No.140470

外史伝外伝 第一話『終わりの始まり、始まりの終わり』 第二話『狙われた一刀』

皆様お久しぶりです。
長い間勝手に投稿をせず、申し訳ありませんでした。
『††恋姫無双演義††』の作者様から復帰の許可を快く頂けました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げるとともに改めてお詫びいたします。


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2010-05-03 00:36:50 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:8461   閲覧ユーザー数:6308

I have borned the darkness

   ―――私の心を闇が覆う―――

 

 

 

Darkness is my blade,Despair is my Escutcheon

   ―――闇を力に、絶望を糧に―――     

 

 

 

I have been no defeated at the shining

   ―――無限の光を闇へと染めた―――

 

 

 

I do not have the happiness at all

   ―――己の幸せをゆせない―――

 

 

 

And, I have never accepted the shining

   ―――光を闇に覆わせて―――

 

 

I have been always solitary, and blake the life in the dark

   ―――命を狩り、破壊を繰り返す―――

 

 

 

Therefore, there is no meaning that I have existed those worlds

   ―――故に、その存在は全て無意味であり―――            

 

 

 

My all life was Repetition of despair

   ―――我は闇へと消えていく――― 

 

 

 

真・恋姫†無双 魏ルートアフター 

 

外史伝外伝

 

『外史伝エピソード零:鏡花水月編』

 

第一話『終わりの始まり、始まりの終わり』

 

 

 

とある昔話をしよう

 

この大陸は多くの群雄が割拠し、長きに渡る戦乱が続いていた

 

その中の一人に、曹操という王がいた

 

彼女の国は大いに栄え、その軍事力は最強っと言ってもいいほどであった

 

その魏王曹操に仕え、その覇道を支え実現させた男がいた

 

彼はその身一つで、多くの仲間を救った英雄

 

この天下においてその名を知らぬものは誰一人いない

 

平和をもたらした天よりの使者…

 

彼は稀代の英雄・曹操のその本質を見抜いてしまった

 

それは…さびしがり屋の女の子

 

だから乱世が深まろうとも、呉蜀との最後の決戦で、自身の消滅を悟ろうとも、少年は最期の時まで少女から離れようとしなかった

 

やがて戦争は終わり、その時は訪れた

 

蜀呉を併呑した曹操と天の御使いは別れなければならなかった

 

少女は残り、少年は去った

 

それは…一つの物語の終わり

 

 

しかし、無数に存在する外史の中には少年が消えることなく存在する外史があっても不思議ではない

そう…少女の想いは少女を起点とする数多の外史へと連なり奇跡を起こした

 

 

そして、ここはそのひとつの可能性

 

 

 

…北郷一刀が残った世界

 

 

 

戦後一年

 

ここは、蜀の都成都

 

 

 

天の御使いにして、魏国警備隊隊長『北郷一刀』は、主である曹操(華琳)の命を受け蜀へと出向していた

 

蜀への技術提供と友好のために…

 

その中央通りを歩く一人の青年がいた

 

隣には小さな女の子…いや、蜀の二大軍師

 

そして、その後ろから大人な女性がつづく

 

 

彼女達は諸葛亮と鳳統、そして護衛役の黄忠

 

「う~ん。成都の治安もだいぶ良くなってきたねぇ。紫苑さん」

「えぇ、御使い様。

 

町から無法者は消え、人々には笑顔が戻ってきていますわ。

 

 

これも、御使い様がお力をお貸しくださったからですわ。

 

ねぇ、朱里ちゃん?雛里ちゃん?」

 

「そうです!一刀様のご助言の賜物でしゅ!あう…噛んじゃったぁ」

 

鳳統は顔を真っ赤にしてうつむく

 

「正直俺が来たときは荒れたい放題だったから、少し心配だったが…

 

魏の独立警備隊制度…蜀でも成功したようだ」

 

 

立ち止まって、三人に振り返る

 

