No.134623

魏√アフター 想いが集う世界――第四話

夢幻さん

自分の文才の無さに、嫌気がさしてきた夢幻です。
3時間で書き上げる事が出来ても、内容が薄い気がしてならないので、2時間推敲しても余り変わらなくて……。
楽しみにしてくれてる方々には、本当に申し訳なく思います。
ですが、これから少しずつよくなるように頑張りますので、宜しくお願いします。

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2010-04-05 22:14:24 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:8676   閲覧ユーザー数:5940

華琳・春蘭・秋蘭side

【華琳】

 正直、私はどうしてこんな事をしているのか、自分でも分かっていなかったわ。

 秋蘭にどうするのか聞かれ、春蘭が別の事をすればいいと言った。

 その後の私は、自分でも驚く行動に出たわね。最初は困らせてやればいいと、そう思っていたわ。

だから膝の上に座り、その反応を楽しもうと思った。これは間違いないわね。

 だけど、どうして男なんかの腕を、抱え込んでいるのかしら?

 そもそも、男の膝に座ろうと思った事自体が、普段の私からしたら異常な出来事だわ。

 でも、北郷の腕を抱えてると、酷く安心する。何でなのかしら?

 

 今まで私が出会った男は、本当に屑の様な者達ばかりだったわね。

 洛陽に来る前は、春蘭も秋蘭も男を近付かせない言っていた。だけど、結果はどうかしら?

 そう言っていた二人は、……まあ、春蘭は騒いでいるけど、秋蘭は春蘭を抑えてるみたいね。

でも、どこか二人共本気でやっていない気がするわね。本気を出していたら、春蘭を秋蘭が止める事は出来ないでしょうしね。

 それに、孫策と周瑜が北郷の近くにいる事で、苛ついていたのもおかしい。

 将来の部下に欲しいと思ってはいても、二人がそういった目的で北郷の傍にいた訳じゃないと分かった。なのに、苛ついた。

 どれだけ思考を巡らしても、答えに行き着かないわね。だから――。

 

「今はダメね」

「何がダメなの? ……と言うか、曹操さん。そろそろ、離れません?」

「あら、孫策はよくて、私はダメなのかしら?」

「そういう訳じゃないんですけど……」

「なら、何も問題ないわね」

 

 答えが出ないのであれば、今はこの一時を満喫しましょう。

 ふふふ……本当に不思議な男ね、北郷は。

 

 

 

【春蘭】

 私は今、本当に不愉快だ! その理由は、華琳様の隣にいる北郷だ!

 華琳様と腕を組んでいるというのに、疲れた様な顔をしおって! 私なら喜びの余り、疲れなど感じないぞ!

 ……だが、この光景をどこかで見た事がある気がする。先程から私は北郷に対して、何か懐かしい物を感じる。

 無くしてしまった宝物が、何年も後に出てきた様な。そんな感じだ。

 

 それに庭で会った時も、似た物を感じた。

 なぜか、北郷を蹴り飛ばすのが当然だと思っていた。剣を持っていたら、それで斬りかかっていた程に当然だと。

 ……ええい! 私があれこれ考えても仕方ない! 考えるのは、秋蘭の仕事だ! 私がするべき事は、ただ一つ!

 

「離せ秋蘭! 華琳様をお助けせねばならんのだ!」

「だから、落ち着けと言っているんだ、姉者! 今はまずい!」

「まずいも何もあるか! 華琳様ぁ! どうして、男などにぃ!」

「私も不思議だが、華琳様自らされているのだ! 邪魔をすれば、後で何を言われるか分からんぞ!」

「うぅ~……だ、ダメだ! やっぱり、我慢出来ん!」

「あ、姉者ぁ!」

 

 秋蘭が何と言おうと、私は自分の本能に従う!

 男など不要! 私達が華琳様のお傍にいればいいのだ!

 だから、北郷! 覚悟しておけ!

