No.125470

恋姫のなにか 7

くらげさん

あまりにも愛紗が憐れと評判だったので。
もう何の原型も留めていない気がします。
何、それは最初からだ?ははは、こやつめ!

2010-02-20 01:59:34 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:19805   閲覧ユーザー数:11347

「愛紗に愛の手を!」との感想が結構多かったため急遽作成。

もはや恋姫†無双の原型が欠片も残ってません。外史ですら無い気がします。

【妄想過多・キャラ崩壊上等・欲望に忠実な愛紗って最高じゃね?】

以上のキーワードに拒否感を感じない方、作者の以前の作品に嫌悪感を抱かれない方にはオススメかもしれません。断定はできませんが。

何気にkb数が過去最多でした。おのれ愛紗め!

日も完全に落ちた夜中の事。

とある一室に女が二人。片方はお菓子をポリポリ食べながら時折眼鏡をクイクイとなおし、仰向けに寝転がって同人誌を読んでいる。

 

「・・・・・・はぁ」

 

そしてもう片方はというと、五分置きに新着メールを確認し、来ぬ誘いに溜息を溢す。

ゲームのコントローラーを握りなおしてはいるが、集中しているとは言い難い。

 

「愛紗、うっとおしい」

「・・・すまん」

 

ポリポリ。はぁ。ぺら、ポリポリ。はぁ。

そんなループを幾度繰り返した頃か。お菓子の袋の中身が切れて、その袋をグシャッと握り潰すと愛紗の頭にポンとぶつける。

しかし、常なら車返しで投げ返されるそのゴミを愛紗は律儀に拾ってゴミ箱に入れると、またケータイを弄っては溜息を溢す。

その姿に、今度は詠が溜息を溢す。

 

「あのさぁ、そんなに合いたいなら自分からメールすりゃいいんじゃない?」

「バカ言うな・・・そんなはしたない真似出来るか・・・」

 

何も言うまい。

 

「できないなら大人しくする。それも無理なら外でやる。アンダスタン?」

「おーけーぼす・・・」

 

絶対コイツアタシの言った事理解してないな。と詠は確信したが、下手にアドバイスして纏わり付かれるものうっとおしい。

明日は休日で用事はない。文系クラブの部員である詠と愛紗は共に部活などないし、愛紗の思い人の一刀先輩もそこは同様だった筈だ。

 

「蓮華は自力でデートに漕ぎ着けたんでしょー?まぁ結果は散々だったみたいだけど」

「はぁ・・・」

 

とうとう無視された。このままでは夜が明けてもケータイを離さないかもしれない。休日前は何時もの事だが。

んー。と一頻り悩んでから詠は愛紗の背後に回る。

何時もなら『アタシの背後に立つんじゃねぇ!!』とバック・ス○イパーが襲い掛かる所だが、今ならグミだろうが○術だろうが思いのままだ。

→ころしてでも、うばいとる!

 

「な、なにをする!きさまー!!」

 

ひょいとケータイを取り上げると流石に反応したが、辞書の角を額に打ち込み黙らせる。ちなみに大○泉。

 

「今度のコミケでアタシの手足となるなら、約束取り着けてやってもいいわ」

「壁際だろうが逆サイド往復だろうが任せろ!!」

「いや、買い人員は確保してあんの。アンタは売り子。どう?」

「むむむ・・・」「なにがむむむだ」

「い、衣装にもよるぞ?流石に「そ、なら黙って寝なさい。そして明日の朝日を恨めしく拝むがいいわ」分かった・・・」

 

覚えたぞ。と詠は悪い顔で笑うと愛紗のケータイの画面を光らせ―――待ち受け画面を見て引いた。

其処は予想通り『愛しの一刀先輩』の写メだったのだが、アングルがおかしすぎる。

遠目から目一杯倍率を上げ、何とか拡大してはいるが完全なる隠し撮りなのがモロバレ。第一服装がおかしい。持ってるモノもおかしい。

 

「アンタ・・・これ犯罪ってやつよ?」

「なにがだ?」

 

気付いていない。というか愛紗の脳味噌に一刀先輩という単語を入れると、何らかの科学反応がスパークを起こすらしい。

 

