No.137616

恋姫異聞録52 -西涼の英雄-

絶影さん


次くらいで涼州攻略は終わりそうです

何故か今日は休みだったので何とか一日で書き上げました

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2010-04-20 20:19:19 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:13615   閲覧ユーザー数:10946

 

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

華琳は地を蹴り馬騰目掛けて走り出す。己の心臓を狙い済ました槍を恐れず、英雄との決着を着けるために

 

「己の槍を恐れず向かってくるか、面白いっ!」

 

馬騰は更に槍を握る手に力を込め華琳を迎え撃つ

 

「己の槍の威力を思い知るが良い!」

 

馬騰が叫ぶと同時に射程距離へと華琳の足が入るその瞬間、馬騰の眼が鋭く光り槍を持つ腕が加速し

目では追えないほどの速度で華琳の心臓を貫きに掛かる

 

「今っ!」

 

キンッ!

 

軽い金属音が響く、心臓目掛けて回転し襲い掛かる十字槍の穂に鎌の柄を縦に合わせ

身体を浮かし相手の突進力を利用して鎌ごと前宙をして柔らかく受け流した

 

「回転する槍に合わせただとっ!父様っ!!」

 

馬超は叫ぶ、しかし華琳の鎌は前宙の勢いのまま駒のように縦回転し馬騰の肩口に突き刺さる

 

ザシュッ

 

「ぐぅっ・・・見事っ!・・・がはっ」

 

「はぁっ、はぁっ、私の勝ちよっ」

 

横の回転に縦の回転をあわせ、そのまま攻撃に転じた鎌は左の肩口から深く馬騰の身体に突き刺さり

馬騰の足元に血溜まりを作っていく

 

「あぁぁ、いやぁぁぁっ!父様っ父様っ!」

 

馬騰は突き刺さった鎌を無理やり体から抜き取るとその場に崩れ落ちる。その姿に涙を流しながら馬超は駆け寄り

父の頭を抱きしめた

 

「槍は、槍は見たか?」

 

「見たよっ、父様の槍!二撃目を考えない回転を加え貫通力を上げた一撃必殺の槍、それが父様の槍なんだっ!」

 

「ああ・・・そうだ、お前になら使いこなせる。己の自慢の娘よ」

 

「嫌だっ、もっと、もっとあたしに色々と教えてくれよ父様っ」

 

涙を流し懇願する娘に父は優しい笑顔を見せると、手に握る十字槍を震える腕で持ち上げ娘の前に差し出す

 

「己の槍を、銀閃はお前の母が己に作ってくれたものだ。きっとお前を守ってくれる」

 

「ああぁ、そんなこと言わないでくれっ、血がっ血が止まらないっ」

 

槍を握り締めながら必死に傷口を手で押さえるが無常にも血は流れ出し、大地を赤く染め上げていく

華琳はそれを無表情に見下ろしていた

 

「覇王よ、己の頼みを聞いて欲しい」

 

「・・・何かしら」

 

「己の命と引き換えに涼州の民に自由を」

 

「・・・・・・」

 

馬騰の瞳は華琳の心に突き刺さる。男は死の淵で己の身よりも民を想い、負けた身でありながら勝者に懇願をするのだ

 

「鉄心っ!」

 

「おじ様っ!」

 

兵たちを掻き分け、腕をなくした韓遂を馬岱が支え地面に血溜まりを作り、大の字になって倒れる馬騰へと

必死に駆け寄ってくる

 

 

 

 

「鉄心・・・馬鹿者が、やはり病か」

 

「はっはっはっ、病などではないこれが天命よ。実に楽しかった」

 

「・・・最後は武人より親を取ったか、翠に槍を渡したのはそういう意味だろう。お前らしい」

 

か細い声で笑う馬騰に韓遂は困ったように笑い返す。そして華琳の方に振り向くと腰に携えた剣を抜き取る

その動きに周りの兵達が槍を構えるが、華琳は兵たちを手で制してしまう

 

「話は聞こえていた、鉄心の命だけで足りなければこの俺の残った腕もやろう」

 

「貴方は腕だけなのね」

 

「俺は生き残り、馬家の子供を守らねばならん。必要なら足もやろう」

 

韓遂の言葉を聞き馬騰は本当に嬉しそうに笑う、華琳はその顔を直視することが出来ず眼を伏せてしまう

 

「停戦命令を出しなさい、敵将は倒れた前線でこれ以上の戦闘は無意味よ」

 

華琳の命令を受け伝令が前線へと走り出す。馬騰は横に顔を向けると目で男にこちらに来いと訴えた

男は消え入りそうな魂の火を灯す馬騰へと駆け寄った

 

「舞王よ、お前は面白い男だ。俺には息子が居ない、居たらお前のような男が欲しかった」

 

