No.150747

G×S!夕陽が紡ぐ世界 ~八話目~

さん

待っててくれた人いるのかなぁ?
ネコミミ一姫「そんなに心配にゃらさっさと書けばいいだけにゃ」
ですよね~。
ネコミミ一姫「一姫の話も書いてほしいのにゃ」
善処しましょう。

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2010-06-15 01:59:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4508   閲覧ユーザー数:4017

今日は新しい友達が出来た、魔族の女の子「ネリネ」ちゃんと神族の女の子「シア」ちゃん。それぞれの家に帰って行ったけど、あの子達なら忠夫とも友達になってくれる筈だ。

                 ・

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                 ・

『忠夫…その怪我…』

 

忠夫は頭に包帯を巻いていた、たぶん楓が…

 

『へへっドジだよな、転んじまった』

 

嘘なのはわかってる。だからボクもその嘘に付き合った。

 

『まったくだ、このドジ』

『ははは…』

 

ムリをして笑っている忠夫にボクは被っていた帽子を忠夫の頭に被せた。

 

『わっ、何だよ稟。……稟、この帽子…』

『忠夫にやる』

『何言ってるんだ、この帽子は稟が父ちゃんからもらったって言ってた大切な帽子じゃないかないか。もらえないよ』

『いいんだ』

『でも…』

『ボクがあげたいんだ。今はそれしか出来ないから…約束したよな、ボク達一番の親友になろうって』

『…ああ、一番の親友だ。ありがとう、大事にするよ』

 

そう言いながら帽子を被り、照れくさそうに笑った。

                 ・

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                 ・

《今度は友達も紹介できそうだな》

 

ガヤガヤ、ザワザワ

 

何だろう、あの大きな木がある空き地の方が騒がしい。

 

『何があったんだ?』『爆弾が爆発したらしい』『誰か子供が巻き込まれたらしいって』

 

ドクン

 

何か変だ、向こうに行きたくない、でも行かなきゃいけない気がする。

 

ドクン、ドクン

 

歩いて行くと誰かが泣いていた、あれは孤児院の菊山先生。何か見覚えのある帽子を持っている。

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

幹夫おじさんもそこにいた。おじさんも泣いている、何で?…

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

目の前が歪んでる。何でボクは泣いてるんだろう?いやだ、逃げ出したい、そこに行きたくない。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

なのに足が勝手に動く、行きたくないのに、逃げ出したいのに。おじさん達がボクに気付く、目から零れる涙の量がどっと増える。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

菊山先生が手に持っていた焼け焦げた帽子をボクに差し出す。忠夫にあげたはずの帽子を……

 

『嘘だ…』

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

『嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ』

 

『稟君……』

 

幹夫おじさんがボクをやさしく抱きしめてくれた。おじさんも小さな声で泣いていた。

 

『嘘だ……嘘だーーーーー!!』

 

 

その叫びに答えてくれる人は誰も居なかった……

 

 

第八話「たった一つのモノ。君の名は」

 

 

終業式の後のホームルーム、撫子は生徒達に話をしていた。

 

「とにかく、アルバイトしようと『純粋』異性交遊しようとかまわないが私から言う事は唯一つ、節度ある行動をするように」

「勿論ですとも先生」

「ほう、一応自覚はしているようだな。自ら認めるとは」

「俺様の行動は何時だって純粋ですよ。ただ、相手の女性が他人の恋人や人妻だと言うだけで」

「その行動を慎めと言っているんだ!!」

 

もはや恒例となった紅女史と樹の漫才も終わりをつげ、後は最後の挨拶を残すだけとなった。

 

「では、今学期はこれにて終了。解散」

 

ワアアアアーーーーーーーー!!

 

クラスの中は湧きかえるが麻弓は…

 

「麻弓」

「…何でしょうか……」

「まあ、補習は来週からだ。それまでプールなどでリフレッシュしておけ」

「はいなのですよ…」

「それと、横っち」

「…何でしょうか……」

「その。何というか…挫けるな!いい事もきっとある!!」

 

紅女史はそう言って素敵な笑顔でサムズアップしてくれた。

そう、未だ俺の体は女のままだった。

 

 

 

「はあっ…」

「忠夫さま、元気を出して下さい」

「そうです。明日からは待望のプール開きなんですから」

 

帰り道、落ち込んでいる俺をネリネ達が慰めてくれる。

 

