No.139387

『舞い踊る季節の中で』 第34話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。
明命√の作品となります。

覚悟を決めた一刀、無事汜水関を落としたが、
その裏で、蓮華は一刀に何を見たのか? 

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2010-04-28 18:28:21 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:21600   閲覧ユーザー数:15118

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第34話 ~ 泥海に輝く光、そして舞う想いに、誇り高き命は何を想う ~

 

 

(はじめに)

 

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

        :●●●●

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(ただし本人は無自覚)

         気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

         神の手のマッサージ(若い女性には危険です)

北郷流舞踊(裏舞踊):設定の一部を公開

    神楽を発端とする流派で、その色を強く引き継いでいる。 途中宗教弾圧や権力者に利用された事も

    あり、裏舞踊の形で流派の存続を図った時期もあったが、その時代においても流派の理念は失われる

    事なく研鑽を続けてきた。 そして、その理念の下、流派や舞などに拘らず、多くのものを取り入れ、

    昇華させていき、現在では、極僅かながら、周囲の自然界の"氣"を操るに至る。

 

    舞に使うものも、鈴・扇・笹・榊・幣・帯だけではなく、剣・槍・弓等様々の物が使われる。一刀曰く

    「一つを覚えれば、後は心を知ろうとすれば、自ずと理解できる」との事で、それを言うだけの実力が

    あると一門も認めており、父を差し置いて、継承者筆頭候補となっており、主に扇子を愛用している。

    また、裏舞踊の一環として、祖父に強引に●●●●を習得させられたが、一刀は裏舞踊の色の強いこの

    道具嫌っている。 北郷流の理念に関して一刀は、「馬鹿馬鹿しい考えだと思うけど、高みを目指そう

    とするのは悪い事じゃないと思う」と語っている。

  (今後順序公開)

 

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  武器:"双天" 対の双剣

  武力:52(平均的な将を60とした場合)

  智力:81

  政治:89

  家事:92

  魅力:想像にお任せします(w

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格:基本的に温厚で、外見に反して大人の女性

     だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

     警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配してよく

     食事を差し入れていた。

     やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯を仕

     掛ける悪癖もある、だが性質の悪い事に普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕を見

     て自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持っている。

     自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、現

     実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗脳する

     も、基本的には周りには秘密にしている。そのうち執筆も行うようになり、掲載されるようになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっている。

     黄巾の乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

蓮華(孫権)視点

 

 

姉様の号令と共に、姉様、私、冥琳、穏の部隊を、劉備の軍に群がる敵部隊にぶつける。

敵部隊は、此方に対応しようと、前線を広げた所に、思春と明命の部隊が横撃を掛け、敵を分断する事に成功する。 さすが思春と明命、よい頃合で敵を分断してくれた。

 

今の所、此方の思惑通り事が進んでいる。

それでも、数は敵の方が多く、時間が経てば、此方の勢いなど潰されかねない。

そんな事は最初から分かっていた事、だからあらかじめ決められた作戦を実行するだけ、

 

「このまま、敵を受け止めながら、徐々に後退! 連合で動きのある所に押し付けるぞ!」

 

姉様の代わりに本隊の指揮をとる。

今回は私に勉強しろと、経験を積めと、本隊を任せてくれた。

そして、目の前の、あの男を押し付けて、姉様は前線で一部隊を指揮をしている。

 

あの男、北郷は顔を青くしながら、目の前の光景に嫌悪感を出しながらも、真っ直ぐ前を、兵の戦い様を、散り様を見詰めていた。

手綱を持つ手は小さく震え、恐怖に耐えているのが分かる。

 

(震えている余裕はあると言うわけね)

 

脳裏に、姉様の言葉が蘇る。

この男を押し付ける時、私の耳元で囁いた言葉が、

 

『しっかり見ておきなさい。 そして学びなさい。

 一刀が耐えているものを、選んだ道の尊さと厳しさを、

 それが分からないようなら、貴女に孫の姓を名乗る資格は無いわ』

 

そう、硬い声で私に言った。

孫の姓に連なる者なら、大切なものだと、

忘れてはいけないものだと、

姉様の言葉の意味に気がついた私は、顔が強張るのが分かる。

 

『大丈夫、蓮華ならきっと分かるから。

 硬い考えを捨てて、王族なんて言葉を捨てて、素直な心で彼を見てみなさい』

 

そして、今度は優しい声で、そう囁いてくれた。 そう教えてくれた。

元々この戦で、見定めるつもりだったので、この男を見る事に異論はない。

ただ、姉様が其処まで言う程のものがあるのかと、疑問に思ってしまう。

ううん、違う。 姉様があそこまで言う以上、其れはあるのだと思う。

ただ私に、まだそれが見えていないだけ。

 

たぶん、私はあの男に、北郷に嫉妬している。

姉様達を盗られたと、子供じみた理由で・・・・・・・・・・

彼を認めてしまえば、こんな嫉妬、無くなるかも知れない。

でも、駄目、私はやはり、自分の目で見たものしか認められない。

 

