No.133611

真・恋姫†無双魏√EDアナザー 外史の統一者3-14

sionさん

リアルが忙しくてこれなかったんだ!ごめんなさいorz
今回で董卓編終了です。さりげなく雪蓮たちの出番が少ない・・・これは呉√なのかという突っ込み話で!それでは
楽しんでいただければ幸いです。

2010-04-01 11:46:18 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:58280   閲覧ユーザー数:23609

虎牢関を陥落させ、連合軍の一部、劉備、曹操、孫策、公孫瓚軍は洛陽へとその足を進めていた。袁紹や袁術等も洛陽へ行こうと軍を動かそうとはしたが、袁紹は総大将として他の諸侯の動きを統括しなくてはいけないこと、そして虎牢関で受けた傷があまりにも大きかったことが原因で軍を動かすことが出来なかった。

 

特に、文醜がいまだに動けないのが痛手となっていて指揮系統そのものも機能していないのが効いた。袁術の方は雪蓮が上手く丸めこんだので満足そうな笑みを浮かべ、蜂蜜水を飲みながらお留守番だ。つまり現状、雪蓮や桃香達の企みに邪魔なのは曹操軍だけとも思えるが、曹操軍は曹操軍で虎牢関の一番乗り、及び張遼の生け捕り、そして連合軍の将校たちが突破できなかった虎牢関を一度目の交戦で落としたことで十分すぎる名声を得ていたためか、その動きこそ流石といえるきびきびとしたものだったが積極性は見受けられなかった。

 

「どうやら、曹操のところは今回の連合において必要だったものがそろったと見えるな。洛陽のことに関してはあまり手を出してこないと見て良いでしょう」

 

クイッと眼鏡を上げながら冥琳は冷静に下し、その意見に穏も普段浮かべている笑みをそのままにそうですねぇ~とのんびりとした返事を返す。

 

「ま、それならこっちとしては助かるんだけどね。桃香達が董卓を擁すのを咎められなくていいし」

 

「むしろ向こうもそれが分かっていて放置してくれているのかもしれないわよ?雪蓮」

 

「うぇ・・・こっちの情報が筒抜けになってるかそれを洞察できちゃうってこと?」

 

いやになるわ~と雪蓮が呆れながら笑みをこぼしそれを見て冥琳もクスリと微笑む。今この場に残っている将は一刀、穏、雪蓮と冥琳そして恋の五人だけ。思春と明命、そして説得役にねねの三人は一足先に洛陽へと向かい、祭と蓮華は南陽へと戻り下準備拵えに行った。

 

「まぁ、私たちにできる仕事はもうないし、あとは孔明ちゃん達の頑張りをのんびりとみていましょう?・・・どうやら曹操もそのつもりみたいだしね」

 

「そのようだな」

 

目の前にはようやく展開を追え陣を作成して、何故か行動を起こさない曹操軍の姿、そして桃香達に変わり義勇軍をも纏めている公孫瓚軍の姿。

 

「けど~今回の連合は董卓さん達には申し訳なかったですが私たちにすればかなり有意義なものとなりましたねぇ~」

 

「まったくだな、しかしそれも綱渡りだったから私としては二度目はごめんよ」

 

穏の言葉に冥琳は肩をすくめながら返す、そのすぐ前には恋と一緒に馬の手入れをしている一刀の姿。

 

「自分の馬ならともかく、あれは将の仕事ではないわよねぇ」

 

「それがあれのいいところだと知った上で言っているのだろう?雪蓮。微笑ましくはあっても不快なものではない、それに北郷は仕事もしっかりとこなしているからな・・・誰かと違って」

 

 

 

一瞬で悪くなった旗色に雪蓮は冷や汗を流す。向けられる視線は冷たく呆れの色を帯びていて、上手く出ない言葉にどうしようかなぁと視線を泳がせる。普段ならばここで巻き込めたり冥琳をからかえる祭がいるのだが、今現在祭の援軍は望めない。

