No.125690

程昱の世界 中編

アインさん

二つめ

2010-02-21 00:58:26 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2841   閲覧ユーザー数:2532

 お昼が過ぎた頃だったが、意外や食堂のテーブルはそれなりに埋まっていた。北郷と曹操は一つだけ空いているテーブルに腰を落ち着かせて注文を聞きに来た店主に、飲み物を頼んだ。

「で? 一体何を悩んでいるのかしら?」

 温めてあるおしぼりに手を拭きながら、曹操は北郷に訊ねる。

「実は……」

 北郷は事の次第を話した。これから始まる『赤壁の戦い』において、程昱は『大切な人』が出来てしまったために迷いが生じていて、そんな彼女を見た北郷はなんとか元気づけたいということだった。

 北郷が話し終わるころに注文した飲み物が届けられ、曹操が訳知り顔でうなずきながら飲み物に口をつけた。

「なるほどね。確かに風の気持ちもわからなくはないわ」

 北郷も飲み物に一口飲み、小さく溜息をつく。

「でもその不安を失くすことはできないわ」

 曹操は冷酷に言う。それはそうだ。程昱の不安を失くす方法はただ一つ『戦かわない』ことだ。しかしこの時代にそれは不可能。だから彼女の不安は取り除くことはできない。

「……わかっている。だからせめて癒したいんだ」

 不安を失くすことはできなくても少しでも癒す、と。

「……なら、『約束』しなさい」

「約束?」

「そうよ。絆で結ばれた者達の約束事は大きな『力』にも守りの『力』にもなるわ」

 曹操の言葉だからか、妙な説得があり、北郷はだまってうなずいた。

「さぁ……後は貴方が考えなさい」

 北郷は苦笑しながら舌打ちする。

「他人事だと思って……」

「ふふ……だって、他人事だもの」

 曹操はそう言うと立ち上がる。

「それじゃ、城に帰るわ」

「……わかった」

 北郷も立ち上がり一緒に出ようとすると曹操は北郷の肩に手を置いた。

「護衛はいいわ、貴方は考えなさい。それと一刀覚えといてね。その考える時間も少ないことも」

 考える時間が少ない。それは戦いが近いという言葉。

「……わかった」

 北郷は頷いて、曹操は城へ北郷は街の中へと歩いて行くのだった。

 その日の玉座の間にて、定時報告をしようと現われた北郷は、自分に向けられた殺気に気づいて弾かれたようにふり返った。

 そこにはものすごい目つきをした程昱が立っていた。

「う~~~」

 唸りながら相手を噛み殺さんばかりの怒気がふくまれている声だ。

「ど、どうしたんだよ風?」

 見るからに怒っている程昱に、北郷は必死に頭を回転させて原因を考えた。しかし思い当たることはない。

「隊長」

今度は同じ部隊の仲間である楽進、李典、于禁が現われた。

「ん、なんだ凪た―――」

 言いかけて北郷の表情は凍りつく。三人が怒っていることに。

「おいおい………」

 北郷は背中に冷たい汗をかきながら、とりあえず事情を聞こうとした。

「え、え―と、これは一体どういう――」

「兄様!」

 さらに典韋が、息を切らせながら玉座の間に飛び込んできた。

「流流?」

「見損ないました、兄様!」

 北郷のことを『兄様』と慕ってくれている典韋が、いきなり北郷に食いかかった。

「は?」

 唐突なことに、北郷は抜けた顔になる。

「二股なんて最低です!」

「いいっ!?」

 まったく心当たりのない北郷は、ただ驚くだけだった。

 その時、曹操や他の仲間達も姿を見せた。

「話はすべて聞かせてもらったわ。まさか一刀がそんな男だったなんてね」

「え? ええ?」

 事態が把握できない北郷は、混乱しつつとにかく事態を収拾しようと、北郷は両手を広げて大声を出す。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! みんなは一体何を言っているんだ!? 俺にもわかるように説明してくれ!」

 北郷がなかば懇願するように言うと、曹操がどこか楽しそうな表情でそれに答えた。

「季衣から聞いたのよ。昼頃に、貴方が見知らぬ女の子と楽しそうにしている姿を見かけたって」

「なんですと――!?」

 そんな記憶はないと言うとして、出会った女の子が曹操だと思い出す。

「ち、違う! あれはそ――」

「私は『ずっと』寝室で仕事をしていたわ」

 理由を言う前に曹操がアリバイを主張。当然そんなのは嘘と言いたいが、今の北郷の発言には説得力がない。

 その時、ガンっと鈍い音が北郷の右足に響いた。

「―――っ!!!」

 泣き所を思いっきり蹴られ、北郷は目の端に涙を浮かべながら痛がる。

 蹴った本人、程昱は射殺さんばかりの視線を北郷に向けた。

「とりあえず、お兄さんには反省が必要ですね~~」

 もはや彼女は程昱であって程昱あらずであった。

「待て風! 話せば―――」

「問答無用ですよ。お兄さん」

 程昱の合図共にその場にいた力自慢の女性達が一斉に北郷に飛びかかった。

「う、うわああぁぁぁぁぁ―――!」

 北郷の叫び声は城中に響き渡るのであった。

 

 

続く……

あとがき

 

ご愁傷様です。北郷さん

 

 

――さて、中編終了です。

楽しんでもらえたら幸いです。なお、最後の後編の結末は驚愕的な結末を考えている予定ですので楽しみにしていてくださいね。

では、後編で……。


 
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