真・恋姫無双 二次制作小説 魏アフターシナリオ
『 想いの果てに掴むもの 』蜀編
第11話 ~ 弱き王、されど強き王 ~
シュッ
ギィーーン
放たれる突きを、刀で下にはじき地面に叩き付ける
その隙に、彼女に近づく
だが弾かれた槍は、地面を叩いた反動を利用して
弧を描いて俺を襲う。
フォッ
ヂッ
俺はそれを前に出ながら、刀で上に逸らす。
槍を逸らした刀は、そのまま横にやり、
弧を描いて、下から上に跳ね上がるように襲い来る槍を、
しっかりと受け止める。
「くっ」
受け止めた事によって止まった足
その隙に、彼女は槍を操りながら、一歩下がる。
俺は逃すまいと、脚を止めた隙に足元へ溜めた"氣"を爆発させる。
縮歩で、下がられた以上に前へ進んだ俺の顎を、
再び下から弧を描いて来る石突が襲う。
ヒュッ
チッ
石突を頭を横に逸らすことで、間一髪で避わす。
だが、避わしきれなかったのか石突は俺の横髪を払い上げでいく。
だが、そのおかげで、俺はやっと自分の間合いに入る事が出来た。
(今度は俺の番だ)
スッ
ガッ
下から斜めに切りあがる刀の軌跡は、
彼女の槍によって弾かれる。
だが俺はその反動を利用して
体を横に回転させ、前へ一歩進みながら
今度は片手で横に払う。
フォッ
ガッ
俺の体重の乗せた一撃は、
彼女の立てた槍で、受け止められる。
(受け止められるのは、計算のうち)
俺はそのまま前へ出ながら、拳を前に放つ
パン
「くぅ」
俺の拳は、彼女の左腕に当たる。
その一撃に、彼女は一瞬痛そうな顔をするが、
槍はそのまま、手放すことはなかった。
俺は前へ突き出した拳で、体を引っ張るように、突きを放ちながら前へ進む。
ガッ
むろんそんな軽い突きは、簡単に弾かれてしまうが
今はそれでいい、今のは前へ出る。
彼女の攻撃範囲の内側まで、出ることの方が優先だ。
ヒュッ
そこへ彼女の槍が、最小の弧を描いて俺を横から襲う
キン
俺は、それを刀で受け止める。
ここまで内側に入ると、槍には前のような重みはなくなり、
俺の刀によって、そのまま弾かれる
シュッ
ガッ
お返しとばかりに、横に払った一撃は、
彼女のまっすぐ立てられた槍に防がれてしまう。
ならばと思ってたら、
フッ
彼女の姿は、槍を残して俺の前から消える。
(下か!)
「てぇぇぇぇぇい!」
ドガッ
しゃがみ込み、馬のように、後ろ向きに放たれた強力な蹴りが、俺を下から襲った。
馬蹴撃、その蹴りをなんとか腕で受けるが、
彼女の体重の乗せた蹴りの威力は、
俺をそのまま、後ろに吹き飛ばすには十分だった。
ドサッ
チャッ
斜め下から蹴り飛ばされた俺は、その勢いを殺す事が出来ず
尻餅をついてしまった所に、彼女の槍が俺の眼前で止められる。
「・・・・」
「まいった」
「それまで」
俺の降参の言葉に翠は、彼女の勝利を宣言した。
「それまで」
俺の降参の言葉に翠は、彼女の勝利を宣言した。
「やったーー、お姉様、見たでしょ、油断なんかしなければ、負けないんだから」
「よく言うよ、結構ぎりぎりだったぞ」
「ぶー、そんなことないもん」
俺に勝った馬岱は、その勝利を翠に自慢する。
「ふぅー、やっぱり馬岱は強いなー、結構いいところまでいけたと思ったら、
あっさりやられちゃったよ」
「ふふーん、蒲公英が本気を出せば、これくらいわけないよ」
「うん、すごいすごい」
「・・・あれ?」
勝利を俺にまで喜ぶ馬岱に、俺が賛辞の言葉を送ると
馬岱は、どこかおかしそうに俺を見る。
「ねぇ、あなた悔しくないの?」
「悔しいか悔しくないかって言ったら、悔しいけど、それは自分が弱いから仕方ないことだし。
それに、今は俺みたいな奴に、勇将馬岱が本気を出してくれたって言う事の方が、嬉しいかな」
「・・・・・」
俺の言葉に、馬岱はぽかーんと黙ると
「お姉様、この人変だよー」
「ひどっ!」
馬岱の、いきなりの、あまりな発言に俺は思わず叫ぶ
「だから言ったろ、こいつは勝ち負けに、拘る奴じゃないって
負けて悔しいと思うのは、仕方ないかもしれないけど。
それに拘ると、目を曇らせることになるぞ」
「ふーん、そんなものなのかな」
「そんなものなんだよ。
それにこいつの勝ち負けは、勝負の勝ち負けじゃなく、目的を果たせるかどうか、なんだと思うぜ。
一刀、一刀にとって、この仕合の目的はなんだった?」
「えーと、今の俺の武が、馬岱にどれだけ通用するかってことかな」
「だ、そうだ。
蒲公英も少しは見習うべきところだと思うぜ、あたしは」
「ふーーーん」
「なんだよ、蒲公英、そんな目であたしを見て」
「いやー、さすが口づけを交わした相手のことは、良く見てるなーと思って」
「○×※△□◇!!