「愛紗さ・・・瓶ビールのケース持ってる一刀さん見て、どう思った?」

「勤労してる先輩も素敵だ!」

「・・・汗が眼に入らないように、頭にタオルを鉢巻チックに巻いてる姿を見て、どう思った?」

「ワイルドだ!」

「・・・・・・漢字一文字のTシャツって、確かアンタ鼻で笑ってたよね?趣味悪いとか」

「着る人によると思うんだぜ!」

「・・・・・・・・・前のカフェラテ事件の時、一刀さん来て直ぐに帰っちゃったんだっけ?」

「アレは嬉しかった!!先輩は忙しいのに、態々私の為に時間を裂いてくれたんだぞ?」

 

ダメだ、また泣いてしまう。

あの時愛紗がカフェラテと共に流し込んだ涙は、自分の運の悪さを嘆いて出た涙であり先輩とデート出来ない悔しさから来るものではなかったのだ。

その模様を、どうだ羨ましいだろうとでも言いたげな表情で語られた時の自分達の気まずさはどうやら伝わらなかったらしい。

 

「ソッカ、ヨカッタワネ」

「羨ましいか?」

 

勝ち誇ったような愛紗の顔に、「このケータイでメールを送れば即ちお前が誘った事になるんだぞ」と事実を突きつけたい気分になった詠だが、流石にソレは止めておいた。

なら詠のケータイで。と言い出すだろう。それで詠が一刀と二人で遊園地に行く羽目になったのをもう忘れたらしい。

 

「・・・とりあえず、風呂入ってきなさい。念入りに髪洗うのよ」

「い、いや、せめてメールが終わるまで「hurry」でも、だなぁ・・・」

「アンタがいたトコで何の足しにもなんないの、分かる?またガードぶっ飛ばされて朝まで気絶してたくないの、私」

「・・・・・・いってきます」

 

すごすごと退散していく愛紗だが、未練タラタラの視線で縋るように詠を見る。

それに詠は中指をおっ立てて答えると、グスと鼻を鳴らして浴場に消えた。

 

「さて、どう弄って辱めてやろう」

 

ニヤリ。とそれはもう悪い顔でボソリと呟き愛紗のケータイを操作する詠。

突如、まだ扉の向こうで聞き耳を立てているであろう彼女に向かって聞こえるような大声で喋りだす。

 

「『コスプレするので見てくださいませんか?着替え込みで!』とか送ったら爆笑モンよね~。私が男ならドン引きするけど。

 あー、でも一刀さんもオトコノコだし、こっち系の話題にも明るいし望まれちゃうかも~、どうする?愛紗」

「は、はずかしいが「さっさと風呂行け」・・・いじめっ子」

 

やれやれだぜ。と頭を振って、愛紗がキチンと廊下の角を曲がったのを確認してから、本当のメールを打ち出す。

数分後。髪が濡れたまま走ってきたのだろう、顔中に長い黒髪を貼り付けた愛紗が素っ裸で帰ってきた。女子寮でなければ切腹モノの赤っ恥である。

 

「ど、どうなった、詠!」

「アンタってホントに一刀さん絡むと人格変わるよね。何?普段の愛紗は愛紗何号なの?それともアンタが零号機なの?」

「何を言っているんだ詠。私が何人もいるわけないだろう?ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから」

「黙れよ花○院」

「あーいしゃちゅわ~~~ん?」

 

声のした方を二人が振り向けば、スキンヘッドに三つ編みのもみ上げ、更に顎鬚を蓄え、ピンクのビキニパンツを着用した変態という名の淑女(*マッチョ)が恐ろしい形相で、手に小さなホールケーキを持って立っていた。

 

「あ、貂蝉さん」「こんばんわ。今日のデザートはケーキですか?」

「ええ、貂蝉の愛情をたぁ~~~~~~っぷりと込めた特製ショートケーキよん♪」

「貂蝉さんはホントお菓子作るの上手いですよね」「いつもありがとうございます」

 

一年も暮らしていれば慣れる。人って素晴らしい。寮に入りたての頃はほぼ毎日気を失っていたが。

 

「まぁそれはそれとしてよん。愛紗ちゅわん?貂蝉、ちょ~~~っと話したい事があるんだけどぉ?」

「はい?食事当番なら、私は当たっていない筈ですが」

 

妖艶なOLがやれば様になるであろう手を頬に当てる仕草も、初対面であれば精神汚染兵器でしかない。一年も見れば慣れるが。

一人称が【貂蝉】というのも夢に何度も出てきた、無論悪夢として。自己紹介の折、耳元で囁かれる様にリピートされれば当然だろう。

 

