「……これがわたしたちの事務所?」
「まぁそうだな」
「へー思ったよりも大きいじゃない」
「えーやだやだ! もっと練習が出来る所がいい!」
「仕方ないよ姉さん、それより肝心の舞台はどうするのよ、この辺には無いみたいだけど」
「あー、それならファンクラブの人達の会費からお願いして、行く時に作ってもらう事になってる。最初は小さい舞台しか作れないだろうけどファンクラブの規模が大きくなって売り上げも上がれば段々と大きくなってくるはずだよ」
幸い路上で公演をしていた頃からのファンが多く会費は思ったよりも多く、早い段階で事務所を構える事ができた。これからも色々な所で公演をするのでずっといられるわけではないが本拠地を構える事で活動はしやすくなる。
まぁどちらにしろ、とにかくデビューをしなければ何もはじまらない。
「最初はこの程度で十分。むしろ有り難いぐらい。あとは私たちが大きくすればいい」
「それはそうだけどー」
天和は納得がいかないようだ。気持ちは分からなくもないけど。
「ちぃ達には実力があるんだからあっという間に大きくしちゃうんだから♪」
「そっかーならお姉ちゃん頑張っちゃうよー! 目標は歌で大陸を統一! ガンバロー!」
「おー!」
「おー」
事務所に荷物を移動しやることもなくなった夕方頃。真っ先に荷物を運び終え(一刀に運ばせた)暇を持て余していた天和が広告を準備していた一刀に話しかける。ちなみに地和はアニキを呼びに行き人和は夕飯の買い物に出かけていた。
「ところで一刀」
「ん?」
「わたしたちこれから何をすればいいの?」
「とりあえずデビューの日までは待機かな。でも街に出て宣伝してくれると助かるかな」
「宣伝って何をするの?」
「瓦版を配ったり情報を流したりするのは俺がやるから天和達は人が多そうな場所で歌ってくれればいいよ」
「それだけでいいの?」
「うん。天和達に足りないのは実力を証明してくれる人が少ない事だからね。天和達の歌は凄いって所を見せてあげれば噂もどんどん広がってくれるよ」
「へー、じゃあ今までやってきた事は無駄じゃなかったんだ」
「実際アニキ達見たいな人もいたわけだし。ある意味今までの行動が宣伝みたいなものだったのかもね」
「一刀かわいいし頭いいー」
一刀の言葉に感心させられた天和は思わず抱きつき頭を撫でる。
「むー!んぐーっ!」
「天和姉さん少しは落ち着いて。一刀さんも嬉しそうにしない」
片手に籠をぶら下げて人和が戻ってきた。天和の胸が一刀に当たってるのを見ると少し眉をひそめる。
「だって一刀凄いんだもーん。思ってたより頭いいし可愛いし、ねー一刀」
「いや、そ、それは嬉しいんだけど……む、胸が」
「むねー?」
一刀の指摘にようやく自分の胸が当たっている事に気づく天和。だが離れるどころか。
「えい♪」
ますますくっ付いてきた。大きな胸が一刀の体で思いっきり潰れる。
「――っ!」
自分でも顔が真っ赤になっているのが分かる。嬉しいけど恥ずかしいこの感覚。人和が見てるのに。
チョンチョン。
ふと肩を叩かれている事に気づき後ろを向く。
ニコニコ。
そこには満面の笑顔をしたアニキと地和の姿があった。慌てて天和を引き剥がす。
「天和傷ついちゃうなー」
それ所じゃないんです。
「これは! 違うんだ! 天和が勝手に!」
「……本当か?」
人間殺意を通り越すと笑顔になるんだな。そして人間ってここまで低い声が出せるもんなんだ。まさに蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなってる一刀。そして救世主が。
「天和姉さんの胸に当たって喜んでいたわ」
あらわれた。ただ地獄の鎌を持った死神だったけど。
「ア、アニキ……」
「わかった」
「アニキ!」
「つまりお前は俺達の敵って事だな」
宣戦布告を聞いたと同時に全力で駆ける。
しかし回り込まれてしまった。むしろ既に囲まれていた。ファンクラブ会員の皆さんに。
「北郷のアニキ、さすがに言い逃れは無理だぜ」
「んだ」
「ちくしょーーーーう!!」
ファンクラブの会員からボコボコにされる一刀。それを見た人和は
「私だって一刀のこと……だから」
と一言呟いた。その呟きは会員の怒声と一刀の悲鳴により誰にも聞かれる事はなかった。
デビューライブを次の日に控えた夜。寝るのを惜しみギリギリまでデビューの事を考えていた一刀にアニキが訪ねてきた。
