今、此処には笑顔が溢れている。
今、此処には笑い声が響いている。
華琳様が、桃香さんが、雪蓮さんが、私達が、そして一刀様が夢に見た景色が今、此処にある。夢ではなく、確かに此処に。
「一刀様はどこかな?」
捜していると、森の中に入っていく一刀様を見つけた。
「一刀様?何処に行かれるんだろう」
人知れずに森の中に消えて行く一刀様を追いかけて私も後を追った。
森の中に入り一刀を捜していると小川のほとりで彼を見つけた。
「一刀様、どうされたんですか?こんな所で」
「月…まいったな、来ちゃったのか…」
「来てはいけなかったのですか?まさか逢い引きですか…?」
「いや、そうじゃないんだ。…そうじゃ……」
「一刀様?………!! か、一刀様…か、体が…」
月の目の前で一刀の体は淡い光に包まれていき、ゆっくりと消え始めた。
「一刀様……そ、そんな…い、いや…嫌ぁーー!一刀様ーー!!」
悲鳴にも似た声をあげ、月は一刀に抱きついた。
その体からは何時も感じていた暖かさは消え失せ、光の粒を撒き散らしながら徐々に薄くなっていく。
「こ、こんなの…こんなのは嫌です。やっと、やっと平和になったのに……。これから皆で…皆で一緒に…うええ…うわああ~~ん」
胸の中で泣きじゃくる月を一刀は優しく抱きしめ、頭を撫でた。
「楽しかったよ、みん…なに、月に…詠に、恋やねね…華琳達に会えて…ほん…とうに…」
「楽しかったんなら何処にも行かなけりゃいいじゃないですか。ずっと、ずっと、……ううっ、ぐすっ…これからもみんなで一緒に……うわああ~~ん」
「居たいよ、俺だ…て、ず……と此処…に…」
「だったら…だったらぁ……うわああ~~~ん」
体からあふれ出てくる光の粒が照らし出す光の中で二人は抱き合う。
一刀はほとんど消えてほぼ透明になった両手で月の頬を掴み自分の方へ顔を向かせる。
そして、優しく唇を合わせると精いっぱいの笑顔で言った。
「帰って来るよ」
「えっ…?」
「何時になるかは分からないけどきっと…いや絶対に帰って来る。帰って来てみせる!だから、待っててくれるかな…月……」
「はい…はい…はいっ!待っています。貴方が帰って来るのを、何時までも…グスッ…ま、待ち続けます…一刀様ぁ……」
胸に顔を押し付け泣き続ける私の頭を一刀様は優しく撫でてくれた。
「帰って来る…かな…らず…だか……ら…月を…たのむ…な…詠……」
一刀様がそう言うと木陰から詠ちゃんが出てきた、頬を流れる涙を隠そうともせずに。
「あんたなんかに頼まれなくても月はボクが守ってみせるわよ。だから…だから…安心して何処にでも行っちゃいなさいよ!」
「あんたなんか……グスッ…あんたなんかいな…居なくたって……、居なくたって…うう~…淋しくなんか…グスッ…淋しく……、うう、うえええ~~ん。かな、必ず帰って来てよ…約束だからね…」
詠ちゃんは相変わらず素直じゃない。こんな時くらい素直に甘えればいいのに。
「帰って…来るよ……ぜっ…たい……に………
心に沁み込んで来る様な笑顔と約束を残して一刀様は光と共に消えていった。
「ううう、うう……」
「…え、詠ちゃん…かず…一刀様が…一刀様が消えちゃった…。居なくなっちゃたよ~~~、うわあああーーーーん!!」
「泣かないでよ月、約束したんだから…帰って来るって…帰ってく……約束……うえええ……うええーーーん!!」
泣きながら抱き合う二人を照らす月は見守るように空に浮かんでいた。
~時は流れて~
此処は城の中庭、二人の子供がはしゃぎながら駆け回り、追いかけていた方の子供が転んでしまう。
「うええ~~ん」
「しっかりしなさい
「だって
「その位何よ。全く仕方ないわね」
陽は光の膝を軽く舐めてハンカチを巻きつけた。
「えへへ。ありがとう陽ちゃん、だからすき~」
光は照れながらも陽の腕に抱きついた。
「こ、こら。恥ずかしいじゃない。光、離しなさい」
「やだも~ん」
「「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」」
そんな光景を月や詠、風・稟・雛里・桂花・ねね達は溜息交じりに眺めていた。
「…前から思ってたんですがお兄さんがこの光景を見たら…」
「どんな顔をするでしょうね?」
「言わないでよ!…何でこんな風に育ったんだろ?」
「わ、私は嬉しいかな」
「月~~」
月の子供、真名を『
詠の子供、真名を『
二人は如何なる絆が成した技なのか同じ日、そしてほぼ同じ時刻に生まれ落ちた双子と言っても全く違和感のない関係だった。
光は陽より10分ほど早く生まれたが気の弱い甘えん坊で、陽はその逆にしっかりとした性格に育った。
「それにしてもあの男は何処で油を売ってるんだか」
