいぞぉ」

「それじゃぁ三人で横になってお酒飲むか?」

笑いながら、一刀は自らの盃と冥琳の盃を取る。既に透明な液体に満たされている。

「一刀、私の徳利はなかったの?」

「あるけど……お墓に一緒に埋めたよ?」

「えええ?」

「まぁいいじゃない雪蓮、今日はそういう日ではないでしょ?」

「うーん、そうね。こういう風情を楽しむのも一興か、月もよく見えるし」

それぞれが腰掛けた位置から空を眺める。

一刀は改めて今日の運命を感謝した。

「じゃ、数奇な再会に乾杯」

 

一刀は二人の愛する恋人に再会できたことに。

 

「乾杯」

 

冥琳は想い人がこうして自らのことを想ってくれていたことに。

 

「かんぱーい」

 

雪蓮は今ここにある時間がいつまでも続くようにと。

 

そして誰もがこの時間は長く続かないことを知っていた。

誰もが皆異邦人であるがゆえに。

「んんぁ、あ、ぁあああ」

「ちゅっ、くちゅっろ……れろっあ、あ、んん、ちゅ」

「ああ、ああ、あああああああ」

好きなように三人は身体を欲しがった。

熱く火照った身体を冷ますように、身体を熱していった。

誰も、今の間は人間ではなかった。愛欲に身を任せる獣だった。

その真実があれば十分だった。

言葉なんてものは不要だった。

孫呉の悲願のために力を尽くした者たちの慟哭は、今はただ愛するものへの賛歌となっていた。

何度身体を重ねただろうか?

だが、足りない。もっと深く、もっと深く心の底で離れられないほどまでに繋がっていたかった。

「雪蓮、冥琳!」

「「か、ず、と!」」

 

……わかっていたことだった。

これは、ひと時の幻。彼女達に与えられた僅かな奇跡の時間。

でもだからこそ、自分の全てを伝えたかった。

「つたわっ、たかな?」

寝台の上に寝転がる。今さっきまであった彼女達の温もり。

コトンと先ほど置いてあった盃が二つ分音を立てる。

(そっか、ありがとう)

月は沈み日が昇る。太陽の光が何もない窓際を映し出していた。

あとがき

初めて書いてみたSSです。

なんだか上手くまとまらなかったでしょうか?

皆さんに気に入っていただければ幸いです。

個人の趣味がかなり反映されるのでお気に入り登録用にさせていただきました。

 

お気に入り登録用作品の扱いを私なりに決めさせていただきました。

多くの読者さんから意見を頂きたい長編と違い、私の作品を気に入っていただけている読者さんの意見だけを反映させていこうと思います。

そういうわけなので、こちらのほうにはリクエストなど、まぁ、頼まれたこともないのでないとは思いますが、あったら善処しようと思います。

それではみなさん、ごきげんよう!

 


 
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