「調子はどうだ」
「アニキ、どうしたの? わざわざ事務所に来るなんて」
「お前が言ってたチラシだっけか? あれ全部配り終えちまったよ」
「もう? ギリギリまで配れるよう多めに用意したはずなんだけど」
「俺達の活動と天和ちゃん達の活躍を舐めるなよ。言われた通り仲間の商人の伝手も利用して配っておいたぜ。ところでお前はこっちはいけるか?」
と言って手をクイッとあげる。
「お酒? うん」
「よし。じゃあ良い場所に連れて行ってやる」
言うなり部屋から出るアニキを一刀は追いかけた。
「ここだ」
アニキに連れられてきた場所は街から少し外れた小高い山だった。その山からは街が一望でき完成したステージや事務所も見える。
「まぁまずは飲めよ」
「うん」
アニキに渡された酒を一口飲む。お酒は喉を起点に体を駆け巡る錯覚を与えた。アニキも俺が飲む様子を見て懐に入れてあった酒を飲む。
「かー、こんな時生きてるって感じがするんだよなー」
「ところで何でここに連れてきたの? この良い風景を見ながら飲みたかったの?」
「まぁそれもあったがお前と話がしたくてな」
「はなし?」
「記憶はどこまで思い出した」
「う~ん、結構思い出してるとは思うんだけど。でも誰も知らないような変な事も思い出すっていうか……」
「こんな噂を知ってるか。黒天を切り裂き、天より飛来する白き流星は乱世を鎮める」
「少しだけなら。でもエセ占い師の話って事だけど」
「まぁそうなんだが。んでその白き流星、つまり天下の遣いだな。それはお前なんじゃないかと思っている」
「はぁ!? 何言ってるのさ」
「まずはお前の着ているその制服」
「これ?」
「はじめはどこかの国のもんだとも思ったんだが余りに良く出来過ぎてる。次にお前が時々使う言葉。これも違う国の出身なのかと思ったんだ問題なのはその言葉の意味だ」
「意味?」
「明らかに現実離れしてるんだよお前の言っている言葉が。例えばお前が前に言った空飛ぶ飛行機って言ったか?」
「うん」
「俺達にとってその空飛ぶって事が信じらんねー。そんなのが飛んでるならなぜ俺たちは見た事がない。他にもお前が言っている事の概念そもそもが理解できない事がある。軽くしか聞いた事はないが他の国の奴らも俺達とそうは変わらない。お前は今生きている人とはあまりに違いすぎる。つまりだな」
話を区切るともう一口アニキは酒を飲んだ。
「お前はこの世界の人間じゃないんじゃないか?」
俺がこの世界の人間じゃない? 今まで時折感じてた違和感。通じない言葉。感覚。それも、アニキが言うように俺がこの世界の人間じゃなくて別の世界から来た人間だとすれば。辻褄があう。そして何となく理解もしてしまう。でも。
「だとしても」
「ん?」
「俺が違う世界の人間だとしてもあの三人の為にやる事をやるだけだよ。好きな女の子の為だから。関係ない、それに記憶画完全に戻らない以上確実でもないしね」
笑顔で述べる。予想と違った言葉が返ってきたのかアニキは少し固まっていたが
「そうか」
と言ってまた酒を飲み始めた。
「大陸統一できるといいな」
「アニキ達も頑張らなきゃ駄目ですよ」
「そうだったな」
二人で笑い合う。
明日はきっと成功する。
そこに不安はなかった。
あとがき
最初に書いてあったのを読んだ方は分かると思いますが、今丁度就職活動中でして時間が限りなく少ないです。
ですので更新スピードは上がりはしないと思いますので気長にお待ちいただけたら幸いです。
というわけで宣言通り話はほとんど進んでいませんね。せめて初ライブぐらいはとでも思ったのですがアニキを出そうとしたら話が進みませんでした(先にライブ以降の話を作ってたので)
というわけで今回は特に見どころもなかったのですが、次回以降の話を考えるのにあたって質問があります。
その質問とは次に出すキャラ(味方)誰がいいですか?
皆さんのコメントを参考に三姉妹やアニキ達との今後の展開を考えてみたいなーって思ってるので良ければお願いします。
では最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
日々精進あるのみ
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安西先生……内定が……欲しいです
うーん。展開が強引すぎるなぁ。もっと上手くなりたいな。
今回は特に進展はありません。