 

「え、えぇ~と・・・私はちょっとこれからのことを考えようかなぁ、なんて」

 

てへっと舌を出して笑いかければ、冥琳はいつものようにこめかみを指で押さえ上がら溜息をひとつつく。

 

「考えるのはいいけど、その後ろ手に隠しているものは私に預けてからにしてほしいものね」

 

強張る体、冥琳の視線を受けて頷きを返しススっと動く穏、あっという間にかすめ取られるお酒。尤も、お互いにさじ加減は熟知している、だからこそのこのやり取り。

 

「はぁ、いいわよ~だ。・・・ま、けど本当にね」

 

ゆっくりと思考を張り巡らせる。考えることは呉の大地、母から譲られた広大で熱い土地。今は自分の手の中に無い大事な場所。それがあと一息で手に入る、否取り戻せる。考えるのは袁術のこと、どうしてやろうかと何度も何度も彼女を打ち倒す。

 

涙目でのじゃ~と叫ぶ袁術に不覚にも剣が鈍った自分を叱咤にしながら。考えるのはその先のこと、今回の一件で完全に失われた漢王朝の権威、乱世が始まる、動乱の時が。自分はそこに名乗りを上げる、そう考えると自然と身体が熱を帯びる。

 

「雪蓮?」

「・・・あ、一刀」

 

気付けば目の前に会った一刀の顔、心配そうに見つめてくるそれが今たまらなく愛おしいと感じられた。初めはわけのわからない情報から。知ればこの男は穏と同等の仕事が任せられる。聞けばこの男は思春の一撃、尤も怒りで大振りになったものだがそれを受けきった。

 

この大地のことで知らないことはないのではというほどに重要な情報をくれる、それは金玉に勝るものだった。汜水関の一件など帝の一族が知っていれば、その側近が知っていればいいほうだろう重要な関の弱点を知りつくしていた。

 

「大丈夫か?なんか良い笑みを浮かべながら色々まき散らしていたからさ」

 

「えぇ、大丈夫よ一刀。心配してくれたの?嬉しいわ~」

 

そしてふと周りを見れば、兵たちは引き攣った緊張の面持ちで立ち、恋は好戦的な目を雪蓮に向けている。

 

「やりすぎだ」

 

呆れたように呟いた冥琳の言葉が、やけに寂しく響いた。

 

 

-side洛陽・劉備陣-

 

「ここに董卓さんたちがいるんだね?」

 

「はい、私たちが調べましたので間違いはないかと。思春様が見張りについてくださったのでここから移動した形跡も見られないそうです」

 

桃香と愛紗と朱里の三人が御供の兵を少しばかり従えて、呉の諜報員明命の案内を受けて洛陽の城、その離宮へとたどり着く。愛紗達が心配そうに桃香を見つめる中、桃香は大きく深呼吸をしてから兵が開いた道を歩く。一歩ずつ確実に董卓達に近づいていく緊張があり、思春が待っている一室へと。

 

「ここにおられます」

 

それだけを告げて思春は報告があるのでとその場を後にした。この先にいるのだと桃香は逸る気持ちを

 

「董卓さん!賈詡さん!いますか?」

 

抑えきれずに突っ込んでいった。苦笑しながら後に続く愛紗と朱里、その三人を信じられない者を見る目で見つめる明命。そして桃香が入ったその部屋では、瞑目して座す小さな女の子、そしてそれを護るように立ちはだかる眼鏡をかけた気の強そうな少女。眼鏡をかけた少女、賈詡は桃香のことを冷たい目で見返して、桃香はそれに対し笑みを浮かべて応える。

 

「・・・僕達を殺しに来た・・・って雰囲気じゃないわね。それならあんな馬鹿みたいに能天気な声でここに入るわけがないから。それで、何が目的?劉協様ならこんな離宮じゃなくちゃんと王座の間で座ってるわよ?」

