――それがもし、自分だったら出来たとか、思った事はないだろうか?
俺はある。
でも、実際にそれが起こったらどうだろうか?と考えたことがあるだろうか。
この質問は間違いだ。何も無いところから考えるさせるのが、そういう認識を与えてしまう。
人一人、小さな存在だということに気づく俺は、普通に暮らし、普通に卒業していくのかと思った。
……。
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムが鳴る。
しかし、キーンコーンカーンコーンという言葉を常用にまでした人は凄いと思う。
ん?常用か?
俺がそう思っているだけかも知れんな。
そんな他愛の無いことを思っていた。
高校二年生になった。
何も考えずに机に突伏している。
何せ今は帰りのHRで委員会決め。
この学校、叶馬憲(かなめとし)学院は委員会が少ないことで有名だ。
そして2―A出席番号12番こと高瀬秋乃は(たかせあきの)、目立たず、ひっそりと暮らそうとしてた。
「―えと、誰かボランティア委員に入ってくれませんかー。」
俺のクラスは四十数名。
委員会は4個×2人で、8人しか選ばれない。概要は控えさせてもらおう。
「うーん、じゃあ高瀬くんで良いですか?」
「は?」
パチパチパチパチッ!!
周りから巻き起こる拍手。
失念していた。
仕切っているのは"みなみゆうき"。
美しく、並に優しい……=美並優紀。
おしい、紀が思い付かないな……、我ながらアドリブで出したのに……。
彼女は幼馴染みということになっている。
別にあまり話した事がないわけでわないが、"幼馴染み"という関係ではないだろうと言ったら怒られてしまった。
いや、そんなこと思ってる時間はない。
「おい、俺の意志は無視か?」
「はぁ、高瀬くん?呆れましたよ?この拍手を得て、なんでそんなことを言えるんですか?」
優等生ぶりやがってこの、第一、"推薦=決定"がおかしいだろうよ。
周りの奴も、やりたくないだけだろ。俺もだけど。
「私もいるんだし、良いじゃないですか。決定です。HRはお終い!」
何が良いんだぁ!と言う前にHRが終わった。
ははっ、俺も、終わった。
「あっくーん、2―B集合だから来てね。」
帰り自宅をしている中、美並優紀は俺の元へ来てそう告げた。
秋乃だから『あっくん』ってか?けっ!
「……なんで?」
だるそうに言ってみる。実際だるいです、はい。
「別に来なくても良いけど……来ないと普通に単位落とされるよ?」
「あぁ分かったよ!行くよ!」
「あはは。じゃあ私は少し遅れていくから。じゃあね。」
そういって優紀は教室から去っていった。
単位を落とすというのは脅しだと思うだろ普通は、でもな、ボランティア委員の顧問、殺戮 鬼神之(さつりく きしんすけ)は本当にやる。……殺る。
名前が危ないよね。
ふぅ。行きますかね。
俺は渋々2―Bへ向った。
ガラガラ―
ドアを開けると不思議なことに誰もいなかった。
一応合ってるか確認。
「……一番乗りだよ嬉しくねぇ。」
俺は独り言を言って、適当に席に着き、寝た。
「―はっ!?」
気付けば夕方。どうやら寝ていたらしい。
「はっ!?」
もう一度言った。
黒板に何か貼ってあるのに気が付いたからだ。
そこにあったのは紙で、男らしい字が書いてあった。
内容↓
高瀬秋乃
居眠りの罰
一週間(今日から一週間、休む事は許さん)
叶馬憲病院での研修
一日にB5の紙10枚のレポート
追記
美並に感謝をしておけ
以上
……?
は?
ちょっと鬼畜過ぎないか……?
レポートの枚数もおかしい。
俺の都合も無視。
しかも叶馬憲病院かよ、一体なにすんだよ……。
こうなったら自棄(やけ)だくそ!
俺はチャリを走らせ、病院へ向った。
叶馬憲と書いてあるから近いように思うがチャリで30分も掛かる。
そんなわけで30分後。
―病院の目の前で来たわけだが……。
「どうしよう。」
いきなり行って大丈夫だろうか。
話は付けてあるのだろうか。
まず入るか……。
ウィーン。
自動ドアを潜り抜け院内のカウンターへ。
「すみません、少しよろしいですか?」
すると―
「……高瀬秋乃くんかい?」
名前を知ってる……?