「楽しみにしていてねヨコシマ。私のビキニで悩殺してあ・げ・る♪」

「そう言えば忠夫くんの水着はどうするの?」

「フォっちゃんが何とかしてくれると言ってたよ」

「フォっちゃん?」

「向こうじゃ魔界の最高指導者をサっちゃんと呼んでたと言ったら『じゃあ、私の事はフォっちゃんで良いよ♪』と言ってたから」

「……サっちゃんってまさかサタ……じゃあ、神界は…」

「キーやん」

「……キ、キリ………」

「ならお父さんはユーやん?」

「ああ、そう呼べと言ってたな」

「フォっちゃんとユーやん。私もそう呼ぼうかな」

「でも、何となくお似合いっス!」

「確かに魔王や神王という呼び方よりは似合ってるわね」

「……でも、どうせならお義父さんと呼んで下さった方が……」

 

ネリネは小さな声で呟いたが、

 

「…何か言った?」

 

タマモは聞き逃さなかった。

 

「い、いえ何も…///」

「全く、油断も隙もない」

 

 

 

 

そして、翌日。

 

「り、稟……」

「何だ…」

「俺様は生きている事に心から感謝してるよ」

 

樹は目から涙、鼻から血を流しながら語っていた。

何しろ目の前には楓、桜、シア、ネリネ、プリムラ、タマモ、亜沙、カレハ、(ついでに)麻弓の眩い限りの水着姿があるのだから。

 

「ついでで悪かったわね!!くらえ、『なにがなんでもくらぁっしゅ!!』」

「ぐはあっ!!」

「そう言えば忠夫は?」

「あら稟、私達よりヨコシマの水着が楽しみ?」

「そ、そういう訳じゃ」

 

ザワザワザワ

 

突然ざわめきがして来たのでそちらを見てみるとバスタオルに体を包んだ横島がやって来た。

 

「やっと来たのね。さあ、その水着姿を待ち望んでいた稟に見せてあげなさい」

「タ、タマモ。そういう人聞きの悪い事は…」

 

横島は稟を一度ジロリと睨みつけるとため息を一つ吐き、諦めが付いたのかバスタオルを外す。

 

すると……

 

シ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン

 

少しの間静寂に包まれるが次の瞬間。

 

『ほああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

男子生徒の絶叫が辺りに木霊した。

 

「た、忠夫……」

 

稟は信じられないような物を見るような顔をしながらも頬を紅く染め。

 

「ブラボー!ブラボー!グッジョブ!グッジョブ!GJΣd」

 

樹は鼻血を滝のように流しながら喚き立てる。

 

「ホーーーーーッ!!紺色の旧スクに【ただお】とひらがな書きのゼッケン!更にはその文字も豊満な膨らみによって横に伸びきっている!!正しい、正しいです!Correct!!」

「千百合ちゃん、落ち着いて!!」

 

そう、フォーベシイが横島にと選んだ水着はあろう事か旧スクだったのである。

 

横島は冷ややかな目のままネリネ達の所まで歩いて行くとフェンスの外にある草むらに話しかける。

 

「そこに居るんだろ、出てこいフォっちゃん」

 

そう言うと草むらの中からフォーベシイがカメラを抱えて出てくる。

 

「い、いや~。に、似合ってるよ忠夫ちゃん」

 

だが、その顔は冷や汗でダラダラだった。

横島はそんなフォっちゃんを凍りつく様な目線で見つめると指さしながら大声で叫ぶ。

 

「ネリネ、キミに決めた!!」

「はい、決められました」

「ま、待ってくれないか忠夫ちゃん…」

 

フォっちゃんは真っ青な顔で後ずさっていくが。

 

「行けネリネ!「せきか」だ!!」

「はいっ!『魔王様なんか大っ嫌い!!』」

「ぐわあっ!!」

 

パキイィン!!とフォっちゃんは一瞬で石化する。

【こうかはバツグンだ】

 

横島はそんなフォっちゃんを満足そうに見つめると目線を草むらに向ける。

 

「同じ目に遭いたくなければ早くソレを持って帰れ」

「りょ、了解しました!!」

 

草むらから出て来たユーやんは石化したフォっちゃんを抱えて逃げ出した。

 

「お父さん……」

「あはは……」

 

 

 

 

        ☆

 

 

 

それから皆はプールに入り、思い思いに遊んでいる。

しかし、楓達はというと……

 

