私はマリモが嫌いだ。
まず緑色なのがいけない。生き物の色じゃない。
そもそもマリモは生きているのかどうかすら怪しい。よく生物として扱う愚か者がいるが、どう贔屓目に見てもマリモは生き物ではない。あれは植物だ。
マリモ──繊維が集まって構成された一つの単位。そんなものが生き物であるはずがない。あってはいけない。
柔らかそうな見た目のくせに、触ると固いのもよくない。
まったくもって、なんなのだ、あれは。
だから私は、今日も鉄バットを持って、
「死ねオラァ──ッ!!」
マリモを打って打って打ちまくり、打ち砕いていた。
拾い上げ、セルフトス、そして殴打、強打、打ち砕く。
自然保護団体がなんだ。こいつらは、マリモなんかじゃない。
近所の老婆が注意しにやってくる。
「そんなにマリモが好きならくれてやるッ!」
ゴギン、聞きなれた鈍い音を響かせ、マリモは老婆へ一直線。たまらず老婆は逃げ帰る。
マリモは天然記念物──新手の男がそんな事を叫ぶ。
「違う!」バットコントロールは完璧だ。「まりもは私だ!」
こいつらは、マリモなんかじゃない。
本当は丸い形なんかしなくても生きていける糸状体のくせに、身を守るため、自分をよく見せるため、仲間同士で群れていやがる。
「死ね! 死ねェ! 去ねエ──!!」
打って打って打ちまくる。これが私の使命だ。
「まーたやってるの、まりも」
私の名はまりも。そしてノコギリを持っている彼女の名は、さくらだ。
「さくらこそ、今日も調子良さそうじゃない」
「今日は三匹倒したわ! まりもは?」
私は池の周りを手で示した。
「こっちは三十六匹よ!」
「やるねえ!」
「さくらこそ!」
さくらは、桜を倒す日々。
私は、マリモを倒す日々。
それぞれ持って生まれた使命は違う。
けれど、生きる道は同じだ。
名を取り戻すため、私たちは今日も戦う。
私はマリモが嫌いだ。
何故なら、私が本当のまりもだからだ。
この世に同じ名は必要ない。まりもは私だけで充分なのだ。
全てのマリモを倒すのは無理かもしれない。けれど、マリモと戦う私をまりもだと認識してくれる人が増えれば、そしてその人工がマリモを見知った数より多くなれば、私はまりもとして認識される。
マリモの復讐が怖くないわけではない。だけどやらなければいけない。
マリモの名前は私のものだ。こんな奴らに渡しはしない。
この腕が、この身が滅びるまで、私は戦い続ける。緑色の球体と。
私、まりもという存在を証明するために。
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リモコンでマリモを操縦する話ではない。