蒲公英、おまえいきなりなにを、っていうか、そんなんじゃないぞ! あたしは」
勝利の喜びなど、どこかに飛んでいってしまったのか、馬岱は翠をからかい出す。
翠は、一つ一つ面白いぐらい反応するので、見ていても楽しい。
きっと馬岱も、そのあたりが楽しいのだろう。
俺はそんな様子を、自分でも優しい笑みを浮かべていると判る顔で、頬をかきながら黙って見守る。
経験上突っ込むと、巻き込まれて、ろくな事にならない気がするからだ。
翠との一騎打ちから2日
翠は、朝夕の鍛錬以外の鍛錬にも付き合ってくれる約束をしてくれた。
そんな中、馬岱が再戦に拘っていたため、翠の執り成しで
鍛錬の一環として、簡単な仕合を行ったのだが、結果は見ての通り、俺の敗退。
まぁ、本来の実力差からして、これは当然の結果だろう。
俺としては、馬岱に自分の武を試せただけ、満足いくものだった。
「と・に・か・くっ、あたしと一刀は、そんなんじゃないからな!」
「ふーーーーーん、じゃあ、そういうことにしておくね」
「しておくね、じゃなく、そうなの」
「まぁまぁ、
とりあえず、一応謝っておくね、ごめんなさい」
翠とのじゃれあいもいつの間にか終えて、馬岱が俺に謝ってきた
「どうしたんだ、蒲公英が自分から謝るなんて」
「あぁー、お姉様ひっどーい、蒲公英だって、その辺りはきちんと弁えているんだからね。
それに、相手が、こんな態度なのに、いつまでも蒲公英の方だけ、勝負に拘って嫌ってたんじゃ
蒲公英の方が悪者みたいじゃない」
「まぁ、それに気が付いただけ、蒲公英も成長したってことだな」
「ぶーぶー、お姉様には言われたくないよ。
それに、蒲公英、一応このお兄さんには、お姉様の事で感謝もしているんだよ」
「そっか、蒲公英にも心配かけたな」
「お姉様が信じるなら、蒲公英も信じるよ。
このお兄さんも、お姉さまの言うとおり優しい人って判ったし、
そ・れ・に、結構かっこいいし」
そう言って、馬岱は怪しげな目で、俺を横目で見る。
拳で口元を隠している辺り、何か企んでいそうだ。
「優しくて、将来有望、これは美味しいかも」
そんな呟きが聞こえ、さらに俺の全身を嘗め回すように見る。
えーと、馬岱さん、なんでしょうか、その獲物を狙う子猫のような目で見つめられると
可愛いと思うけど、なんか、こー身の危険を感じるんですが・・・
何とかせねばと思い
「え、えーと馬岱、俺そろそろ仕事の方に・・」
「蒲公英でいいよ」
「え?」
「だから蒲公英と呼んでくれればいいから、一刀お兄様」
一刀お兄様・・・なんだか、蒲公英みたいな可愛い年下の娘にこう言われると
心地よい背徳感が俺を襲う。
ってそうじゃなくて
「あ、あの、蒲公英、真名を許してくれるのは嬉しいけど、そのお兄様と言うのは」
「だって、年上だもん。
そ・れ・に、なんだか嬉しそうだよ、一刀・お・に・い・さ・ま」
「くぉぉぉぉぉぉ」
いかん、分かっていてもこれは効く、
って、そうじゃなく冷静になれ、
しかし蒲公英の言葉には、あきらかに艶を感じたぞ。
あの翠さん、蒲公英に一体、どんな情調教育をしたんですか?
なんか今、自分が非捕食者になった気分ですよ。
「かーずーとーー、なに鼻の下伸ばしてんだ」
俺が蒲公英の態度に戸惑い、焦っている所に、翠の恐ろしげな声が聞こえてきた
「い、いや、別にそういうわけじゃ・・・」
「あっ、そうそう、これ今まで、変な態度取ったお詫びね」
ちゅっ
俺が翠へ言い訳しているうちに、蒲公英はそう言って俺の頬に軽く、その可愛い唇を当てる。
・・・あの、蒲公英さん、この状況で、それは、非常に不味いんですが
特に俺の身が・・・
ぷちっ
「おまえは、ねねだけに飽き足らず、蒲公英まで・・・・
一度その性根を、あたしが叩き直してやる!」
フォン
ドーーーーン
翠の振り下ろす槍を、俺と蒲公英は避わすと、
地面に当った槍は、その地面とその周辺を大きく陥没させた。
翠が、本気で振り下ろすとこうなるんだ・・・さすが錦馬超すさまじいまでの武だ
って、そうじゃなくて
「ま、まて話せばわかる、これは蒲公英がかってに」
「問答無用ーーー!」
「ひぃぃぃぃぃーーーー」
俺は、翠の攻撃を必死に避けながら逃げ待とう
「あらー、お姉様あんなに必死になっちゃって、可愛いんだから」
「そうですねー、お兄さんは天然ですから、誰彼かまわず優しくしちゃう悪癖があるのですよー」
「あれ、止めなくていいの?」
「別にいつものことですからー、それに翠さんも本気じゃないですから、問題ありません」
「やっぱ、魏でもあんな感じなんだ」
「そうなのですよー、で蒲公英ちゃんは混ざらないんですか?」
「こうやって見ているの方が楽しいかな、い・ま・は・だけど」
「そうなのですかー、お兄さんにも困ったものですねー」
「いい加減、観念しろぉぉーー!」
「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
まぁ、色々ドタバタとあったが、2回目の討議会
今回は、前のメンバーに加え、桃香も加わり、話を進めている。
「じゃあ、前回の案を、今回出たそちらの意見を踏まえて、もう一度作り直してみるよ」
「はいお願いします。
それと、これは、学校に関して、今、現在私たちがやりたい内容が書かれています」
そう言って朱里は、俺に案を纏めた竹間を手渡す。
俺は、その内容を軽く読んでみる。
うん、さすが朱里だ、俺なんかと違って、とても判りやすい内容だ。
でも、これって・・・
「ねぇ、朱里この内容だけど、もしかして桃香が?」
「はい、半分以上は桃香様の案です」
「朱里は、この内容どう思ってるの?」
「そ、それはその・・・・」
俺の問いに、朱里は申し訳なさそうに桃香を見る
まぁ、そういう答えになるだろうなと、こちらも予測はしていたが、
朱里から渡された内容で、大きな問題は二つ、
○学びたい人全員に教えたい
○無料で行いたい
他の事はともかく、この二つは大きな問題だと思う。
そして一番の問題は・・・・
「桃香」
「どうしたの北郷さん?」
「この案は、桃香の意見を基に作ったと言うことだけど、
これは、これで始めたいってことかい?」
「そうだよ、ぜひ実現させたいと思うんです。
華琳さんから聞いたよ、北郷さんがいた天の国では、民全員が無料で学べるって
私それを聞いて、ぜひやりたいって決めたんだ。
今の私の理想の一つかな」
俺の問いに、桃香は本当に楽しそうに、俺にそう語ってくれた。
理想だと。
きっと、その情景まで頭に浮かんでいるのだろう。
理想か・・・・でもこれは
「桃香、もし君がそれを本気で言っているなら、俺は降りさせてもらうよ」
「え?」
「北郷殿っ! 幾ら貴殿でも、そのような物言い、桃香様に無礼だろうっ!」
俺の言葉に、桃香は信じられないという顔をし、関羽さんは、俺の態度に激昂する。
「無礼なのは承知の上、さらに言わせてもらえれば、
桃香、君は華琳との戦いでなにを学んだんだ?