「…タダくん、ズルイです…」

「本当なら私がヨコシマを悩殺する筈だったのに…」

「世の中、何かが間違ってるのですよ」

 

彼女達の視線は横島のとある「一部分」に注がれていた。

 

「そんな事を言われてもだな」

「あはは……」

 

横島は「一部分」を隠すように胸に手を回しネリネはそれを見ながら苦笑していた。

 

「稟くん、向こうは向こうに任せておいて私達は私達で遊ぼうよ」

 

桜はそう言いながら稟の手を引きながらプールの真ん中に連れて行く。

そこに。

 

「稟ーーーっ!!」

 

シアが後ろから飛びかかりしがみ付いて来る。

 

「う、うわっ!シア、何だいきなり?」

「えへへ、どう?柔かい?」

 

シアは自分の胸を稟の背中に押しつけながらそう聞く。

 

「こ、こら、何をするんだ何を!?」

「シアちゃん、大胆」

「照れなくてもいいじゃない。う・れ・し・い・くせに」

 

シアはさらにグリグリと擦りつける。

 

「シ、シア?何か何時もと違うぞ」

「そう言えば」

 

稟と桜がそう言うとシアはクスリと少し寂しそうに笑うとゆっくり離れる。

 

「せっかくの機会だからね。ちょっと羽目を外したかったのよ」

「そ、そうか?」

「そうよ、さあ稟、桜も。遊ぶわよ!!」

「そうだね、稟くん、早く!!」

「分かった、分かった」

 

そんなシア達を見て横島とネリネは。

 

「ネリネ、シアちゃんは…」

「はい、あれはシアちゃんじゃ…」

 

 

その後シアは皆と遊びまわるが、

 

「何かいつものシアじゃ無いみたい」

「あ~、あれでしょ。いつもと違う私を見てと土見くんに対してのアピールな訳ですよ」

「いつものシアちゃんの方がいいと思うけどな?」

「こういう言い方は失礼ですがシアさんらしくないですよ」

「俺様としてはシアちゃんらしくないシアちゃんも新鮮味があっていいけどね」

 

そんな否定される言葉を聞くたびにシアは軽く笑うが寂しそうな表情は消えなかった。

 

 

プール遊びも終わり、それぞれが自分の家に帰って行き稟達も家に入ろうとすると。

 

「稟」

「ん、何だシア?」

「またね」

「あ、ああ…」

 

シアは軽く手を振り、家の中に入って行く。

 

「シア……なのか?」

 

 

 

 

      ☆

 

 

その後、数日間は何事も無く過ぎていった。

シアも翌日からは何時もの様子に戻っていた。

そんなある日、街中を歩いていると稟は誰かに呼び止められた。

 

「稟」

 

それは塀の上に座っているシアだった。だが、その目は何時もより少しきつめで何処となく睨まれている感じがした。

 

「シア?……いや、違うな。……キミは誰だ?」

「やっぱり稟には解っちゃうんだ。嬉しい反面寂しくもあるな」

「はぐらかさないでくれ」

「そうね、あえて言うならもう一人のシア。…裏シアってところね」

「裏シア?」

 

裏シアと名のった少女は塀から降りると道の向こうを指さしながら言う。

 

「此処じゃ何だから別の場所で話さない?」

「そうだな…行こう」

 

 

 

稟と裏シアは噴水のある大きな公園へとやって来た。だが不思議な事にそこには誰一人としていなかった。遊びまわる子供達も、ベンチでまどろむ老人達も誰一人。

 

「結構聞かれたくない話をするからね。人払いの結界を張っといたんだ」

「それで、話って?」

「ねえ、稟。此処を覚えている?此処で遊んだ事を」

「え?遊んだって…もしかしてシアと初めて会った時の事か。でも俺と遊んだのはシアで…」

「私なの!!確かに稟と初めて会ったのはシアよ。でも…でも此処で稟と遊んだのは私なのよ!!」

 

裏シアは涙を流しながらそう叫んだ。

 

「私とシアは本当は双子として生まれてくる筈だった。でも生まれて来たのは一人だけ……私とシアは裏と表、一つになって一人として生まれて来た…」

「裏と表?」

「それだけならよかった、今まで無かった事じゃないしそれだけなら何の問題も無かった……問題なのは…シアが神族で、私が…魔族だった事…」

「ま、魔族…?」

「そうよ!シアは神族として生まれて来た、でも私は魔族として生まれて来た」

「それが何の問題なんだ?シアの母親は魔族なんだろ、だったら…」

 

