なんだか静かな休み時間だと思ったら、いつも騒
ぎを起こしている三枝さんが、西園さんと机を囲ん
で話し込んでいた。
「ふんふん。いやあ、こんな面白い世界があるなん
て、はるちん全然知らなかったっすよ」
「最近はいろんなメディアに露出が増えましたが、
もともと日陰もののジャンルですから」
「でで、この場合ってどっちがどっちなんです?」
「やはり好みにもよりますが……直枝さんかと」
ルーズリーフを指さして西園さん。なにを話して
るんだろう。あ、三枝さんがこっち見た。僕?
「難しくないですかネ」
「あまり考えにくいからこそ需要があるものです」
「ナルホド。それでは理樹くんと宮沢くんをくっつ
けるために、不肖はるちん、お手伝いいたしますで
すヨ! センセ!」
「ちょっと待ったぁ!」
きき捨てならない言葉が出たぞ!
僕はガタガタと椅子を揺らしながら、西園さんの席まで急いだ。
「な、なんの話をしてるのさ、二人とも」
「ありゃりゃ、バレちった」
「あれだけ大きな声を出せば当然です」
「なんか不穏なセリフがきこえたんだけどっ!」
悪びれずに笑う三枝さん。
「やはは、なんでもないですヨ?」
「思いっきりバレたって言ったよねっ」
「うう、ごまかすにはどうすればいいですかセンセっ!」
「ごまかす、と言ってしまった時点でなにを弁解しても無力だと思います。正直に話し
てはいかがでしょうか」
……これは。
三枝さんから受け取ったルーズリーフには、大きく「BL」という二文字が書かれて
いて、その下に「宮沢謙吾→受け」「直枝理樹→攻め」という不吉な単語が並んで……
「なに、これ」
「いわゆる青春ってヤツですなぁ」
「創作の一形態です。通常恋愛といえば男女のものとされていますが、中には男性と男
性の恋愛を描いたものがあります。三枝さんが興味を持たれたそうなので、直枝さんと
宮沢さんを例に説明しました」
そ、そっか。じゃなくて!
「三枝さん、さっきくっつけるって言ってたけど」
「いやネ、理樹くんたちいっつも一緒にいるでしょ? これはもしかしてもしかしたら
もしかすると――ああ! いけない男子寮でのロマンが!」
「ちなみに井ノ原さんではあまり美しくないので」
ちなみにでフォローできてるのかすらもわかりません。
「そういうこと、起こってないからね?」
「いやいやいやわかんないですヨ? 理樹くん女の子顔してるから、けっこう同室を狙
ってる男子は多いんじゃないかなあ」
「直枝さんもどちらかというとその気がありそうですし」
「ないからね!?」
三枝さんの顔がニンマリと変わった。そのおかげで、やっと僕ははめられたことに気
づいたんだ。
「……直枝さんは女子が好きなんですか?」
あまりにストレートな疑問が僕の胸に突き刺さった。
「え、いや、その……それはそうだけど」
「ふうん。ではでは、誰が好きなのかラブリポーターはるちんに話してみるのがいいと
思うわけですよ」
「べ、別に特定の誰かってわけじゃ」
「おお!? センセ、ちょっと思いがけない発言が出てしまいました!」
「……直枝さん、予想よりも幅広いみたいですね。まさか誰でもいいとは」
「ちょちょちょちょ! なんか別の方に危険だからやめてそういうの!」
「後五秒以内に答えないなら宮沢くんか女子全員か、から決めちゃうよ」
「え!? な、なんでそういう話に!?」
「……もしかして、棗さんでしょうか」
西園さんが呟いた。
「いや恭介も違うから!」
西園さんがはたと動きを止め、急におどおどし出す。
「……鈴さんのことだったんですが、まさか恭介さんが出てくるなんて……」
それが少し恥ずかしがってるように見えて、隣で三枝さんが机をばしばし叩いて笑っ
ていて……僕は教室から逃げ出した。
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この二人に声をかけるべきでは……理樹イジメは書いてて楽しいものです。