だから、私は自分の目で確認するだけ、

姉様が助言してくれた、嫉妬などと、王族などと、くだらない立場と言葉で、人を見るなと、

人が人を信頼するには、同じ人として、接しなければいけないのだと。

 

 

 

 

 

馬をすぐ横につけ、北郷の顔を横目に見る。

北郷は、こちらを横目で一瞬見たものの、すぐに前線に目を向ける。

 

表情は先程と変わらない。 嫌悪感を隠そうともせず、目の前の光景を見ている。

だけど、近くに来た事で分かった事があった。

今にも泣き出しそうな目で、それでも歯を食いしばって、目の前の光景を見詰めている。 違う、目に焼き付けているのだ。 そして其れは、私にとって、戦場で初めて見る顔だった。

 

怒るでもなく、

楽しむでもなく、

見下ろすでもなく、

自棄になるのでもなく、

絶望するのでもなく、

無感情でもなく、

 

ただ、悲しみ、苦しむ顔、そしてその瞳には確固たる意志が在った。

こんな顔、戦場に於いて、今まで見た事がない。

感情を爆発させる事もなく、

感情を殺すのでもなく、

ただ、目の前の光景を、受け入れていた。

そして、それが意味するものに気がついた時、私はまず呆れた。

 

この男、馬鹿か?

 

最初はそう思った。

だってそうであろう。

この男は、人の心のまま、目の前の惨状を受け入れようとしている。

 

姉様のように、修羅に入るのでもなく

私のように、感情を高ぶらせるのでもなく、

冥琳のように、達観するのでもなく

祭のように、楽しむのでもなく、

穏のように、その事を考えるのを止めるのでもなく、

思春のように、使命と言う名で塗り替えるのでもなく

明命のように、感情を殺すのではなく、

 

誤魔化さず、逸らすことなく、真っ直ぐ受け止めている。

そんな事をすれば、苦しいだけだ。

心が潰されるだけだと言うのに、

その事が、分からない訳ではないだろうに、

それをやるこの男に、心底呆れた。

 

 

 

 

 

 

次に浮かんだのは、怒りだ。

 

そんな事をしているから、翡翠と明命が苦しむ事になったのだと、

二人の苦労が、悲しみが、分からない男ではない筈だと、

それを無視しているのだと、この男に腹が立った。

 

そして、こんな男を認めさせようとしている姉様に、怒りが沸いた。

 

 

 

 

 

 

怒りが湧き上がる中、疑問が私の中に湧き上がり、頭を冷やしていく。

 

人の悲しみが、分からない男ではないはず。

ましてや、あの二人を大切に思っているこの男が何故?

 

そもそも、何故、苦しむと分かっていて、正面から戦の惨状を、狂気を受け止める。

思春にすら悟られない程に、気配を消す事が出来る武を持っているこの男が、戦の狂気を逸らす術を持っていないとは考えにくい。

 

なら何故?

二人に迷惑をかけると分かっていて、

苦しむだけだと分かっていて、

回避する術を持っていない訳がないというのに、

何故、逃げずに、正面から受け止める?

 

 

 

 

 

 

私は、深く呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

戦況は、分断した敵部隊を、我々孫呉が涼州連合を、劉備が公孫賛の軍を巻き込みつつあった。

 

「北郷」

「ん?」

 

私の呼びかけに、北郷は簡単に頷くものの、相変わらず悲痛な顔で、目の前の光景を目に焼き付けている。

・・・・・・この男は、

 

「お前は、何故わざわざ苦しむような真似をする?」

「えっ? 策が不味かったか?」

 

北郷は、見当違いな事を聞いてくる。 ・・・・・・・・いや、違うな、今この男の頭には、目の前の事しか頭に無いのだろう。 そもそも、戦場において、こんな事を聞いている私の方が、見当違いと言える。

だが、こんな状況だからこそ、この男の本心が見えると言うもの。

 

「思春を圧倒する程の武があると言う貴様なら、感情を殺すなり出来るはず。 何故それをせずに、正面から

 受け止める」

 

今度は、間違わぬよう、はっきりと意図を伝える。

だが、そんな問いにも、こいつは

 

「そうだね、翡翠と明命には、迷惑を掛けて申し訳ないと思う」

 

等と、人の心配をする。

その事に私は少し苛立ちながら

 

「今は貴様自身の事を聞いている!」

 

私の強めの言葉に、北郷は少し驚いたような顔をし、一度短く目を瞑った後

 

「目を逸らしたくないから、 彼等の想いを、 彼等の怒りや嘆きから、 目を背けるべきではないから」

 

そう、はっきりと言った。

悲しい目をしながら、 苦しみながら、 揺るがない光をその瞳に宿しながら、 北郷はそう私に、いや、きっと己自身にも告げた。

その想いに、私は衝撃を受けた。・・・・・・だけど、それは、・・・・・・無理だ

 

「わかっているのか? そんな事は出来やしない。 人の心は、戦の狂気に耐えられない。

 こんな事を続けていたら、心が潰れ狂う事になるのだぞ! 二人を悲しませる事になるのだぞ!」

 