 

「董卓さんと賈詡さんを助けに来たんだよ?」

 

「はぁ?」

 

信じられない者を見る目で賈詡は桃香を見つめ、桃香はやはり人好きのする笑顔を浮かべてにこやかに手を伸ばす。

 

「ここにいたら殺されちゃうから、だから一緒に行こう?」

 

言葉足らずの説得、けれど瞑目していた董卓は静かにその眼を開けて桃香のことを見つめる。その桃香の後ろから、朱里がおずおずと出てきた。

 

「まず、私どもは今回の同盟に違和感を感じていました。そして洛陽での悪政など事実無根であるという情報を手に入れたのです。そして私どもの目標は争いのない世界、そして一人でも多くの、いえ・・・全ての人が笑顔になれる世界です」

 

「だからね?董卓さんや賈詡さんは悪いことしていないのに殺されるなんてダメだと思ったの、だから・・・一緒に行こう?」

 

絵空事だと笑い飛ばせるだろう、甘いと断じることもできるだろう、言葉だけだとなじることもできるだろう。賈詡はしかし、それらの言葉を呑みこんで桃香を見つめ続ける。

 

「恋さんとねねちゃんや霞さんに華雄さん・・・呂布、陳宮、張遼、華雄の四人はどうなりましたか?」

 

上げる声は静かに、そしてゆっくりと董卓から紡がれた。

 

 

「呂布さんと陳宮ちゃんは孫策さんのところに、張遼さんは曹操さんのところに、華雄さんは・・・」

 

「華雄将軍は虎牢関から洛陽への道で行方不明です。私が手傷を与えたので死んではいないと思うのですが、ここまでの道のり出会わなかったことから傷を癒す為にどこかへと向かったものと」

 

「そうですか・・・」

 

再び董卓が瞑目する、桃香はその笑みを一旦消して出来るだけ真剣な表情となり手を差し伸べる。朱里と愛紗がその両脇に控え、賈詡は心配そうに董卓の肩を抱く。

 

「義勇軍総大将の劉備。そうね、僕達が行くところがあるとしたら貴女達のところだけでしょう。袁家は言うに及ばず、力のない諸侯は初めから除外。曹操の人柄ならまだ分からなくもないけどもうあそこには霞がいる。孫策は現状袁術の子飼い。消去法でも残るのは貴女のところだけ」

 

「なら!『でも!』あぅ・・・」

 

「貴女のところに残って僕たちに何かある?命は助かるかもしれない、けどいずれ尻尾を切るように使い捨てられるかもしれない、僕たちのことを政略の材料にするかもしれない。どう?言葉以外で何か保証できる物はある?僕のことを納得させられる材料が劉備、貴女にある?」

 

問いかけられる声は気丈でなまでにそして冷徹なはず、なのに桃香にはそれが悲痛な叫びにしか聞こえなくて。

 

「保証なんてないよ」

 

目を閉じて言葉を紡ぐ。否定の言葉に乗せるのは一騎当千の猛将を、そして深慮遠謀の智将を魅了した理想と優しさ。

 

「私は誰も傷ついてほしくない、だから私は絶対に人を見捨てない。今は大陸全てをなんて理想だって分かってる。ならせめて!私は目の前にいる泣きそうな女の子を助けたいの!」

 

あぁ、と賈詡は桃香にただ優しいだけの世界を幻視して、本物の馬鹿だと呆れ果てて、その馬鹿さ加減が稀有なものだと認めて自分を嗤う。そして賈詡は思う、どことなくこの馬鹿な女が自分の智を預けた人に似ていると。手段は違うのだろう、体格など雲泥だ。

 

けれどその心の軸を為す中核の部分、優しさと救いの両方を認めた。だからこそ、賈詡は一歩を下がって主君に判断を預ける。自分の中の見極めは終わった、少なくとも下種ではないという理解は出来た。

 