「あぁ、詠ちゅわんは食べててねぇん?お皿はお部屋に置いといてくれれば、明日の掃除の時に纏めて持っていくから」

「いつもありがとうございまーす」

「あ、あの・・・?」

 

貂蝉が愛紗に【女らしさとは何か】という名のお説教を始めたのを、詠は横目で見ながらケーキを崩しに掛かる。

 

「あ、生クリームまた美味しくなってるー」

「どぅふふふ♪」

 

彼女の笑い方も、慣れれば個性と割り切れる。うん。詠はそう思い込む事で平穏を手に入れたのだ。

実際貂蝉が寮母になってからは下着泥棒の被害はなくなったし、料理も美味しくなった。

休みに寮に残っていれば三時にはおやつを作ってくれるし、今もこうして食後のデザートを態々一人一人に配ってくれる。

実際、寮にいた生徒は卒業の際に有志を募って自腹で彼女にプレゼントを送るのだが、それを渋った生徒はいないという。

ただ一点を除けば、彼女は非常に素晴らしい寮母なのだ。ただ一点を除けば。

 

「詠ちゅわん?!そんな大事な事なーんで貂蝉に黙ってたの?!」

「へ?」

「愛紗ちゅわん、聞けば明日デートぬぁんでしょう?それなのに・・・貂蝉たら漢女失格よぉ!!」

 

筋骨隆々なまっちょめんが顔を両手で覆って、女の子座りしながら泣き崩れるのは止めて欲しかった。色々な意味で。

 

「いや・・・でも愛紗が有るまじき行為をしたのは事実ですし・・・」

「とりあえず愛紗ちゅわんは服着なさいね?風邪引いちゃったら眼も当てられないわん♪」

 

きっと平気だと思う。万が一風邪を引いたとしても、明日一日は発病を抑えるだろう。科学的根拠など何もないが。

 

「上手く行ったら、必ず貂蝉に連絡するのよ?!外泊届けでっち上げてあげるから!!」

「寮母として有るまじき発言です」

 

結果など分かっていた。分かっていたが突っ込まずにはいられない。

 

「貂蝉さん!!」「笑えよ、愛紗?」

 

ほらやっぱり。とりあえず無駄にいい声の無駄遣いはやめませんか貂蝉さん。

ふと詠は思った。別に愛紗見捨てたってバチ当たらなくね?まぁ約束を取り付けた時点で、今更な結論だったが。

とりあえずムシャクシャしたから愛紗の分のケーキも食った。体重計のメモリは怖いが、後悔は詠になかった。

(いい?ゲームに詰まったから教えてくれってシチュで約束とりつけてるから)

 

詠から聞いた状況説明はそんな風に始まった。と、言う事は、だ。

 

(先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家!!)

 

思わず「私は学生を辞めるぞ!!校長ーーー!!」と誰もいない校長室に退学届けを提出しに行きそうになったが、それは詠に取り押さえられた。

体格差を補ったのは智謀の差だった。

 

目一杯のオメカシをして、起こるであろう不足の事態に対する対処も教えてもらった。

元々一刀の行動パターンや生活習慣などは把握している愛紗である。それを言ったら詠に「ストーカー」と褒められた。目は蔑んでいたが。

詠によると、待ち合わせは駅前でそこから買い物をしつつ、一刀の住んでいるアパートに行くという算段らしい。

一刀は一日フリーらしく、急なヘルプも今日は入らないとの事。詠がどのような交渉を行ったのか疑問ではあるが、持つべきものは友だなと愛紗は感謝した。

 

「ねー彼女、一人?まち」

「運が良かったな、今日の私は勝負下着だ。それを網膜に焼き付けて三途の川を渡ってこい」

 

五月蝿い輩は側頭部への踵回し蹴りで黙らせ、証拠隠滅も忘れない。

二、三人ほどねじ伏せた辺りで誰も来なくなったので、これ幸いとばかりに手鏡で身嗜みをチェック。

 

「か、軽く化粧をしてきた方が良かっただろうか・・・」

 

リップクリームは乙女の必需品という事で準備しているが、さすがに口紅やマスカラは施していない。

香水は秋蘭のを勝手に借りた。バレたら言い訳無用の鼻フックデストロイヤーが待っている。香水に関しては秋蘭は何故かケチになるのだ。

ああ不安だ。化粧っ気のない姿を見られて、先輩に呆れられたらどうしよう・・・

蓮華が言うには、どうやら彼女の姉も狙っているらしい。何度か合ったが非常に大人びた人だったのを思い出す。

 

