No.132929

ビューティフル 8

まめごさん

身長20cmのお侍さんと現代女子のお話。

ふう、ようやっと恋愛話っぽくなってきました。

2010-03-28 23:34:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:525   閲覧ユーザー数:515

夢を見た。

初音は横向きになって寝ている。

後ろにはなぜか等身大になった直隆が座っていた。

じっと自分を見ている。

初音は動けない。

と、直隆の手があがって、初音の肩にそっと触れた。ゆっくりと下がってゆく。

肩、脇、腰。

うずきが身体の芯を支配し始めた。声が漏れそうになる。

お願い。お願い、そのまま―――…。

 

「だぁっ!!」

 

がばりと起き上がると、呼吸が荒かった。

窓からは柔らかい日差しが差し込んでいて、呑気な小鳥の鳴き声がする。

直隆はチビのままで、胡坐をかいてじろりと初音を睨みつけ、博はちゃっかりベッドで寝ている。

 

「えっ…」

 

なに、今の夢。初音の顔がみるみる内に赤く染まっていった。

 

お願い、そのまま…。

そのまま、なにをしてほしかったんだ、あたしは!

欲求不満か!? 欲求不満だ、ええ、悪うござんしたね、かれこれ三年もやっていない。

だけど、なんで相手が直隆なんだーーーー!!(だーだーだー…←エコー)

 

パニックのあまり、挙動不審な行動(部屋の中を行ったり来たり)をしていた初音だが、取りあえず片付けようと、散乱しているビール缶を手近のビニール袋にいれ始めた。

直隆に声をかける勇気がない。夢のせいで、顔を見ることも出来ない。

本人は、ただ初音を睨みつけているだけである。

 

「いーですよ。置いといてください」

音に反応して博がのっそりと起きた。

「あっ!すみません、起しちゃった…」

「や、どうせ起きなあかん時間なんで…」

今日は大学に行かなければならない。

 

「あの、じゃあ申しわけないですけどお暇しますね」

一通り部屋の中を掃除した初音は、深々と頭を下げた。

「お邪魔しました。本当にごめんなさい。酔っ払ったあげく、寝てしまって…。ご迷惑おかけしました」

「いえいえ」

つられて博も頭を下げる。

「さ、帰るよ」

直隆は不貞腐れたように、無言で初音のカバンに潜り込んだ。

「こら、チビ。ちゃんとお礼を言いな」

「あの、木村さん」

玄関先で靴を履いている初音が顔を上げた。

「あの件ですが、お受けします。ただ、時間がかかることは…」

「本当ですか?」

ぱっと明るくなった顔に、博はちょっと戸惑った。

罪悪感がチクチクする。

 

昨夜、酔いに任せて、寝ている初音に手を出そうとしたのだ。

肩から脇へ、腰へとゆっくり這って行った手は、ひやりとした冷気を感じて止まった。

振り向くと寝ているはずの直隆が、剣を構えて博を睨みつけている。

腰を落とし、今にも飛びかからんばかりの体勢で。

ちょんまげにメイド服の滑稽さすら吹き飛ぶような威圧感だった。

「なんや。ナイト気取りか」

冷静な声を出したはずが、上ずった。

「内藤などではない。わしの名は松本じゃ」

「据え膳食わぬは武士の恥ってゆうやろ。それにそんな体で何ができんねん」

「その女に手を出すな」

ぴたりと視線を博に合わせたまま、身長20cmの男は低い声で言った。

「こんな体でも、お主の首をかっ切ることはできる」

やってみろや、とは言えなかった。すざましい殺意に気おされて。

「あ…アホらし」

捨て台詞のような一言を残して、博はベッドに潜り込んだのだった。

 

何度も礼を言いながら、初音が帰った後、博は玄関でガリガリと頭を掻いた。

 

「あいつら」

 

直隆が悲しい目に会うのは嫌なんです。

その女に手を出すな。

 

「惚れあっとるんちゃうか」

本人たちは気が付かないまま。

 

声は茶色のドアに跳ね返って消えた。

 

観光巡りする体力もなく、初音はまっすぐ京都駅へと向かった。

直隆は一言も話さない。初音も、夢のことがあってどうも気まずい。

無言のまま帰宅し、カバンから飛び出た直隆はやっと口を開いた。

「ここに座れ」

「えー?」

初音はとにかくシャワーを浴びて、ゆっくり寝たい。

「いいから座れ」

なんなの、もう。文句を言いながらも、コタツの前に正座した初音に、直隆は説教を開始した。

 

女が一人身で男の家に行くとは何事か。しかも酒を飲み、挙句の果てに爆睡する。無防備もいい所ではないか、もっと女の慎みをわきまえよ。云々。

 

「そうは言うけれどさぁ…。人目にあんたを見せるわけにはいかないし、ビール飲みたいって言ったのはチビだし、そりゃ飲みすぎて寝ちゃったのはあたしが悪いけど…」

「チビ言うな。わしが止めなんだら、お主はあの男に手篭めにされていたのだぞ」

「手篭め?」

身を乗り出した初音に驚いたように、直隆が身を引いた。

「良かったー。あたし、まだ女の魅力あるんだー…」

「馬鹿!問題はそうではなくて…!」

この女の思考回路が知りたい。青白吐息でそう思った。

 

博という男を、直隆は快く思っていない。彼の語った心情は、ちゃんちゃら甘いものだった。

直隆が生きていた時代の男たちは、守るべきものがあった。それが主であれ、家であれ、己の美意識であれ。女はもっと壮絶だ。意志など関係なく利権により嫁がされる。

ここは違う。

人生において膨大な選択肢がある。初音はその選択に責任を持っているように見えるが、あの男はただ逃げているだけではないか。何にかは分からないが。

しかも、自分の目の前で、初音の体に触った。目的は明らかだった。

それ以上、手が進んだら本気で殺す気だったのだ。

「じゃあ、チビが守ってくれたんだねー」

「ち…違う、わしは…うぐッ」

掴まれて、そのまま初音の胸の谷間に埋もれた直隆は悲鳴を上げた。

「ありがとう。お礼にセーラー服を作ってあげる」

「―――!」

せーらーふくなるものも戦闘服なのだろうか。

息も出来ず、遠ざかる意識の中で、ふと思う。

そしてまた、股がスウスウするものなのだろうか。

 


 
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