「そして、何よりも蜀の皆のおかげさ

ようやく手に入れた平和な世界を守りたいって言う心が、この成都を作ったんだ

 

 

荒れているであろう地方の村々にも早急に治安回復を図らなくっちゃな」

 

「「は、はひ!」でしゅ!」

「ははは。そんなに硬くならなくてもいいのに」

 

 

雛里と朱里はカチカチになりながらも必死に話しをつづける

 

「は、はひ!その、御使い様からこうして直接ご教授してただくることが…うれしくて。その…」

 

「そ、そうでしゅ!私達では思いつくことができないようなすばらしい考えをご提供くださったんです!

 

 

この国の発展は、御使いしゃまのお、おかげでしゅ!」

 

 

カミカミで面白かったが、ぐっとこらえ屈んで二人の頭を優しく撫でてやる

 

「ありがとう。二人とも…」

 

「「ポォ~///////」」

 

 

 

そんな三人を微笑ましげにみる紫苑

「あらあら…羨ましいわね~」

 

 

彼女もまた平和のために戦った者の一人としてこの平和を永遠に続くものへとしたい

 

その願いのため、惜しげなく知識や技術の提供に協力してくれる一刀に心から感謝しつつ

 

いつの間にか女として彼を見るようになっていた

 

母性のようであり、恋心のようであるその気持を彼女は久しぶりに感じていたのだった

 

 

 

 

彼女達だけが北郷一刀に心を開いているわけではない

 

一刀はその魔の手(本人に自覚無し!)を広げていた

 

 

最初に趙雲(星)が彼を二人目の主と認めた

 

 

 

次いで、蜀王劉備は一刀の人柄を気に入り、何時しか心惹かれて行った

 

それを自覚したのは何時だろう?

 

少女として一人の少年を愛するようになっていた

 

驚くことに、それは義姉妹の関羽(愛紗)や張飛(鈴々)も同様であった

 

将軍である彼女達には同世代の少年と交流する機会なんてありはしなかった

 

最初はただの客賓として見ていた彼女らだった

 

しかし、一刀と触れ合ううちに心を開いていき、その心に優しい少年が居座るようになるまでに時間はかからなかった

 

今では、愛紗は一刀を「一刀様」と呼び第二の主と定め、鈴々にいたっては「お兄ちゃん」と呼び兄のように慕っている

 

 

そうしていると、今度は馬超たちだ

彼女達は最初こそ一刀を敵と忌み嫌っていた

 

 

それでも彼女達を嫌わずに優しく接した一刀

 

しかし、ある日一刀が庭で星と酒を酌み交わしている姿を見た時、彼女らは、自分が小さく見えてしまった

 

星は聞いた。主、何故翠を罰しないのか?っと。

 

一刀は魏王曹操の重臣、蜀の一幹部である翠よりも力(政治)があるはずなのに…

 

彼は微笑みながら答えた。

 

『赤壁で俺の部下が何人も死んだ。それでも、俺は君達を怨む気は無い。人が、人を殺す。それが戦争だ

 

君達も、俺もそれをやりながらここまできた。

 

死んでいったものたちは何を望んでいたのか?考えたことがあるかい?

 

それは、平和な世界だ。

 

それを望みながら、かなえられなかった夢が今ここにある。

 

だから…俺一人の感情でこの平和を乱したくは無い。

 

そして、この世界を永久に守り抜く。

 

それが、俺が死んでいったものたちにしてやれる唯一のことだ』

 

翠は二人の会話に心揺さぶられ、同時に自分が小さく見えてきた

 

だから、彼女は心を開いた。そして、心を通わせ、何時しか彼を………

 

 

 

そうして、蜀の少女達は次々に北郷一刀に心を開いていき、同時に一人の男性としてみるようになっていった

 

できうるなら、このまま蜀にずっといてほしい。

 