「素敵な人だ・・・ライバルが多いのは仕方ない・・・」

 

先輩である秋蘭も可愛いよりは美人系だし、その彼女のリサーチによると姉が複数人いて猶年上への幻想を抱いて止まぬ漢らしいし。

それに大して愛紗は後輩。条件は蓮華も同じだが、いつの間にかアッチはタメ口だし。こっちは敬語だし。

 

「あぁ・・・もう少しマシなスタイルに生まれたかった・・・」

 

詠や蓮華が聞いたら問答無用でザ・世界から瞬○殺に繋がる鬼畜コンボが成立しただろう。隣の芝生は青く見える。

もう一度鏡で髪をチェック。可笑しくないか服も、スカートの裾もチェック。確認した所で今更ではあるが、気持ちの問題である。

休日という事でかなりの人が溢れている駅前であるが、愛紗は正しく足音で識別した。

まだ愛紗には気付いていないのか、キョロキョロと首を振っている一刀を認めると、出そうになる鼻血を堪えて一刀の所へ軽快に駆ける。

 

「あ、愛紗。ごめん、待った?」

「いえ全然♪」

 

ふおぉぉぉぉぉぉ!!と心の中でカップルのような言葉遊びに絶叫したが、まさかそれを見せるような失態は犯さない。

と、突如一刀がつんのめり、振り返ればケータイ片手に歩いていた、胸の大きいスーツ姿の大人のお姉さんと頭を下げあっていた。

 

「危ないし、動こうか?」

「はい♪」

 

運が良かったな。と去っていく女性の後ろ姿に一瞥と言う名のガン付けを行ってから、愛紗は歩こうとしたのだが。

 

「危ないし、手繋ごっか?」

「ぜひ!」

「まぁケータイあるし、離れちゃっても何とかなるとは思うんだけど。ねーちゃん達皆危なっかしくて、癖になっちゃってさ」

(ありがとうおねえさん!!ありがとう地球!!)「優しいですね、先輩」

「んー?」

 

近づいてから何か気になったのか、ちょっとごめんね?と断りを入れて愛紗の首筋に顔を近づける一刀。

途端、真っ赤になって固まる愛紗。無理もないだろう、このまま襲われてもむしろカモンではあるが。

 

「あ、ごめん。なんか凄い良い匂いってか、好きな匂いした気がしてさ」

 

んじゃ行こう。と一刀から握られた右手の感触に、今なら魔○村ノーミスクリアできると意味もない自信を身につけた愛紗だった。

「でも良かったの?一日俺ん家に篭ってるとかで。今ならまだどっか出かけられるけど」

「とんでもない!先輩お疲れみたいですし・・・それに、あんまり人ごみって得意じゃなくて・・・」

 

一刀御用達の大型スーパーに立ち寄り、お菓子諸々を籠に入れている時だった。

時折欠伸を噛み殺し、時折それすら出来ずにふぁ。と欠伸をする一刀を見て寝不足かなぁと心配した愛紗。

お疲れですか?と尋ねた所、半分愛紗のせいだぞーと冗談交じりに返され泣きそうになったのだが、聞けば昨日はバイトが大変だったという。

もう半分はどうやら部屋の掃除に意外と手間取ったらしく、寝たのは4時を回ろうかという時間だったらしい。

 

「片づけ中に発見する漫画って、なんであんなに面白そうに見えるんだろ?」

「あ、私も実家帰った時は大変でした。無性に懐かしくなっちゃうんですよね?」

「そうそう」

 

片付けや掃除ぐらい、言ってくれればいくらでも片付けるし寧ろやらせてほしいのだが。というのが愛紗の胸の内ではあったのだが。

 

「でも家事って大変じゃないですか?」

「んー、すんごく大変」

「私は寮母さんがやって下さるので、なんだか申し訳ないのですが・・・」

「そういや秋蘭も言ってたな、一点を除けば素晴らしい人物って聞いてたけど、なんかあるの?」

「慣れるまで大変。という所ですかね?」

 

やっぱ寮暮らしってそうなんのかなー。と一刀はカートを押しながら呟くが、愛紗は一瞬苦悩の日々を思い出した。

筋肉モリモリの変態が、全てにおいて自分達の上を行くスキル、所謂【女の子のアピールポイント】を兼ね備えている時の屈辱は筆舌に尽くし難い。

 