 

 

【秋蘭】

 なぜ私は、こんな摩訶不思議な空間にいるのだろうか。

 出立前に華琳様は、私達に男を近付かせない様にと言っていた。私達もそれを了承していた。

 だが、蓋を開けてみればどうだ? 姉者も本気で行動しようとしていない。幾分かは本気のようだが。

 そして、華琳様だ。華琳様の行動が、一番おかしい。

 甘やかされて育った高官の息子に、どうしてあそこまで執着する。

 孫策と周瑜とやらと会話をしていた北郷に、椅子を勧めた。ここまでは、おかしな事は一つもない。

 疲れから御子様を落としでもしたら、大変な事になるからな。

 だがその時の華琳様は、姉者をからかう時のような。面白い事を思いついた時の顔をしていた。

 

 それに、庭での一幕もそうだ。姉者が北郷を蹴り飛ばし、華琳様が北郷に近付いて何かを話していた。

 その様子を後ろから見ていた私は、既視感というか、酷く懐かしい光景を見ている気がした。

 ……おかしなものだ。今日始めて北郷を見たと言うのに、懐かしいと感じるなど。

 おっと。力が緩んでいたか。

「姉者! 頼むから、今だけは辛抱してくれ!」

「ダメだ!」

「後で、姉者が華琳様に怒られるのだぞ!」

「おしおきなら、かまわん! むしろ、嬉しい!」

「おしおきで済まないと、なぜ考えない?!」

「華琳様は、私を愛してくれてるからだ!」

 

 ああ、ダメだ……。今の姉者に何を言っても、無駄のようだ。

 北郷、骨は拾ってやる。だから、姉者を止められない私を恨むなよ?

 

 

 雪蓮・冥琳side

【雪蓮】

 今、私が腕を組んでいる男は、本当に不思議な男だと思うわねぇ。

お父様に面白い物が見れると言われて、外で隠れて見てたけど、まさか公正な判断で有名な北家当主と、厳格な曹家当主が。ねぇ?

 でも私が一番面白いと思ったのは、御子様を肩車していた男の子ね。普通、頼まれたからって、後の帝を肩車なんて出来ないわよ!

 それに、第二位の劉協様をその腕で抱えてるなんて。きっと、この子は将来大物になるわ。私の勘がそう言ってるもの。

 

 でも、何でかしらね。

 北郷が曹操達と入ってきた時。何も話してないのに、近くにいるのが当然だと言わんばかりの雰囲気は。

 それを感じたら、邪魔をしたくなっちゃったのよね。だから、思わず背中を軽く撫でたんだけど……堪らないわね。

 でも、何で私は北郷の腕を抱えてるのかしら? 最初は曹操と一緒になって北郷をからかおうと思ったんだけど。

何だか、安心出来るのよね。そう、昔から知ってる様な懐かしさと、暖かさを感じるのよね。

 冥琳も、何時もと様子が違うし。本当に不思議な男の子ね。でも今は。

 

「ねぇ、北郷」

「何ですか、孫策さん。それと、そろそろ腕を放しませんか? そうすれば、曹操さんも――」

「じゃあ私が離しても、曹操が離れなかったら、またしてもいいのね?」

「いえ、何でもないです……好きにして下さい……。それで、何ですか?」

「ん。やっぱり、私達。どこかで会ってない? そんな気がするのよね」

「孫策さんの気のせいじゃないですか? 僕は、孫策さんに会った覚えありませんよ?」

「そうよねぇ。でも、私達会ってる気がするのよねぇ……。何でかしら?」

 

 私の言葉に、北郷は首を傾げるだけ。まあ、北郷に聞いても答えが出る訳ないわね。だって、本当に私にも分からないし。

 まあ、今はいいわ。逆に曹操がいるのは、何だか気に食わないけど。

 それでも、北郷の腕を離すって選択肢には負けるしね!

 

 

 

【冥琳】

 目の前の光景を見ていて、私は自分が自分でいられない錯覚を覚えていた。

 北郷の笑みを見てから私はもちろん、雪蓮の様子もどこか違う。建業を出立する前の雰囲気に、どこか似てるのだ。

 そう、夢の話をしていた時の雰囲気に。夢の中で見た男も、北郷の様な暖かい笑みを浮かべていたのではないか?