彼女達の心にはいつの間にかそんな願いが生まれていたのだった

 

ときは優しく流れていく…

 

 

 

 

数ヶ月前…

 

 

 

外史の狭間

 

「……召喚か。まったく…人使いの荒い」

 

男が光の中からにじみ出るように現れた

 

「いや、すでにこの身は人にあらず…だったな」

 

ジャケットのような服を纏い、一人の男

 

そこに…

 

「韓湘子よ」

 

男の名をよぶ老人の声が木霊した

 

 

「お約束道理。来やがったな、爺ども…」

 

韓湘子と呼ばれた男はゆっくりと後ろを振り返る

 

そこには白い服を纏った魔法使いや法師たちがいた

 

魔法使いA「ふん!相変わらず口の悪い餓鬼じゃのぉ~」

 

魔法使いB「まったく。」

 

魔女A「やはり、元人間だけあって…野蛮ですわねぇ~」

 

魔女B「まったくよ!何で貴様みたいなヤツが!」

 

導師「まぁまぁ、皆の衆。今はそれどころではあるまい」

 

導師は皆をまとめると、韓湘子に向く

 

導師「久しいのぉ、韓湘子よ。早速じゃが、正史からの命令じゃ。直ちにこの外史を破壊せよ」

 

「ちぃ!またか?

 

まぁ、別にかまわん…

 

どうせ、拒否したところで強制力が働くのだからな

 

まぁ、後は勝手にやるからとっとと失せろ。不愉快だ」

 

(強制力…神仙たちを従わせる正史の有する、絶対的な力)

 

韓湘子は吐き捨てるように言うと、踵を返す

 

魔法使いC「貴様勝手な行動は許さんからな!己の立場を弁えんか!」

 

魔女A「野蛮人の癖に生意気ですわねぇ~」

 

韓湘子は立ち止まると、彼らを睨み付けた

 

「己の立場だと…笑わせるな、爺ども。

 

オレはオレのやりたいようにやる。

 

それが、いやなら別のヤツをあたれ。

 

オレはとっとと牢獄の中に戻りたいんだよ」

 

魔法使いC「小僧!!神聖な正史の決められた役割を牢獄だと!!」

 

魔法使いCが怒りを露にし、持っていた杖を韓湘子に向けた

 

「何のまねだ?」

 

「正史を蔑ろにする愚か者がぁ!!!

 

何より、貴様のような出来損ないの神仙と、我々純粋な神仙が同列に扱われるのが!

 

もはや、我慢ならん!」

 

その魔法使いに続き、導師以外の者達が己の武器([宝具]と呼ばれる神仙たちの武器)を構えていた

 

韓湘子はだからどうしたっと言わんばかりに冷ややかな目でそれを見つめ

 

「文句があるなら聞いてやる。コイツでな…」

 

何時の間にか手に長刀を握っていた韓湘子

 

だが、

 

「よさぬか!貴様ら…」

 

導師が慌てて止めに入る

 

「おぬしらがここで暴れたら正史に悪影響が出かねん」

 

魔法使い今にも飛び掛りそうな勢いでまくし立てた

 

「止めんでくだされ!この者に我々の存在価値を刻み付けてくれん!!!」

 

 

「ふん…。

 

貴様らの存在価値など知ろうとするだけで虫唾が走る。

 

貴様らこそ、オレの心など理解できまい。

 

ただ座して命令するのみの存在である貴様らに…。

 

外史をつまらぬものと決め付けている貴様らに分かるものか。」

 

 

韓湘子は吐き捨てるようにそういうと、外史の中へ消えていった

 

 

 

 

導師は深いため息をつき、己の仕事に、ついで残された神仙たちは彼をにらみつけながら一人また、一人と帰っていく

 

しかし、魔法使いC…ガンダルフは杖を握り締めたまま動かない

 

「待たぬか!小僧!!!」

 

ガンダルフは韓湘子を追い、外史の中に入っていく

 

そこは、一面の荒野…そして、月の無い夜空

 

「可笑しいぞ。この外史で中国大陸はまだ昼間なはず」

 

彼は信じられないものを見たような顔になった

 

韓湘子の力の基は・・・まさか・・・

 

「こ、これは…!?そんな馬鹿な!!」

 

 

韓湘子はそんな哀れな老人に声を掛けた

 

「人の瞑想中に何のようだ?爺」

 

 

その声には殺気が込められていた

 

「こ、この技は…まさか!?