この国で、王としてなにを学んだんだ?
それが判らないようなら、君に王としての資格はないよ」
「そ、そんな・・」
「北郷殿! あまりにも口が過ぎますぞ、それ以上桃香様を侮辱するならっ!」
俺の言葉に、桃香は愕然とし
関羽さんは、今にも俺に斬りかからんばかりの勢いだ。
まぁ、自分の王が侮辱されればそうなるな。
春蘭だったら、もう切りかかってきただろう。
俺は内心冷や汗を垂らしながら、言うべきことを言わなければと覚悟を決める。
「思ったことを言っただけだよ。
それに関羽さん、君がそうやった甘やかせば、桃香の成長を妨げる事になるって、なんで気がつかない」
「なっ、貴様っ!」
ギリッ
関羽さんの歯軋りが、ここまで聞こえる。
「朱里、今日はここまでにしよう。
二人とも話ができる状態じゃない。
俺も少し興奮しているようだし、また5日後に」
「・・・・・はい」
「まて、貴様っ!」
俺と風は、騒ぐ関羽さんを無視して、会議を終える
その際、横目で見た桃香は、まだ、呆然としていた。
関羽さんは、詠と ねねが必死に止めていてくれている。
俺はそれを一瞥し、風と共に部屋を退出する。
あてがわれた執務室に戻って、俺は一息入れる。
そこに風が
「お兄さん、何故あんなことを?」
「風も判っているんだろ? 誰かが言わなければいけないって事だって」
「でも、それは、お兄さんの役では、ないのですよー」
「そうだね、でも・・・・今まで誰も言わなかったなら、今があるんだと思うんだ」
「お兄さんは優しすぎるんだと、風は思うのですよー」
「違うよ、本当に優しかったら、あんな言いかたしないさ」
「でも、これで終わってしまうのかもしれないですよー」
「でも、風はそう思ってないんでしょ?」
「お兄さんには、お見通しなんですねー」
「さすがに、付き合い長くなってきたからね。
朱里や詠達は分かっているからこそ、あそこで関羽さんを引き止めてくれたんだと思う。
なら、今は彼女達を信じるさ。
自分勝手だと、分かっているけどね」
それっきり、その話は終わり。
俺と風は、今日の討議で検討した内容を基に、もう一度、案の作成に入った。
あれから、4日、桃香達からは何も言ってこない。
朱里と雛里とは少しだけ話をしたが、
関羽さんは、見かける度、こちらを睨みつけ、
桃香は、視線を合わそうともしない。
魏延さんにいたっては、本気で追いかけられた事が何度もあった。
だがその度、漢升さんや厳顔さんの執り成しで無事に済んでいる。
「そろそろ何とかしないとな・・・」
休憩がてらに庭に来ると、桃香の事が、つい頭を横切ってしまう。
「一刀、こんな所で黄昏て、どうしたんだ?」
思考をめぐらせていると、翠が声を掛けてくる。
「翠か、いいのか?
いくら庭に出ても良いといっても、あまりうろつくのも不味いんじゃないか?」
「まあね、でも、あまり部屋に閉じこもっているって言うのは、あたしの性分じゃないし、気分転換さ」
「そっか」
「朱里に聞いたよ」
「そっか」
「あんな言いかたされれば、愛紗じゃなくたってそりゃ怒るさ。
そりゃ一刀が何も考えずに、そんなこと言う奴じゃないって、あたしは、分っているからいいけど
朱里達は一刀を庇うから、愛紗は余計面白くないさ」
「信じてくれるんだ」
「まあね、真名を許した相手のことを、信じられなくてどうするんだよ」
そう言って、翠は肩を軽く上げておどけてみせる。
「桃香なら、庭の奥の机で、ぼーとしてたぜ。
じゃあ、あたしは、そろそろ部屋に戻るよ、これでも蟄居中の身だからな」
そう言って、翠は部屋に戻っていく
やっぱり、俺になんとかしろってことだよな、これは・・・
俺は翠の言うとおり、桃香のもとへ行く。
そこは、よく公園にある小さな東屋になっていて、桃香はそこで両手を顎に乗せて座っていた。
俺が近づいても、気づかない程、なにやら考え込んでいる。
俺は桃香の前の椅子に腰掛けると
「まだ、悩んでいるの?」
「ふぇ?、はわわ」
これの言葉にやっと、俺の存在に気がつき、おかしな悲鳴を上げる。
はわわ・・・って、桃香、君は朱里かっ!