私は、この男を哀れと思いながら、激昂した。

だけど、この男は、一度悲しい目をした後、先程の揺るがぬ意志を目に灯し、・・・・・・違う、もうこの男は、その瞳の奥に魂に刻み込んでいる。 それが表に映し出されているに過ぎないと、何故か分かる。

 

「狂うなんて、惰弱は許されない。 ましてや堕ちるなんて事も出来ない。

 それは、考えないのと一緒だから、忘れるのと一緒だから・・・・・・これが俺の我が儘な事なのは分かっている。

 でも、俺は決めたんだ。 人の心を持って、戦を終わらせると、 逝ってしまった者達の想いを、無駄にしな

 いためにも、 彼等の叫びから、目を逸らす事なんて出来ない」

 

静かに、淡々と語る。

だけどその想いは、本物、

そしてその意志は、決して変えられない。

そう私は思ってしまった。

もしこれが他の者が語ったなら、綺麗事だと、一笑し、怒りを露わにしただろう。

だけど、この男・・・・・・・・・・・・いえ、彼は違う、私は彼の眼を見てしまった。

全てを呑み込んだような、静かで、深い瞳を、

 

この人は、苦しみも、悲しみも、怒りも、絶望も、全てを知った上で、分かった上で、受け止めているのだと、分かってしまった。

考え方によっては、もうこの人は壊れているのかもしれない。 そして、そうだとしたら、なんて天は残酷なんだろう。・・・・・・・・天は、この人に逃げる事も、狂う事も許さなかったのだ。

 

そして、その根幹にあるのが、彼の優しさだと理解できた。

 

私は、彼をなんて思っていた、 軟弱、 とんでもないっ!

確かに、彼は一見軟弱に見えるかもしれない。 だけど軟弱な精神の持ち主なら、とっくに狂うか堕ちるかしている。 でも彼は違うっ、躓こうとも、転ぼうとも、もがき続けながら前に進み続けている。

彼は強い。 そして・・・・・・・・

 

 

なんて・・・・・・・・眩しいのかしら。

 

 

 

 

 

次に湧いたのは、悔しさだった。 情けなさだった。

 

なんて、自分は矮小なんだと、弱いのは自分なんだと、思い知らされた。

庶人の出である、彼がこんなにも眩しい想いを、悲しい想いを抱いているのに、私は・・・・・・・

 

「別に、孫権達が間違っているわけじゃない。

 これは俺の国の人間の考え方。 俺の国はね、何十年も戦なんてしていない。 でも、其処にいたるまで、

 長い年月と、あまりにも多すぎる人が犠牲になった。 その果てにあるのが、俺の国の平和だったんだ。

 ・・・・・・・・多くの屍の大地の上に立つ平和。 俺はその想いを引き継いでいるだけ、捨てる事も、忘れる事も

 できない、あまりにも長い時をかけて培った尊い想いだから・・・・・・、もっとも、この世界に来るまで自覚し

 てなかったけどね」

 

・・・・・・そんな事を言ってくる。最期には苦笑を浮かべながら、ただの自己満足だと、

此方の気を使って、そんな事を言って来た・・・・・・そんな余裕など無いはずだと言うのに、

どこまでも、お人よしなのだろうと、呆れながらも、その思いを嬉しく感じる。

・・・・・・・・・・きっと姉様が言っていたのは、この事。

相手を拒絶し、押し付けるのではなく、相手を知り、思いやる心。

たとえ愚かに思えても、其処には何らかの想いがある。 それを理解しようともしないで、国を治める事なんてできやしない。 人の心が分からない者に、その資格などありやしない。 ましてや孫の姓を名乗る等、おこがましい。

 

私は、目を深く瞑り、己の魂に刻むように、今の想いを心の奥底にしまう。

 

「これからは蓮華と呼べ」

「へ? 孫権いきなり何を」

「蓮華だ。 お前が姉様を呼び捨てにする事情は聞いている、だがそれは私には関係ない。

 これからは、そう呼ばなければ返事をしない」

「え? 孫権、だからいきなり何でそんな事を」

「・・・・・・・・」

 

私は、いきなり真名で呼べと言われ、戸惑う彼を無視する。

当たり前だ。 あそこまで認めてしまった以上、真名で呼ばれたい。 そう思うのは当然の事。

 

「孫権?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・えーーと、れ・蓮華・・・・」

「なんだ」

 

私の態度に、彼は苦笑を浮かべる。

気持ちは分からないでもない。 私も自分でも卑怯で、意地悪だと思っている。

でも、それでもやっと彼は呼んでくれた。

 

「何でいきなり、真名を預けてくれる気になったの?」

「戦に出る前言ったはずだ。 お前を見極めさせてもらうと、そしてお前を認めただけだ。

 まだまだ危なっかしいが、其処はまけておいてやる」

「ははは・・・・・ありがとう・・・・」

 

私の強がりな言葉に、彼は苦笑を浮かべながらも礼を言う。

礼を言いたいのは私の方だというのに、

 