「迷惑ではありませんか?私は大陸全土の大罪人、そう銘打たれました。私を引き入れることで被る不利益もあるでしょう、それをもとに貴女が陥れられるかも知れません」

 

前に出た董卓は瞑目したまま問いかける。震える声音と震える体、その両方がこれまでの敵と晒された日々、それがどれだけこの小さな少女を苦しめていたかを思い知らせる。

 

 

「朱里ちゃん、不利益なんてあるの?」

 

「・・・そうですね。もしバレタとき、孫策さんや曹操さんならいいのですが袁紹さんあたりならそれを理由に危ないことになりますね。曹操さんも状況次第では侵攻の理由にするかもしれません」

 

重い空気が支配する、やはりここでと董卓はギュッっと手を握りしめて自分の無力さを嘆き

 

「それだけなら問題ないね。それに、私が助けたいんだもん」

 

朱里等はそれを嬉しそうに受け入れる。このある時に必要な智の補助は自分の仕事だと割り切っているのだから。愛紗はそれでこそ私の主だと言わんばかりに頷いていて、賈詡は予想できたのか呆れた声音を小さく載せて溜息をつく。明命はこっそり苦笑しながらことの推移を見守っていて。

 

「いいん・・・ですか?」

 

「うん!一緒に行こう?董卓さん」

 

おずおずと顔を上げて目を開き、飛び込んでくるのは桃香の天真爛漫な笑顔とさし伸ばされた腕。一度振り返って親友を見れば苦笑しながら頷きを返してくれた。だからこそ

 

「よろしくおねがいします、劉備さん」

 

董卓は、その腕を掴むことが出来た。

 

「月が納得したのなら僕はついて行くだけね。あ、これからは詠でいいわ。とりあえずちょっと準備があるから待っててね」

 

真名を託すだけ託して詠は控えていた数名の兵士に指示を出し。

 

「私は、月といいます。よろしくお願いしますね。劉備さん」

 

「あはは、桃香でいいよ。月ちゃん」

 

「ちゃ・・・へぅ」

 

そのあとも月の真名を愛紗と朱里、そして居合わせた明命がさりげなく交換しながら、これまでのことについて情報を提供していた。

 

「けど、皆さんが無事でよかったです。本当は兵のことも考えると言ってはいけない言葉なのかもしれませんがそれでも」

 

「あ、なら雪蓮さんにお願いして呂布さんと陳宮ちゃんをこっちに」

 

「何馬鹿言ってるのよ・・・」

 

寂しそうな月を見かねてつい思いつきで言葉を発した桃香に対して、このアホは何だという冷たい視線を向けながら詠が3人の兵を連れて戻ってくる。見れば愛紗はそうでもないが朱里でさえ苦笑いだった。

 

「いい?あんたの軍師は理解しているようだから言わなくてもいいかもしれないと思うけど言わせてもらうわ。僕達は見つかっちゃいけないの、せめてこの連合が終わって董卓という名前を皆が一旦忘れてくれるまで。そのためには目立つわけにはいけないの!なのになに?飛将軍呂布を引きこむ!?第一そんな真似したら孫策との仲も割れるわよ?あんたの所に僕達が行けるのはあんたが誰も名だたる将を今回の争いで引き入れていないからなの!これで華雄か霞に恋、何れか一人でもいたら注目されてそれどころじゃないのよ!」

 

 

ガーーー!と一息に怒鳴りつけるその姿に桃香は身を竦ませながら縮こまり怯える。普段なら愛紗が止めるのだろうが、物言いの正当さと朱里が意見せず苦笑して薄らと冷や汗まで書いているところから甘んじて受け入れる。

 

「はぁ、まぁこう言うのだって理解はしていたけどね。さて、後数分でこの離宮は燃やされるわ。私たちがいた痕跡だけ残してね、董卓と賈詡は火に消えたことにする。さっさと行くわよ?」

 

「詠ちゃん・・・ちょっと」

 