 夢の中の男の顔は分からないが、目の前の北郷と夢の男。この二人は、どこか雰囲気というか……暖かさが似てる気がするのだ。

 ――ふっ。私らしくもないな。頭ではなく、感覚で考えるなど。

 しかし、本当に不思議な男だ。曹操は男嫌いと聞いていたが、そんな様子は微塵も感じない。夏候姉妹も、男を曹操に近付けたがらないと、孫堅様も言っていたな。

 今はそんな事は関係ないな。私らしくもないが、今は自分の欲に忠実になるのもいいかもしれない。

 

「なあ、雪蓮。そろそろ、私と変わってくれないか?」

「やーよ。何だか、ここ安心するんだもん」

「ちょっ、周瑜さん!? あなたなら、止めてくれると思ったのに! 僕の気持ちを裏切ったね!」

「いや北郷、しかしだな……。何故だか分からないが、私もお前と腕を組んでみたいと思ったのだ。……しかし、今は雪蓮も曹操も離れる気はないみたいだな。

 私は諦めるとしよう……。残念だがな」

「……喜んでいいのかな? 現状が変わってないんだけどなぁ~……」

 

 うな垂れる北郷が、少し可哀想にも思えるな。だが、今の雪蓮を止める事は出来ないんだ。

 お前がいなくなった後の事を考えると、私は被害を被りたくないのでな。許せ、北郷。

 

 

 一刀の周りが騒がしくなってから少しして、外でやりあっていた曹嵩と北狼が部屋に戻ってくる。

激しく殴り合っていた筈なのに、二人の服に少しも汚れも乱れもない。

 二人の様子を見た劉宏と孫堅は、まあ何時もの事かと何も聞かなかった。

 しかし、戻ってきてから目にした光景は、曹嵩からしたら唖然としてしまう物だった。

 

「……俺の娘と夏候姉妹は、男を嫌ってるはずなんだが……。おかしいな」

「俺にも分からん。内の娘も、北のの息子と顔をあわせてから、何か変なんだよな。その親友もな」

「朕にも分からぬ。……朕の息子達も、北のの息子の膝の上で、楽しそうに笑っておるしな。あんな笑顔は、初めて見たぞ」

「……またか」

 

 三人の父親は、娘と息子達が見せる光景に驚く事しか出来なかった。だが北狼だけは、仕方ないなと苦笑を浮かべていた。

 一刀が周りに視線を向ける様になってからは、よく見かける光景の一つだったからだ。

 行き急いでいたと言えばいいのか。別段、民に向ける視線が暗い物ではなかったので、民には嫌われも好かれもしていなかった。だが、心の余裕が出来てからは、雲泥の差が出たのだ。

 困っている人がいれば、出来る限りの手助けをし。自分に無理だと判断すると、警邏の兵に声を掛けて説明する。

 商人とも、楽しそうに話していると、峰から聞いている。時間があれば、民の子供達と遊んでいるとも。

 洛陽の民に、酷く慕われている。親として、これ程嬉しい事はないのだろう。報告を聞く時の北狼は、親バカ全開な笑顔を浮かべているのだから。

 

「まあ、一刀のこれは何時もの事だ。気にするだけ無駄だぞ」

「あー、北の。お前の息子……郷だったか? どうだ、娘の婿にくれんか?」

「孫の。さっきも言ったが、一刀を婿にやる気はないぞ」

「いや、だがな。こう言ってはなんだが。雪蓮は、そこらの男よりも強くてな。嫁の貰い手がないと思うんだ。だが、あの様子なら、問題ないと思うんだが」

「待て孫の。北の……さっき言った事を取り消そう。どうだ、華琳の婿に。いや、くれ。死ぬ前に孫を見たい。いいだろ?」

「取り消すのは勝手だ。だが、一刀は婿にやらん。北家を継いで貰うんだからな」

「うむ、それがいいな。朕の息子達の、よき友人、よき忠臣となろう。みすみす、遠くにやる必要はない」

「だがなぁ……。そうだ! 雪蓮に冥琳もつけよう! どうだ! 武と知に長けた妻達だぞ! それに、来る途中に民に話を聞いた限りでは、民にも好かれてるそうじゃないか。ちゃんと民に目を向けれるなら、最高の婿だからな」