「一刀、 その代わり、これからはこう呼ばせてもらう。 構わぬな?」

「別に構わないけど・・・・なんかいきなり呼び方が変わると、妙な感じだよな」

「う・うるさい、それは私だって、同じよ」

「蓮華、あらためて、これからよろしく頼むな」

 

そう、私に微笑みかける。

でも、其処には、いつものような笑顔は無かった。

悲しみに彩られた笑顔、

これはこれで、良いのだが・・・・・・やはり、一刀には前のような笑顔が似合うと思う。

 

・・・・・・そうか、だから翡翠と明命は

 

今だけは、二人の気持ちがよく分かる。

二人は、あの笑顔を浮かべるこの人が好きなのだと、守りたいのだと、

その気持ちが理解できる・・・・・・いいわ、私も二人に協力してあげる。

確かに、この悲しい笑顔を見てしまったら、あの笑顔を取り戻してあげたいと思えるもの、守りたいと思えるもの。

 

 

 

 

 

 

「張遼の部隊が早々に後退を始めている・・・・・華雄の部隊を見捨てて、立て籠もるつもりか? ・・・・違うな」

 

私に、心を語りながらも、戦況から目を離していなかった一刀が、そう呟く。

確かに、華雄の隊に合流しようとしていた隊が、後退しつつある。 分断された隊を見捨て、関に籠もるのなら分かる。 だが、それが違うとは?

 

「蓮華、相手は汜水関を捨てるつもりだ。 なら、それを見計らって攻めるべきだ」

「す・捨てるって、まさかっ!」

「半分の兵数で、その上士気の落ちた今の状態で立て籠もっても、たいして時間稼ぎにならない。

 なら、これだけ早く見切りをつけた部隊だ。 より確実な手を打とうとするはず。 となれば一番考えられる

 有効な手は、空になった汜水関を囮にして部隊を撤退し、虎牢関の守りをより強固にしようと考えるはず」

 

一刀の言葉に、私は驚き、思わず否定してしまうが、一刀の説明に、納得せざる得ない。

こんな、顔を青ざめながらも、戦況をしっかり見詰め、相手の策を見抜くだなんて・・・・・いいえ違うわね、一刀はただ、無駄にしたくないだけ、逝ってしまった者達のために、今戦っている者達のために、必死なだけ・・・・・・・

 

「ならば、我等はその隙を付いて汜水関を落とす。 一刀、どうすればいい?」

「今のままじゃ無理だ。 やるなら、一番関に近い明命と思春の部隊を、後退する敵部隊と一緒に突入させる。

 ただし、中に入りさえすれば良い。 それ以上は深追いしない。 追い詰めてしまえば痛い目を見るのは此方

 だからね。 でも、そのためには、予備を含めた本隊全てを使って、二人の部隊が相手をしている敵を引き受

 けてなければいけない」

 

一刀の言葉に、なるほどと頷く。

一刀としては、被害を出したくないだけなのだろう、

そして、今我々は、被害を抑えながら、名声を得る方を優先すべきなのは確か、なら、

 

「一刀、私はこのまま本隊と共に姉様達と合流して敵を引き付ける。 一刀は、どう動けばいいか指示を出せ、

 それが策を出した者の責任の取り方だ」

「・・・・分かった。 なら今は無理に敵を倒そうとしない事、明命達が関を落とせば、敵も抵抗を止めると思う」

 

本当に、よく気が付く・・・・・・

 

「聞けぇ! 我等本隊は、此れより分断された敵を駆逐する! だが無理はするなっ! 生き残る事を最優先

 に考えろ! さすれば、天の加護が我等を勝利に導いてくれる!」

「「「「 応ぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!! 」」」」」

 

私の号令に、兵が大きく応える。

 

「兵200は置いていく、それで随時必要な指示を出せ」

 

私は、一刀にそう言い残し、兵と共に馬を走らせる。

一刀、貴方の考えで被害を少なく出来るなら、してみなさい。

民の流す血を、流す涙を減らせるなら、私だって、そうしたい。

なら、私は貴方の力になってあげる。

あなたの代わりに、剣を振るい敵を討ち、民を守る盾になってあげる。

 

 

 

 

 

雪蓮(孫策)視点:

 

「報告します! 北郷様より伝令! 孫策様の部隊は孫権様率いる本隊と共に、周将軍と甘将軍の相対する敵を

 受け持てと! ただし、敵を引き付ける事と、時間を稼ぐ事を優先し、無理は決してするなと言う事です」

 

一刀から? それに蓮華が此方に向かうって

 

「・・・・・・そう、一刀を認めたのね」

「雪蓮どう言う事だ」

 

私の呟きに、冥琳が尋ねてくる。

 

「ちょっと、蓮華にね、一刀から学びなさいって言っておいたのよ」

「成る程、たしかに、あれほど分かりやすい教材はないだろう。

 だが雪蓮よ、自分に出来なかった事を、妹に押し付けるのはどうかと思うぞ」

 

