「御馳走様♪相変わらず美味しかったよ、お婆ちゃん♪」
「そうかい、そりゃ良かった。また、いつでも食べにおいでね」
「李の収穫手伝って有難うな、雪蓮ちゃん」
「うん、絶対また来る♪それじゃね~♪」
雪蓮人懐っこい笑顔でとある老夫婦に手を振った。
軽くお腹をさすり、上機嫌で南陽の街中を鼻歌混じりに歩く。
(やっぱりお婆ちゃんの麻婆は最高ね♪・・・・あら?)
ふと視線に留まったのは、広場近くの食事処。
舜生親子の店であった。
通り沿いの一番端の席周辺に子供達が不自然な程集まっていたのである。
雪蓮にとって子供達は縦横無尽に走り回っている印象が強かったが、特に談笑に耽っている訳でもなく、地べたや椅子に大人しく座り込んでいる。
そしてその中心にいたのは、
(・・・・白夜?)
そう、白夜であった。
彼が何かを語る度に子供達は一喜一憂し、その瞳を爛々と輝かせている。
「何してるのかしら・・・・気になるわね」
そう呟いて、雪蓮は息を忍ばせながら近づいていった。
白夜の後ろからゆっくりと近づくと、その話の内容が徐々に聞こえてきた。
「――――そこで一寸法師は言いました。『このお嬢さんに手を出すな!!僕が相手だ!!』勇敢な一寸法師は針の刀を麦藁の鞘からすっと抜き出し、自分よりも何十倍も大きな鬼に向かって飛びかかりました」
「すっげ~!!かっこいい~!!」
「それで!?それでどうなったの!?」
「しかし、鬼の肌はとても固く、針の刀ではまるで歯が立ちません。『ふん、生意気な奴め。お前のようなチビ助等こうしてくれるわ!!』鬼はその大きな手で一寸法師を摘み上げると、これまた大きな口をあんぐりと開け、一寸法師を丸飲みしてしまいました」
「ええ!?どうなっちゃうの!?」
「お嬢様が攫われちゃうよ!?」
「しかし、一寸法師は諦めませんでした。『どれだけお前の肌が固くても、柔らかいここならどうだ!!』一寸法師は針の刀で鬼の腹の中をぶすりと刺しました」
「うげ、痛そう・・・・」
「たまらず鬼は叫びます。『痛い、降参だ!!助けてくれ!!』鬼は一寸法師を吐き出すと、山の方へと一目散に逃げて行きました」
「やった~!!」
「すっげ~!!」
「すると一寸法師は、鬼が落としていった何かを見つけました。それは木で出来た、とても綺麗な小槌でした。娘は言いました。『まぁ、これは打出の小槌ではありませんか!』」
「うちでのこづち?」
「なぁにそれ~?」
「『これを振ると、欲しい物が何でも手に入るのです。一寸法師、あなたは欲しいですか?』娘は訊きました」
「ええ!?」
「すっげ~!!俺も欲しい~!!」
「一寸法師は答えました。『私は大きくなりたいです』娘がその小槌を振ると、一寸法師の身体はぐんぐん大きくなり、何と六尺(約180cm)にまでなりました。そして一寸法師は娘さんと結婚し、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
パチパチと子供達から拍手が贈られる。
白夜はいつもの柔らかな笑顔で子供達の頭を撫でたり、先程の物語への質問に答えている。
その顔は慈愛に満ち溢れていて、
(まるで、お父さんかお兄さんみたいね)
やがて子供達は用事があるのか、それとも別の遊びに行く事にしたのか、白夜に感謝の言葉と共に手を振りながら走り去っていった。
白夜もまた手を振り返し、やがて子供達が人混みの中に消えていくと店の女主人がテーブルにお茶の入った茶碗を置いた。
白夜はそれに礼を述べてお茶を一口飲むと、壁に凭れて一息ついていた。
(ちょっと悪戯しちゃお♪)
そう思い至った雪蓮が白夜の背後からゆっくりと手を伸ばそうとして、
「――――で、さっきから何をしてるんですか、雪蓮さん?」
「へっ?」
気付けば、白夜の顔が背後を振り返るようにこちらに向けられていた。
「気付いてたの?」
「随分前から見てましたよね?目が見えないからって、気付かないとでも思ってたんですか?」
「むぅ・・・・何で解ったのよぅ?」
雪蓮はまるで子供のように口を尖らせ、諦めて白夜の隣の席に座る。
店内の客達からの挨拶に答えながら尋ねてみると、
「理由ならたくさんありますよ。例えば、『匂い』とか」
「え゛・・・・私、そんなに匂う?」
慌てて手で口を塞ぎ、腕や肩の匂いを嗅いでみる。
(昨日はちゃんとお風呂に入った筈なんだけど・・・・それともさっきお婆ちゃん家で匂う物でも食べちゃったかしら?)
