No.136746

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 十二の章

Chillyさん

双天第十二話です。

まだ黄巾終わりません……(>w<;)
次くらいでは終わってくれると思いますが、予定は未定と言いますし、どうなることやら……。

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2010-04-16 22:15:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2421   閲覧ユーザー数:2177

 各諸侯に送った使者で最初に帰ってきたのは、やはり一番近い曹操の陣営に送った使者だった。

 

 彼は一同揃った天幕で、期待にわくわくしている劉備さんを前に畏まって拱手し俯いている。

 

 あの劉備さんの顔を見て、一瞬彼の顔が引きつったのは見なかったことにしてあげたい。

 

 曹操からの返事は、断るの一言。

 

 ただし孔明ちゃんからの手紙のお礼にと、一本の丈夫そうな短く切られた綱と“崖”と書かれた竹簡を渡されたそうだ。

 

 ちなみに後で聞いた話だが、彼は孔明ちゃんに二通の手紙を渡されていたらしい。

 

 首尾よく曹操が共闘に同意すれば、普通に挨拶と後日各陣営の中心地に新しく建てた天幕にて、軍議を開催したい旨を書いた書状を渡し、同意しなかった場合には別の手紙を渡すよう言われたそうだ。

 

 共闘を断った曹操に彼は、言われたとおり同意を得れなかったときの手紙を渡したところ、曹操は実に機嫌よく笑ったらしい。

 がその後、使者の彼を曹操は厳しい視線で睨み付けた。彼曰く生きた心地がしなかったそうだが、すぐに艶然と微笑み、

 

「この書状は誰が?」

 

と尋ねたらしい。

 

 もちろん彼は“劉玄徳が軍師、諸葛孔明の書状にございます”と素直に答え畏まった。何が書かれていたかわかりはしないが、かの曹操の食指を刺激する文であったのだろう。彼の返事に“そう”と返しただけだそうだが、その瞳は怪しく光っていたそうだ。

 

「“綱”と“崖”ですか……きっと重要なことなのでしょうけど」

 

 断られたことを告げられ落ち込む劉備さんを尻目に、ちびっこ軍師二人は曹操から渡された綱と竹簡を手に考え込んでいる。

 

「崖を駆け下りて攻めるってことじゃないの?」

 

 素人意見だけど崖の文字だけで判断して言ってみる。

 

「確かにそれも考えましたが……」

 

 鳳統ちゃんに否定されました。崖に道は一切通っておらず、普通には降りられないそうで、両手両足を使ってしっかりと崖にへばりついて降りる、所謂ロッククライミングみたいなことをして降りないといけないらしい。

 さすがにそんな状態では武具なんて装備していけないし、失敗したときに死ぬことは間違いない。見つかってしまった場合も逃げ道はなく、矢を射掛けられたら避けることも難しい。

 

「……というわけで崖からというのも信じられません」

 

「しかしそれ以外、“崖”という単語から連想できるものはないのではありませんかな?」

 

 たしかに崖から城を攻略するということを考えると、それくらいしか思いつかない。ほかに考えられるとしたら……なんだろうか?崖を掘削してトンネルでも掘っているとかは、まず時間がかかりすぎるから不可能だろう。トンネルを掘るなんて、地質調査から始まって掘削、トンネルの壁面補強と地下水対策、問題を挙げていったらきりがない。

 

「たしかに崖から攻略と考えればそれしかありませんが、この砦を使用不可能にするのであれば……」

 

 崖を崩す、崖の上から岩を落とす等孔明ちゃんと鳳統ちゃんの口から次から次へと出てくる。中には丈夫な綱に大きな岩を結びつけてそれを振り子のように振り回すなんていうものまであった。

 

 結局この話題は情報が少なすぎるということで深く考えることはなかった。

 

 曹操の後は袁紹、孫策の順で使者は帰還し、大方の予想通り共闘は断られた。そのことに劉備さんは本気でショックを受けたようで、今現在天幕の隅で体育座りして地面にのの字を書いている。しばらくそっとしておいてあげよう。

 

 ただ袁紹の答えが他の二人が共闘を望むのであれば、共闘するという答えだったのが意外だった。

 

 なんでも最初は馬鹿にして高笑いをしていたようだが、眼鏡をかけた文官風の男が袁紹を諌めたらしい。

 

 最初は渋っていたようだが男が一言二言、袁紹に言葉をかけたところしぶしぶ譲歩したという。

 

“麗羽が人のいうことを聞くなんて”と伯珪さんが驚いていたけど、どれだけわがままな人なんだろうか。

 