そう言おうとした稟を裏シアは突き飛ばして叫ぶ。

 

「分かって無い…稟は何も分かって無い!!神界の王家の第一子に魔族が生まれると言う事がどういう事なのか。双子として生まれたのなら私を二女にする事で何とかなったのかもしれない。でも同じ体を共有すると言う事は私も長女、嫡子と言う事なのよ……魔族が神界の王家の嫡子だなんて認められる訳無いでしょ!!」

 

稟は答える事が出来なかった。否、答えるべき言葉が無かった。

 

「プールでの皆の反応を見たでしょ、皆が皆シアじゃ無いと言う。変だって……私はただ私として普通に接しただけ、シアの真似じゃ無く私として行動したのよ。シアの姿だからと言われればそれまでだけど私が否定されたのは確かよ。稟に分かる?誰にも望まれない、誰にも愛されない私の気持ちが…私の存在なんか誰も望んでないのよっ!!」

 

     そんな事無い!!

 

「シア?」

「…何がよ…お父さんだって、お母さんだって私の事守ってくれなかったじゃない!!」

 

     でも、私はあなたがいてくれてよかった。

     私だってずっと一人ぼっちだったもん!!

     外にも出れず、お友達だって作れなかった。

     でもあなたが、もう一人の私がいたから寂しくなかった!!

     何時だってお喋りして、笑いあって……

     全部…全部嘘だったの!?

 

「そんな訳無いじゃない!!私だってシアがいたから……でも、でも、もう嫌なの!!誰も私を見ていない、皆シアだけを見ている。もう…辛いのよ……」

 

そうして裏シアの気配は消えていく。

 

     待って、待ってよ。どうするの?何をするつもり?

 

「シアの傍には稟がいるんだもん。もう私はいらないよね、もう、わた…しは…」

 

     待ってよ!嫌だよ…待って……

 

「待ってーーーーっ!!」

 

裏シアの気配が消えると同時にシアの意識が体に戻ってきた。

 

「シア……」

「う、うう、うええ~~ん。り、稟く~~ん。うわああ~~~~~んっ!!」

 

シアは稟の胸の中に飛び込んで泣きじゃくる。稟もそんなシアの肩を抱いてやることしか出来なかった。

 

 

 

それから稟は泣き続けるシアを家まで送ってやり、シアを母親達に任せるとユーストマに話を聞く事にした。

 

「今更はぐらかす様なまねはやめて下さいよ」

「……情けねえ親だよな。自分の娘を護る事さえ……助けてやる事さえ出来なかったんだからよ」

「おじさんは神界の王なんでしょ、何とかならなかったんですか?」

「出来るもんならとっくの昔にやってらあ!!…す、すまねえ」

「いえ…俺の方こそおじさんの気持ちも考えずにすみません」

「なあ、稟殿。神界の王と言ったがな、神界の王だからなんだよ。王だからこそくだらねえしがらみがついて回るんだ。サイネリアとの結婚でさえかなり無理をごり押ししたんだ。中にはシアを王家から放逐しろという意見すら出たほどだ、シアを守るためには裏シアをいない事にするしかなかったんだ。俺がシアを溺愛するのも二人分の愛情を込めているつもりなんだ。…まあ、言い訳にしかならねえけどな」

「方法は…本当に方法は何もないんでしょうか?」

 

「無い事も無い」

 

そこに横島が話に割り込んできた。

 

「忠夫」

「無い事も無いってのはどういう事なんでぇ」

「要するに二人が一人になっているから問題なんだろ。つまり二人に分かれる事が出来れば何とかなると言う訳だ」

「理屈で言やあそう言う事だけどよ、どうやるんだ?分離させる方法なんて…」

「だから言ったろ、無い事も無いと。言いかえれば方法はあると言う事だ」

 

稟はそう言う横島に掴みかかる。

 

「ど、どうするんだ?教えてくれ忠夫!俺に出来る事なら何でもする!!」

「お、落ち着け稟!出来る事ならと言うより稟にしか出来ない」

「稟殿にしか?」

「そうだ、考えても見ろ、何で「あの娘」は稟の前に出て来た?「あの娘」は自分の存在が認められていないと言ってたんだろ。なら、わざわざ稟の前に出て来たって辛い思いをするだけだってのは分かってた筈だ。「あの娘」は助けを求めてたんじゃないか?俺はそう思う」