 

貴様…いったい何者だ?!?」

 

混乱気味にまくしたてる

 

「オレか…?オレは外史に運命を弄ばれた、哀れな男だ。

 

貴様も名前ぐらいは聞いたことあるだろう?

 

オレの…本当の名を…」

 

韓湘子は涼しい顔のまま

 

「き、貴様…まさかぁ!?!?」

 

韓湘子はゆっくりと近づきながら続けた

 

「ふん…。純粋な神仙…か。

 

ならば、ひとつ教えておいてやろう。

 

オレはなぁ、その純粋な神仙ってヤツが…大嫌いなんだよ。」

 

一歩づつ…一歩づつ、近づいていく

 

ガンダルフは逆に下がり始めた

 

「…有り得ん!き、貴様はぁ~!?!?!?」

 

「正史と神仙たちのせいでオレの。

 

いや、オレ達の人生は無茶苦茶にされちまった。

 

その正史と神仙たちねの恨みは…今も消えてはいない。

 

むろん、その立派な神仙とやらである貴様も…な」

 

殺気を放つ青年にガンダルフはついに腰を抜かし、ガタガタと震えだした

 

「ひ、ひぃぃぃいいい!!!」

 

「オレの計画の邪魔をされてもかなわんからなぁ…」

 

ゆっくりとその手を上げる

 

つられて見上げたガンダルフは目を疑った

 

そこには信じられないほどの剣が浮かんで命令を待っていたのだ

 

「さぁ、もういいか?じゃあ……」

 

魔法使いの顔が更に蒼白になる

 

「死ね…」

 

その後、ガンダルフの姿を見た者は誰一人いなかった

 

この一人の神仙が動き出したとき、始まりの終わりにして、終わりの始まりの物語が始まる

 

 

 

 

 

 

第二話『狙われた一刀』

 

 

 

 

 

蜀の都を守るのは、軍だけではない

 

軍の内部にある独立機関警備部が町の治安を守るため、日夜活躍している

 

 

話はおよそ1月ほど前にさかのぼる

 

蜀へと召還された一刀は、いきなりとある難題にぶち当たっていた

 

一刀は成都城下でももっとも治安の悪い一角に来ていた

 

護衛には愛紗をつれていた。

 

そこには戦争で家族を失ったものや、土地を失ったものが流れ着き一種のスラム街と化していた

 

当然、そうなれば無法者達も集まってくる

 

これが、彼がこの蜀に呼ばれた一番の理由だった

 

一刀は最初はスラム街を強制的に撤去する方法を示したが、蜀王劉備はそれに同意しようとしなかった

 

『そこをつぶせば確かに無法者さんたちはいなくなる。

 

でも、そこに住んでいる人たちはどうなるんです!?

 

住むところをなくした誰かが泣くのは嫌なの!』

 

っとのことだった

 

流石の一刀も頭を抱えた

 

一刀だって馬鹿ではない

 

スラム街をつぶした後に、蜀の国庫を使い仮設住宅を立てそこを無傷で貸し出し無法者達のいにくい環境を作ろうとしていた。

 

しかし、劉備(桃香)はつぶすことじたいに反対なので、一刀の言うことを聞こうとしない

 

これが、一刀の頭を存分に悩ませていた

 

 

 

 

 

「はぁ~

 

桃香の意固地にも困ったもんだ。いったいどうしろっていうんだ?」

 

一刀は歩きながらつい愚痴をこぼす

 

「一刀様。桃香様の悪口はおやめください。

 

あの方はただ…」

 

一刀は、愛紗の言をとめる

 

「分かっているよ。愛紗。

 

ただ、優しいだけ…だろ。

 

でもな、話を聞こうとしないで『アレやコレをやってくれ』ってのは結構難しいし、身勝手なんだよ」

 

「は、はい。」

 

「華琳の忠告もいまいち利いていないようだ…。

 

はぁ~一体どうすれば良いんだろう?