「う、まぁ急いで決めて悪かったわよ、けど時間がないの仕掛けはしちゃったし」

 

月に窘められて少しだけ姿勢を緩める詠、そんな二人のやり取りに和みながらなるべく急いで桃香達は離宮を後にする。しかしここで詠は桃香達に黙っていた。離宮には人がいないとは言ってない、そう二人だけ残っているのだ。といっても、散々邪魔をしてくれた宦官の残党ではあるが。

 

背を向ける、燃える離宮に思うところがないわけではない。けれど月は静かに一度頭を下げて、振りかえることはせずに桃香の後に続く。そして目につくのは星と思春が行う恋の家族の大移動。苦笑しながら動物たちを先導する星と表情を見せないようにする思春。これから変わる環境に不安を抱きながら

 

「どうしたの?月ちゃん」

 

「あぅ、なんでもないです」

 

「そっか、うん・・・じゃあ行こう!」

 

手を引っ張られてつんのめるように走る月、楽しそうに声を上げる桃香の二人だけが妙に印象的だった。

 

オマケside思春&星

 

「何故私が・・・という愚痴くらいは予想していたのですが?」

 

周囲を闊歩する犬、猫、馬、鳥等々の動物たち、これが全て恋の家族。

 

「なに、これの世話をするだけであの武が呉の物になるのなら私は気にせん」

 

「そうですかな・・・」

 

星がいぶかしむように、思春の背中から哀愁が漂っていた。

 

 

-オマケ:詠の妊娠が妄想妊娠?-

 

誰一人、そう僕以外誰も手に入れられなかった物がここに宿っている。詠は柔らかく笑みながら自分のお腹を撫でさすった。あの妊娠が判明した日から、詠の業務は若干緩和され、詠自身も無理はしないようにと心がけていた。しかし

 

「おかしいわね~」

 

「何が?」

 

蜀から派遣された唯一の出産経験者は詠のお腹を見てそう断ずる。それに対して詠は眉根を寄せて問い返し

 

「今4か月よねぇ?」

 

「あの日から考えて4カ月ね。後半年近くの我慢で・・・」

 

詠は相変わらずにこやかにお腹を愛でる。そこに全てがあるのだと言いたげに。

 

「ん~・・・」

 

それに対して紫苑は不思議そうに詠のお腹を見つめる、つまり何が言いたいのかというと。

 

「つわりはあった、胎動はしていると詠ちゃんは言う、月の物も来ていない、胸も少しずつ大きくなってはいる。けど」

 

「・・・?」

 

紫苑はそれでも「ん~」と悩み、不思議そうに見つめてくる詠に対して告げる。

 

「何故お腹が大きくなってこないのかしらねぇ・・・」

 

受胎4カ月、お腹も少しずつ大きくなっていいころ合いだ。なのにその兆候だけがない。他の全ての妊娠の要素を含んでいるのに・・・だ。この時代、妄想妊娠等という事例がまず少なすぎる。されが故にそんな言葉や症状など考えられなくて

 

「もう一度精査してもらいましょう?詠ちゃん」

 

「あ、うん」

 

嫌な予感がする、数か月ぶりに嫌な予感がすると詠は苦しむ。月に一度来るであろう不幸な日、それすらもここ数カ月訪れていない。今日がそれでは?今までの分が一気に来たのでは?疑いを持ってしまう。通されるのは王宮付けの女医師。尤も薬師や針師という趣も強いが。

 

「ん?・・・ん~?」

 

そんな彼女が疑問に眉をひそめ、詠に断りを入れてお腹に耳を当て・・・顔を真っ青に染め上げた。そのことに詠は「ぇ・・・」と小さく漏らし、紫苑が複雑そうな顔で詠の肩を抱く。

 

「ややこが・・・消えております」

 

(何ヲ言ッテイルノカワカラナイ、コノ中ニハ、ボクト一刀ノ子供ガイルノニ)