「む……。一刀は、確かに武と知には長けているが、天賦の才はないらしい。それを補ってくれる妻か……悪くないな」

「では、曹家の勝ちだな。華琳は全てに優れる天才だ。夏候姉妹も俺が見た所、そこまで郷を悪くは思ってないみたいだしな。それだけの男ならば、時間をかければ良さに気付くだろう。どうだ?」

「それもいいな……」

「何度も言わせるでない。北のの息子は、朕の息子達と離さんぞ!」

 

 

 一刀と娘達が繰り広げる一幕を見て、勝手気ままに将来設計を企てる親四人。

 最初は一刀を婿にやらんと言っていた北狼だが、峰の言葉を思い出してから一転。支える事が出来る嫁を探す事にしていたので、これ幸いと孫堅と曹嵩の話に乗っかる。

 帝の忠臣と言うのも捨てがたい。だがしかし、それは支えあう関係にはならないなと、意識的に除外していた。

 

 父達の会話が、嫌でも聞こえる距離にいた子供達と言えば。

 

「と、私の父上は言ってるけど、北郷……もういいわ。真名を交換しましょう。私は華琳、あなたは?」

「か、華琳様! 男などに真名を預けるなど!」

「黙りなさい、春蘭! これは通過儀礼なのよ!」

「ですが!」

「……私のいう事が聞けないのかしら?」

「そういう訳では……」

「では、いいわね? それで、北郷の真名はなんて言うのかしら?」

 

 華琳の言葉に春蘭が食らいつくが、一喝して黙らせ再度聞き返す。

 それに、我幸いと雪蓮達も乗る。

 

「それもそうね。ここまでしておいて、真名を交換してないのもおかしな話よね。私は雪蓮よ、よろしくね?」

「ふむ。たまには、雪蓮もいい事を言うな。私は冥琳と言う。今後ともよろしくな?」

「諦めろ、姉者。こうなった華琳様が、止まらないのを知っているだろ? 華琳様が預けるならば、私も言わない訳にはいかないな。私は秋蘭。これから、何かと苦労するとは思うが、よろしく頼む」

「う~……。私は春蘭だ! いいか、仕方なくだぞ! 私だけ交換しないのは、不忠だから交換しただけだからな!」

 

 一気に真名を言われた一刀だったが、いいのかなぁ~と思っていた。

 

 

(曹操さんは通過儀礼って言うし、孫策さんはここまでしてって言うけど……。僕と腕を組んでるだけでしょ? あれ、普通しないよね? 僕達、初対面だよね? ……あれ?)

 

「どうしたのかしら? 北郷、あなたの真名は?」

「いや、曹操「華琳よ」さん……。いや、でもね? そう「華琳!」……分かりました。華琳さん、これでいいですか?」

「さんもいらないわ。同い年だし、親も仲がいいみたいだしね」

「はぁ……。僕の姓名は北郷、真名は一刀です。皆さん、宜しくお願いします」

「むぅ……。べんのまなは――」

「弁! 真名はいかんぞ!」

 

 置いてきぼりにされていると感じた劉弁が、真名を口にしようとした瞬間、父である劉宏がそれを厳しい声で諌めた。それに、何かを思い出したのか、うな垂れながら謝る劉弁の姿があった。

 

「あ……ごめんなさい、とうさま……」

「分かればよい。すまぬな、北のの息子よ。朕達、天子の一族は、真名を伴侶以外に教えてはいかんのだ。許されよ」

「いえ、気にしてませんから。それと、弁もありがとうね? 教えてくれようとして」

「いいのじゃ! ごうと余はゆうじんじゃからな!」

「だぁ~!」

 

 その言葉が嬉しくて、一刀は笑顔で頭を撫でながら「うん、そうだね」と答えていた。

 劉弁と劉協を気にしていた為に、気付かなかった。一刀の真名を聞いてから、今まで騒いでいた娘達全員が押し黙っている事に。

 