「俺の学校って寮なくてさ、家出るとき結構大変だったんだよ」

「あ、たしかアパートでした、よね?」

「あれ、話したことあるっけ?」

 

無論、ただリサーチぶっこいただけである。

 

「秋蘭先輩カラ聞イタ事ガ」

「秋蘭ってそんな事喋るタイプだったっけ・・・まぁいいや」

(ごめんなさい。今度お茶奢ります。可能ならケーキもつけます)

 

目を瞑っての謝罪に、心の中の秋蘭は鷹揚に頷いて許してくれた。自己の妄想の産物だから当たり前である。

 

「あ、先輩ってこのメーカーの紅茶好きなんですよね?セール品みたいですし2つ買います?」

「良く知ってんねーw」

 

ラッキーと言いながら籠にパックの紅茶を入れる一刀の顔に不思議な充足感を覚えた愛紗だった。やはり自分の行い(=ストーカー行為)は間違ってないらしい。

 

「んっと、大体買ったかな?愛紗はもうない?」

「はい!」

 

んじゃ行こう。とカートを押しながらやっぱり欠伸を噛み殺し、心持ゆっくりの速度で歩く一刀。その横を同じ速度で歩く愛紗。

 

(カートを押して歩いている男性の横を同じ速度で歩く女性=その男性の彼女!!)

 

キタコレ!私始まった!!とアドレナリン全開である。

汚い部屋だけど。とお決まりの前置きをされてから通された一刀のアパートで、愛紗は今なら雲でも割れると思った。

 

(先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家先輩の家!!)

「愛紗?」

「あ、お邪魔します」

 

キチンと靴を揃えてから上がり、ぶしつけだとは思うがキョロキョロと部屋を見回してしまう。

 

「なんか珍しい?」

「えへへ・・・男の人の部屋に上がるの、初めてなんです」

「うわ、なんか責任重大だな」

 

お茶入れるから座ってて。と言う一刀に手伝います。と無理矢理横に並び、カップ諸々の場所を教えてもらう。

複雑な配置でもないので覚えるのは簡単だったが、一人暮らしにしては妙に食器類が充実しているのは不思議だった。

 

「食器集めるのお好きなんですか?」

「あ、半分以上は姉ちゃん達のなんだ」

「へ?」

「俺姉ちゃん五人いるんだけどさ、皆趣味違うの」

 

なるほど、確かに実用本位なシルバーステンレスのマグカップもあれば、可愛さ満点のファンシーなモノもある。

 

「やっぱ女の子って食器とかに拘るのかね?」

「そうですね・・・お気に入りは持ってますよ、私も」

「へー、どんなの?」

「前に先輩が買われたカップ、気に入ったんで私も使ってます♪」

「あー、懐かしいね。あんときはありがとね」

「いつでも呼んでください!」

 

一刀は生活用品も併せて買っていたため、ちょっと閉まってくる。と背を向けた。

その瞬間、寮にある色違いのカップと同じ様式のカップに口を付けるかどうか迷う愛紗。

 

(やるか・・・いや、ここでやったら一日マトモに先輩の顔を見れんぞ・・・)

 

恐らく頭がフットーすること間違いない。此処は我慢だ。我慢・・・出来るか?

 

「愛紗ー?」

「はい?」

「そういや聞くの忘れてたけど、冷たいので良かった?暖かいのが良いならお湯沸かすけど」

「あ、じゃあ一応準備しますね」

 

ヤカンは見える所にあったので、使っていいですか?と尋ねてから水を張って火にかける。

 

「愛紗は良い奥さんになりそうだよなー。気が効くし、世話焼きさんだし」

(もう私死んでもいい)「そんな、これぐらい普通ですよ」

「いや、人によると思うよ?二番目の姉ちゃんも世話焼こうとするんだけどさ、ドジだから台所大惨事だもんw」

「えへへ・・・実は私も寮に入るまでは苦手でした」

 

これキュンキュンじゃね?これマジでカップルじゃね?と愛紗の頭は今日の出来事を一字一句違える事無く記憶に焼き付けていく。

ごめん、戸開けてくれる?とトレイにお菓子諸々を乗せてもつ一刀。イザ寝室兼私室。

後ろ姿(主にうなじ)にヨダレが止まらない愛紗だったが、ここで押し倒しては大惨事だ。ゲーム機あるし。

 

