No.131242

嵐の夜の御話

三日月亭さん

少しお話を書かせていただきました
内容は女の子と妖怪が戦うお話です

2010-03-20 22:04:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:660   閲覧ユーザー数:633

 

ここ最近のことである

 

夜な夜な、沢山の人が食われとった

 

まるで、暴風のような勢いで

 

人を襲い

 

辺りに毒を撒き散らし、弱った人間を踊り食う姿は

 

禍々しく

 

そこにあるのは大きなふぐりのような体を持ち

 

だらしなく開いた口にそこから伸びる舌

 

磐石石を持ち上げる言われる岩のような足

 

邪な双眸からは『悪』があふれ出ていた

 

その物の怪の名を人々は『牛鬼』呼んだ

 

その牛鬼の悪行に眉をひそめ退治しようとするものが現れた

 

その者容姿は誰が見ても驚くほどの美人で

 

可憐さがにじみ出ており

 

誰しもがあの悪鬼に太刀打ちできるとは思わなかった

 

夜、外は嵐だった

 

皆が皆寝静まった頃

 

雨雲の影からずるりと

 

滑り落ちるように

 

黒き巨体が寺に屋根に降ってきた

 

大きな音を立てたが

 

嵐のおかげか

 

周りには聞こえず辺りから人の騒ぐ声は聞こえず

 

聞こえるのはけたたましく啼く風のみであった

 

物の怪は少し辺りを見渡した

 

人の声は聞こえずとも人の気配が在ったためである

 

そして視界に若い女が入ってきた

 

目に入って女を見るや

 

物の怪は口を大きく歪ませ笑みをこぼした

 

なぜなら、女は只立ってこちらを見てるのではなく

 

刀を携えているのである

 

己を退治しょうと来たのかと思うと

 

あまりに可笑しく笑みもこぼれる

 

それもそうだ、物の怪の体はゆうに十六尺以上あり

 

大の男でも太刀打ちできないのである

 

それに対し乙女は華奢な体つきであった

 

伊達に構えたその構えには剣術の術理は見出せず

 

物の怪には只の滑稽に見て取れた

 

そう思うと物の怪の眼は自然と女の体を嘗め回す様に見入った

 

膨らんだ乳房

 

柔らかそうな足

 

細い腕

 

そのすべてが物の怪の好物だった

 

どこから食すか吟味しているその最中

 

物の怪の右目に三尺は在ろう黒い刃が突き刺さっていた

 

突然の痛みに口を歪ませるが

 

次はその強靭な歯牙が根こそぎ毟り取られてしまう

 

何事かと思い口元に視線をやると

 

物の怪の残った眼に写ったのは

 

憤怒の形相をした鬼である

 

それが今しがたまでどこから食べようか吟味していた

 

乙女の顔であった

 

物の怪は堪らず毒を吐きその場を逃れようとするが

 

乙女はその毒も意に介さず

 

今度はその舌を引き千切り投げ捨てる

 

瞬く間の蛮行であった

 

物の怪の前足が怒りに任せ乙女の頭を狙うも

 

乙女に容易く捕らえられ

 

此れもまた歯牙と同じく毟り取られ

 

今度は残った眼をえぐるのに使われた

 

物の怪の口から嗚咽が漏れだす

 

だが乙女の手は止まるはずもなく

 

右目に刺さったままであった己の刀を

 

力任せに引き抜き視線を陰嚢が如き胴体へとやった

 

物の怪の顔を駆け上がり

 

刃を走らす

 

その太刀筋は術理はなくとも

 

素早く鋭く

 

まるで一筆したためるが如く

 

軽やかに

 

物の怪の腹に赤黒い花を咲かせた

 

割かれた腹からは

 

今まで食べた人の亡骸が滝のようにあふれ出て流れていく

 

乙女はそれを見届けると

 

またも物の怪の頭部へと

 

ゆるりと歩んでいった

 

物の怪は足掻き逃れようとするが

 

乙女はそれを許さず

 

歩を進めている間に

 

全ての足を捥いでいった

 

乙女は達磨になった物の怪の目玉を抜かれ暗く窪んだ眼の前に立つと

 

眼窩に手足を乗せ葛籠を開ける様に

 

前頭骨を剥ぎ取ってしまった

 

そこからは物の怪の脳のような何かが

 

ボロリとこぼれ落ち

 

そこで物の怪は事切れてしまった

 

残ったのは乙女によって無残にこねられた

 

肉塊だけであった

 

赤黒く乙女を染め上げた血糊は

 

雨によって洗い流され

 

その顔は穏やかさを取り戻していた

 

気がつけば

 

空もまた乙女同様に穏やかな顔を見せ

 

三日月が顔を見せていた

 

乙女は三日月に一瞥すると

 

虚空の空に消えていった

 

おしまい


 
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