「・・・ああ、俺もこの世界にも天の世界にも親は居なかった。いれば貴方のような父が欲しかった」

 

「そうか、なら己の息子になってくれ」

 

そういうと馬騰は赤く染まった歯を見せて笑う、柔らかく、優しく、そして父の強さをもった笑顔で

 

「死に逝く男の子になるのは嫌か?」

 

「いいや、嬉しいよ。父さん」

 

「ハハハッどうだ銅心、己の物になったぞ」

 

「フフフッ、はっはっはっはっ!まったくっ!お前と言う奴はっ!最後の最後までっ!!」

 

馬騰の言葉に韓遂は大声で笑い、涙を流す。お互いに笑い合い、まるで戦場を感じさせないそれこそがこの二人

の英雄のなせるもの

 

「息子よ、遺言だ」

 

「はい」

 

「翠達、馬家の者と敵対した時は手を抜くな。全力で叩き潰せ、それが戦だ」

 

「・・・はい」

 

「お前は優しすぎるようだ、己にまで涙を流すのだから」

 

そういうと男の頭を優しく撫でる、男はボロボロと涙を流し顔を伏せてしまう

 

「蒲公英、翠を頼む。翠はお前が導いてやってくれ」

 

「うん、おじ様たんぽぽあまり役に立てなくて御免なさい」

 

「はっはっはっ、そんな事はない自分に自信を持て」

 

馬騰は消え入りそうな声で笑い、馬岱の頭を震える手でゆっくりと撫でた。そして腕は力なく地面に落ちる

 

 

 

 

「もう時間だ・・・翠よ、生きろ・・・息子よ、フェイを頼む」

 

「嫌だっ、死んじゃ嫌だっ!父様っ、父様っ!」

 

「・・・ああ・・・草原が見える・・・・・・また共に駆けよう、紅よ・・・」

 

馬騰は妻の名前を最後に呼び、眠るように瞼を閉じた。その顔は満足しきった笑顔で

馬超はその姿を見て涙を流しながらイヤイヤと首を振る

 

「くぅっ!覇王っ!今度はあたしが相手だっ!」

 

「待て、翠っ」

 

馬超は槍を構え華琳に向けると韓遂はその槍を掴み、無理やり抑えた。馬超は槍を止められたことに驚くが

怒りは収まらず無理やりに槍から韓遂を振りほどこうとする

 

「鉄心はお前に生きろと言った。最後の言葉を裏切る気かっ!」

 

「そうだよお姉さまっ!落ち着いてっ!」

 

馬岱も槍を押さえ、馬超に懇願する。馬騰の言葉を思い出したのか馬超は顔を伏せて槍からは力が抜け落ちていく

大人しくなった馬超を確認すると韓遂は華琳に跪き頭を下げる

 

「覇王よ、我が命と引き換えでも良い、この子達を」

 

「・・・いいわ何も要らない、涼州は統治するけど貴方達は好きにしなさい」

 

「華琳様っ!?」

 

その言葉に秋蘭は驚きの声を上げるが、男は秋蘭に首を振り馬騰の亡骸を抱き上げる

 

「亡骸はこの地の埋葬に詳しい者にやらせる」

 

「すまない、鉄心を頼む。行くぞ翠」

 

「く、ううううっ、うわあああああああああああああああっ!!!!!」

 

馬超は叫び、韓遂はそんな馬超を抱きしめ自軍へと歩いていく

馬騰を抱き上げる男の足に軽い衝撃が走り、目を向けるとそこには顔をくしゃくしゃにして泣く扁風がいた

 

「うあっうああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ~~~~~~」

 

ボロボロと涙を流しながら男の足にしがみ付く、男は頭をやさしく撫でると扁風は泣きながら外套をつまみ

歩き出す男の後を泣きながら着いて行く

 

「道を空けろ、英雄を天に帰す」

 

男の響く声に魏の兵たちは真直ぐ道を空け、涼州の兵たちも死した英雄に泣き叫び、地に顔を伏せ道を空けた

泣き叫ぶ兵たちに呼応するように空からはポツポツと雨が降り注ぎ始める

 

「天も英雄の死に泣いている・・・」

 

華琳は男が歩いていく姿を見送りながら眼を伏せた、頬を流れる雨はまるで泣いているかのように

 

「戦は終わりだ、負傷兵の回収を急げ敵兵には手出しをするなっ!降るものは全て受け入れよっ!」

 

戦場に秋蘭の凛とした声が響き渡る。春蘭はゆっくり華琳に近づくと柔らかい笑顔を作り、後方で待つ兵達の元へと

手を引いていく

 

自軍に歩みを進めながら、喜び叫ぶ将兵たちに無理やりに笑顔を作って答える

英雄を殺し、多くの悲しみや怒りを受け傷ついた己の心を押し隠して

 

 

 

 


 
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