「ごめん、クッションとかないからベットに腰掛けるか凭れて」

 

一応換気したから匂わないとは思うんだけど。という一刀に何故そんな勿体無いことを!と思わず詰め寄りそうになったが、なぁにまだ洗濯機が残っている。

 

「そういや愛紗もモンスター○ァームとかやるんだね?」

「え、ええ。先輩の話聞いてると楽しそうだったんで!」

 

こういう時は先輩という呼び名は便利である。もし一刀から聞いた情報でなくとも、勝手に秋蘭情報に修正してくれるのだから。

 

「あのゲームは皆中々理解してくんないんだよなー」

「やってみると愛着湧くんですよね。私まだゴー○トのアイテム取れてなくて・・・」

「死亡必要なのはなぁ・・・俺は割り切ってすえき○えぞーでやったけど、苦いモノは確かにある」

 

どうやら今回は一刀から進められたゲームだったらしい。

 

「愛紗とは好みとか結構被るから、俺としてはすんごい嬉しい」

「大神は泣きましたよ・・・アレが評価されないのはどうかと思います」

 

無論趣味が合うのではなく、無理矢理一致させているのである。以前の愛紗はゲームどころか漫画すら滅多に読まないタイプの人間だった。

まぁやってみると意外に楽しい・面白いという感想を持てたので、作業的にそれらを消化している訳でもないのだが。

 

「さて、と」

 

ゲーム機の電源を入れた一刀。なんと、すぐ真横に座った。愛紗のすぐ横、肌と肌が触れ合うかどうかと言うぐらいの真横。

一刀にしてみれば普段通りの行動で、家に来たのは幼馴染か姉達だけである。

姉の中にはくっ付いていないと癇癪を起こす組もいるし、幼馴染にしたって今更の距離感。

しかし、今回はそのどちらでもない愛紗。そう、愛紗である。

 

(と、とりあえず子供は三人ぐらい・・・一姫二太郎っていうし、最初は女の子が・・・そこら辺は気合でなんとかするとして・・・

お父さんとお母さんに挨拶はこの際省くとしても、先輩のご両親には近いうちに菓子折りもってご挨拶に行かないと!うん!

えっと、友達皆に結婚報告のメールを送るとして、コミケで売り子しなきゃならないから式はその後にして・・・でもやっぱり)

「愛紗?」

「式は六月の方が?!」

「何の?」

「い、いえなんでも? 何ですか?」

 

その言葉に若干眠そうな眼でう~ん。と伸びをしながら、コントローラーを指差す一刀。ふわぁぁと大きな欠伸も忘れない。

 

「あ、はい。ゲームですね、ゲーム」

 

気を取り直し、ゲームに向き合う愛紗だった。そう、この時点で愛紗は一応ゲームを進めようとしたのだ。

コテン。

 

「あーヤバい・・・ごめん・・・ちょっとだけ・・・」

(何?どっきり?仕込まれてんのこの状況?だとしたら仕込んだやつGJ!!!!)

 

ちょっとだけ。とは言ったものの、直ぐにスースーと寝息を立て始めた一刀。

愛紗の左隣に座り、肩に凭れかかるこのシチュエーションを、どれだけ待ち望んだろうか。

 

(昨日忙しかったバイト先GJ!!懐かしい漫画GJ!!!)

 

とりあえずコントローラーを握っている場合ではない。揺らさない様に最新の注意を払って、ケータイではなくデジカメを取り出すと、少し離して撮影する。

 

(・・・・・・私もう何時死んでもいいや)

 

無防備に寝る一刀と、伸びた腕が少々不恰好ではあるが一刀を見守る自分の図。

とりあえずこの写真はパソコンのデスクトップにしよう。次はケータイの待ち受けだ。

こちらは一刀単体の方がより望ましい。そう思い一刀に向けてレンズを向けた時である。

 

首筋に唇が当たった。無論、愛紗の首筋に、一刀の唇が、である。

座りが悪かったのか、二、三度頭を振り動かして落ち着いた頃には少し開いた唇が完全に首に当たっていた。

少し湿った唇の感触と、寝息が当たる感触にデジカメを手落とす愛紗。

 

(亜qw背drftgyふじこlp;@:「」)

 

寝相が悪いのか、それとも癖をつけた誰かがいるのか。一刀はそのうち愛紗を抱き枕にしだした。

 

(せんぱいに、せんぱいにだきしめられてる!あまつさえおしたおされてる!)

