夜も更け、夜まわりの兵以外の人物が寝静まった頃、就寝していた舞人はガバッと跳ね起きた。
「チッ・・・なんなんだ?」
ぐっしょりと寝汗をかき、寝巻がべたついて気分が悪い。備え付けの松明に火を灯して明かりを確保し、水差しの水を飲む。
「我ながら、悪趣味な夢を見るもんだな・・・」
一人つぶやき、自嘲する。そう、ありえないだろう。彼女に限って―――
秋蘭に限って、討ち死にすることなど。
華琳よりの使者・稟が許昌にやってきたのは、その翌日の事だった。黄忠率いる蜀軍が成都より発進。漢中に侵攻してきたため魏はこれに対して救援を発する事に決め、秋蘭と流琉にその先鋒を、舞人にその後詰を依頼してきたのである。
「・・・分かった。ただし少し付け加えさせてくれ」
「付け加え、ですか」
「その先鋒に楓と淡雪の部隊をつけてほしいんだ」
先鋒部隊を率いるのが秋蘭だと聞かされたとたん、舞人の脳裏に昨夜の夢がフラッシュバックした。ちなみに淡雪は魏国の鄴遷都より華琳より譲られて漢の将となっている。
「私は別段構いませんが・・・」
「俺も大将の指示に従うぜ」
2人も了承したようなので、稟は内心舞人の申し出を不思議に思いながらも「了解しました」とだけ返した。
「まったく・・・お前も心配性だな」
張郃隊・徐晃隊と合流する為、許昌城に立ち寄った秋蘭が舞人と顔を合わせて苦笑とともに言い放ったのがその言葉だった。
秋蘭率いる漢中救援軍先発隊は、流琉・楓・淡雪が指揮下に加わった13万余。劉備軍を少し上回り、さらには魏の名将夏候淵が指揮を執るのだ。敗北など万が一にも無いだろう。しかし、舞人の胸騒ぎは一向に収まる事はなかった。楓と淡雪をつけた後でも。
「お前の実力を疑うわけじゃねぇが、どうも胸騒ぎがするんだ・・・お守り代わりに連れてってくれや」
「分かった。それでは後詰を頼むぞ」
「兄様、いってきます」
秋蘭が号令を下し、軍勢は西へ向けて歩み出した。
(ほんと・・・なにもないといいんだがな)
このときはまだ、張魯がすでに殺されて漢中の要所・南鄭城に『黄』の旗が靡いている事を秋蘭たちはまだ知らない。
厳重な情報規制が黄忠の下で敷かれ、秋蘭たちが『南鄭城陥落』の報を耳に入れるのは漢中置く深くに足を踏み入れてからだった―――
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6月1発目の紅竜王伝です。
お知らせですが、最近停滞気味の呉ルートの更新はこの作品が終わるまで控えようと考えています。
・・・このお知らせ、必要だったかなぁ?