少々落胆しながら白夜に尋ねてみると、
「ああいや、そういう事じゃなくてですね」
「じゃあどういう事?」
「そうですね・・・・極端な例になりますけど、普段使っている布団の洗濯する前と後では匂いが違うなって思った事はありませんか?」
「ああ、そういえば・・・・」
確かに思い当たる節はある。洗いたての布団はふかふかで、『太陽はこんな匂いなのだろうか?』と幼い頃に思ったものだ。
「十人十色。千差万別。外見や性格が人それぞれであるのと同じで、『匂い』も皆違うものなんですよ」
「ふ~ん・・・・じゃあ、私ってどんな匂いなの?」
「どんな、ですか?そう、ですねぇ・・・・」
『そんな事訊かれたのは初めてですね』と呟き、白夜は苦笑を浮かべながらいつものポーズで暫く考え込み、
「例えになりそうな物が思いつかないので何とも言えないんですが・・・・強いて言うなら、」
「強いて言うなら?」
雪蓮は白夜の顔を下から覗き込むように乗り出して、
「――――――心が暖かくなる匂い、ですかね」
その言葉に、顔が仄かに赤くなった。
「そう、なんだ・・・・」
「すいませんね。上手く言えません」
「ううん、別にいい・・・・って言うかむしろもう言わないで」
「はい?」
「何でも無いのっ!!」
思わず出た大声に店中の視線がこちらに集まり、
「あ、あはは~♪御免ね、何でもないから~♪」
少々ぎこちない笑顔で誤魔化すと、客達は談笑へと戻っていった。
「・・・・私、何かまずい事でも言いました?気にしてたんでしたら謝りますけど」
「ううん、気にしないで。・・・・それで、『例えば』って言ってたけど、他に理由ってあるの?」
「ええまあ。『気配』は勿論『足音』なんかもそうですね」
「『足音』?『気配』はまだ解るけど、『足音』って?」
「足音にも、ちゃんと個性があるんですよ。柔らかかったり硬かったり、大きかったり小さかったり、音と音の間が長かったり短かったり」
「へぇ、考えた事も無かったわね」
そう言って、改めて雪蓮は思う。
「・・・・貴方って、本当に不思議な人よね」
「そうですか?」
「そうよ。普通一人ぼっちで全く知らない異境に放り出されたら委縮しちゃうものなのに、貴方はそんな事微塵も感じさせない。どうして?」
「どうして、ですか・・・・」
白夜は呟いて、何かを思い出すかのように空を仰いだ。
「『うじうじ悩むくらいなら、まず動け。結果なんて、後からいくらでも付いてくるもんだ』」
「それって、ひょっとして・・・・」
「はい、秀雄さんの言葉です」
言いながらこちらを向いた白夜の顔は、何処か誇らしげにも見えた。
「本当に、色んな事を教えてもらいました。お二人から受けた恩は、返しても、返しても、きっと返し切る事なんて出来ないと思います」
言って、白夜は再び空に顔を向ける。まるで、天の国のその先へ思いを馳せているようだった。
「・・・・二人がいなくなって、辛かった?」
つい、呟いていた。その後で『しまった』と口を噤んだが、白夜はさして気にしていないようで、
「前にも言いましたが、『辛く無かった』と言えば嘘になります。最期を看取った時は、笑顔を作るのに必死でしたね。きっと、酷い泣き笑いになっていたと思います」
白夜は左ポケットから懐中時計を取り出した。蓋を開け、嵌めこまれた写真の表面にそっと指先で触れる。
「・・・・雪蓮さん、言ってましたよね。『この街をどうしたいのか、自分なりの答えを見つけろ』って」
「うん、言ったけど・・・・見つかったの?」
「まだ、漠然とですけど」
「そう・・・・聞かせてくれる?」
「・・・・秀雄さんも、幸子さんも、私に嬉しい事があると、一緒に笑ってくれました。私が間違った事をすると、本気で怒ってくれました。私が泣いていると、優しく慰めてくれました」
「うん」
「ある日、お二人に話した事があったんです。・・・・私の、孤児院時代の事を」
「・・・・うん」
「お二人は、本当に真摯に聞いてくれました。そして、私が話し終えた後、秀雄さんはこう言ってくれたんです――――」
白夜、よく話してくれたな。怖かったじゃろ。
―――――・・・・うん。
・・・・一つだけ、訊かせてくれんか?
―――――なに?
お前さんは今でも、『産まれて来なきゃ良かった』と思っとるのか?
―――――・・・・(ふるふる)
白夜、今から儂が言う事を、よく覚えておきなさい。
―――――・・・・(こくり)
人はいつか必ず死ぬ。寿命じゃったり、病気じゃったり、怪我じゃったり、早いか遅いかも、人それぞれじゃ。選ぶ事は出来ん。
―――――・・・・・・・・(こくり)
じゃからな、白夜。儂はこう思うんじゃよ。せめて最期の時に『産まれてきて良かった』と心から思えるように生きたい、とな。
―――――・・・・死んじゃうのに、『良かった』って思えるの?