と心の中で突っ込んでいると、
桃香は黙って、席を外そうとする。
そんな彼女に俺は
「逃げ回っていたら、答えなんて見つからないよ」
ビクッ
俺の言葉に、桃香の肩が震える。
しばらくすると、やがて、俯いていた顔を上げ、覚悟を決めたように、再び椅子に座り俺と向かい合う。
うん、やっぱり、この娘は芯は強い娘だ。
「北郷さん、あの時の言葉の意味教えてください」
「ある程度は、君も気が付いていると思うけど?」
「私がみんなに甘えているって、言うのは分ります。
華琳さん言われてから、この二年間、私も一生懸命やってきたつもりです。
でも私は、みんなの様には出来ないから、
私に出来るのは、理想に向かって、進む事だけだと思うんです。
でもそれが間違いだって言うなら、私はどうしたら・・・」
「別に、それは間違いじゃないよ。
実際、桃香は良く頑張っていると思う。
俺が調べた記録や街の様子、それに、みんなを見ればそれは分るよ」
「じゃあ、どうしてあんなことを」
「桃香、君の言った学校は、たしかに天の国では、とくに俺の住んでた国では、当たり前のことだよ。
でも、ここは天の国じゃない。
この賑やかな成都や、許昌の街ですら、俺から見たら、未開の地もいい所だ。
それなのに、そんな所に、天の国のやり方を、そのまま真似したって出来る訳がない」
「それは、相談して、いい方法を考えれば」
「そうだね、今まで俺がやってきたことは、そうやって来た。
でも、今回の事は、それとは意味も規模も全然違うんだ。
朱里は、桃香に言ったんじゃないかな、このままでは無理だって」
「・・・はい、・・・その理由も」
「なんて言ってた?」
「もし知識をつけた民が反乱を起こしたらとか、お金の問題とか、あと色々あったよ
でも、北郷さんに相談すれば、それはなんとかなるかもしれないって、私が」
「桃香達が、俺を過大評価してくれるのは嬉しいけど、天の国では、俺はただの一般人だ。
出来る事と出来ない事があるって言うか、出来ない事だらけだよ」
「そんな・・・」
「話を戻そうか、俺は、朱里の言っている事は、最もだと思う」
「うん、でも大丈夫だよ、みんな良い人ばかりだもん、反乱なんてしないと思う。
お金のことだって、きっと何か良い手があるはずだよ」
「それだよ」
「えっ」
「人を信じることは、桃香の美徳の一つだと俺は思う。
でも、現実は、世の中に盗賊も悪官もいる。
私利私欲のためなら、人の命なんて、なんとも思わない奴がいるんだ。
お金のことだって、なんとかなる金額じゃない」
「でも、それは」
「桃香、なんで現実を見ない。
理想を語るのはいい。
桃香の理想は、俺も共感できるし、叶えたいと思う。
でも、現実に出来ない理想を語っても、それは理想じゃない。 ただの空想だ。
それに、朱里達は桃香の希望を叶えたいと、散々考えたと思う。
そして、どうやっても無理と結論したんだ。
臣下、ましてや重臣の言葉に耳を傾けないでどうする。
なぜ、今出来る範囲で、やれることを考えない。
その先にあるものを考えない。
この国の平穏は、地道な努力の果てにあるのじゃないのか?
現実を見ない、重臣の言うことに耳を傾けない、そんな者に王の資格があるのか?
俺はそう言ったつもりだよ」
「・・・・・」
俺の辛辣な言葉に、桃香は悔しそうに、俯いて黙っていた。
その頬には涙がつたっている。
俺はそれを見て、心が痛んだが、これは桃香が王として、乗り越えなければいけない試練だと思う。
だから、ここで甘やかすわけにはいかない。
桃香に嫌われる覚悟はしていたつもりだが、やはり辛いな・・・・
「もし、それでも、桃香が叶わぬ理想を語るのなら、俺達は明日にでも帰らせてもらう。
でも、理想を叶える為の相談なら、俺達は全力で協力させてもらう」
俺はそう言って、東屋を後にする。
華琳、ごめん。
もしかすると、同盟に亀裂を入れてしまったかもしれない。
俺は頭の中で華琳や皆に謝りながら、深く息を吐き、庭を出る。
「北郷殿」
呼ぶ声に、振り向くとと、そこには関羽さんがいた。
「北郷殿」
呼ぶ声に、振り向くとと、そこには関羽さんがいた。
「聞いていたんだね」
「はい」
「俺を斬るかい?」
「一つだけ聞かせていただきたい
なぜ、桃香様にあのようなことを?」
関羽さんは、応え次第では斬ると言わんばかりに、俺を睨み付けながら聞いてくる。
だが、その体からは、覇気は感じられても、殺気は感じられない。
それは、彼女自身も、桃香の事で悩んでいるからじゃないのだろうか・・・
だがその答えは、俺に分かる筈も無い。
だから、俺は自分を、彼女を信じ、まっすぐに答える。
「桃香が、頑張り屋さんで、やさしい王だからだよ」
「・・・・・」
俺の返事に関羽さんは何も語らず、静かな時が流れた。
「私は、桃香様の矛であり盾だ、なら桃香様が答えを出すのを待つべきでしょう」
「ありがとう」
「北郷殿の命が少しだけ延びた、と私は言っているのです。
礼を述べられる覚えはありません」
「それでもだよ。
俺が関羽さんにお礼を言いたいと思ったから、言っただけさ」
そう言った俺の言葉に、関羽さんは何も言わず、踵を返し去っていった。
なぁ、桃香
みんな桃香が
今を乗り越えることを
信じて待っている
桃香は王だから、孤独かもしれない
でも一人じゃない
桃香を信じている仲間が
桃香を支えてくれている
見守ってくれている
桃香が王として成長する事を
信じている
桃香をこんなに、想っていてくれる
だから、早く乗り越えて、帰って来い
みんな、桃香を待っているのだから
ギチッ
ギチッ
城の一室で、その重い空気が、聞こえてきそうな雰囲気の中で、俺と風はの痛々しい視線に晒されていた。
室内には、俺と風以外、関羽さん、朱里、雛里、詠、ねね がいる。
そう、桃香以外の前回のメンバーが・・・
・・・・失敗しちゃったかなー
と思って、心の中で汗をかきながら風を見ると
(お兄さん、また何かやったんですかー、これはあとでお仕置きが必要ですねー)
と思わず、頭の中に聞こえてきそうな視線で、俺を見ている。
あぁ、風、君までそんな視線で俺を・・・・俺に味方はいないのか
と言いたいが、これは俺の自業自得なので、致し方ないんだよね。
桃香が来ない事になれば、討議をしても意味がない。
桃香、駄目なのか?