さすが親友、私が何を蓮華に期待しているか、よく理解しているわ、そして同時に痛い処を突いてくる。

でも、本当の事だからしょうがないわね。

 

「いいのよ、私にはその才は無かった。 切り開く力はあっても、守り、導く力は無い・・・・・・残念だけどね。

 でもあの娘は違う、あの娘は、王としての資質なら私以上、きっと一刀から多くを学び、大きく成長するわ。

 今回はそのための試練の一つ、そしてそれを、こうして乗り越えてくれた」

「・・・・・・そうだな」

 

私の言葉を、冥琳は寂しげに、だけど小さく微笑みながら頷いてくれた。

 

「でも、一刀の指示っていったい。 ・・・・・・・・そっか、そう言う事ね」

 

私は、後退しつつある張遼の部隊を見て、一刀の言わんとする事に、なんとなく気が付いた。

冥琳は最初から一刀の意図に気が付いていたのか、私が気が付くのを待っていたかのように、

 

「だが、無茶を言ってくれる。 我等より数の多い相手に、引き止めろとはな」

「でも、できないわけじゃないわ」

「そうだな、防御に専念すれば、それくらいの時間は稼げよう。 それに、諸侯達も動いている」

「この戦、思ったより早くけりが付きそうね」

「雪蓮、まだ気を抜くのは早いぞ、それに、そろそろ蓮華様の率いる本隊に合わせて動くぞ」

 

冥琳の言葉に、気を引き締めなおす。

・・・・・・・・冥琳、なんか張り切っちゃってるわね。 何か在ったのかしら?

 

 

 

 

 

明命(周泰)視点:

 

 

「報告します。 敵華雄隊の分断に成功しました。 現在甘将軍の隊が、更に張遼隊との分断に入っています」

 

伝令兵を視界の端に見かけた瞬間、目の前の敵を切り伏せた後、私は戦線を離脱し、報告を聞く。

予定通り事が運んでいるようです。 どうやら華雄隊が、此方の思っていた以上に、冷静さを欠いてくれているようです。 突進力は凄いですが、気勢を逸らしてやれば、脆いものです。

私は状況を再確認し、戦況を読み、

 

「これより我が隊は、本体と共に、分断した敵を、涼州連合の軍の所まで押し込みます!」

「「「 応っ!! 」」」

 

部下達を、兵士達を、奮起させるように、号令を出します。

劉備の所も、受け切れない部分を、公孫賛の所に押し付けるようです。

この戦貰いました。

思春様の部隊も、どうやら、分断する事に成功したようです。

分断された華雄隊が、合流しない程度に、此方の方に押し遣られて来ています。

 

そうこうする内に、敵部隊、張遼の部隊に、新たな動きが見られます。

後退していく。 ・・・・・・華雄隊を見捨て、関に立て篭もるつもりかもしれません。

なんとしても防ぎたい所ですが、今の戦力で追ってしまっては、挟撃される危険性があります。

 

此処まで上手く言ったのに、・・・・・・・・想像以上に張遼の判断と動きが速いです。

 

敵の能力を測り切れなかった事に、悔やんでいると、新たに伝令兵が走ってきます。

 

「北郷様より伝令、敵・華雄隊は孫策様と孫権様の本隊が引き受けるとの事。 周泰様と甘寧様の隊は、空にな

 る関を落とせとの事です」

 

えっ、一刀さんから? それに、その内容・・・・・・

・・・・・・・・そう言う事ですか、張遼は関に立て篭もるのではなく、虎牢関に退く。

確かに、このまま立て篭もっても、関にいた兵は半分近くに減らされ、そのうえ士気は低下しています。

それなら、此処は一旦退いて、虎牢関の兵と合流して守りを、より強化した方が確実です。

 

なら、一刀さん言うとおり、汜水関はもぬけの殻に近い。 だとしたら、今の数でもいける。

 

「全員反転! 我らは汜水関を落とす!」

「「「 応っ! 」」」

 

一刀さんは頑張っています。

 

苦しみながら、悲しみながら、一生懸命、自分と戦っているはずです。

 

なら、私も頑張らなければ、いけません。

 

一刀さんが安心するように、 早く戦の苦しみから抜け出せるように、

 

一刻でも早く、この戦を終わらせます。

 

今、私が一刀さんのために出来るのは、それくらいですからっ

 

夕べの一刀さんの感触を、伝わって来た温もりを、もう一度胸に抱きながら、

 

私は戦場を駆け抜けます。

 

 

 

 

 

華琳(曹操)視点:

 

「・・・・・・・以上が昨日の汜水関での報告になります」

「そう、劉備は孫策の手を借りたとは言え、この窮地を乗り切った。 なら、天はまだ劉備を生かせと言ってい

 るのね」

「ですが、汜水関を一日で落とされたおかげで、我等が名を挙げる機会を一つ失ってしまいました」

 

桂花は悔しそうに、そう呟く。

本当、まじめな娘、まぁそれが愛おしい所ではあるのだけど、

 

「まだ虎牢関、そして洛陽、機会はあるわ。 それより、汜水関を一日で落とした劉備と孫策の力を見れた事

 の方が朗報よ。 麗羽の事だから、虎牢関では劉備と孫策は後に下がらせるだろうから、心配要らないわ」

「はぁ・・・・その事なのですが、孫策は、所用があるため、しばしこの地に留まると袁紹に進言したそうです」

 

桂花の言葉に、私は、眉を潜ませる。

孫策達とて、まだ弱小勢力に過ぎない自分達が、あれだけの活躍をした以上、後に下がらせられる事は理解しているはず。 だけど、それを自ら言う利はないはず。 それとも、あの地で何か企んでいる?