 

(誰もが納得して、誰もが悲しまない方法…か。

 

言っている事は正しい。しかし、現実はそこまで都合よくできてはいない。

 

それをどう調和させるか…だな。)」

 

一刀は顎に手を当て悩みながら歩を進める

 

愛紗は少し怒りを覚えたが、すぐに消えうせた

 

確かに義姉の桃香の注文は無茶が過ぎる

 

それを後一月でしろなんて、いくら天の御遣い様でも難しいのではないのか?

 

一刀がそれを何とかしようと、毎日遅くまで起きていることも知っている

 

何よりも平和と民を愛する心優しい彼だから、きっとあの案も悩みぬいて出した最良の案に違いない。

 

現に、文官たちはその案で決定すべきだと忠言したが、桃香は聞き入れなかったのだ

 

そんな気持が複雑に絡みあい愛紗の心を痛めつける

 

「北郷様!」

 

そこに一人の兵士が慌ててかけて来た

 

「どうした!? 」

 

愛紗が兵士に問いかける

 

「ハッ!先の道端で喧嘩でございます!

 

華蝶仮面と集団の荒くれ者ですゆえ、将軍にも是非お力を…!!」

 

「何ぃ!?」

 

愛紗は一刀の方を向く

 

「一刀様は出口付近でお待ちください!すぐに戻ります!」

 

「あぁ。気をつけて。」

 

「御意!」

 

兵「御使い様!失礼致しました!」

 

愛紗は兵を連れ走り去った

 

 

 

 

 

 

 

その様子を何処からか見ていた男がいた

 

「ほぉ~。あいつ一人か?

 

ならば、もう計画を実行してもよさそうだ。」

 

男は双呟きながら、服のポケットの中から人型を数枚取り出す

 

「さぁ、はじめよう

 

増!!!」

 

 

 

 

 

 

一人残された一刀は、ここが治安の悪い地域だということを思い出していた

 

「しまった!付いていけばよかったぜ!」

 

一刀は仕方なく戻ることにした

 

歩いていくと、反対側から一人の男が歩いてくる

 

白い服で全身を被い、顔まで隠している

 

「導子…かな?」

 

この地域には珍しくないものなので、その横を何事も無く通り過ぎた

 

 

はずだった

 

 

ズバァ!

 

「がぁ!?」

 

一刀は急激に腹部に鈍い痛みを感じた

 

「何だ…!?」

 

慌てて左のわき腹を見ると、赤い何かがあった

 

そうだ、刺されたのか?

 

一刀は他人事のように考えてしまう

 

 

一刀を刺した男は血でぬれた小刀を構えていた

 

「お前ら…は!?」

 

周りには同じ格好をした導師達が一刀を囲っていた

 

「北郷一刀は滅ぶべし!」

 

「北郷一刀は悪魔也」

 

「北郷一刀は地獄の使者也!」

 

口々に彼の悪口をはきながら迫ってくる

 

どうやら、本格的に殺すようだ。

 

しかし、一刀は腰の護身用の剣を抜き一角を切り崩すとその包囲網を抜けた

 

「こんなところで…やられるかよ!」

 

白装束たちはそれを追おうともせず、見逃した

 

 

一刀は裏路地を駆ける

 

「はぁはぁはぁ…」

 

数百メートルは走ったのではないか?