 ここにも一応断られた時の手紙を渡したそうだが、特にこれといった反応はなく斜め読みしてそのまま捨て置かれたらしい。

 

 手紙という面では呉の反応もそれなりにあった。孫策にまず手紙を渡したが、読まずにすぐ横に控えていた周瑜に渡してしまったそうだ。それに疲れたように周瑜はため息をついたようだが、あきらめているらしく手紙を読み、“ほう”と唸ったらしい。

 

 こちらは特に返事の手紙はなかったらしいが、伝言として夜と袁という言葉をもらっていた。

 

 夜は夜襲をすると考えられるけど、袁はどういう意味だろうか。袁紹の動きに気をつけろというものなのか、それとも袁術からの何かしらの横槍が入るという意味なのかオレにはよくわからない。ちびっこ軍師二人には意味がわかったようで、なにやら二人で検討し合っている。

 

 これで共闘は断られたとこになるわけだけど、どうなんだろうね。それぞれの諸侯……袁紹を除いてか……が情報をくれたということは、ある意味共闘してくれたものと一緒だと思う。ただ、万人にわかるように情報はほしいよね。一部の頭の良い人たちだけがわかっても仕方がないと思うんだけど。

 

 そんなことを検討会を始めたちびっこ軍師を見ながら考えていたら、越ちゃんがそばに来てくれた。

 

「わかっていたこととはいえ、すべての諸侯から断られるときついものがありますね」

 

「あの劉備さんを見るとね」

 

 越ちゃんの視線の先、まだ隅で蹲ってのの字を書いている劉備さんを見て、越ちゃんと二人でため息。関羽さんもどう慰めてよいものか迷っているらしく、うかつに声をかけることを躊躇している。

 

 張飛さん、その人あなたの主君でしょ? ツンツンと背中とかつついてないで立ち直ってもらわないといけないんじゃないのかな。

 

「でもさ、情報をくれたということはそれにあわせて動いてくれるということで、実質共闘になるんじゃないの?」

 

「どの諸侯も被害を少なく、名声は大きく取りたい。だから情報だけ渡して共闘は断る。実質共闘と言えたとしても、張角を討ち取ったものがこの討伐で一人勝ちを得るといったところでしょう」

 

 オレの言葉に肯いてくれたけど、使者を断り情報を渡す意味を教えてくれる。確かに共闘の使者を受け入れてしまえば、いくら黄巾党の首謀者、張角を討ったとしてもそれは単独の手柄ではなくなるからと、ここに来る前に散々説明された部分ではある。情報を渡したとしても実質共闘をしたことになって単独の手柄にならないのではないかと思えば、“使者を断った”ということのほうが大事なことらしい。情報を渡したことはそれ自体だけでは戦局を動かすほどのものとは思われないのかもしれない。

 

 情報を制するものが戦争に勝つと思うんだが、そこまで情報に関して重さをおいていないのだろうか。

 

「たしかに情報を得ることは重要ですけど、多くの民衆はそのことに重きを置いていません。大事なのはいかに喧伝するかです」

 

 事実を伝えるにしても共闘をして勝ったより、情報を渡したが共闘せず勝ったのほうが多く倒したように聞こえるから、民衆受けはいいかもしれない。

 

「さて、そろそろ桃香様を元に戻さなければいけませんね。桃香様にもいろいろと決めていただかないといけないことがありますし」

 

 そう言って越ちゃんは関羽さんの所に行ってしまった。彼女が慰めるわけじゃないんだね、やっぱり。

 

 越ちゃんにアドバイスをもらった関羽さんが劉備さんにアタックをかけに行ったようだ。玉砕しないことを祈っている。

「あのぉ……諏訪さん。ちょっとお尋ねしたいことがあるんでしゅが」

 

 いつの間にか検討会を終わらせていたちびっこ軍師二人が後ろから声をかけてきた。何事かと思えば、曹操の言葉“綱”と“崖”について聞きたいことがあるのだそうだ。

 

「はい、曹操さんのところには諏訪さんと同じ“天の御遣い”がいましゅ。でしゅので何か天の知識を用いているのではないかと……あわわ、また噛んじゃった」

 

 魔女帽子で顔を隠しながらたずねてくる鳳統ちゃんを見つめながら考えてみる。

 

“もしオレがいた時代で同じことをする場合、警察または軍隊はどうするのか?”