・・・・・・ありえないわね。 

孫策には、袁術を出し抜く程の力は、まだ集まっていない。 もう少し恭順を示すはず。 なら何故?

 

「桂花、孫策は何故自ら進言したのかしら?」

「はぁ、それが」

 

私の問いかけに、桂花は珍しく困惑した様子で

 

「細作の報告では、どうやら、死者を埋葬しているようです。 それも董卓軍の死者も含めてです」

「・・・・・・・・それ本当なの?」

 

私は予想外の答えに、桂花に再び問いかけてしまう。

こんな時に態々、兵を弔うなんて、・・・・・・その心意気は買うけど、分からないのは、敵兵も含めてと言う所だ。

 

「敵兵を弔う等、考えられん! そんな事をすれば、敵に舐められると言うのにっ!」

「私だって、そう思うわよ。 でも事実なんだからしょうがないでしょ! それとも貴女には事実を受け入れる

 だけの脳みそも無いのかしらっ」

 

敵兵までも埋葬する、と言う桂花の発言に、春蘭が怒りを露わにする。

春蘭は、自分が認めた英傑が、そんな当たり前の事が分からないのかと、裏切られたと、思っているのでしょうね。

そう当たり前の事、敵方の兵士の亡骸を打ち捨てて置くのは、当たり前の事。

一見惨たらしいかも知れないけど、其処にはきちんとした意味がある。

 

一つは、逆らえばどうなるか、敵にすればどうなるかを、世に知らしめるため、

一つは、戦をすれば、無論此方にも被害は出る。 使命半ばで命を落として逝った者達の魂を沈めるため、

一つは、その家族の恨みを晴らすため、

そして、時間と経費の節約のため、

 

最後のは、認めたくは無いが、軍を動かすという事はそう言う事。

それが分からない孫策ではないはず。

 

「秋蘭、桂花、暫らく此方を頼むわ」

「仰せのままに」

「行かれるのですか?」

 

本当はこの二人を連れて行きたいところだけど、私を含めて三人が抜けるのは問題があるので仕方がないわね。

 

「ええ、直接この目で、孫策が何を考えているのか見てくるわ。 春蘭、季衣、護衛を頼めるかしら」

「はい華琳様」

「うん」

 

 

 

 

 

 

「思ったより時間が掛かったわね」

「はぁ、大軍が移動する中、逆走するわけですから、多少は仕方ないかと」

 

私達が、汜水関に戻ってきた頃には、だいぶ日が経ち、

あと暫らくすれば、陽が山に掛かろうとする時刻、

関の中は、所々孫策の兵が居るが、その殆どは出払っているようね。 一体何処に?

 

「華琳様~、外に皆集まっているようです~」

 

季衣のそんな声が、関の向こうから聞こえる。

皆? 一体何を・・・・・・

私は、季衣の言う外、つまり昨日孫策達が戦った場所へ、向かう。

 

「彼方此方に、小さな丘が出来てますね。 あれは一体?」

 

確かに、季衣が言うとおり、崖の方に丘が出来ているわね。

まだ新しい土が幅広く盛られ、その上には、石や岩が敷き詰められている。

そう、其処までやるの・・・・・・・・・・

 

「季衣、あれはお墓よ、此処で無念にも逝ってしまった者達のね」

 

ギリッ

 

歯を噛み締める音が聞こえる。

見るまでもない事、春蘭が、孫策の行いをその目で見て、怒りに耐えている音。

確かに、春蘭が怒るのは当然と言える。

でも、私は逆に、怒りは沸かなかった。

 

よく見れば、作られた丘には乱雑なものと、丁寧に作られたものがあった。

丁寧なものは、おそらく孫策の兵士と、進軍のため、後送する事も出来ず、此処に打ち捨てて置くしかなかった連合の兵士が眠っている。 そして乱雑なものは、董卓の兵士が埋められているのでしょうね。

問題は、乱雑なものの方、幾ら乱雑とは言え、その行為は立派な埋葬と言える。

それに、丘を隠すように、敷き詰められた石や岩、あれは何のため? 墓石ならば大きなものを一つ置くか、石塚を作れば済む事、・・・・・・あれでは、掘り返させないための嫌がらせぐらいにしかならない。 そもそも、誰も下級兵達の遺体等掘り返したりはしない。

なんにしても、あれは何らかの意図があると考える方が自然。

なら、当人に聞くまでの事。

 