 

息も少し切れかけたところで走るのをやめた

 

「よかった。何とか、巻いたみたいだ」

 

一刀が安堵の声を漏らしたそのときだった

 

 

「隙だらけだな…小僧。」

 

 

声とともに走る痛み

 

グサァ!

 

見ると、一刀の胸に手が生えていた

 

 

「こ、コレは!?」

 

一刀は目の前に白装束がいたことに気が付かなかった

 

さっきの連中とは服のデザインが違うし、左の頬に『卍』の入墨があった

 

おそらく、こいつが親玉だ

 

「テ、テメェ…」

 

「悪いな。怨むのなら己の不甲斐無さを怨め」

 

ズバァ!

 

手刀が引き抜かれると、一刀は倒れてしまった

 

 

「これで、計画の第一段階は終了だ。」

 

 

薄れ行く意識のなかで、一刀はそんな男の声を聞いた気がした

 

 

 

 

一刀は路上に血だらけで倒れているところを発見され、成都城に搬送された

 

医者は体の方はすぐによくなると言っていた

 

目が覚めた一刀自身も体の軽さに驚いたほどだ

 

次の日からベッド内とはいえ再び政務に精を出す

 

政務に関して言うならば人が変わったように多くの難題を解決して行く一刀

 

華琳には警備中無法者に襲われて少し怪我をしたがかすり傷ですんだと報告し、心配無用と念を押した

 

華琳は心配で使者を送ってきたが使者に面会した一刀は非常に元気そうで使者も安心して魏に帰っていった

 

魏国への工作を終えた一刀は、ついで魏の都でも作っていた警備隊を創設することを提案

 

それは、成都城下だけでなくスラム街にも番所をつくり、一日中無法者に対して睨みを利かせるというものだった

 

そこで桃香は気づく。彼が自分の我侭のためにここまで考えていてくれたこと。そして、自身の過ちを。

 

一刀はコレが俺の仕事だからと笑って許すが、桃香は泣き名がら謝った。

 

桃香の頭を撫でながらあやす一刀に誰もが胸を撫で下ろし安堵を浮かべる中、愛紗は自分を責めていた

 

もし、あの時自分が離れなければ一刀は傷つかないですんだかもしれないのに…っと

 

 

 

 

時は過ぎ去る

 

警備隊の努力のおかげでスラム街から無法者達は消え、普通の町に戻っていた

 

仕事も多くの公共事業や天界のアイデアでつくり、収入は民達を潤した

 

蜀で行われる三国会議も近くなり、段々慌しくなってきた

 

そんなある日のこと

 

一刀は蜀で作られた警備隊とその関羽とともに町の警備をしていた

 

「町もだいぶ慌しくなってきたね、愛紗。」

 

「ハッ!

 

三国会議まで後1月を切りましたからね。

 

魏と呉の方々をお迎えするにいたって商人も成都に集まりつつあるのです。

 

我々としても、万全の準備をせねばなりません。」

 

愛紗は力を込めながら語る

 

「三国の要人警護は私に一任されております。

 

一刀様に授けていただいた、この成都警備隊の力をお見せいたします!」

 

 

その目には、やる気がメラメラと燃えているようだった。

 

「やる気十分だねぇ

 

( か、空回りせねば良いが…(^_^; )」

 

 

一刀は知らない…

 

「(一刀様に…無様な姿は見せられん!)」

 

彼女が一刀にいいところを見せてやろうと張り切っていることを…

 

 

 

 

そんな隊長を微笑ましそうに見つめる兵士達

 

「ふふふ…関羽将軍も恋する乙女だねぇ~」

 

「あぁ。微笑ましいことだぜ」

 

「三国会議後の休暇は逢引でもお誘いになるのかなぁ?」

 

「恐らく。

 

私も彼女と逢引でもしましょうかねぇ~」

 

「じゃあ、おれっちはかかぁと娘とどっかに行くかなぁ?」

 

「「「くぅ~!一人もんは寂しい限り!」」」

 

 

 

 

「貴様ら!」

 

「ひぃ!関羽将軍!?見つかっちまった!?」

 

そりゃ、みつかりますよね?