 

愛紗の鼻息は荒かった。妄想は留まる事を知らなかった。お湯の沸いたヤカンがグツグツと言っていたが、音の出るアレを装着していないので静かな音だった。

しかし、このままでは吹き零れたお湯がどうなるかわからない。湧きすぎたヤカンは非常に危ないのだ。

 

「せ、せんぱ~い?ちょっと、ホンのちょっとだけ、すいませ~ん」

 

優しく腕を解こうとするが、それはかなりの苦行だった。なぜ己から抱擁を解かなければならないのか。

気を利かせてヤカンに火をかけた少し前の自分を全力全開でぶん殴ってやりたい。

血涙を流しながら、なんとか起こさずに抱き締めロックから抜け出た愛紗だが、やる事はまだ残っている。

 

1.一刀を起こさないように優しく、できるだけゆっくり押す。

2.火を消す。

3.一刀が倒れる前に今の位置に戻る。ハグされて(*゚∀゚)ウマー。

 

「なんだ、簡単ジャマイカ」

 

目測で直線距離は2~3mほど。しかし障害物(扉)有り。

 

「火を消すのは構わんが・・・別に、扉(アレ)をぶち抜いてしまっても構わんのだろう?」

 

愛紗は翔けた。文字通り、空を少しだけ飛んだ。

愛紗の妄想内で結婚し、子供が生まれ、その子供も育ち、孫も生まれ、幸せな老後を向かえ、二人で温泉に向かった辺りで一刀は眼を覚ました。

 

「お目覚めですか?」

 

優しい愛紗の笑顔に最初こそあれ?という顔をしたものの、状況を理解した辺りで日本の様式美・DOGEZAを執行した。

抱き締めて押し倒していれば、流石に顔も青ざめる。一刀の対応は普通といって良いだろう。そこに至るまでの経緯は普通ではないが。

それを愛紗は笑って許した。全然気にしてませんよ?と言って微笑む顔に裏は見て取れず、でもホントにごめん!ともう一度謝った。

 

結論から言えば、愛紗は見事掛けに勝ったのだ。

全くの無音で引き戸を開け閉めした姿は、その様子を空き巣が見ていれば弟子入りを懇願されるレベルだった。

 

「もう!気にしてません! でも、そうですね・・・」

 

TVの画面は相変わらずOPのまま、少しも進んでない事を暗に伝えると。

 

「あ、あの・・・また、お邪魔しても・・・いいでしょう、か?」

 

先程までの笑顔はどこへやら、顔を真っ赤に染めて、それでもきっちりとしてきた要求に一刀は勿論。と答えた。

 

せめてお詫びに送るよ。との一刀の申し出を有り難く受け、愛紗は【態と】忘れ物をして家を出た。

連休なので明日も休み、フラグが立たない?なら無理矢理つき立てればいいじゃない!!

 

「ホントに今日はゴメンな?なんかすげぇ安心しちゃってさ」

「ん、んんっ! ホントに大丈夫です♪」

「ホントごめん・・・あ!なんか良い匂いするなと思ったら・・・そうか・・・」

 

危うく漏れそうになった本音(今日勝負下着です!!)を済んでの所で押し殺した。

ブツブツ一刀が言っているが、匂いが褒められたというのならそれはそれで良しである。

 

「どうかしました?」

「い、いや!なんでもない」

 

じゃあまたメールする。今度は俺から誘うから予定空けといてね。

 

去り際にそんな文句を吐いた所為で、その日詠は睡眠を取る事が出来なかった。

無論愛紗だけならシカトして寝ただろう。

原因は、今日のデートを気に揉んでいた変態寮母に全てある。

あとがきと言う名の新キャラ説明。そして解説。

 

なんだか「愛紗憐れ」なコメントくださった方が多かったので、そんなに酷いか?と思って2を読んで自分でびっくり。

客観的に読むと結構酷い事してるなぁと思ったので、今回は幸せ一杯で終わらせました。無論幸せなの愛紗だけですけど。

上げて上げて最後落とそうと思ってたのですが、そうするとまた可哀想な子になっちゃうので今回は見送りで。

代わりに他の誰かが不幸になるよ!やったね愛紗!