「帰って来たら、ちんきゅーきっくでとっちめてやるのです」
桂花とねねは、少し剝れた顔で空を見上げながら悪態を吐く。
そんな二人を横目で見ながら一人の少女が読んでいた本を閉じると、溜息を吐きながら声を出す。
「つまり、帰って来るのが待ちどうしいと」
「て、
「な、何を言ってやがるのですか!」
「耳まで真っ赤ですよ。解りやすい答えをありがとう」
「勘違いするなです!ねねは別に…」
「…う、うぅ~~ん…かかたん、どちたの?」
「お、起こしてしまったですか。ごめんですよ、らら」
ねねの子供で真名を『
大きくなったセキトの背中で寝ていたらしい。
其処に一人の女の子が走って来た。
一刀と桂花の娘、
「かかさま~~!!」
「鞘花、どうしたの?」
「はあ、はあ、あ、あのね…むこうのおがわにね、かかさまがおはなししてくれた、しろくてきらきらしたふくをきたひとがいたんだよ」
「な、何ですって!!」
「ちょっと、それ本当!?」
桂花が驚き、詠が聞き返す。
「むう、ほんとうだよ。さや、うそつきじゃないもん!!」
「ふむ~~、むにゃ、……くんくん」
昼寝をしていた恋が突然起きあがり辺りの臭いを嗅ぎ出した。
「どうしたのですか、恋殿?」
「…一刀のにおいがする」
「……か、一刀様の…?」
みんなが恋の言葉を聞いて呆然としていると
「こっち、こっちだよ」
「はやく、はやく」
「いそげいそげ」
そんな声が聞こえる方に顔を向けると、其処には。
「そんなに引っ張らないでも大丈夫だよ」
其処には彼女達がその帰りを何よりも待ち望んでいた愛する人の姿があった。
幸樹と白葉に両手を引かれ、愛を肩車していた。
「「とうちゃ~く」」
「ただいま皆。…月、詠、約束通り帰って来たよ」
「…お、お帰り…なさ…い……かず……と…さま…」
「何がただいまよ…散々…待たせといて…何をいまさら…」
二人はボロボロ涙を流しながら一歩一歩、ゆっくりと一刀へと歩いて行く。
一刀も同じように歩いて行く。
皆も泣きながらもその光景を見ていた。
「一刀さまぁ~~」
月が一刀に抱きつき、続いて詠もしがみ付く。
「遅い…遅いじゃない…」
「待たせてゴメン。でも、もう何処にも行かないから。ずっと皆の所にいるよ」
泣いている二人の肩を一刀は優しく抱きよせた。
其処に陽と光が近付いてきた。
「あ、あの、お母様、その方がお父様なのですか?」
「おとうさまなの?」
「この子達はひょっとして」
「はい。一刀様と…私達の…子供達です」
「お…とうさま…」
光が抱きつこうとすると…
「お父様~~!!」
その横から陽が飛びついて来た。
「うわああ~~ん」
「あ~、陽ちゃんズルイ!」
「ズルくないもん!」
「よしよし、さあ、おいで」
一刀は陽の頭を撫でながら光を手招きした。
「うう~、おとうさまぁ~~」
光も一刀に抱きついて泣きだした。
「この娘が私の娘、陽です」
「こっちが私の娘の光よ」
「そうか、二人とも可愛いな」
そう言うと二人とも真っ赤になって照れた。
「えへへ、可愛いだって」
「てれちゃうね」
そんな二人を見ていると一刀はいくつもの視線を感じ、振り向いて見ると
子供達が物欲しそうに見ていた。
「え~と、この娘達は?」
冷や汗を流しながら尋ねる一刀に詠が答えた。
「もちろん、全員アンタの子供よ」
「やっぱり」
我慢できなくなった子供達は一斉に一刀へと駆けだした。
「ととさま~」鞘花が、
「お父様~」天里が、
「おとうさん~」幸樹が、
「とうさま~」白葉が、
「とうさま~」愛が、
「とうたん~」ららが、
「一刀ぉ~」恋が……。
一人ほど、大きな子供がいたようだが。
抱きつかれ、頬ずりされ、泣かれて、それでも一刀はようやく還って来た事を実感するのだった。
「もう…何処にも行かないんですよね?」
「約束したんだからね、守りなさいよ」
「ああ、何処にも行くもんか。今日から此処が俺の故郷なんだからな」
見つめあう三人だが…
「はいはい、其処までですよ。次は風達の番です」
パンパンと手を叩きながら間に割り込んできた。
「お久しぶりです、お兄さん」
「一刀様~」
「一刀殿」
「一刀ぉ…」
「遅いですぞ!!」
「ふんっ、この害虫!!」
「ただいま、皆」
暖かな日差しの中、帰って来た男を主人公として、新たな物語は紡がれていく……
~終劇~
(`・ω・)書き終えてみると…あれ?月編の筈なのに詠はいいとして、何故か文官総登場。
子供達もららを加えて出て来てしまいました、何故だろう?
さて、お次は美羽編です。
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(`・ω・)今回は、恋編での説明の様に蜀では無く魏に保護された月の話です。
4月10日/少し、修正しました。