 

妊娠の兆候が全てあるのに膨らまないお腹、胎児の鼓動が聞こえないお腹、赤子が消えたと彼女は告げて、詠は一瞬で思考を真っ暗に落とす。その間にも女と紫苑は何事かを話し合い、その言葉が激しくなっていく。耳に残る雑音を振り払うように。

 

「あ、詠ちゃん!」

 

詠は紫苑を振り切って走り出した。行くのは一刀の私室。未だに大事に取ってあり、斗詩が掃除するそこに一目散に駆けこんで、薄らと一刀の残滓が残る寝台にその身を預ける。

 

 

一刀の布団をかぶって全てのことに耳をふさぐ。アァ、雑音が五月蠅い。

 

鍵をかけた扉が叩かれる、五月蠅い。忙しいだろうに華雄が、星が、霞が、月が叫ぶ、煩わしい。詠はもう一度、優しく自分のお腹を撫でる。帰ってくるお腹への鼓動(ほら、ちゃんといる)なのに、詠の頬を涙が伝う。

 

「・・・月様、一刀の部屋に対して思うところもありましょうが今はここを押し通るが先決かと」

 

「・・・そうですね、詠ちゃんにもしもがあったら悔やんでも悔やみきれません・・・お願いします!」

 

「御意!」

 

華雄の戦斧が唸り、扉を塵芥のように吹き飛ばす。そして月達が目撃するのは

 

「ねぇ、ほら。いるよ月?ちゃんと。だから、うん。僕は大丈夫・・・あ、あははははは」

 

壊れた笑みを浮かべた詠の姿、きっと彼女は今一番の不幸をその身に受けていて、月に優しく抱きしめられる。月までも涙を流しながら辛いねと声をかけて

 

 

 

 

「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!」

 

息が苦しい、びっしょりと汗をかいていた。今の悲鳴を聞きつけて、数人が何事かと駆けつけてくれる。

 

「・・・え、あ!?」

 

駆けられる言葉は右から左に流れていく、そんなのを気にする余裕もなく、詠は慌てて自分のお腹を撫でる、そこはふっくらと膨れ始めていた。

 

「あ・・・アアァァァァ!」

 

嬉しくて涙を流す、いてくれてありがとうと大事に大事に自分のお腹を撫でる。トクントクンと自分以外の胎動がやけに優しく手に響く。

 

「妊娠すると情緒不安定に陥りまうからね。夫がいないから一塩なのでしょう。董卓様、詠ちゃんを優しく撫でてあげてください」

 

紫苑に言われて、月は詠の背中を優しく撫でる。詠の好きな優しい時間が過ぎていく。幼子のように撫でられながら寝入る詠は、何となく次の夢で一刀に会えると確信していたのだった。

 

 

-あとがき-

 

更新遅れて申し訳ないです、ちょっとリアルが忙しかった・・・orz

 

何だかんだで袁紹√が数話出来てしまったりとか・・・ま、まぁ気にせず!今回で対董卓同盟編は終了です。まぁ今回のはまとめだけなのでそこまで難しくもないかな?と普段のタイプペースで予告しましたら、見事に指が止まりましたorz

 

いや、久しぶりに書くことが浮かばなかったのです。書いたら書いたで今回のメインはどう見ても月陣営と桃香陣営・・・まぁ呉が出ることが難しいから仕方がないのですが。

 

逆に詠のオマケは結構簡単に書けたり。指が止まることなくすいすいと・・・調子が良いとこういう短編は一時間ちょっとで出来るからいいですよね。止まるととことんですが。

 

さて、次回は本編から離れて拠点です、拠点が終わればシャオと亜莎も出てきます。拠点は今回も100人近くがアンケートに答えてくれて…ありがとうございます。それではまた、希望のキャラが書かれているといいですねぇと人ごとで言いながら。

 

次回更新は日曜日か月曜日、23:00頃を予定しています。

 


 
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