 

新キャラですが、今回はフォーマンセルのラスト一人、詠。

ダウナー系を目指して書いたんですが、あまり表現しきれてないですね、表現力って大事。

突っ込む際の汚い言葉は他とキャラ被るので、今回はその辺り注意しました。出るときはでますが。

 

そして何故か期待されていた貂蝉も登場。あのお方のヴォイスを字で著すのは非常に難しかったです。あれ、作文?

キャラ崩壊ですが、詠はともかく貂蝉は無理。

最初から壊れてるモン壊すなんて流石に無理ですよ?

凄まじく真面目な貂蝉とかどうかと思いましたが、もう一人の変態の存在を思い出したのでやめときました。温存って大事。

 

では此処からは、(ほぼ)毎回恒例のお礼返信です。いつも読んでくださってる方ありがとうございます。

 

りばーす様 くくく、我が術中に嵌っておるわ!

      華琳様は意外と何でもこなしてくれます。時事系列とか言い出してなきゃ登場回数凄い事になりそうです。

 

セイン様  どうしてこうなった。割と本気な疑問。や、私が主犯ですがね。

      間違いなど誰にでもあります。書いてる本人が途中で訳分からなくなるなどしょっちゅうです。

 

自由人様  なんかシリアス部分褒められると凄い嬉しいですね。もう書くことないでしょうが。

      姉妹は出そうと思えば何時でも出せるので、その辺りの加減が非常に難しいです。

 

truth様  つ【製品版】

      恋ねーちゃんはサジ加減を間違えると無双しだすので困ったちゃんです。

 

Night様  ギャップって大事ねー。や、そんな大層なことはしてませんが。

      御身(特に更新頻度)に近づけるよう日夜努力と言う名の妄想に耽っております。

 

ミドリガメ様 や、そんなそんな。テレます。ホントに。

       何、稟の話を御所望とな?よーしパパ頑張っちゃうぞー。

 

ゲストさん 嫌いな俳優さんが出てる!とかの拒否反応ではないのですがね。

      やはり秀でた声優さんと並んで演技されると、どうしても気になります。

      卑弥呼はまぁ近いうちに。キャラ濃いと喰われちゃうのでタイミングが難しいです。

 

zero様   親切なご指摘有難うございました。拙い表現を読み取って頂けて嬉しいです。

      基本的に皆ブラコンなので、原作でも優しさがウリな桃香をどうするのかが悩みのタネです。

 

比良坂様  スポットライト当ててみました。いらん部分まで浮き彫りになりましたが。

      書いてる段階で原作の春蘭みたいになったので、そこから立て直すのに時間掛かりました。

 

よーぜふ様 けしからん思春の設定は、きっと801組が出てくる辺りで披露される予定です。

      月は兎も角、華琳の崩壊は中々良かったなぁと自己満足してます。

 

ブレイド様 流石恋姫だ!!崩壊させても(ry

      褒められると嬉しいもんです。私のような単純人間は特に。

 

叢 剣様   ソノ発想ハ無カッタワー<薬剤師

      きっと日夜白い(ry

 

ハイドラ様 気が楽になった一刀くんは、きっと新たなフラグを建てる事でしょう。

      ほんと、主人公属性が羨ましい。

 

tyoromoko様 タグに恋姫†無双を登録しておきながら、実は無印はやった事ありません。

       貂蝉・卑弥呼・華佗以外の男性人は手探りでの構築になりますね。

 

tomi様   何故か偉くなった気分です、むふん。 姉’sメインはきっと過去編になりますね。

      その方が登場させる人物少なくて済みますし、姉を前面に押し出せます。

 

一刀様   思春と並ぶぐらい、華琳は書きやすかったです。ああ、アホの子達はいとおしい。

      イイ性格の月も同じぐらいノリノリで書けました。

 

南華老仙様 月は隠しコンセプトとして【我侭】というのもあります。

      お嬢様チックな周囲への理不尽さを今後は書いて行きたいです。

 

風の旅人様  実在のタイトルなどをふんだんに入れてますので、イザ芸名となると考えるの大変です。

       結構オタクな一刀は声優の名前とか覚えてそうですし、そうなると色々歪みます。

 

 

感想ありがとうございました。

別の作品を読ませてもらっていた際、結構厳しい意見の方もいらっしゃったのが衝撃でした。

こうやってお礼書かせて貰って改めて、暖かく懐の広い方に読んでいただけて幸せだと思いました。

 

 


 
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