「そうですが……。」
「話はもう君のとこの殺戮先生から聞いているから。」
マジかよ……。
「ちょっと待ってて下さい。院長を呼んで来ます。」
そういうとカウンターで話していた人は奥へ行ってしまった。
俺は院内にある自販機でジュースを買って待っていた。
カップのコーラを買った。
カップより缶のが良いなぁとどうでも良い事を思っていた。
おっと飲んでる最中に会うのは失礼だなと思った俺はすぐにコーラを飲み干した。
ここの院長がやって来るのは一時間後だったわけだが……。
「―待たせたね。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
正直俺は立腹だった。
一時間はちょっとという時間ではないだろう。
「私の名前は霰霜聡太郎(ちしも そうたろう)だ。こちらへ来てくれるかい?」
「……はい。」
そう言って院長が促したのは、スタッフオンリーと書いてある場所。
ここで一体どうしろと……。
俺は部屋の中に入り、部屋を見回した。
これといって特に何もなかった。
というか、何もない。
「君にはね、この院内でのカウンセラーになって欲しい。」
「か、カウンセラー?」
カウンセラーとは簡単に言うと相談役だ。意味だけ知っていても何をどうするかなんて分からない。
「そう、ここで二つ選択を出すから選んでくれ。」
「はぁ。」
院長は信憑性を悟るかのように話して来た。
「この院内全てのカウンセラーとなること。ある一人の女の子のカウンセラーになること。どちらが良いかね?」
なんだその選択は。
普通に考えて女の子一人のカウンセラーをやった方が楽だろう。
だが、怪しい。裏をかこう。
「じゃあ院内全てのカウンセラーに……」
「ならないんだね?分かった。」
「えぇー!?」
「それで―」
「待ってください!俺が選んだのは前者ですよ!」
必死に言ってみたが……。
「頼む……。」
と真剣に言われてしまっては仕方ない。
「分かりましたよ……。」
院長は悪そうな人ではないしな。
「ありがとう……。いずれ理由は分かってしまうかもしれんが……。あの子は特別で
な……。」
「特別?」
「……実際に会って、日が経てば分かる。場所は608号室だ。」
そう言って霰霜さんは地図を書いてくれた。
「頼んだよ……。」
その言葉を聞き、この場を後にした。
俺が見えなくなるまで、霰霜さんは見ていたような気がした。
―608号室、ここか。
エレベーターで行ける最上階の一番奥から二番目。
病室の前には
608
氷柱
とプレートに書いてあった。
いざとなると緊張するな。
軽く深呼吸だ。
「スーハー。」
端から見たら変人だね。
そして緊張を解いたはずの気分でドアにノックしてみた。
コンコン。
「……。」
コンコンコン。
「…………。」
三度目の正直。
コンコンコンコン。
「…………ちっ。」
ガラガラッ。
違うよ?開けたんじゃないよ?開いちゃったんだよ?
自分に言い訳しつつ中に入った。
「……!」
そこには、綺麗な女の子がいた。
窓をずっと見ている女の子。
ただボンヤリと外を眺めている……。
女の子とは言っても俺と同い年くらいの子だ。
いきなり話掛けるのも悪いし、病室のベッドの近くにあるイスに座る。
向こうは俺に気付いてるのだろうか。
しばしその女の子と一緒に外を眺めていた。
―それからどれくらい眺めていただろうか。
時間を忘れていた中で、一人の声が沈黙を破った。
「―話、掛けてこないんだね。」
「え?」
いきなりの発言に軽く耳を疑ってしまった。
いつの間にか女の子はこっちを見ていた。
「あの、俺は……」
「分かってる。ここの院長さんに頼まれたんでしょ?」
「ん、ま、まぁ。」
やはりあの霰霜院長め、必ずこの子のカウンセラーやらせるつもりだったのか。
「ねぇ、暇だなぁ。」
「そ、そうなんだ……。」
なんかよく喋るなぁ。
「私の名前は、氷柱(つらら)。」
「俺は…」
と名乗ろうとしたが、無駄だった。
「知ってるよ、高瀬秋乃くんでしょ?」
氷柱とか言う女の子はそう言うと、目を意地悪くして言った。
「ねぇ秋乃くん、私と……ゲーム、しよ?」
「ゲーム……?」
なんだかんだで始まってしまったカウンセラー。
俺はただ祈る。
どうかこの一週間が無事に終わりますように、と。
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多分ファンタジーかと思います。
魔法ってファンタジーですよね?
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