お前は、ここで立ち止まるつもりなのか・・・
所詮は、俺の独りよがりに過ぎなかったのか・・・
俺は今の状況に、そしてこれからのことに心を痛める。
それは、この場全員が同じ意見だろう。
だがそんな沈黙も、長くは続かず、朱里が沈痛な面持ちで
「残念ですが、これ以」
バンッ!
朱里の言葉をさえぎり、扉を大きな音を立てて、何者かが飛び込んできた。
皆が視線を向けた先には
「ごめんなさい、遅れちゃった」
と、暢気な声を上げる桃香がいた。
その顔は、昨日までの翳りは無い。
いつもの、どこか、のほほーん とした笑顔があった。
でもそれだけじゃない、確かな力強さが其処にはあった。
だから俺は、
「答えは見つかった?」
「はい、
私は、みんなのために、私の信じる理想を歩んで行きたいです。
理想が叶わないなら、その理想を叶える為に何をして行けばいいのか、
それを、みんなで探して行かなければならなかったんです。
理想を押し付けるのではなく、理想のために、みんなと共に歩む。
私は、そんな大事な事を、いつの間にか忘れていたんですね。
私には、私を助けてくれるお友達が、いっぱいいる。
だから、そのお友達を信じて、私は私達の出来ることで、理想に向かいます。
だから、北郷さん、そのためにどうすればいいか、一緒に考えてください」
そう言った桃香の目は、まっすぐ、そして力強いものだった。
昨日のような、怯えも、迷いも無い、純粋で、まっすぐな眼で、自分の想いを告げた。
嬉しかった。
眩しかった。
桃香が自分過ちを認めつつ、
それでも、まっすぐ歩み続ける強さが、
今回の件が無くとも、彼女なら、
気がついただろう、
俺はただ、きっかけになったに過ぎない
だから・・・
「桃香、数々の冒涜する発言を取り消し、謝罪したい
勝手なことばかり言って、申し訳ありませんでした」
この、やさしくて、心の強い王に
頭を深く下げて、
俺の勝手なおせっかいで、傷つけてしまった事を、謝罪した。
俺のそんな態度に、桃香はにっこり笑って
「北郷さん、頭を上げてください。
北郷さんは本当の事言っただけ。
私が間違わないように、悪役を演じてくれただけです。
謝る事は何も無いんです。
むしろ、謝らなければならないのは、私だから」
「桃香・」
バタンッ!!
「桃香様が許しても私が許さん!
喰らえ、桃香様の悲しみの拳をっ!」
ドガコッ!
俺の言葉は、突然部屋に乱入し、俺を吹っ飛ばした魏延さんの拳によって
壁に吹き飛ばされる事によって途切れた。
「ふっ、悪は滅び去った」
「え、焔耶ちゃん?」
・・・・・あれ?
ここは理解しあい、感動する場面では・・・・
と言うか、悪って・・・・・ガクッ
「痛たたっ」
「風は、自業自得だと思うのですよー」
「それは、分かってるけど」
「あははははっ、北郷さん、ごめんね。 焔耶ちゃんが突然」
「いや、いいよ。元は俺が招いた事だし、この程度で済んでよかったと思う」
謝ろうとする桃香を、俺は殴られた頬を摩りながらとめる。
そこへ関羽さんが
「そうですね。 理由があったとはいえ、桃香様への数々の冒涜、その程度で済むのなら容易い物です」
「あ、愛紗ちゃん?」
「桃香様、この件はこれで、終いにしましょう」
と言う。
つまり、これで許してくれると言っているんだ。
あれだけ、みなの前で桃香に暴言を吐いた事を、
一歩間違えれば、とんでもない事態になっていたと言うのに、
でも、きっと誰もそんな事態にならないと、信じていただろう。
みんなが桃香を、乗り越えると信じていたのだから。
ちなみに魏延さんは、関羽さんに、
「会議中に乱入とは何事だっ!」
と、まだ殴りたらないと言わんばかりの、魏延さんを怒鳴りつけ。
自室にて待機することを命じ、それを桃香も認めたため、しぶしぶ自室に待機しているらしい。
「それじゃあ、会議を始まる前に、
朱里ちゃん、雛里ちゃん、そしてみんな、私が我侭言っていたばかりに、色々苦労かけてごめんなさい。
私、みんなに甘えすぎてた。 みんなと共に歩いていくんだって事見失ってた。
わたし、もう見失わないようにするから、また、力を貸してくれるかな?」
「もちろんです。 桃香様には、まだまだ頑張って、もらわねばなりませんから」
「桃香様は、わたし達の歩む先を照らしてくだされば良いのです。
その道を作るのは、わたし達の役目ですから」
「はい、朱里ちゃんの言うとおりです。 そのための私達ですから」
桃香の言葉に、関羽さんをはじめ、その場の蜀の皆が、桃香を支えることを約束する。
その言葉に、桃香は、本当に嬉しそうにする。
その目に、嬉涙を浮かべて、
うん、いいなぁ、こういうのって
「雨降って、地固まるなのですよー」
「殴られた甲斐はあったってことかな」
「そうですねー、華琳さまが知ったら、お怒りになられるでしょうねー」
「げっ
・・・・えーと風」
「駄目ですよー、勝手なことをした以上、責任は取らないといけないのですよー」
「・・・・はい」
風の言葉に、華琳達から受けるであろう叱責、罵倒、そしてお仕置きの様子が、頭によぎり
俺は首を項垂れながら、諦めて頷くしかなかった。
・・・とほほ
俺が、お仕置きのことで頭を悩ませている間に、桃香達は落ち着いたのか
こちらを見ている。
なにやら、楽しげにこちらを見ている。
はて? もしかして俺悩みながら百面相でもしてたか?