・・・・まだ、お前さんにはよく解らんか。じゃが、覚えておいてくれ。いつか、解る時が来るからな。
「・・・・・・・・」
「言葉の意味を理解した今でも、何をどうすれば『良かった』と思えるのかなんて、未だに解りません。でも、お二人のおかげで私はこうして『今』を生きてる。少なくとも、『産まれて来なけりゃ良かった』なんて、もう思ってません」
「・・・・うん」
「死ぬ事は辛いし、悲しい事です。『死んだ方がましだ』と言ってはいても、心の底から死にたいと思っている人なんて、いる筈がない」
「・・・・うん」
「でも、昔の私のように、『生きているのに死んでいる』人がいる。生きる希望を失い、生きているのが辛いと感じている人がいる」
「・・・・・・・・うん」
「だから、私は少しでも多くの人に『生きて』欲しいんです。仕事でも、趣味でも、夢でも、どんな小さな事だって構いません。『生きている喜び』を、見つけて欲しいんです」
「・・・・・・・・うん」
「万人を救えるなんて、思ってはいません。それでも、その為に出来る事があるなら、私はどんな苦労も厭いません。お二人が私にそうしてくれたように、私もこの街の、優しい人達の力になりたいんです」
『なんか、上手く言えなくて御免なさい』と、苦笑を浮かべる白夜を見て、
「・・・・そっか♪」
雪蓮は、嬉しかった。白夜は言ってくれたのだ。
この街の人々を『優しい』と。
彼等の力になってくれると。
その為の努力を惜しまないと。
「ありがと、白夜♪」
(――――私達の下に来てくれて)
続く言葉は心の中に、雪蓮は立ち上がる。
「そろそろ行くわね♪お昼食べに出て来ただけだから冥琳も待ってると思うし」
「そうですか。すいませんね、殆ど私が話してばかりで。気分転換にならなかったでしょう?」
「ううん、むしろやる気出てきちゃった♪あ、そうそう。祭と藍里から聞いたんだけど」
「はい?」
「白夜、貴方武術が使えるってホント?」
「ああ・・・・ええ、まあ一応。『護身術』として学んで、多少我流を加えてますけど」
「じゃあホントなのね♪それじゃ、今度私と手合わせしてみない?」
「ええっ!?雪蓮さんとですか!?」
「そ♪貴方の国の武術なんでしょ?それに下っ端とはいえ黄巾党の三人組相手に圧倒的だったそうじゃない♪」
「えと、あの時は頭に血が昇ってて無我夢中だったと言うか、それに私のはあくまで『護身術』であって、雪蓮さんの望んでいるようなものとは――――」
「関係なし♪」
「ちょ、そんな――――」
「それじゃね~♪楽しみにしてるから~♪」
呆然としている白夜を後に、雪蓮は城への道を走りだす。
足取りは軽やかに鼻歌を口ずさむ。
上等な酒を飲んだ時のような、不思議な高揚感。
(ちょっと、本気で狙っちゃおうかしらね~♪)
俄かに芽生えた暖かな感情に、孫呉の王は心を躍らせるのであった。
(続)
後書きです、ハイ。
今日、久し振りにまともに太陽の下を歩きましたwwww
最近午前5時くらいにならないと眠れず、起きるのは午後4時くらいの生活が続いております・・・・
後1週間で大学始まるのに、ヤバいなぁwwww
なんとかせねば・・・・
さて、取り敢えず『雪蓮√』完成しましたのでうpしました。いかがでしたか?
この話は結構前から『書こう』と思っていたので存外早く書けました。
で、残りのメンバーなんですが、
未だに決まっておりません、ハイ。
このままではどうにも先に進めそうにないので、アンケートを取りたいと思います。
1、冥琳
2、祭
3、穏
4、藍里
上の4人から『2人』選んで下さい。いいですか、『2人』ですよ?
取り敢えず期間は2日程を考えております。
1人で何回もコメントとか、止めて下さいね?
閑話休題
前回のポケモンのニックネームの答え、一応乗っけときます。
てばさき、まるお:まんまですねwwww
ここあ:ミロカロス → ミロ → ココア → ここあ
おおわだ:バクーダ → バク → 大和田 獏 → おおわだ
ひでよし:キノガッサ → キノ → 木下 → 木下藤吉郎(豊臣秀吉の幼名) → ひでよし
ばんだり:ラグラージ → ラージ → ラジバンダリ(お笑いコンビ『ダブルダッチ』の外国人キャラ) → ばんだり
ま、ぶっちゃけどうでもいいですねwwww
それでは、次回の更新でお会いしましょう。
でわでわノシ
・・・・・・・・俺は断然『緑のたぬき』派です。
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では、どうぞ。