私は春蘭と季衣を連れて、人が集まっているところを目指す。

其処は、立ち並ぶ丘の真ん中ぐらいの位置、

其処に、何故か孫策の兵士の半数以上と思えるくらいの人が、巨大な円陣を組むように、思い思い座っていた。

外周の方には、馬車を持ってきて、その上に板を掛けて座っている者もいる。

さらによく見回せば、城壁の上から此方を眺めている兵士達が、この人だかりの中心を眺めている。

 

「華琳様~、まるで、役満☆姉妹の舞台みたいですねぇ」

 

季衣が無邪気に、そんな事を言ってくる。

そうね、確かに、そういう目的なら、御誂え向きかも知れない。

でも、ここに集まっている兵達は、あの姉妹の歌を聴きに来ている男達のような、異常さは見当たらない。

どちらかといえば、これは・・・・・・

 

「あら、曹操じゃない。 こんな所に何の用?」

 

 

 

 

 

 

「あら、曹操じゃない。 こんな所に何の用?」

 

私を後ろから呼び止めたのは、孫策だった。

最初は、やや警戒したものの、やがて私に興味はないとばかりに、共に連れた黒髪の女性と共に、私の目の前を通り過ぎようとする。

 

「貴女に聞きたい事があってね。 わざわざ足を運んであげたわ」

「そっ、でも答えなくても、貴女なら見て分かるはずよ。 それだけの事。

 悪いけど、今貴女達に構っている暇はないわ」

「なっ! 貴様、華琳様に無礼であろうっ!」

「春蘭、やめなさい! これは命令よ!」

「くっ・・・・・・」

 

孫策の態度に、剣に手を掛け怒りを露わにする春蘭を、私は押し止める。

此処で、剣を抜くのは此方の立場を悪くするだけの事。

ましてや、今から行おうとしているのは、おそらく・・・・・・

 

「部下の非礼を、お詫びするわ。 話が済めば、早々に此処を離れるから、少し時間をくれないかしら」

「そっ、今のは見なかった事にしてあげるわ。 でも悪いけど、今は本当に時間はないの、話があるなら、終わ

 ったらしてあげるから、大人しく待っていなさい」

「き・貴様っ」

「そう、じゃあ待たせてもらうわ、 いいわね、春蘭、季衣」

 

孫策の物言いに、再び声を上げ始める春蘭を、私は手で押さえ、孫策の言葉を承諾する。

私の考えが正しければ、これから行う事を邪魔する事は、穢す事は、例え王であっても許されない事。

私達は孫策の後を付いて行くと、其処は円陣の中心近くで、目の前には、小さな円状の空き地、

内円に沿う様に置かれた篝火の中、その中心には、昨日会った北郷という男が、黒髪のかわいらしい少女と一緒に居た。

おそらく、男の緊張を解そうとしている少女は、心配そうに男を見詰めており(誰かを愛おしく、そして心配する姿は美しいものね)、やがて男が少女になにやら言葉を交わすと、繋いでいた手を離して、此方に歩いてくる。 少女は、此方に気がつくやいなや、先程の少女の顔を一瞬で将の顔にし、此方を睨みつけてくる。

・・・・・・・・良い将が居るようね。

 

「明命、構わないから放って置きなさい。 客でもないけど敵でもないわ」

 

そうね、こんな場に先触の使者も出さずに、突然来たのだから、客とは言えないわね。

 

「貴女達運が良いわね。 こんな時でもなければ見る事なんて出来なかったわよ」

 

孫策の何気ない言葉に、これから行われる事が、私の想像とは少し違う事が推測できた。。

これだけの事をするのだから、それなりの意味があるのだろうと、私達も孫策に習い地面に腰を下ろし、成り行きを見届ける事にした。

やがて、男がいつの間にか手にした扇子を構え、舞い始める。

 

 

 

 

 

 

滑らかな動き、

 

ゆったりとした動きは、

 

何を表したものかしら、

 

水、雲、森、次々と静かに変わる印象、

 

そして、そこから明確に連想させられる幻視、

 

手の動きは、扇子の軌跡は、風、火、そして、雨

 

静かに、そして時に高らかな足の動きは、大地、山、海、

 

感情を表さない顔の動きは、そして対照的に感情を表す瞳と視線は、

 

怒り、嘆き、絶望、希望、そして喜び、

 

そう、これは命を顕している。

 

 

 

この大地にある自然を、

 

天の下にある命を、

 

そして、人も、その自然の一部である事を、

 

死んでいく事は当たり前の事だと、

 

それも、輪廻の一つであると、

 

そして、それ故に生きている事が、尊いと、

 

 

 

友の死を、家族の死を、ただ嘆くのではなく、

 

前を向いていく歩くのだと、

 

その手を、足を前に伸ばすのだと、

 

逝ってしまった者達の想いを胸に、

 

逝ってしまった者達は、想いを祈りに変え、

 