横を見ると風も楽しげだ。
まぁ、それはおいといて、今は一応会議中だ。
俺は強引に気分を入れ替えて、桃香達と向かい合う。
「こほん、
とにかく色々有ったけど、桃香が無事この場に姿を見せてくれたので
せっかくだから、先に学校について討議したいと思うんだけど、朱里いいかな?」
「はい、それでいいと思います」
「うん、北郷さんお願いね」
「ありがとう
では、学校については、色々決めていかなければいけない事も多いと思う。
それについては、俺の知識が幾らか助けになると思う。
問題は学校をやる上での問題だ。
桃香達も分かっていると思うけど
一つは、民が得た知識を悪用に無いか
一つは、人材
一つは、予算
この三つが大きな問題になっている。
知識の悪用については、教育の初期段階から、
知識は、国や民のために使って初めて有意になる
国あっての、民の平和
そう言ったことを、言葉を変えて、繰り返し何度も、教え込んでいく。
そうすることによって、民の意識を誘導してやれば、悪用する人間は減ると思う」
「なるほど、それならば質の高い兵も出来るでしょうね」
「たしかにその方法なら、愛国心の高い民が増えると思います」
「で、でも、よく分からないけど、良くない感じがするのだけど」
現代のPTAとかが聞いたら殺到しそうな、発言に、関羽さんや朱里が納得する。
他の軍師たちも似たような判断をしたのか、頷いている。
ただ、桃香だけが、俺の発言に懸念の発言をする。
まぁ、桃香の反応も最もだと思う。
正直、俺もこんなのは反対だ。
ヒトラーじゃ、あるまいし、軍国主義まっしぐらな思考だからな。
でも、そんなことは、平和だった現代だから言えることだ。
「桃香、君の懸念も理解している。
でも、戦乱の世から2年、復興してきたとはいえ、まだまだ爪跡は大きい。
民達の心にも余裕があまり無い
今必要なのは、団結して国を良くして行く事なんだ。
だから、民が不安となる事態の発生は、なるべく防がなければならないんだ。
そこを分かって欲しい」
「うーん、そう言われると、間違っているとは言えない気が・・・詠ちゃんどう思う?」
「そうね、ボクは効果的な方法だと思う。
一歩間違えれば、軍事国家になりかねないけど、桃香はそれをする気はないんでしょ?」
「も、もちろんだよ。 そんな国だと、みんな笑えないと思う」
「なら大丈夫でしょ。 ボク達が目指すのは、みんなが笑って過ごせる国
なら、それをみんなで守っていこう、って教育をしていく分には、問題が無いでしょ」
「うん、そう言う事なら、私は良いと思う」
詠の言葉に桃香が納得する。
その様子を詠が、俺に対して
(桃香相手の説得って言うのはこうやるのよ)
と、その目が雄弁に語っていた。
さすが賈文和、相手に対して柔軟で多彩な戦略は、他の追随を許さないだけはある。
運が悪いのか、局地戦にしか生きていないのが玉に瑕だけど
とりあえず、こういう所は、俺も見習っていかないとな、
でなければ、無駄な諍いを起こすだけになってしまう。
ならば、早速見習って
「詠の言うとおり、一歩間違えれば、とんでもない方向に行ってしまうけど
その辺りは信頼できる人が教えれば、良い方向に向かうと思う。
それに、この方法のもう一つの目的は、道徳概念、
つまり人として、正しいあり方を教育していく側面も有るんだ。
そうすることで、覚えた知識を正しく使ってくれる人間になるよう、教育していくんだ」
「なるほどー、そう言う事もできるんだー」
「でも今までに言った様に、教育は諸刃の剣の面もあるから、よく考えていかないといけない」
俺の言葉に、桃香は納得し賛成してくれた。
欺瞞だが、それは納得していかないと前へは進めない。
とにかく、今は、討議を進めていく事の方が大切だ。
そんな感じで、
人材は私塾の先生や退任した文官を迎える。 年数が経てば卒業した何人かを迎えてもよい。
お金は、桃香は反対だとは思うけど、基金や関心を集めるためにも、今は実績を作る事が大切
最初は、人数を定めて、豪商や高官達の子供を優先的に入学させ、寄付を募る。
今は人材を育てるのを優先し、国力を高めていき、少しづつ門を開いていく。
そうすれば、予算も増えるし、子に教育を施したいと考える親も増えてくる。
そうやって、理想に近づいていくしかない等、皆に俺の考えを説明した。
話を聞き終えた桃香達は、それなりに納得はしてくれたが、
まだ検討したい事も多いと言うことで、学校についての討議は一旦終え、
この間の続きを討議して、本日の討議を終えた。
かちゃ
ずずずっ
俺と風、そして関羽さんは庭先の東屋で、お茶を飲んできた。
討議終了後、関羽さんが話があると言って、今に当るわけだが、
関羽さんは、話があると言ったっきり、殆ど喋らないでいる
そして、ただ静かな時間が過ぎて行く。
侍女さんが入れてくれた熱いお茶も、すでに冷めきっている。
やがて、そんな思い空気に、俺のほうが耐えられなくなり、
「あ、あの、関羽さん、お話しというのは?」
「・・・・」
俺のやっとの思いで出した言葉にも、関羽さんは沈黙する。
・・・・もう嫌だ。
この重い空気、まだこの間のような、お説教を食らっていた方が、幾らかましだ
辛いのは一緒だけど、あれは我慢し続ければいつか終わるし、手が出ないだけ、誰かさん達よりましだ。
そう思っていると
「北郷殿、何故、今回のようなことを?