「……確かにな。自分の存在を明らかにしたって辛い思いをするってのはわかってた筈だからな」

「だったら俺はどうすればいい?俺にはそんな魔法みたいな真似なんて出来ないぞ」

「お前がする事は「あの娘」を助ける事だ。今のままじゃ分離しようとしても失敗するのは目に見えている。「あの娘」を助ける事が出来るのは稟、お前だけだ。「あの娘」を助けて来い稟。そうすれば後は俺が助けてやる」

「俺が裏シア……「あの娘」を……そうかっ!!」

 

ようやく稟は忠夫の言いまわしに気付いた様だ。

 

「そ、それとな、稟…」

「どうした忠夫?」

「…いくら中身が男だといってもいい加減、恥ずかしいんだがな」

 

何時の間にか稟の手は横島の胸倉を掴んでいた。

 

「うわあっ!!」

 

 

 

 

        ☆

 

 

次の日の夕方、稟はシアをあの公園に呼び出していた。

 

「…稟くん、用事って何?」

「裏シア…いや、違う。あの娘を、シアの妹を助けるんだ」

「稟くん…でもどうやって?お父さんやお母さん達だってどうにも出来なかったんだよ。それにあの娘は心の中に閉じこもっちゃった…いくら呼んでも応えてくれないのに…」

 

稟はそんなシアの肩を優しく抱いて「彼女」に話しかける。

 

「聞こえてるんだろ、俺も色々と思いだしてみた。あの日は丁度忠夫が消えた日だったんだ。だから詳しい思い出なんかは吹っ飛んでいた。でも完全に忘れた訳じゃない、確かに覚えていた。道端に不安そうに座っていたシア、手を繋ぎ話ながら歩いているとだんだんと笑顔になっていったシア、そしてこの公園でそれまでとは打って変わった様に笑いながらはしゃぎ回っていた君。そう、確かに君は此処にいた。シーソーに乗って、ブランコに乗って、滑り台じゃ降り損なって顔中砂だらけになったよな」

 

一つ、また一つと、稟が思い出を話しているとシアの目から涙が零れてくる。

 

「…り、稟…覚えて……覚えていてくれたんだ…」

「ああ、忘れていてゴメン。でも君だってシアとしか名のってくれなかったじゃないか」

「仕方ないじゃない、私には名前なんか無かったんだから」

「そうだな、仕方なかったよな。ゴメン、『キキョウ』」

「…えっ?……キキョウ?」

「そう、君の名だ。君の、君だけの名前だよキキョウ」

「私の…私だけの名前…」

「名前が無くて存在できる筈がなかったよな。でもこれでもう違う、君はキキョウ、一人の女の子だ。だから此処にいていいんだ」

 

そして稟はキキョウを優しく抱きしめる。

キキョウも稟の胸の中で零れ続ける涙を止めようともせずただ、しがみ付いていた。

 

「…稟、稟…稟、稟、稟ーーーーっ!!」

「何だ、キキョウ」

「ありがとう、ありがとう」

  

     稟くん…ありがとう。よかったね、キキョウちゃん。

 

 

 

空には夕陽も沈み、星が瞬き始めていた。

 

こうして、裏の存在でしかなかった彼女は、名前を得て一人の女の子になった。

 

 

続く。

 

 

あとがき

 

 

 

原作とは違い消える事を選んだのはシアではなくキキョウでした。

 

冒頭のアバンでも書いたようにネリネ(リコリス)とシアと出会ったその日に忠夫が消えた訳です。

 

帽子はちょっとした伏線です。

 

さて、次回はシアとキキョウの分離の話ですが忠夫の神魔人化の話でもあります。

 

忠夫の過去の話と平行して進みます。

 

お楽しみに。

 

 

 《次回予告》

 

横島による、シアとキキョウの神魔分離。

 

その力の確立には哀しい過去があった。

 

その時、彼は完全に人ではなくなった。

 

その日、彼は彼女と会えなくなった。

 

だが彼は思う、無駄じゃ無かったと。

 

無駄では無かったと。

 

それは別離(わかれ)の日、誕生の日、そして誓いの日。

 

次回・第九話「何時かもう一度、茜雲を」

 

だから歩き出そう。

 

 


 
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