 

「警邏中に何を無駄話しておる!!

 

(一刀様に弛んでいると思われるではないか!)」

 

顔を染めながら、チラリっと一刀の方を見るが、

 

「あははは!」

 

一刀はニコニコしながら笑っていた

 

「(か、一刀様~////)

 

えぇ~い!貴様ら~無駄話してないで、とっとと持ち場につけぇ~!!」

 

「「「「は、はひぃ~!!!!」」」」

 

大急ぎで駆けて行く兵たちだった

 

 

 

 

 

そこで、愛紗はハッと気が付く

 

今ここには、彼女と一刀の二人しかいないことを…

 

二人っきりになる機会を狙っていたが、うまく謝れるのだろうか?

 

そんな焦りが彼女をアワアワさせた

 

「そ、そのぉ!

 

うぅぅぅぅ…」

 

うなだれる愛紗

 

「!?!?」

 

それは、胸に痞えていたあること

 

「 あの時…」

 

「え?」

 

一刀は驚いた

 

あの時とはまさか…

 

「あの時、私が貴方様から離れなければ…貴方は傷つかなくても良かったのではないか…と」

 

なでなで

 

「////////!!??」

 

微笑みながら愛紗の頭を撫でる一刀

 

「ん?ごめんごめん。

 

俺の癖みたいなものだ。

 

愛紗があまりにも可愛くてね、つい」

 

「か、一刀様!?」

 

愛紗は可愛いと言われ真っ赤に染まる

 

「愛紗は真面目だから、あの時のことを気にしているんだね?

 

でもね、愛紗。俺は生きていたんだ。

 

俺の命を狙うもの達ならばまたくるかもしれない。

 

でも…」

 

一刀は頭を撫でていた手を下ろし、彼女の手を握る

 

「!?一刀様。それは?」

 

一刀の右手に視線を向けた愛紗が見たものは『卍』を模した跡

 

「!?!?

 

何だ?コレ…」

 

一刀は不思議そうに見るが、何処かでこういう形をしたものに手を当てて跡が付いたのだろうと判断した

 

「(まぁ、いいか)

 

君が…守ってくれるのだろう?」

 

「//////!!

 

は、はい!」

 

愛紗は嬉しかった

 

この人はここまで、自分を信頼してくれている

 

あんな失敗を犯した自分を頼ってくれている

 

自分が好きな男が…

 

そんな気持が彼女の涙腺を緩める

 

「ふふふ。

 

さぁ、愛紗。俺たちも行くとしよう。

 

君に似合うのは、笑顔だよ。

 

護衛…よろしくね」

 

「は…はい!/////

 

命に代えてでも!!」

 

 

一刀と蜀の人々の交流は更に深まっていく

 

蜀の城では文官に魏の政策や新しい技術を教え

 

武官達には魏で開発された新兵器の特訓や訓練の指導

 

町では町人達と積極的に交流を持ち情報網を広め

 

商人と交渉し蜀に益をもたらし

 

そして、暇があれば子供達と遊ぶ

 

もはや、成都城下の町で彼のことを知らぬものは誰一人いなかった

 

もちろん、元々敵国の幹部だった男

 

彼を悪者とみなすものは確かにいた

 

しかし、彼の純粋な心はそのものたちの心を溶かし、打ち解けていった

 

蜀の都成都にはそんな天の御遣いを一目見ようと多くのものが訪れた

 

彼を救世主と崇め、拝むものまでいた

 

これはさすがの彼も照れくさかったそうだ

 

こうして蜀を訪れている天の御遣いの日常は作られていく

 

そして、今日も彼女らの戦いは続く

 

 

つづく

 


 
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