理由は以前お伺いいたしましたが、今回のこれは、一歩間違えれば同盟を無にしかけない事です。
そのような危険を、貴殿からする理由は無いと思いますが」
「そうだね。 たしかにそれを言われると痛い。
正直、もしそんな事態になったらと考えた時は、とても怖かったよ。
でも、そうはならないと信じれたかな」
「桃香様が、過ちに気がつくと信じていた、などと甘い事を言うおつもりですか」
「うん、そうだよ。
それに、桃香が今回立ち直らなかったとしても、いつか気が付くって、関羽さん達も信じていたでしょ」
「それでも、今回のことは」
「それに、もしそうなったとしても、太平を望む桃香は、同盟を破棄しないだろうし、
君達もそれだけは回避するはずだよ。
三国の中で一番、戦乱の世を望まないのは、君達だからね。
むろん、俺達も、今更太平な世を捨てる気はない。
散って逝った者の為にも、守らねばいけないからね」
「た、たしかに、そ」
「更に言えば、朱里達は、俺を庇い、俺に掴みかからんとする関羽さんを、止めてくれていた。
それは、俺のやる事を、桃香を、信じてくれたからだと思う。
もしあの時、朱里達まで、関羽さん側にまわっていたら、あの場で土下座でも何でもして、
謝って事態を収拾しただろうね」
俺の言葉に、関羽さんは呆れた顔をし
「そ、そこまで考えていたのですか?」
「一応ね。
でもたしかに、あれは俺がやるべき事じゃない。
その事で、迷惑掛けた事については、いくらでも謝罪するよ
風にも、たっぷり怒られたし」
「あらら、お兄さんは、あれで終わりだと思っているんですかー?
だとしたら、それも含めて、後でたっぷりとお話をするのですよー」
「うげっ、・・・・まじですか?」
「まじなのですよー」
風の発言に、俺はげっそりする。
・・・もう、勘弁してください。
俺と風のそんなやり取りがおかしいのか、関羽さんは微笑む。
うん、やっぱり美人だけに、そういう仕草は良く似合うなぁー
ぎゅーーー
「・・・あ、あの風さん、足踏んでるのですが」
「おぉぉぉ、それはそれは、失礼しましたのですよー」
俺の言葉に、風はそうは言いながら、足をどけてくれる様子は無い。
・・・あの、俺何かした?
ゴゴゴゴゴゴッ!
やがて、関羽さんは真面目な顔をし・・・・ん? 地鳴りか?
「今回の件、むしろ我々が至らないばかりに、起こってしまった事。
むしろ、謝らなければならないのは、私の方だ」
ゴゴゴゴゴゴッ!
にしても、うるさいな・・・・・・なんだ? この地鳴りみたいな音は
「北郷殿、これまでの事で、貴殿が信頼に値する人物と分かりました。
今回の謝罪も含め、私の真名」
「ちんきゅーきーーーーーーーーーーっく!」
どごーーーーーっん!
「ぐほああぁぁぁぁ!?」
ごしゃーーーっ
突然、どこからとも無く、すさまじい勢いで俺を襲った衝撃に、
俺は、なすすべも無く、東屋から放り出され、砂埃を上げながら地面に転げ落ちる。
俺のそんな様子に、風は
「やれやれ、いつもの事ですかー」
と流し、関羽さんは、あまりの出来事に呆然としている。
風・・・いくら良く見る風景でも、せめて人並みに心配して欲しいです・・・くすん
そして、肝心のこの衝撃を与えた張本人は、
「くおおぉぉらあぁぁ~~~~~~~っ!
人を散々心配させておいて、優雅にお茶とは、一体どういう神経をしているのですか!!」
と、悪ぶれもせずに、いつものごとく偉そうに立っている。
えーと、いくら背が足りないからって、机の上に立つのは、行儀が悪いと思うぞ。
と心の中で突っ込む。だって、直接言ったら、また「ちんきゅーきっく」が飛んできそうなんだもん。
「いたたっ、ねね、いきなり蹴りつけておいて、なんなんだよ」
「まだ言うですか、ねねがどれだけ心配じゃなくて、苦労したと思っているんですか」
ねねは、そう言って机から下り、まだ地面に座っている俺に問い詰めるように、上から見下ろす。
そんな、ねねの勢いに負けて、俺は素直に謝ることにした。
「うん、ごめん、心配かけたね。
でも、ねね達なら分かってくれると信じていたから」
「そ、そんな事は当たり前なのです。
真名を預けると言う事は、そういう事なのです。
おまえみたいな、大馬鹿者でも、真名を預けた以上、ねねは信じてやるのです。
でも、それと心配は別なのです」
「あっ、やっぱり心配してくれたんだ」
「そ、そうじゃなくて、ねねが、鬼の形相の愛紗や焔耶を押し留めるのに、どれだけ苦労したか」
「うん、ごめん、そしてありがとう」
俺はそう言って、食って掛かる ねねの頭を優しく撫でる。
ねねは、
「うう、こんな事では、ごまかされないのです」
と言ってはいたが、ねねは、されるがままだ。
それに、照れているのか、頬が赤いし、何処か嬉しそうだし
それが可愛いと思っているのは内緒だ。
「お兄さーん、あまり子ども扱いしては、ねねちゃんに失礼なのですよー」
「あっ、ごめん、別にそういうつもりじゃないから」
なんとなく気持ち良いので、いつまでもやめない俺に、風が言って来たので、
俺は、ねねに謝って、手を離す。
ねねは、一瞬寂しそうな顔をしたが・・・あれ? なんでだ
いつもの強気な顔になると
「と、とにかく、おまえは、皆に苦労させたのです。
今から謝りに回るのです」
と言って、俺の襟首を掴むと、そのまま引きずっていく
あれ?・・・さっきの蹴りといい、非力な彼女のどこから、こんな力が・・・
「ほ、北郷殿」
「あっ、関羽さん、とにかくごめん。 とりあえず皆に謝ってくるよ」
引き摺られる俺に、声を掛けた関羽さんに一言謝り、俺は ねねに引きずられ、その場を去っていく。
事態の急転に取り残された二人は、
「愛紗さん、言いそびれちゃいましたねー」
「な、何のことを・・」
「お兄さんの天然には、困ったものなのですよー」
と呟くのだった。
一刀がねねと共に各将達に謝っている時、ここ執務室では
桃香と愛紗が二人きりで話していた。
「愛紗ちゃん、北郷さんのこと、どう思う?」
「は?」