 

 気付けば、一刀の腕は解放され。各々が、何かを思い出そうとしているようだった。

 

「ん? 皆、どうしたんだろうね?」

「余にはわからんぞ?」

「華琳達はどうしたと言うんだ?」

「俺に分かるか。北の、分かるか?」

「いや、分からん。宏の……も分からないよな」

 

 北狼が聞く前に、劉宏は首を振る事で答えていた。

 

 華琳達が考えている事は、全く同じ物。それは、『北郷……一刀……?』と。

 何かを思い出せそうで、思い出せない。出そうで、出ないというもどかしい思いをしている華琳達。そして、その娘達を見守る父の姿が部屋にはあった。

 だが、二つの声で、それは破られる。

 

「がーはっはっはっは! どうじゃ、麗羽! これが皇宮じゃぞ!」

「おーほっほっほっほ! 素晴らしいですわ! 何が素晴らしいって、兎に角素晴らしいですわ、お父様!」

 

 ……声が聞こえた瞬間、劉宏は頭を押さえ。北狼は、冷や汗を垂らし。孫堅は、嫌だ嫌だとばかりに頭を左右に振る。曹嵩は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

「おい、袁家に教えたのは誰だ……」

 曹嵩が静かに聞くと、劉宏と孫堅は首を振り……北狼だけが、視線を横に流していた。

「そうか、北の。お前が教えたのか……」

「いや、しかしだな。お前達が袁家を嫌ってるのは知ってるが、立場上、聞かれたら教えない訳には――」

「黙れ。いいか、嫌ってるんじゃない。あの笑い声を聞くと、虫唾が走るんだ。存在を許したくないんだ。……分かるか?」

 

 

 曹嵩の雰囲気に、北狼は首を縦に振る事しか出来ないでいた。先程までの、和やかな雰囲気は綺麗に消え去り、曹嵩がかもし出す雰囲気だけが充満していた。

 何時もなら嫌がるはずの華琳達は、考えに没頭している為か反応しない。雪蓮と冥琳も、同じ状態の様だ。一刀と劉弁だけが、「え、何? この笑い声……」と右往左往していた。劉弁と劉協を抱えたまま。

 

「悪いが、帰らせてもらうぜ? 雪蓮と冥琳を、あいつに会わせたくないんでな」

「すまないが、俺も帰らせてもらおう。既に華琳達は手遅れだが、会わせないに越した事はないからな。それと北の。さっきの件、よく考えておけ。冗談で済ませる気は、俺も孫のも無いからな? ――劉宏様、下がらせて頂きます」

 

 曹嵩の言葉に、頷く事で答える北狼。まだ、先程の恐怖が抜けきってないようだ。

 頷いたのを見て、曹嵩は華琳と秋蘭を腕に抱え、春蘭を背負うと部屋を出て行く。

 

「まあ、気にすんなって。お前は悪くないんだからよ。まあ、まだ洛陽にはいるから、今度お前の家に行くわ。んじゃ、またな。劉宏様、失礼致します」

 

 一言残して、孫堅両腕に雪蓮と冥琳を抱えて、部屋を後にした。

 部屋に残ったのは、何が起きているのか分からない一刀と劉弁。まだ頭を抱える劉宏。一刀を会わせてもいいものだろうかと、悩む北狼が残っていた。

 

(このまま、部屋を間違えてくれないかなぁ~。無理だよなぁ~……あいつの家系って、変に運あるし……。すまん、一刀。不甲斐無い父を許せ!)

