No.113623

Beginning of the story 第一章ー大学生たち2

まめごさん

ティエンランシリーズ第三巻。
現代っ子三人が古代にタイムスリップ!
輪廻転生、二人のリウヒの物語。

「お前どっかで会ったことないか。どっかで…昔…」

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2009-12-22 09:14:49 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:553   閲覧ユーザー数:539

授業の終わった教室は閑散としている。その片隅で藍色の髪と茶色の髪がプイプイと言い合いをしていた。

「だから。あの本を適当につなげ合わせて、レポートとして提出すればいいってんの。どうせ、教授だってしっかり見ないんだからさ」

「それだけじゃつまらないっていってるんだ。宮廷跡にいけば何か新しい発見があるかもしれないだろう」

「小学校の遠足で行きましたー。別に何も見つかりませんでしたー」

「ああ、そう。じゃあいいよ。ぼく一人でするから。リウヒも一人で頑張ってね」

席を立とうとすると、リウヒの白い腕が慌てたように伸びる。

「嘘です!お許しを、お役人さま!」

カスガの好奇心と知識が頼りなのだ。逃してたまるか。この男は教授にも気に入られているし。

その時、後ろから声がした。

「おれもまぜてもらいたいんだけど」

振り返るとバサバサでオレンジ頭のひょろりとした男が立っていた。同じゼミの生徒だ。いつも一人で、おれに近寄るな的オーラを出している、変わった奴。結構モテるようで、何人かの女子が媚びた声をかけているのを目撃したことがある。

でも話したこともないこの男が、分かりやすい愛想笑いを浮かべながら声をかけてきたという事は、自分と同じ目的に違いない。カスガを頼る気だ。

リウヒが憤慨して口を開こうとした瞬間

「いいよ」

本人があっさり承諾した。

「カスガ!」

「人数は多い方が楽しいしね」

ニコニコしている。

「ところで君の名前はなんていうの。ぼくはカスガ」

「シギ」

その目線がこちらに向く。

「リウヒ」

ふてくされたように言うと、案の定シギの目にからかいが宿った。

「へえ、伝説の王女さまかよ」

ああ、やっぱり。そうくると思ったのよね。慣れているつもりでも、腹が立つ。

「シギくんてさ…」

「そのシギくんってのやめてくれないか」

リウヒの声にオレンジ頭は鼻を鳴らす。

「なんでよ」

「女にくん付けで呼ばれたくない」

「じゃあ、なんてよべばいいの」

ため息交じりにいうと

「そんなの自分で考えろ」

腹立ちが二乗になった。なんて奴なんだ。こいつ。

「それよりさ、お前どっかで会ったことないか。どっかで…昔…」

シギがマジマジと見てくる。リウヒは目を剥いた。

もしかして、わたしは口説かれているんだろうか。

やめて!気持ち悪い!

「ゼ、ゼミが一緒だから、そりゃ見た事はあるでしょう!」

そうか、だからかな、とオレンジ頭は首をかしげている。

次の授業の生徒がぞろぞろと入ってきた。

「外にでもいこうか」

カスガがのんびりというと、二人も頷いて教室を出た。

****

 

 

あれからなんとなく三人でつるむようになった。

「課題会議」と称してはカスガ宅に度々集まるからだ。しかし、鼻息荒いのは部屋主だけで、シギとリウヒはまったやる気がなかった。話はどんどん逸れて行って、結局は飲み会になってしまう。

取りあえず、夏休みに入ったらここから車で二時間ぐらいの、宮廷跡に行くことだけは決まった。それまでは夏休み前の試験がある。今度は「勉強会」と称してカスガ宅に集っている。ティエンラン嫌いのリウヒになんで歴史学科にはいったんだと聞いたら、そんなんあんたに関係ないと喧嘩になった。

「授業はちゃんとでているのに、さっぱり分からない…」

嘆くリウヒに

「でも君、いつも寝ているだけだったろう。当たり前じゃないか。高校の歴史の時もよく寝ていたよね」

カスガが突っ込む。

この二人は兄妹みたいだな。

シギはシャーペンを手の内でクルクル回しながら思った。

見ていて楽しい。

 

今まで、他人との関わりは薄っぺらなものだった。この二人といて初めて居心地の良さを感じた。が、楽しければ楽しいほど、母に悪いという罪悪感がわいた。

一度、酔った勢いでカスガにそれを漏らしたことがある。リウヒは横で爆睡していた。

「ぼくは母子家庭じゃないから、よく分からないけど」

缶ビールに口をつけながらカスガは言った。

「息子さんが、楽しめない生活を送っているのは、お母さんにとって嬉しいことじゃないはずだよ」

大切な人が自分のせいでつまらない時間をすごしているのは、むしろつらいことなんじゃないかな。

「それに、今じゃなきゃ楽しめないこともあるしね」

ふんわり笑ったその笑顔に癒された。

「お前、本当におれと同い年?なんでそんなに悟りきってるんだ?」

「多分、この子のせい」

クッションに突っ伏して、寝息を立てているリウヒを見る。

「小さい時から一緒に育って、ぼくはお兄ちゃん変わりだったんだ。お互い兄弟がいないから、余計にね。だからしっかりしなきゃって、ずっと思っていた」

藍色の頭をワシワシと撫でた。

「そこに愛は生まれないのか」

からかい口調のシギにカスガは苦笑した。

「兄妹愛しかないねー」

 