共に、歩いていくのだと、・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

そして、あの男、いいえ、北郷の体が、舞を終えるかのように、静かに地面に横たわる。

心残りだけど、それは仕方ない事、

今はそれよりも、余韻に浸りたいと、感じたものを、在りのまま受け止めたいと思った。

だけど、そう言う訳にはいかない。

私は強引に、意識を引き起こし、呆然している春蘭と季衣の手を引っ張って、その場を静かに後にする。

 

やがて、人垣を抜け、城壁前まで来ると、周りがすでに暗くなり出している事に気がつく、

知らぬ間に、其処まで時間が過ぎてしまった事に驚きながらも、薄暗かった事の方が都合が良かったと安堵する。

なにせ、覇王たる私の、こんな涙で濡らした顔を、見られなくて済んだのだから。

私は、そこで、二人の手を離し、空いた手で、濡らしてしまった顔を拭う。

 

そして、涙を拭うと共に感情が落ち着きを取り戻し始め、二人を振り向くと、

其処には、未だに涙を流しながら、呆然とする二人が居た。

感受性の高い季衣は仕方ないにしても、春蘭までもこうなるなんてね。・・・・・・違うわね、人より素直な分、影響を強く受けたのかもしれない。

この二人には、もう少し余韻を浸らせてあげたいと思うものの、残念だけど、そういうわけには行かない。

 

「春蘭っ! 季衣っ! いい加減目を覚ましなさい!」

「んにゃっ」

「うわっ」

 

私の声に、叩き付けた覇気に、二人は強制的に覚醒させられる。

強引なやり方で、ごめんなさいね。

 

「華琳様、わたしは」

「ボク」

「感動に浸るのは後になさい。 今すぐ帰るわよ」

 

私はそう二人に命じると、そのまま関に向かって早足で歩き出す。

 

「い、今からですか?」

「華琳様、もう暗いですよ」

「二度同じ事を言うつもりはないわ。 復唱なさい」

「「は・はいっ」」

 

二人の言いたい事は分かる。 夜の移動は危険なもの。

ましてや、ろくに護衛をつけていない今なら、なおさらの事、

だけど、幾ら危険だとは言え、今夜此処に留まる事は、許されない。

 

 

 

 

 

 

やがて、馬を走り出させた頃には、二人も落ち着いたのか

 

「華琳様、孫策に問いださなくても良かったので?」

「貴女は、あれを見た後でも、許せないと思っているのかしら?」

「い・いえ・・・・・・何故か怒りは沸きません」

「そう、ならそれで十分よ。 少なくとも、孫策は、敵味方関係なく、戦死した者を尊いものとして弔った。

 国を支える礎として、昇華させた。 故にあそこに在ったのは高貴なる魂のみ。 下賎な考えは、その魂を

 穢すだけだわ」

 

そう、だからあの場に、私達が居る事は許されない。

今はその考えが分かったとはいえ、それを分かっていなかった私達に、あそこに留まる資格は無い。

ましてや、死者を弔うための、死闘を生き抜き、明日を生きなければいけない兵士達のための、鎮魂の舞の余韻に浸る等と、そんな恥知らずな真似は、曹孟徳の名にかけても出来やしない。

 

だけど、それでも、思ってしまう。 あの舞を見れただけでも、来た甲斐があったと、

・・・・・・こればかりは仕方ないわね。

でも、北郷があのような素晴らしい舞を舞えるなんて、思いもよらなかったわ。

今日、あの場に行かなければ、生涯、あれほどの舞を見る事は適わなかったと思える

そしていつものように、ある感情が浮かび上がるが、私はそれを意識的に抑えた。

それこそ、あの素晴らしい舞に対して、下賎な考えでしかないのだから、

 

 

 

 

孫策、今はあなたに預けておくわ。 そして大事に育てる事ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

こんにちは、うたまるです。

 

 

  第34話 ~ 泥海に輝く光、そして舞う想いに、誇り高き華は何を想う ~ を此処にお送りしました。

 

うーん、明命が今回も喰われてしまった。 しかも蓮華に(汗

まぁ、冗談(?)は置いておいて、今回は今まで出番の殆どなかった蓮華を主題に挙げてみました。

そして、同じ華の字の付く、覇王様の目を通して、汜水関戦後の状況を軽く流してみたのですが・・・・・正直やりすぎたかも・・・・・・まだこの段階で、一刀を欲しいと思わせるつもりはなかったのですが・・・・・・覇王の覇気にやられて勝手に話が進んでしまいました(汗

一通り執筆が終わった後見直すと、まぁたいして問題ないからいいかなと、そのまま放置(w

そして、肝心の一刀ですが、書き終わって、改めて思ったのが・・・・・・赤い外套の某弓兵(料理も上手いし)を思い出してしまいました(汗

まぁ、一応想いの軸が違うので、良いとは思うのですが・・・・・・意図した事ではないので、気が付かなかった事にしてください。

 

 

 

話は変りますが、今まで、一刀の武に関しての書き込みが多数ありましたので、設定の一部を今回公表いたしました。(今回後付で考えたものではなく、最初の段階で考えたものですよ)

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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