 

 覚悟を決めた北狼は、袁家に一刀を会わせる事を決意した。最後に謝っているが、あの家族が巻き起こす惨状を知っているだけに、諦めたとも言える。……逃げても、見つかりそうだしと。

 

 

「お、ここだ! ここの部屋の気がするぞ!」

「あら、奇遇ですわね、お父様。私も、ここの気がしますわ!」

(やっぱり、ダメかぁ……)

「失礼致しますぞ、皇帝陛下!」

「失礼致しますわ!」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは、金色の鎧を身に纏う、金髪で男爵ヒゲを生やした男が一人。金色の服を身に纏い、そんなに長くない金髪を、無理やり巻いている女の子が一人。

 

「う、うむ。よくぞ、参った。袁成、袁紹よ」

「ようこそ、袁家の皆様……」

「なんじゃ、なんじゃ! 曹嵩も孫堅も帰ってしまったのか! ならば、もう少々早く来ればよかったの! のぉ、麗羽!」

「そうですわね、お父様! 私も、久しぶりに華琳さんに会いたかったですわ! それに、江東の虎と呼ばれる孫堅様の娘さんにもお会いしたかったですわ!」

「そうじゃろう、そうじゃろう! おい、北家! なぜワシらが来るまで、待たせておかなかったのだ! まったく、何時も暗いのぉ! そんな事だから、仕事の一つも出来んのだ! もっとワシを見習え、ワシを! 三公を輩出した袁家のワシをな!」

(あんたが来たから、二人共帰ったんだよ……)

 

 

「ああ、そうですわ! 北家の嫡男は、神童と呼ばれてるそうではありませんか! で・す・が! 神童とは、私の様な! いいですか? 私の様な、将来の袁家を担う者にこそ、相応しいのですわ! そうは思いませんか? お父様!」

「うむ! 全くもって、その通りじゃ! さすがは、麗羽! よく分かっておるではないか! して、その息子とは、どこにおるんじゃ?」

「はい……僕が北郷です……」

「あら、あなたでしたの? どうして、そんな隅っこで座ってらっしゃるの?」

「いえ、ちょっと圧倒されてしまったので……」

(分かる! 分かるぞ、一刀! だが、これはまだ序の口なんだ! 袁成は、まだまだこんなもんじゃないんだ!)

「圧倒? ああ、それも仕方ないですわね! 知らずに出てしまう、高貴な雰囲気に圧倒されてしまったんですわね!? それは、申し訳無い事をしましたわ!」

「それもあるんですけど……。どうしてお姉さんも、そこのおじさんも。そんなに無理してるのかなって」

「な、何を言っておる!? ワシは無理などしておらんぞ!?」

「そ、そうですわよ!? こ・れ・が! 私、袁紹ですわ!」

「ん~……ごめん、弁。また今度ね? ちょっと僕、このお姉さんとお話してくるから」

「わかったのじゃ! ごうはらくように、すんでるのであろう? ならば、余のなにちかって、くることをゆるすぞ!」

「うん、分かった。またね? じゃあ、父上。ちょっと外に行ってくるね。行くよ、お姉さん」

「ちょっとお待ちなさい! 一体、何ですの!?」

 

 ずっと腕に抱えていた弁を下ろし、協を任せた一刀は、袁紹の腕を取って部屋から出て行った。

 それを見送った後、北狼が気になったので、聞いてみる事にした。

 

「それで、袁成様。無理をしているのですか?」

「何を言う、北家! ワシは無理などしておらんぞ! がーはっはっはっは!」

(……俺もまだまだだな。やはり、子供の感性は凄い。いや、一刀の人を見る目がいいのか? どっちにしてもこの人が、何かに無理してるのが分かっただけ、ましか)

 

 

「ちょっと! どこまで行きますの! いい加減、お手を離しなさいな!」

「ん、ここなら大丈夫かな? で、お姉さんは、何で無理してるの?」

 

 一刀に手を引かれ、部屋から大分離れた場所で、先程と同じ質問をする一刀。

 

「だから、先程も言いましたでしょ? 私は無理などしていないと!」

「でも、お姉さんが笑ってる時、目が笑ってないよ? 本当に嬉しそうに笑う時って、目も笑うでしょ?」

「いいえ! いいえ! 私は、心の底から笑ってますわよ!」

「ダメだよ、お姉さん。嘘を吐くとね、静かに話す事が出来ないんだよ? さっきから、大きな声を出してる。だから、嘘だよね?」

(何ですの!? 何でこんな子供が、こんな目をするんですの!?)