そして今、カスガいうところの妹は、勉強に疲れたのかシャーペンを投げ出して足をバタバタさせている。

「休憩!夜食を要求します!夜食を下さい!」

「お前、一時間も勉強してないじゃないか。どんだけやる気ないんだよ」

「脳みその栄養は全て消化してしまいました…。カースーガー。ごーはーんー」

へいへい、と部屋の主が腰を上げて、小さな台所に向かう。

「お前もなんか手伝えよ。一応女だろう」

煙草を吸おうとベランダに行きがてらリウヒを見おろす。

「リウヒを台所に立たせちゃ駄目だよ、シギ。死ぬよ」

「ひどい、カスガ」

「本当だって。ぼくは三回死にかけた。しかも海老アレルギーになった」

文句を言うリウヒを、カスガは無視して何を作ろうかな、と冷蔵庫を見回している。

****

 

 

「やっと終わりました試験期間!今から夏休み、何をしようかな!」

嬉しそうに叫ぶ幼馴染にカスガが冷静な声を出す。

「リウヒさ。いいけど古代語、絶対追試だよ」

キャンパスの中はリウヒ同様歓喜の声を上げている学生であふれている。

長期休みの始まりはいくつになっても楽しいものだ。

「古代語なんて、なんで勉強しなきゃいけないのか分かんない。今は現代でしょ」

「昔の人が話していた言葉なんだよ。ロマンじゃないか」

「わたしはロマンよりマロンがいい」

君の思考回路はなぜいつも食い物に直結するんだ。

宮廷跡へ行くのは、明後日の十時にカスガ宅で集合する事になった。カスガが実家から車を借りて、運転していく。

 

南館からシギが出てきた。

「シギ!試験どうだったー」

リウヒが駆けて行く。どうやら人見知り期間は完全に終了したらしい、とカスガは苦笑する。

自分とリウヒの関係は、他人には異様に見えるらしい。「べったりし過ぎて気持ち悪い」とよく言われた。小さい時から。事実、カスガに友人は何人かいるが、リウヒはその性格もあってか、友人らしき人物はいなかった。せいぜい大学やバイトの知り合い程度だ。

それでも社会人になれば、この関係も変わるかもしれない、と思いつつ過ごしている内に、シギが加わり出した。二人は、よく不毛ない言い争いをしているが、最近シギはリウヒをからかう事を覚えたらしい。仲がいいんだか悪いんだか分からない。

まあ、なんにせよぼく以外の人間と関わるのはいいことだよな。

遠くでまたじゃれているように言い合いをしている二人をみて、カスガは少しだけ淋しい気持ちになった。

****

 

 

「せっかくカスガと三人で飲みに行こうと思っていたのに。今日もバイトなのー」

「悪いな。おれはお前らみたいなお気楽学生とは違うんだよ」

「そのお気楽学生とつるんでいるのはどこの誰だ。あーあー。つまんなーい。久しぶりに外で飲もうと思ったのに」

「おれがいなくて淋しいんだろ」

「馬鹿。この馬鹿」

「照れるなって」

いつもの如く、馬鹿らしい言い合いをしながら、リウヒは後頭部に突き刺さるような目線を感じた。振りかえると同じゼミの女子が数人、こちらを睨みつけながらひそひそ話している。あの中の一人は昔、シギに声をかけていた子じゃなかったか。

「行こうぜ。カスガが待っている」

いきなりシギの手が肩に回って、リウヒは仰天した。しかし男は頓着せずに歩きだす。

「な、な、な、なにしてんのあんた!」

「ちょっとだけ付き合ってくれ。あの子、苦手なんだよ」

シギが声をひそめて言う。耳の近くで囁くように。自分の顔が赤くなるのが分かった。

「ストーカー体質っていうの?なんか友達と一緒に集団で押し掛けてくるんだよ。下宿先とかバイト先とか…おい、お前歩き方おかしいぞ」

どうやらパニックになって、右手と右足を一緒に出して歩いていたらしい。

「それに顔も滅茶苦茶赤い…ああ、そうか。お前、男に免疫ないんだ」

「悪かったな!」

からかうような笑い声についとがった口調で言い返す。

「二十歳で男に免疫なくて悪いか。彼氏がいたことなくて悪いか」

「いや、むしろ珍しい」

シギはクツクツと楽しそうに笑い、肩に回している手に力を込めた。体がさらに接近する。そして耳元で低く甘く囁いた。

「リウヒ…」

「ひっ!」

背筋から寒気が一気に広がって鳥肌が立った。シギの手を振り切って、呆れた顔をして見ていたカスガに走り寄る。

「お後がよろしいようで」

「よろしくない、よろしくない。全然よろしくない!」

この女たらしが苛める、とシギに向かって指をさすと、カスガはため息をついた。

「あのね、シギ。リウヒは我儘で自分の事とご飯の事しか考えていない、色気のない子だけど、一応お年頃で、男の人には慣れていないような、信じられないけど初な所もあるんだから、あんまりからかわないであげてね」

「それはほとんどわたしの悪口じゃあ…」

「そういわれたら、仕方ないなぁ」

シギは、相変わらずクツクツ笑ったままだ。楽しい玩具を見つけた、という風にリウヒを見る。慌てて、カスガの後ろに隠れた。

「じゃあ、おれそろそろいくわ。また明後日な」

「うん、バイト頑張ってね」

シギが手を上げて、踵を返す。カスガが手を振って見送り、その後ろからリウヒも小さく手を振った。

 


 
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