「愛紗ちゃんは、今まで北郷さんを見てきて、どう思ったのかなって」
「はぁー、正直、呆れています。
やることなすこと無茶苦茶です。
いきなり突拍子も無い事態を引き起こし、しかも妙な所で頑固で、その上、事が済めば皆笑っている。
まったく、性質が悪いです。
更に、間抜けな事を散々見せているかと思えば、嫌味なくらい賢さを見せる事もあります。
愚者とも賢者とも判断つきかねます。
しいて言えば、ねねの言うとおり大馬鹿者が、お似合いでしょう」
「うわー、ひっどいなー」
「他にどう言い様があります」
「でも、それだけじゃないんでしょ」
「はい、基本的に善人で、信頼を裏切る者では有りません」
「うん、そうだね。
私も正直、今回の事、最初はとても悲しかったし、悔しかった。
でも、昨日、お兄さんと話して、一通り涙を出したら、疑問に思ったんだ」
「なにをですか?」
「なんであんな事言ったのかって
もちろん、私に直して欲しいからだって言うのは、分かっているの
でも、華琳さんみたいに、はっきり指摘してもいいだろうし、そもそも北郷さんの役でもないんだよね
なんでかなって考えてたら、止まらなくなっちゃって」
「北郷殿は、「頑張り屋さんで、やさしい王だから」って言っていました」
「うーん、そうなんだろうけど、
私が考えていたのは別の事、北郷さんにとって、私って、なんなんだろうなって思って」
「は?」
「今回の事は、原因は私にあるのは分かっているの、でもそれを皆が指摘してくれなかったのは、
私を信じてくれているのもあるんだろうけど、やはり王と臣下だからのかなと思って」
「桃香様、申し分かりません」
「ううん、そんな顔しないで愛紗ちゃん。
悪いのは全部私なんだから、とにかく、いくら友達だって言っても、やはり、そこには王と言う名が
ついてきてしまうの。
華琳さんや雪蓮さんとだって、お友達だけど、王同士って事がついてきてしまう。
でも、北郷さんは、何処か違うんだよね」
「はぁー、ただ北郷殿が、無礼なだけでは?」
「うーん、そういうのとは違うかな、それなりの礼儀は、はらってきているし、
でもね、根本が何処か皆と違うの」
「それで、答えは出たのですか?」
「うん、たぶん北郷さんは、私の事を王として見ていないんだと思う」
「そ、そんな、桃香様は私達が信じる王です。 それは間違いありません」
「うん、それは分かっているの、ありがとう、愛紗ちゃん
北郷さんも、きちんと私を王として扱ってくれているよ。
でもその前に、ただの女の娘の友達として見ているんだと思う」
「それはたしかに、北郷殿ならありえる話です」
「うん、そう考えたら、なんだか嬉しくなって、
王より、女の娘として見ていてくれているって思ったら、色々考えが止まらなくなって、
そしたら、いつの間にか会議の時間も過ぎて・・・てへへ」
「と、桃香様、北郷殿は魏の」
「うん、分かっているよ愛紗ちゃん。
でも、それは今は考えたくないの。
本当に対等なお友達だって、関係も壊したくないとも思っているの」
「そう、考えてらっしゃるなら、私からは、なにも言うことはありません。
くれぐれも、北郷殿が魏の臣下だと言うことを、お忘れなきようお願いします」
「うん、それと天の御遣いって事もね」
「と、桃香様」
「うふふふ」
蜀王の執務室に、
数日振りに、笑顔で溢れる桃香が戻る
桃香の言葉に、驚き戸惑っている愛紗を見て
優しく、そして何処か夢心地な気分で
桃香は微笑むのだった。
今は、生まれつつある気持ちが嬉しくて
穏やかに、もう一度微笑むのだった。
つづく
あとがき
連投続きから、今回は少し間が空いての投稿となりました。
最近の悩み、
減らない誤字脱字
頭の中で暴走する登場人物
誤字脱字が多く、読みにくくなっていて申し訳ありません。
一応、此れでも3回は見直しているんですが、あまりにも多くて取りきれていないことも(汗
今回、この話を投稿する前に、今までの話しをもう一度見直して、投稿しなおしてみました。
いやー、改めて見ると多い多い・・・(涙
まぁ、愚痴と謝罪はこの辺にして、
今回は、桃香を主題としました。
まぁ、これが無いと話が進まないので(w
彼女の真っ直ぐなところが暴走してしまい、臣下である愛紗達も、その思いが分かるだけに苦言を
呈せなかったために起きた事態を、書いて見ました。
蒲公英の再戦は、すでに決まっていましたが、どんなタイミングで出そうかなと思っていた所に、
前回、翠がいい感じに仲良くなってくれたので、今回再戦させてみました。
無敵モードの一刀も面白い話が書けると思いますが、
私的には、今回ぐらいの実力で、知恵と勇気で戦っていく一刀が好きです。
予告です。
蜀編は、後数話で一度、終えようと思っています。
まだまだ、書いていない蜀のヒロイン達もいますが、話しの展開上、特に必要もないので、
外伝に回そうと思っています。
きっとその方が良い作品が書けると思うので・・・100%いい訳です(涙
次回は、璃々とフラグ立てるのも、一瞬面白そうだとは思いましたが、
そうなると他のヒロイン達に一刀が ボコスカにされまくって、話しの展開に支障が出そうなので、
これも外伝で(やるつもりなのかいっ!)
さぁ、次回のヒロインは、誰なのかお楽しみくだされば幸いです。
むろん風と陳宮はデフォで出す予定(ぉ
一刀の新技もそろそろ出す予定です。
まぁ皆様、今までの展開上予想はついているでしょうが(w
馬蹴撃:龍狼伝 で主人公が使っていた技です。
恋路の邪魔をする奴は馬に蹴られてって言いますが、蒲公英がこれを使うのは、
ある意味まちがいな気も(w
ねね・・・・一刀、お持ち帰りしてくれないかなーーー
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『真・恋姫無双』魏END後の二次創作のショート小説です。
蒲公英との再戦が決まった一刀、
そして討議でまたもや問題を引き起こした一刀を待ち受ける運命は