 

 袁紹は、一刀の目に恐怖を覚えてしまった。どこまでも深く、自分の心の底まで見通している様な目を。

 袁紹・麗羽が感じてしまったのは恐怖だが、それだけではなかった。どこまでも広く、自分を包み込んでくれると錯覚させる、暖かさをも感じていた。

 今までの自分が、根底から否定されてしまう。そんな錯覚を覚えてしまったのだ。

 だからこその恐怖と安心感という、相反する感情を抱いてしまった。

 

「ねえ、お姉さん。僕でよかったら、話を聞くよ? だから、どうして無理して笑ってるのか、教えてくれない?」

「……ですわよ」

「え?」

「うるさいですわよ! あなたの様な子供に、何が分かると言うんですの! 名家に生まれた私は、生まれながらに将来を渇望されてましたわ! 出来て当たり前、出来なければ恥さらし! 袁家も私でお終いと! お父様はああいう性格でも、ちゃんと治世をしていて、問題視されておりませんわ! あなたに分かって?! そんなお父様と比較され続ける私の辛さが!」

「お姉さん……」

 

 

 気付けば麗羽は、話していた。今まで誰にも言った事の無い、思いの内を。一刀の目に見つめられ、我慢出来なかったのだ。 澄んだ目に見つめられ、何も辛い事を知らず安然と過ごしてきたお坊ちゃまに、世の醜い部分を教え、少しでもその目を曇らせてやりたいという、嫉妬にも似た感情と共に。

 だが、一刀は。

 

「ごめんね、お姉さん……僕、そういう人達がいるなんて知らなかった。辛かったよね。そんな中で、一人で頑張ってきたんだから」

「あなた……」

「でも、これからは一人じゃないよ。僕がいるしね? それに、華琳さん達に話せば、絶対に助けてくれると思うよ? だから、もう無理しないでいいんだよ」

 

 一刀は、麗羽の頭を優しく撫でながら語る。顔に笑顔を浮かべて。

 

「……あぁぁぁぁ! 辛かったんですわ! 本当に、本当に……!」

「うん……うん……」

 

 自分に向けられる優しい笑みと言葉に、麗羽は思った。自分は、もう無理をする必要はないのだと。自分に、なんの才能も無い事には気付いていた。だけど、生まれた立場がそれを許してくれなかった。だから父の真似をして、バカな者だと周囲に思わせる様にしてきた。だけど、もう本当に無理をしなくていいのだと、心から感じる事が出来たからこそ出た――涙と嗚咽だった。

 

 なぜ九歳の一刀が、麗羽が無理をしている事に気付く事が出来たのか。それは峰や仲のいい洛陽の人々が教えてくれた、自分とそっくりだと思ったからだった。

 無理をしている人は、殆どの人が同じ様な雰囲気を出すと峰は教えていた。

 だからこそ、一刀は袁親子が無理をしている事に気付く事が出来たのであった。

 

 

 地面に座り込み泣く一人の女性と、それを慰める一人の少年。それはあたかも、一枚の絵から抜き出てきた風景の様で。戻ってこない麗羽を心配して見に来ていた袁成は、柱に隠れながら一筋の涙を流していた。

 

 泣き疲れて眠ってしまった麗羽を、どうしたらいいのかと考えていた一刀だったが、そこに袁成が来て、一言だけ礼を言ってその場を後にした。

 なぜ礼を言われたのか分からない一刀だったが、袁成からも無理をしている感じが消えていたので、笑みを浮かべて見送った。

 

 

 それから少しして、劉宏との話が終わった北狼が一刀を迎えに来たので、一緒に戻っていった。

 家で夕食を取りながら、今日の出来事を楽しそうに話す一刀を見て、北燕も笑顔で聞いていた。

 洛陽の夜は、こうして静かに過ぎて――。

 

「ああ、一刀。お前に、許婚が二人……いや、五人か。出来たからな」

『ええぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 行く訳が無かった。

 北家以外の二箇所でも時を同じくして、驚きの声が夜空に消えていく。

 

 

 外史の歯車は、また一つ回る。

 悲しみの連鎖を止め、乙女達の涙を止める為に――。

 

 


 
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