 

 もちろん空爆とかそんなことは考えない。そんなことはここでは実現不可能だし、あの砦を使用可能な状態で攻略することにはならないのだから。

 

 映画とかだとこういった状況で活躍するものと言ったら特殊部隊だろう。SWATとかSATとか。

 

 ライフル片手にロープでビルの壁をピョンピョン……。

 

「“綱”と“崖”の意味がわかった! 具体的な説明はオレの知識では無理だけど、丈夫なロープ……っと、綱とそれを支えるための道具があれば、崖を速い速度で降りることが出来る」

 

 そうオレは“ラペリング”と軍事用語で言われている懸垂下降、ロープを使い急斜面やビルの壁面を降りる技術を思い出した。たしか安全環にロープを通し、それを支点に体の下にロープを通して体を支え、左手で姿勢を制御し右手で速度の加減をする。安全環を使用しない降り方もあったはずだけど、こちらのほうを高所から降りるときに使用したはずだ。

 

「はわわ!しょ、しょの技術があれば、武器を持ったまま降りることも?」

 

 孔明ちゃんの質問に肯いて答える。なんせ軍隊ではビルの制圧突入とかに使う技術だ。長さ的に槍は難しいかもしれないけれど、剣なら腰に佩いていればそのまま降下可能だろう。

 

「朱里ちゃん。そんな技術があるとなると……」

 

「うん、雛里ちゃん。曹操さんはきっと使ってくる。そして始めからここに黄巾党を集めていた」

 

 曹操はこの技術があることで決戦の場所をこの砦と決めた。そして張角がこの砦に来るように誘導しながら黄巾党と戦い、他の州からの敗残兵も集めることで諸侯の軍勢も集めることができた。

 

 諸侯が集い取り囲む、二〇万もの兵が集まる城を小数の手勢のみで落とすことが出来たとなれば、それは大きな名声となるだろう。

 

 少数の手勢ということで二〇万の兵が暴走することも、諸侯が砦を取り囲んでいることで抑えられる。黄巾党にとっては城にいる兵が少数でも城を取り囲んでいる兵が多数なのだから、中枢を攻略されてしまえば士気が崩壊し、軍として瓦解するという説明を孔明ちゃんがしてくれた。

 

「ということは私たちはどう動くといいのかな? 朱里ちゃん、雛里ちゃん」

 

 真剣な表情で事態を計算し始めたちびっこ軍師二人に、どん底に落ち込んでいたところから復活した劉備さんが聞いている。後ろを見ると疲れきりやり遂げた表情の関羽さんの肩を、越ちゃんが叩いて労っている。

 

「はい、ことここにいたっては私たちに取れる策はありません」

 

 ズンと沈んでいるちびっこ軍師。

 

 そうだよね、九割がた状況が揃ってしまっている。袁紹が動くなり、孫策が動くなりして黄巾党の注意を前面に向けさせてしまえば、元から注意などしていない崖からの進入は完全に意識の外になる。そうなってしまえば、ラペリングですばやく崖を降り、少数でも張角ら中枢を捕縛ないし討ち取ることは容易だろう。

 

「兵力温存を考えて砦攻略を放棄するか、少しでも名声を得るために砦攻略をするか」

 

「ただし兵力温存で砦攻略を放棄した場合、敵前逃亡の汚名を受けるかもしれません」

 

“私たち、一緒に行動していたのに、このことを読めなかったなんて”と二人して落ち込みながら、劉備さんに今後の行動への意見を述べていた。

 

 しかしオレには疑問がある。それはラペリングをするに足るロープの強度が、この時代の人に作り出せるのか? と言うものだ。強度が足りなければ途中で切れて、この作戦は失敗する。その他にも安全環を作るにしてもこれも強度の問題が出てくるし、訓練をどこで積んだのかと言う問題も出てくる。

 

「綱の強度、長さの問題は多分、李典さんが作成したのかと……」

 

 この世界の李典は発明家でさまざまなものを発明、開発しているらしい。カメラまで作成してあるそうだから、ザイルの開発なんて楽勝だろうな。

 

 張角をいかに討ち取るかと言う軍議はいかに少しでも名声を得るかの軍議へと様相を変えた。そして兵力の温存をいかにして行うかということも話し合われ始めた。

 

 皆がすでに曹操が張角を討ち取ることを前提に、物事を考えている。それだけちびっこ軍師たちの信頼が篤いんだろうな、彼女達の推測を正しいとしているし。

 

 皆の話を聞きながらつらつらとそんなことを考えていたら、外の様子が騒がしくなる。

 

“袁紹軍、行動を開始。顔文両旗が城門へと進行を始めました!”という伝令が駆け込んできたのは、そのすぐ後だった。

 


 
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